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第28話 父の助言
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結局、私はジルに押されて、ダンスパートナーの件はOKせざるを得なかった。
だって、ほかにどうしろと言うのだ。エドワード様はダンスパートナーを辞退すると言うのだから。
以前に送った手紙を撤回するために、私は試験休暇の残りは実家に帰った。ジルは大反対だったけれど。
「誰もいない学園にせっかくいられるんだ。気にせずしゃべれるチャンスだよ」
いや、そこまで人がいないわけではない。私がエクスター殿下としゃべっている様子を、食堂でもチラチラ見ている人がいた。試験休みが明ければ、アンドレア嬢の耳に入ってひと騒動起きるに決まっている。
「じゃあ、王都に出よう。どこかのカフェに行こう。今、王都ではカフェが大人気だって聞いたからね。街を歩いてもいいし、とにかく楽しもうよ」
家に戻り、夜帰って来た父に会いに書斎に行くと、父は以前に送った私の手紙を見ながら少し困ったような顔をしていた。
「この手紙によれば、フロレンスは、なんというか、当て馬みたいなことをさせられているようだが……。当家としても、このエドワード・ハーヴェストとか言う青年の結婚のために、うちの娘を利用されるのは気に入らないのだが……」
うん。父の気持ちはよくわかる。
私はエクスター殿下の申し出の話を父に伝えた。
一部は割愛した。
ジルのやらかした図書館詐欺やハーヴェスト様の虫よけ事件の詳細は、説明がはばかられる。
その上、説明が面倒過ぎる。
「なんだって? 殿下のダンスパートナーは悪い話ではないのだろうけど、このエドワード・ハーヴェスト氏はどうなるのだ?」
「エクスター殿下が父上の公爵にお願いしてフィッツジェラルド家に取りなしてくださるそうです。エドワード・ハーヴェスト様はエクスター殿下の家庭教師をされていたそうで」
「なんだ」
父は呆れたように言った。
「それなら最初からエクスター殿下を頼ればよかったのに。エクスター公爵に頼む必要はないだろう。エクスター殿下が直接、フィッツジェラルド侯爵に、自分の家庭教師だった、信頼していると伝えれば済む話だ。ましてや、財務卿の副官に就任するほど優秀なら、フィッツジェラルド候も文句はあるまい」
父の評価を聞いて、今度は私の方が驚いた。
「エクスター殿下の一言が、フィッツジェラルド侯爵を動かすのでしょうか?」
父はまだ貴族社会に疎い私を眺めた。
「そうだ。エクスター公家は王弟一家だ。将来摂政になることが確実視されている。その力は侮りがたい」
私はビビった。だから、遠慮したかったのだ。エクスター殿下のお申し込みは。
それにそれだけの力があるなら……やっぱりエドワード様のダンスパートナーの立候補は、仕組まれたものに違いなかった。
「私、ダンスのパートナーなどを務めて大丈夫でしょうか?」
父は腕組みをして、私を眺めた。
「お前のことだから、自分から売り込みに行ったのではあるまい?」
「もちろんですわ」
むしろ、エクスター殿下の仕掛けた罠にまんまとハマった感じだ。
「エクスター殿下の意向だと言うなら、問題ないだろう。殿下がどうにかしてくださる。そうでなかったら、我が家が出張らねばなるまいが」
「やっぱりいろいろ問題が……」
父は私を見た。
「もちろん、問題はある。多分、お前くらいの年頃の娘の親たちは、万が一の僥倖を願って、エクスター殿下を狙っているだろう。そこへ一番乗りだ……どうしたものか」
父でさえ、他家の嫉妬や妬みは恐ろしいのだ。
「お前の場合はやる気がないのが一番の問題だな……殿下を好きではないのか? 女性には人気だと聞いている。確かにお見かけしたところでは、若くて、顔立ちの整った貴公子らしい方だが、お前自身が好きでないなら、多分、一度ダンスを踊るだけで終わるだろう。心配は要らない。殿下は、大勢の取り巻きに囲まれている。そちらから選ばれるだろう」
そんなにあっさり乗り換えてくれるだろうか?あのジル…ではない殿下が?
これまた説明しにくい。それに、私は殿下は好きじゃないけど、ジルは好きなのだ。
だから、もう一つ聞いておかなくてはいけないことがあった。
「もし、殿下を好きだとしたら?」
父はまたもや私を見た。
少し驚いて、それから興味が湧いたという表情だった。
「それならば、当家としては力いっぱいお前を支えるだけだ。摂政を務める公爵家の夫人だ。務まるだろうか? 大変な重圧だ。筆頭伯爵家は一族を挙げてお前を支えるだろう。だが、まず本人にそれなりの覚悟がいる」
やっぱり、やめようかしら。どんなにジルを好きでも、出来ることと出来ないことがある。
「でも、フロレンス」
父はちょっと笑って、優しく言った。
「その仕事は、姉のマイラでは務まらない」
「え?」
あんな美人で社交好きなのに?
「社交界嫌いなのは社交で失敗があることを知っているからだ。マイラは楽しむために社交界に出ている。だからその範囲は狭い。摂政夫人は社交で楽しみを求めるわけにはいかない」
意外な父からの評価に、私はびっくりした。
母と姉は引きこもりの残念令嬢だといつも私の態度に文句を言っていたのに。
彼女たちは、私と一緒にパーティーだのお茶会だのに出たかったのだ。
「家名のためには結婚を喜ぶ一族の者が大勢いるだろう。だが、嫌なら話を進めないでいい。その自由は任せよう。エクスター公爵家と婚姻を結ばなくても、我が家は困らない。何事にもメリットとデメリットはつきものだ。無理に結婚すると、失うものも大きいかもしれないのだ」
私は迷った。どういう意味なんだろう。王家に近い筋との婚姻は喜ぶべきものじゃないのか?
父は付け加えた。
「母上とマイラにはしばらく黙っていよう。二人とも舞い上がって妙な反応をするに決まっている。私から時期を見て話すよ」
だって、ほかにどうしろと言うのだ。エドワード様はダンスパートナーを辞退すると言うのだから。
以前に送った手紙を撤回するために、私は試験休暇の残りは実家に帰った。ジルは大反対だったけれど。
「誰もいない学園にせっかくいられるんだ。気にせずしゃべれるチャンスだよ」
いや、そこまで人がいないわけではない。私がエクスター殿下としゃべっている様子を、食堂でもチラチラ見ている人がいた。試験休みが明ければ、アンドレア嬢の耳に入ってひと騒動起きるに決まっている。
「じゃあ、王都に出よう。どこかのカフェに行こう。今、王都ではカフェが大人気だって聞いたからね。街を歩いてもいいし、とにかく楽しもうよ」
家に戻り、夜帰って来た父に会いに書斎に行くと、父は以前に送った私の手紙を見ながら少し困ったような顔をしていた。
「この手紙によれば、フロレンスは、なんというか、当て馬みたいなことをさせられているようだが……。当家としても、このエドワード・ハーヴェストとか言う青年の結婚のために、うちの娘を利用されるのは気に入らないのだが……」
うん。父の気持ちはよくわかる。
私はエクスター殿下の申し出の話を父に伝えた。
一部は割愛した。
ジルのやらかした図書館詐欺やハーヴェスト様の虫よけ事件の詳細は、説明がはばかられる。
その上、説明が面倒過ぎる。
「なんだって? 殿下のダンスパートナーは悪い話ではないのだろうけど、このエドワード・ハーヴェスト氏はどうなるのだ?」
「エクスター殿下が父上の公爵にお願いしてフィッツジェラルド家に取りなしてくださるそうです。エドワード・ハーヴェスト様はエクスター殿下の家庭教師をされていたそうで」
「なんだ」
父は呆れたように言った。
「それなら最初からエクスター殿下を頼ればよかったのに。エクスター公爵に頼む必要はないだろう。エクスター殿下が直接、フィッツジェラルド侯爵に、自分の家庭教師だった、信頼していると伝えれば済む話だ。ましてや、財務卿の副官に就任するほど優秀なら、フィッツジェラルド候も文句はあるまい」
父の評価を聞いて、今度は私の方が驚いた。
「エクスター殿下の一言が、フィッツジェラルド侯爵を動かすのでしょうか?」
父はまだ貴族社会に疎い私を眺めた。
「そうだ。エクスター公家は王弟一家だ。将来摂政になることが確実視されている。その力は侮りがたい」
私はビビった。だから、遠慮したかったのだ。エクスター殿下のお申し込みは。
それにそれだけの力があるなら……やっぱりエドワード様のダンスパートナーの立候補は、仕組まれたものに違いなかった。
「私、ダンスのパートナーなどを務めて大丈夫でしょうか?」
父は腕組みをして、私を眺めた。
「お前のことだから、自分から売り込みに行ったのではあるまい?」
「もちろんですわ」
むしろ、エクスター殿下の仕掛けた罠にまんまとハマった感じだ。
「エクスター殿下の意向だと言うなら、問題ないだろう。殿下がどうにかしてくださる。そうでなかったら、我が家が出張らねばなるまいが」
「やっぱりいろいろ問題が……」
父は私を見た。
「もちろん、問題はある。多分、お前くらいの年頃の娘の親たちは、万が一の僥倖を願って、エクスター殿下を狙っているだろう。そこへ一番乗りだ……どうしたものか」
父でさえ、他家の嫉妬や妬みは恐ろしいのだ。
「お前の場合はやる気がないのが一番の問題だな……殿下を好きではないのか? 女性には人気だと聞いている。確かにお見かけしたところでは、若くて、顔立ちの整った貴公子らしい方だが、お前自身が好きでないなら、多分、一度ダンスを踊るだけで終わるだろう。心配は要らない。殿下は、大勢の取り巻きに囲まれている。そちらから選ばれるだろう」
そんなにあっさり乗り換えてくれるだろうか?あのジル…ではない殿下が?
これまた説明しにくい。それに、私は殿下は好きじゃないけど、ジルは好きなのだ。
だから、もう一つ聞いておかなくてはいけないことがあった。
「もし、殿下を好きだとしたら?」
父はまたもや私を見た。
少し驚いて、それから興味が湧いたという表情だった。
「それならば、当家としては力いっぱいお前を支えるだけだ。摂政を務める公爵家の夫人だ。務まるだろうか? 大変な重圧だ。筆頭伯爵家は一族を挙げてお前を支えるだろう。だが、まず本人にそれなりの覚悟がいる」
やっぱり、やめようかしら。どんなにジルを好きでも、出来ることと出来ないことがある。
「でも、フロレンス」
父はちょっと笑って、優しく言った。
「その仕事は、姉のマイラでは務まらない」
「え?」
あんな美人で社交好きなのに?
「社交界嫌いなのは社交で失敗があることを知っているからだ。マイラは楽しむために社交界に出ている。だからその範囲は狭い。摂政夫人は社交で楽しみを求めるわけにはいかない」
意外な父からの評価に、私はびっくりした。
母と姉は引きこもりの残念令嬢だといつも私の態度に文句を言っていたのに。
彼女たちは、私と一緒にパーティーだのお茶会だのに出たかったのだ。
「家名のためには結婚を喜ぶ一族の者が大勢いるだろう。だが、嫌なら話を進めないでいい。その自由は任せよう。エクスター公爵家と婚姻を結ばなくても、我が家は困らない。何事にもメリットとデメリットはつきものだ。無理に結婚すると、失うものも大きいかもしれないのだ」
私は迷った。どういう意味なんだろう。王家に近い筋との婚姻は喜ぶべきものじゃないのか?
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