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第7話 婚活も必要
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教科書を忘れて、休み時間に必死になって寮に向かって走っていた時に、背の高い二人組にぶつかってしまったのだ。
「すみません!」
一人の方の殺気に驚いて平謝りに謝ったが、帰り学校に戻る途中、また彼らに会ったのだ。
「ねえ、君はローザ・ウォルバート嬢じゃない?」
待っていたらしい。からかうような目つきで薄青い目の方が話しかけてきた。もう一人は仏頂面だ。
「あ、はい。ああ、先ほどはぶつかってすみませんでした。急ぎますので!」
「愛想ないなー……」
何か言われたようだったが、聞いていなかった。授業に滑り込んで何とか今日も事なきを得た……と思ったが、今度は筆記用具をどこかにばら撒いて来たらしく、隣の席に借りることになってしまった。
あの時の人たちかしら?
「ちょっと、ローザ、聞いているの?!」
ナタリーの声に我に返った。
「王位継承者だっているかもしれない。良縁探しは頭の隅のどこかに置いとかなくちゃ」
うんうんとローザはうなずいた。ナタリーは続けた。
「私だってジョアンナと一緒よ? 少しでもいい縁談を探してこいと言われて、親から学費を出してもらっているのよ。あなたみたいな裕福な伯爵家は違うのでしょうけれど」
ローザは自分だって同じだと思った。
母親は妹びいきなのだ。それにローザのことをぼんやりだと思っている。伯爵夫人になるには、それなりの社交術が必要だそうで、そのためにはヴァイオレットの方がふさわしいと母は考え始めている。
そうなれば、ローザは新しい縁を探さなくてはならない。
「あなたと来たら、どこの令嬢も一度は夢見る選りすぐりの男子生徒全員を周りに侍らせて、当然みたいな顔をしている。ジョアンナでなくてもムカついて、男狂いだの声をかけまくっているのと、悪口をばら撒きたくなるでしょうよ」
「ちょっと待って!」
ローザは叫んだ。男狂いってなに?!
そんなことを言われているのか? それは事実無根だ。
いや、男子生徒が来たのは本当だが、呼んだわけじゃない。それに話の広がりっぷりが高速すぎる。
「そんな話になってるの? 今日のお昼の話よ? 誰から聞いたの? ジョアンナからなの?」
「違うわ。お昼の後の世界史の時間にルーシー・ガーランドから聞いたの」
ローザは頭を抱えた。素早い!
「私から声をかけたのじゃないのに! これ、どうしたらいいの?」
ケネスは幼なじみだ。だから、声をかけてきたのだろう。なんだか、押し付けがましい上、変な態度だったけれど。
あとの三人のことはまったくわからない。何が目的だかさっぱりだ。
どう考えても、あなたに気があるんでしょうよ、と、この場にいないジョアンナも含めて、ナタリーたちは同じ結論に達していたが、まったくわかっていないローザなんかに教えてやっても、何か値打ちはあるのだろうか?
入学早々の衝撃はそれではおさまらなかった。
授業が終わりローザが寮に帰ろうと寮の入り口の方に向かって歩いていると、後ろから付けてくる者の気配がした。
ビックリしたローザは走り出した。寮の入り口には番人がいる。どんな悪者だったとしても、必ずつかまえてくれる。だが、その付けてきた人物はローザが走り出すと、途端に一緒に走り出して声を掛けてきた。
「待って。ウォルバート嬢!」
生徒……らしい。
「え? 誰?」
「申し訳ない。驚かせてしまって」
驚くに決まっている。つけてくるだなんて、なぜなの? ローザは男をにらみつけた。驚いたことに、付けてきた生徒はとても困ったらしかった。
「ぼ、僕はジョージ・キンブリーって言います」
ジョージ・キンブリーは背の低い黒目黒髪の地味な生徒だった。
「……」
「ちょっと、そう、お話してみたくて」
何を? 何を話すつもり?
それに、場所が悪くないか?
ローザは気になった。女子寮へ帰る生徒が次から次へと通りかかる。誰も彼らに話かけたりしないが、じろりと一瞥して通り過ぎて行く。
また、なにかの噂になるんじゃないかしら?
ローザは気が気でなかった。まさか、このキンブリーとか言うのも、どこかの爵位持ちとかじゃないでしょうね?!
「でも、今日は、もう帰るところなので!」
ローザは叫んだ。
「じゃあ!」
そして、寮の中へ駆けこんだ。よかった。ここは安全だ。
「ちょっと、あの子、誰なんだい?」
寮のおばさんがジロリと目線をやって、ローザに聞いた。
「知りません! 後ろから追いかけてきて……怖かった」
そのころまでには、せっかく名乗ったのに、ジョージ・キンブリーの名前はきれいさっぱりローザの頭から消え去っていた。
「だめだねえ。あんたもしっかりしなよ。友達と一緒に帰るとか」
「は、はい!」
寮に戻ってから、ローザはキャサリンとナタリーにその恐怖談をした。
だが、二人ともむっつりしている。反応が悪い。
「すみません!」
一人の方の殺気に驚いて平謝りに謝ったが、帰り学校に戻る途中、また彼らに会ったのだ。
「ねえ、君はローザ・ウォルバート嬢じゃない?」
待っていたらしい。からかうような目つきで薄青い目の方が話しかけてきた。もう一人は仏頂面だ。
「あ、はい。ああ、先ほどはぶつかってすみませんでした。急ぎますので!」
「愛想ないなー……」
何か言われたようだったが、聞いていなかった。授業に滑り込んで何とか今日も事なきを得た……と思ったが、今度は筆記用具をどこかにばら撒いて来たらしく、隣の席に借りることになってしまった。
あの時の人たちかしら?
「ちょっと、ローザ、聞いているの?!」
ナタリーの声に我に返った。
「王位継承者だっているかもしれない。良縁探しは頭の隅のどこかに置いとかなくちゃ」
うんうんとローザはうなずいた。ナタリーは続けた。
「私だってジョアンナと一緒よ? 少しでもいい縁談を探してこいと言われて、親から学費を出してもらっているのよ。あなたみたいな裕福な伯爵家は違うのでしょうけれど」
ローザは自分だって同じだと思った。
母親は妹びいきなのだ。それにローザのことをぼんやりだと思っている。伯爵夫人になるには、それなりの社交術が必要だそうで、そのためにはヴァイオレットの方がふさわしいと母は考え始めている。
そうなれば、ローザは新しい縁を探さなくてはならない。
「あなたと来たら、どこの令嬢も一度は夢見る選りすぐりの男子生徒全員を周りに侍らせて、当然みたいな顔をしている。ジョアンナでなくてもムカついて、男狂いだの声をかけまくっているのと、悪口をばら撒きたくなるでしょうよ」
「ちょっと待って!」
ローザは叫んだ。男狂いってなに?!
そんなことを言われているのか? それは事実無根だ。
いや、男子生徒が来たのは本当だが、呼んだわけじゃない。それに話の広がりっぷりが高速すぎる。
「そんな話になってるの? 今日のお昼の話よ? 誰から聞いたの? ジョアンナからなの?」
「違うわ。お昼の後の世界史の時間にルーシー・ガーランドから聞いたの」
ローザは頭を抱えた。素早い!
「私から声をかけたのじゃないのに! これ、どうしたらいいの?」
ケネスは幼なじみだ。だから、声をかけてきたのだろう。なんだか、押し付けがましい上、変な態度だったけれど。
あとの三人のことはまったくわからない。何が目的だかさっぱりだ。
どう考えても、あなたに気があるんでしょうよ、と、この場にいないジョアンナも含めて、ナタリーたちは同じ結論に達していたが、まったくわかっていないローザなんかに教えてやっても、何か値打ちはあるのだろうか?
入学早々の衝撃はそれではおさまらなかった。
授業が終わりローザが寮に帰ろうと寮の入り口の方に向かって歩いていると、後ろから付けてくる者の気配がした。
ビックリしたローザは走り出した。寮の入り口には番人がいる。どんな悪者だったとしても、必ずつかまえてくれる。だが、その付けてきた人物はローザが走り出すと、途端に一緒に走り出して声を掛けてきた。
「待って。ウォルバート嬢!」
生徒……らしい。
「え? 誰?」
「申し訳ない。驚かせてしまって」
驚くに決まっている。つけてくるだなんて、なぜなの? ローザは男をにらみつけた。驚いたことに、付けてきた生徒はとても困ったらしかった。
「ぼ、僕はジョージ・キンブリーって言います」
ジョージ・キンブリーは背の低い黒目黒髪の地味な生徒だった。
「……」
「ちょっと、そう、お話してみたくて」
何を? 何を話すつもり?
それに、場所が悪くないか?
ローザは気になった。女子寮へ帰る生徒が次から次へと通りかかる。誰も彼らに話かけたりしないが、じろりと一瞥して通り過ぎて行く。
また、なにかの噂になるんじゃないかしら?
ローザは気が気でなかった。まさか、このキンブリーとか言うのも、どこかの爵位持ちとかじゃないでしょうね?!
「でも、今日は、もう帰るところなので!」
ローザは叫んだ。
「じゃあ!」
そして、寮の中へ駆けこんだ。よかった。ここは安全だ。
「ちょっと、あの子、誰なんだい?」
寮のおばさんがジロリと目線をやって、ローザに聞いた。
「知りません! 後ろから追いかけてきて……怖かった」
そのころまでには、せっかく名乗ったのに、ジョージ・キンブリーの名前はきれいさっぱりローザの頭から消え去っていた。
「だめだねえ。あんたもしっかりしなよ。友達と一緒に帰るとか」
「は、はい!」
寮に戻ってから、ローザはキャサリンとナタリーにその恐怖談をした。
だが、二人ともむっつりしている。反応が悪い。
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