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第16話 待ち伏せとお菓子のプレゼント
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ローザはこっそりと誰にも見つからないようにして、建物の外に出た。
恥ずかしい。
今日のことはすぐに噂になるだろう。
出来が悪すぎて、たった一度授業を受けただけで、もう魔法学をクビになるだなんて。
いっそそれくらいなら、選ばないでくれたらよかったのに。
しょんぼりと誰もいない小径を、一人で半分泣きながら歩いていると、木の影に人の姿があった。こちらを見ている。
いやだ。人に会ってしまった。
誰とも話したくないのに。
ローザは軽く会釈すると、その人を避けて急足で通り過ぎようとした。
「あ……待ってよ。ねえ」
その人物は……どうやら生徒らしかった……さっと先回りしてローザの行く手をふさいだ。
「ほら、君がこの間、ぶつかってきたアレクだよ?」
「アレクさま?」
ローザは目をあげた。アレクはちょっとビビった。ローザの目が涙でいっぱいだったからだ。
「あ、な、泣いてるの? どうして?」
アレクはうろたえてしまった。
「なんでもありませんので!」
「待ってよ。なんでもないことないでしょう?」
ローザは首を振り、アレクから離れた。
「どうしたの? 教えてよ」
「ほっといてくださいッ」
アレクは呆気に取られた。
これまで、女の子に拒絶されたことなどなかった。
彼は、王太子である以上、いつもチヤホヤされ続けてきた。
彼から声など掛けようものなら、振りほどくに苦労するくらいだった。それなのに……
彼は呆然とローザが走り去っていくのを見つめるだけだった。
「一回戦敗退ですな」
気がつくといつのまにかエドワードが薄笑いを口元に浮かべて近づいてきた。
「まあ、彼女、殿下が殿下だってこと、知りませんからね」
ギッと形のいい唇をかんだアレクは美しい顔をゆがませた。
「なんで出てくるんだ!」
「いやー、強引な殿下、ではないアレク様を見かねまして……」
アレクはエドワードの顔を睨みつけた。
「お前、彼女がいたな?」
「いますとも」
むしろのんびりした口調で、エドワードは答えた。
「こう言う時はどうするんだ?」
「え? そうですね。プレゼントがいいんじゃないでしょうか? 花でも送りますか? あ、彼女、なかなかの食いしん坊らしいので、王都で最近有名な菓子店のスイーツでも贈ってみてはいかがでしょう?」
その日の晩、きれいなバラの花が一輪添えられた紙箱が、ローザ・ウォルバート嬢の部屋に届けられた。
「わー、すごいわ。これ、スコア通りのパルサムケーキ店の箱だわ」
「ローザ・ウォルバート嬢へ、ですって」
ナタリーとキャサリンが箱を見て騒ぎ立てた。ローザはびっくりしていた。
「差出人は誰? まあ、無記名なの? 思わせぶりね!? どちらの殿方かしらね?」
それはそうだ。こんな思わせぶりなプレゼントなんかするのは、男からに決まっている。
「誰からかしら? これは知りたいわね」
キャサリンが笑いながら、軽くローザをにらんでみせた。
「知ってるわ」
ローザは言った。
「あら? 誰なの?」
「私の部屋番号を知ってる人よ」
おおっ。それはそうだ。
「誰なら知ってるの?」
「ケネスよ」
入学式の日、ケネスは、ローザの部屋番号を聞いていた。
プレゼントしたいからと言って。
「レミントン伯爵の御子息から!」
いや、単なるケネスだ。
まだ、表沙汰にはしていないがケネスは婚約者だ。
ケネスが贈るなんて凝ったマネをするだろうかと疑問だったが、プレゼントはしたいと言っていたっけ。
これがそれか。
「一緒に食べましょうよ! 木の実のタルトとアップルパイだわ。お茶にしましょうよ」
ローザは言った。
「あら、悪いわよ」
ナタリーもキャサリンも形だけは遠慮したが、有名な菓子店の旬のスイーツとあっては、ぜひ、賞味してみたい。
買えないほどの値段ではないが、王都の反対側では買いに行けないのだ。
「いいじゃない! みんなで食べると美味しいわよ」
あわれ、アレク。
かくして彼は2回戦も敗退を喫したのであった。
恥ずかしい。
今日のことはすぐに噂になるだろう。
出来が悪すぎて、たった一度授業を受けただけで、もう魔法学をクビになるだなんて。
いっそそれくらいなら、選ばないでくれたらよかったのに。
しょんぼりと誰もいない小径を、一人で半分泣きながら歩いていると、木の影に人の姿があった。こちらを見ている。
いやだ。人に会ってしまった。
誰とも話したくないのに。
ローザは軽く会釈すると、その人を避けて急足で通り過ぎようとした。
「あ……待ってよ。ねえ」
その人物は……どうやら生徒らしかった……さっと先回りしてローザの行く手をふさいだ。
「ほら、君がこの間、ぶつかってきたアレクだよ?」
「アレクさま?」
ローザは目をあげた。アレクはちょっとビビった。ローザの目が涙でいっぱいだったからだ。
「あ、な、泣いてるの? どうして?」
アレクはうろたえてしまった。
「なんでもありませんので!」
「待ってよ。なんでもないことないでしょう?」
ローザは首を振り、アレクから離れた。
「どうしたの? 教えてよ」
「ほっといてくださいッ」
アレクは呆気に取られた。
これまで、女の子に拒絶されたことなどなかった。
彼は、王太子である以上、いつもチヤホヤされ続けてきた。
彼から声など掛けようものなら、振りほどくに苦労するくらいだった。それなのに……
彼は呆然とローザが走り去っていくのを見つめるだけだった。
「一回戦敗退ですな」
気がつくといつのまにかエドワードが薄笑いを口元に浮かべて近づいてきた。
「まあ、彼女、殿下が殿下だってこと、知りませんからね」
ギッと形のいい唇をかんだアレクは美しい顔をゆがませた。
「なんで出てくるんだ!」
「いやー、強引な殿下、ではないアレク様を見かねまして……」
アレクはエドワードの顔を睨みつけた。
「お前、彼女がいたな?」
「いますとも」
むしろのんびりした口調で、エドワードは答えた。
「こう言う時はどうするんだ?」
「え? そうですね。プレゼントがいいんじゃないでしょうか? 花でも送りますか? あ、彼女、なかなかの食いしん坊らしいので、王都で最近有名な菓子店のスイーツでも贈ってみてはいかがでしょう?」
その日の晩、きれいなバラの花が一輪添えられた紙箱が、ローザ・ウォルバート嬢の部屋に届けられた。
「わー、すごいわ。これ、スコア通りのパルサムケーキ店の箱だわ」
「ローザ・ウォルバート嬢へ、ですって」
ナタリーとキャサリンが箱を見て騒ぎ立てた。ローザはびっくりしていた。
「差出人は誰? まあ、無記名なの? 思わせぶりね!? どちらの殿方かしらね?」
それはそうだ。こんな思わせぶりなプレゼントなんかするのは、男からに決まっている。
「誰からかしら? これは知りたいわね」
キャサリンが笑いながら、軽くローザをにらんでみせた。
「知ってるわ」
ローザは言った。
「あら? 誰なの?」
「私の部屋番号を知ってる人よ」
おおっ。それはそうだ。
「誰なら知ってるの?」
「ケネスよ」
入学式の日、ケネスは、ローザの部屋番号を聞いていた。
プレゼントしたいからと言って。
「レミントン伯爵の御子息から!」
いや、単なるケネスだ。
まだ、表沙汰にはしていないがケネスは婚約者だ。
ケネスが贈るなんて凝ったマネをするだろうかと疑問だったが、プレゼントはしたいと言っていたっけ。
これがそれか。
「一緒に食べましょうよ! 木の実のタルトとアップルパイだわ。お茶にしましょうよ」
ローザは言った。
「あら、悪いわよ」
ナタリーもキャサリンも形だけは遠慮したが、有名な菓子店の旬のスイーツとあっては、ぜひ、賞味してみたい。
買えないほどの値段ではないが、王都の反対側では買いに行けないのだ。
「いいじゃない! みんなで食べると美味しいわよ」
あわれ、アレク。
かくして彼は2回戦も敗退を喫したのであった。
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