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第1話 お前を愛することはない
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家同士の関係で婚約は決まっており、私……トマシンは、スノードン侯爵家の嫡子リチャードに嫁ぐ予定だった。
両親は、この縁談は、全く非の打ちどころのない縁談だと満足しきっていたので、何とか娘を着飾らせて、婚約者の気を惹こうとしていた。
私は茶色い髪に茶色の目、ありふれた容貌で、ちっとも美人ではなかったから。
対するリチャードは、大層な美男子だと評判をとっていた。
愛想もいいし、何より侯爵家の御曹司だ。誰がそのハートを射止めるか、社交界では噂になっていたらしい。
わたしみたいな地味な娘とはわけが違う。
私もそれは聞いて知っていたので、親同士が決めた婚約とは言え、どこかの時点で解消されて、リチャードはもっとふさわしい娘と縁を結ぶものだと漠然と考えていた。
だって、婚約してからも、手紙やプレゼントも来なかったし、家を訪ねてくることも一度もなかった。ダンスパーティに一緒に出るだなんて、夢のまた夢だった。
正直、両親も娘がちっとも派手でなく、社交界で何か評判をとるようなこともなく、ただただおとなしくて目立たない様子なのには、不満に思っていた。
私に豪華なドレスを着せてパーティに出したり、何とかこの婚約を実現させようと苦労していた。
その苦労の甲斐あってか、侯爵家から婚約解消の申し出はなく、めでたく今日の日を迎えたのだった。
豪華絢爛な結婚式の間中、夫は一度も妻の目を見なかった。
愛想よく笑い、友人からのからかいにも軽妙に答え笑いを誘っていたが、広大な侯爵邸に帰り、寝室に二人きりになると、それは怖い目をしていた。
私は、まだ十六歳だった。なにやら変な寒いすうすうする夜着を着せられて、ちょこんとベッドに座っていたが、旦那様がお目見えになったので、立ち上がってお辞儀をした。
「派手な衣装を剥いでみれば、地味な娘だ」
軽蔑したようにリチャードは言った。
私は縮こまった。
「父上から、大層おとなしい娘だと聞いたので、侯爵家にはいささか不足の身分だが、娶ったのだ」
「私は一生、お前を愛することはない」
私はピクリとして、夫の顔を見た。
そこには憎悪の感情があった。
どうしてですか?
その言葉は声にならなかった。
「お前のような、何の取り柄もなく、社交界に出ても悪目立ちするだけ、いい噂のない娘が、スノードン家にふさわしいとでも思うのか」
私は何とも答えられなかった。
私はこの婚約、結婚について意見を求められたことはない。
全部、両親の意向で勝手に決まっていったのだ。逆らうことなんかできなかった。
「俺には大事な人がいるのだ」
夫は言った。
「だが、貴族に結婚は義務だ。俺が独身を貫けば、大勢いる親族がもめ始める。領地は荒れて、どこかの所領を自分の物だと主張してくる者も出て来るだろう。妻は必要悪だ」
私は悪ですか……
「その方と結婚する訳には……」
当然の質問だったが、完全な墓穴だったらしい。
リチャードは真っ赤になった。
「俺は義務を果たす。お前も果たせ。その後は自由だ。好きなことをしろ。別な男と楽しもうが自由だ。ただし、スノードン家の家名に泥を塗るな。お前のことは家内取り締まりのメアリによく監視するように言いつけてある」
メアリはチラリと紹介を受けた。
灰色の髪をひっつめにして固く結いあげた年配の痩せた女だった。厳格で厳しそう、と言うのが第一印象だった。
「お前などを相手にしたら、ルシンダが可哀想だ。ルシンダが初夜だけは相手をしてやれって言うから来たんだが……」
私は訳がわからなくて、夫の顔をぼんやり見つめた。
「こんな醜い娘など、まったく触る気にもならん」
夫はそう言い捨てて、出て行ってしまった。
両親は、この縁談は、全く非の打ちどころのない縁談だと満足しきっていたので、何とか娘を着飾らせて、婚約者の気を惹こうとしていた。
私は茶色い髪に茶色の目、ありふれた容貌で、ちっとも美人ではなかったから。
対するリチャードは、大層な美男子だと評判をとっていた。
愛想もいいし、何より侯爵家の御曹司だ。誰がそのハートを射止めるか、社交界では噂になっていたらしい。
わたしみたいな地味な娘とはわけが違う。
私もそれは聞いて知っていたので、親同士が決めた婚約とは言え、どこかの時点で解消されて、リチャードはもっとふさわしい娘と縁を結ぶものだと漠然と考えていた。
だって、婚約してからも、手紙やプレゼントも来なかったし、家を訪ねてくることも一度もなかった。ダンスパーティに一緒に出るだなんて、夢のまた夢だった。
正直、両親も娘がちっとも派手でなく、社交界で何か評判をとるようなこともなく、ただただおとなしくて目立たない様子なのには、不満に思っていた。
私に豪華なドレスを着せてパーティに出したり、何とかこの婚約を実現させようと苦労していた。
その苦労の甲斐あってか、侯爵家から婚約解消の申し出はなく、めでたく今日の日を迎えたのだった。
豪華絢爛な結婚式の間中、夫は一度も妻の目を見なかった。
愛想よく笑い、友人からのからかいにも軽妙に答え笑いを誘っていたが、広大な侯爵邸に帰り、寝室に二人きりになると、それは怖い目をしていた。
私は、まだ十六歳だった。なにやら変な寒いすうすうする夜着を着せられて、ちょこんとベッドに座っていたが、旦那様がお目見えになったので、立ち上がってお辞儀をした。
「派手な衣装を剥いでみれば、地味な娘だ」
軽蔑したようにリチャードは言った。
私は縮こまった。
「父上から、大層おとなしい娘だと聞いたので、侯爵家にはいささか不足の身分だが、娶ったのだ」
「私は一生、お前を愛することはない」
私はピクリとして、夫の顔を見た。
そこには憎悪の感情があった。
どうしてですか?
その言葉は声にならなかった。
「お前のような、何の取り柄もなく、社交界に出ても悪目立ちするだけ、いい噂のない娘が、スノードン家にふさわしいとでも思うのか」
私は何とも答えられなかった。
私はこの婚約、結婚について意見を求められたことはない。
全部、両親の意向で勝手に決まっていったのだ。逆らうことなんかできなかった。
「俺には大事な人がいるのだ」
夫は言った。
「だが、貴族に結婚は義務だ。俺が独身を貫けば、大勢いる親族がもめ始める。領地は荒れて、どこかの所領を自分の物だと主張してくる者も出て来るだろう。妻は必要悪だ」
私は悪ですか……
「その方と結婚する訳には……」
当然の質問だったが、完全な墓穴だったらしい。
リチャードは真っ赤になった。
「俺は義務を果たす。お前も果たせ。その後は自由だ。好きなことをしろ。別な男と楽しもうが自由だ。ただし、スノードン家の家名に泥を塗るな。お前のことは家内取り締まりのメアリによく監視するように言いつけてある」
メアリはチラリと紹介を受けた。
灰色の髪をひっつめにして固く結いあげた年配の痩せた女だった。厳格で厳しそう、と言うのが第一印象だった。
「お前などを相手にしたら、ルシンダが可哀想だ。ルシンダが初夜だけは相手をしてやれって言うから来たんだが……」
私は訳がわからなくて、夫の顔をぼんやり見つめた。
「こんな醜い娘など、まったく触る気にもならん」
夫はそう言い捨てて、出て行ってしまった。
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