【完結】いつの間にか全方向から包囲されて、どうしても結婚にまで巻き込まれた気の毒な令嬢の物語

buchi

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第39話 エドワード様の説得

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三日間、私は図書館へ行って本を借りて寮で読んでいた。読書三昧の生活だ。

こういうのをきっと元の木阿弥と言うのだろう。唯一、違う点は、以前の席は使わないことにした点だけだ。

ジルはもういない。

そのことを思い出させるだけだ。




だが食事をしないわけにいかなかったし、寮の部屋に戻ればアリスが心配していた。

アリスの心配は痛かった。
私がダンスの場で何かヘマをしたと思っているらしい。
図星なだけに痛い。

そして、食堂には、アンドレア嬢が残っていた。
正確にはアンドレア嬢が残した噂が。

アンドレア嬢は、エクスター殿下とダンスをした後、私が泣き出しそうな顔をしてその場を去っていたところを見たらしい。

なんだって、よりにもよってアンドレア嬢なんかに見つかってしまったんだろう。痛恨の極みである。

エクスター殿下に失恋したんじゃない。(礼儀作法について注意されたのは痛かったが)ジルがいなくなってしまったのが悲しかっただけ。
私は声を大にして、その違いを説明したかったが、人の噂に戸は立てられない。

「何か失敗したらしいわよ」

「そしてエクスター殿下に見限られたらしいわ」

見ず知らずの令嬢たちが噂をしているのが聞こえた。



三日後に母が迎えの馬車を寄こした。

母は意外によくできた人物だった。私は見直した。戻って以来、エクスター殿下という単語を一度も口にしなかったのだ。



だが、自邸に戻った翌日の朝、エドワード・ハーヴェスト様が当たり前のように階下の客間で私を待っていた。

完全な不意打ちだった。

「出かけましょうか」

既定事項のように彼は言った。

「ど、どこへ?」

エドワード・ハーヴェスト様と、私がせっかく忘れかけていた人物は密接な関係がある。
一緒になんか出かけたくない。すべては終わったことだ。それに私は十分反省した。

「おいしいお茶の飲める場所ですよ」

それから、彼は私の顔をチラリと読むと、家だと誰かが聞いているかもしれませんしねと付け加えた。

ああ。やっぱり、叱られるのか。

「行ってらっしゃい、フロレンス」

ものわかりのいい母はどこへ行った? 私は簡単に家を追い出されてしまった。

道中、エドワード・ハーヴェスト様は一言も話さず、私の顔を見ていた。



カフェに着くと、彼は困ったように聞いた。

「正直におっしゃってください。二人きりですから。ここは貸し切りにしました。エクスター殿下を嫌いになったのですか?」

違う。エクスター殿下なんか知らない。

説明できない。私が好きなのはジルだもん。エクスター公子なんか、最初からいなかった。

涙があふれてきた。
この三日間、いや四日間、ずっと我慢していたのだ。

「ジルが好きだった」

これを聞き出すだけで、エドワード・ハーヴェスト様はだいぶ苦労しただろう。

「ジルとエクスター殿下は同一人物ですよ? 同じようなことしか言わなかったでしょう?」

「でも……」

エドワードは手を組んで座りなおした。

「いいですか? ルイは……」

「ルイってだれ?」

「ルイス・ウィリアム・ジリアン。エクスター公子の名前ですよ」

私は知らなかった。

「ルイはね、私にとってはルイなんです。あなたにとってジルなのと同じように。そのルイは猛烈に悩んでましたよ」

それは知らない他人だった。

「あなたがいなくなって」

「……申し訳ありませんでした。失礼で常識外れの振る舞いをたしなめられて、私も申し訳ないと思いまして、恥ずかしくなってしまって」

エドワードは私の顔を見つめた。

「つい、親し気に話しかけてしまいました。私はもっと身分をわきまえた振る舞いをしなくてはいけなかったのです」

エドワードはさらに困ったらしかった。彼はまたもや額にしわを刻み込んでいた。

「なぜ、そのように考えたのですか?」

「ジルが怒ったのです。当たり前ですわ。わたくしごときにジルと呼び捨てにされること自体が不敬ですもの」

「アンドレア嬢に呼び捨てにされたら怒るでしょうね」

エドワードは言った。

「誰でも一緒ですわ」

「そんなことは有りません。呼び捨てにされたいと思う人だっていますよ。もっと近づきたい人だとかです」

もっと近づきたい人? 私は、ダンスパーティでジルが近付きすぎて、それでびっくりしたことを思い出した。

「ルイは……あなたにとってのジルは、あなたにタメ口で話しかけられて怒っていたわけではありません」

私はうなだれた。

「でも、私が悪かったのですわ。ジルは、ジルではありません。エクスター殿下ですわ。そのことを注意されたのですわ。もっともなことです。私が悪かったのです」

たった三日でも、本の世界に潜り込んでいた値打ちはあった。私は自分が悪かったこと、失敗したことを認めて、ジルのことを忘れようと努めていた。

「エクスター殿下には申し訳ないことをしましたわ。機会があればお詫びを申し上げなくては」

「そんなもの、求めていないでしょう」

「そうでしょうね」

私はため息をついた。エクスター殿下は大勢のファンに取り囲まれている。変わりなんていくらでもいるだろう。お詫びなどと称して、それを口実に殿下に近づく令嬢も多いことだろう。せめて、殿下が嫌がるようなことはしないでおきたい。私の姿が目に入るだけで不快かもしれない。

「でも、わたくしも前向きに生きなくては。エクスター殿下には申し訳ないことをしてしまいました。不愉快な思いをさせてしまいましたけれど、二度とお目にかかることはないと思います」

ジルを失ったことは本当に悲しかった。でも、図書館でもっと悲惨な目に会った主人公の話を山ほど読んだのだ。私のは誤解に基づく勘違い。私を好きなジルと言う人物は、この世にいない。それだけのことだ。

「二度と会いたくないのですか?」

「会ってはいけないのです。よくわかっております」

「あなたは全然わかっていない。ルイはあなたが突然他人行儀に礼儀正しくなったことで傷ついたのですよ」

私はぼんやりとエドワード・ハーヴェスト氏を見つめた。

「ジルはあなたのことを好きなんですよ」
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