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第22話 ムカつく侯爵の手紙

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「でも、カザリンは嘘を言うわ」

心配になって、私は言った。

ジョージは笑顔でうなずいた。

「それこそ思う壺さ。白薔薇軍団も証言するからな。矛盾があれば、住所不定無職のカザリンは牢屋行きだ。偽証罪の疑いで」

「あの、ご協力いただいている白薔薇軍団の皆様は? その方たちも牢屋行きですか?」

それは申し訳ない。矛盾が生じた時は、双方同じ扱いになるのかしら?

「大丈夫。住所不定無職じゃないから。住所は娼館で、みんな真面目に、娼館で働いています。逃げないからね」

「な、なるほど」

「さらには、トマシンが娼館通いをしていたとカザリンが言うなら、どこから聞いたのかという問題が生じる」

「ルシンダさんから聞いたと、侯爵は言っていましたわ」

ジョージ義兄様が鼻の穴をふくらませて、大きくうなずいた。

「そうなれば、ルシンダの取り調べができる。ルシンダこそが元凶だ。そしてルシンダと侯爵の関係が証言されたら、侯爵は身の破滅だ。カザリンにしゃべらせさえすれば、こっちには得しかない」

ジョージ義兄様がふふふと笑った。
まるで、リオンの笑いが伝染したかのようだ。

「だから、カザリンの証言の話を、侯爵に匂わせたんだ」

「それで?」

「どうしても訴訟にしたくないらしい」

「どうしてかしら? 争うと思うのだけど?」

「ルシンダにだけは証言されたくないのだろう。娼館に行かせたこととか、夫の役割を果たさず、自邸では妻を虐待していたとか、全部ルシンダの差し金だろう」

「虐待はされてませんが」

「家に閉じ込められていたら、監禁だ」

ふと、そういえば、やりそうな人を一人知っている気がしてきた。

リオン、危険……


「ちょっと聞いてる?」

シャーロット姉様が声を掛けた。

「大事な話よ? なんで上の空になってるのよ?」

「大事な話だよ。それで、裁判に持ち込まなくても、合意できそうなんだ」

ジョージ義兄様、なんだか嬉しそう。



「お手紙でございます」

家族で大事な話をしている時に、セバスが体をこわばらせて、物々しく部屋に入って来た。

「家族で団欒だんらん中なのよ?」

シャーロット姉様が不満げに言ったけれど、セバスは頭を下げて言った。

「承知しております。しかし、スノードン侯爵の使いの者が、トマシン様にお急ぎでと」

「えっ? トマシンがここにいることがバレたの?」

姉がびっくりしたように言った。そして心配そうな顔つきになった。

「ではなくて、男爵様が代理人をなさってらっしゃるので、男爵様にぜひお目にかかりたいと」

「断ってちょうだい」

姉様がにべもなく言った。

「断りましたが、しつこくて、どうしても緊急の用事で、是非ともと食い下がられました。男爵様のお返事をいただきたいと頑張っておりまして……」

「そんなもの、読んだといえばいいじゃないか」

「お返事を欲しておりまして。口頭でも構わないからと」

「じゃあ、返事は『帰れ』で」

シャーロット姉様が、すぐさま返事した。

「かしこまりました」

セバスが頭を下げた。首筋に汗をかいていた。まあ、相当粘られたのだろう。セバス、かわいそう。

「まあ、待て。一応、読もう」


ジョージ義兄様は手紙を一読して、呆れた顔をした。次に姉様に渡して、姉様はしかめ面をして、最後に私に回ってきた。

『最愛のトマシンへ。』

「えっ?」

思わず声が出てしまった。誰が最愛?

『さぞ、私を恨んでいるだろう。いつまでも意地を張っていないで、家へ帰っておいで。今回のことで、ルシンダには嫌気がさした。歳もサバを読んでいた。若い方がいい。許してやるから、夫のところへ戻るのだ。両親も喜ぶだろう。今度こそかわいがってやるから、喜びなさい。
あなたの最愛の夫 リチャード』

リチャードって名前だったっけ?

だけど、ここまで本音丸出しの手紙って読んだことがないわ。

「離婚しなければ、賠償金を払わないで済む」

シャーロット姉様がつぶやき、ジョージ義兄様も同意した。

「侯爵が助かる最後の手段は、トマシンが希望して、侯爵家へ帰ると言った場合だけだから」

「絶対にイヤ」

「セバス、侯爵家の使いの者に言いなさい。トマシンは離婚に同意していると。それから、家に戻りたがっていない。意思をはっきりさせるために、是非とも訴訟の場で証言したいと望んでいる」

「侯爵なんか大嫌いで、死ねばいいくらいに思ってますわ。妻を娼館に売り飛ばすなど人間のすることではありません」

シャーロット姉様が代わりに言ってくれた。

セバスは承りましたと言って、急いで出て行った。

「伝わるといいですね」

私は言った。家に帰って来いなんて、本気なのかよくわからない。『愛する夫』に至っては、全く何言ってるんだろう。

こんな自惚れた手紙を渡されたら、どんな女性にも、もれなく嫌われると思う。

「リオンなら、もっとずっと上手く書くと思うわ」

私は密かにリオンに軍配をあげた。
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