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第22話 ホテルでの暮らし
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ジャックとの偽装結婚……
シャーロットはちらりとジャックを盗み見た。
ジャックはまるで関心はなさそうで、ヒューズ家の客間のソファに座ったまま黙って自分の靴の先を見つめていた。
マッキントッシュ夫人が、何回かジャックを自宅に招待したが(パーシヴァル家に行くわけにはいかなかったので)一度もジャックは来なかったし、フレデリックを通じて何もしてくれなくて結構だと返事してきた。
マッキントッシュ家がピアで借りたのは、ピアの目抜き通り、もっともにぎやかなプールヴァール通りに面して建っている豪華なホテルだった。
そして部屋は、贅の限りを尽くした最上等の組部屋だった。
両親はジャックに気を使ってこの部屋を借りたのだろう。
プールヴァール通りに面したバルコニーからは、にぎやかなプールヴァール通りを行きかう馬車や着飾って下を通る人の様子が見えた。
特に陽が落ちる頃には、ダンスパーティなどへ繰り出す馬車や、なんということもなく散歩して、通り沿いのレストランやカフェへ入ったり、こぎれいに贅沢な品々を並べた店をのぞき見しながら時間を過ごす人たちなどで賑やかだった。
客間は十分な広さで、落ち着いた色調のダマスク織の布張りの椅子やソファが程よく置かれ、今は夏なので使わないが大理石の暖炉の上には金時計とシナ製の素晴らしい陶器が飾られている。そこここに花が一杯に活けられ、壁の間に飾られた鏡の中でも咲き誇っていた。
部屋に入ったシャーロットは、息をのんで立ち尽くした。
こんな華やかな部屋で、ジャックと二人きりで生活するのか……。花の香りでむせ返るようだ。
ジャックは何も言わず部屋の中に足を踏み入れ、窓際まで進むとくるりと振り返ってシャーロットを見た。
「お嬢様、寝室の方へお荷物を入れておきます」
ジェンとヒルダがせっせと荷物を運び込んで荷ほどきしているらしい。
その言葉を聞いて、シャーロットは実感がわいてきた。これからこの人と一日中一緒なのだ。約二週間。
ジャックの顔は逆光になっていて、表情が読めない。
この偽装結婚が決ってから、彼はずっと無表情だった。
シャーロットと二人きりが嫌なのかもしれなかった。二人はお互いのことをほとんど知らない。
ジャックは知らないが、シャーロットはジャックを見たことが何回もあった。
何年か前のピア、デビューしてからの仮面舞踏会。
ジャックはきれいな顔をしていた。
パーティの席などでは、彼は愛想がよく、ニコニコしながらも鋭く会話に入ってくるので、そちらばかりが目立つが、今のように黙っていると、逆に顔立ちが目立った。
シャーロットは唇を引き結び、一言も発しないジャックに気をもんだ。
きっと、自分のような小娘と一緒では、退屈で面白くないのだろう。
「よ、夜には母が来ますわ」
「フレデリックに誤解されては困るからね」
緊張が解けて、ジャックは苦笑して答えた。若い未婚の娘なのだ。マッキントッシュ夫人に来てもらわないとジャックも困る。
「あなたも災難だったな。とりあえず二週間、無事に過ごせばこの茶番も終わるから」
ジャックは、シャーロットの顔を見つめた。
「外には出られない。レストランも、買い物も全部だめだ」
「はい」
「自宅でいちゃいちゃしていると思われないといけないらしい」
言い方は冷たかったが、言葉の意味の方に、シャーロットはちょっと、クラッとなった。
ジャックは窓の外の方に視線を逸らした。
「実際にはそんなことはしないけど。あと、今後の予定だけど、出なくてはならないパーティはモンゴメリ卿が指定してきた」
ジャックはポケットからメモを取り出してきて、シャーロットにも見せてくれた。
公爵が出席することがはっきりしている、出来るだけ小規模のパーティを選んでくれていた。
「一応、明日の午後、一緒に出掛けないとならない。その後はモンゴメリ卿主催のダンスパーティ。後は二人での外出はなしだ。食事は取り寄せかな」
大体、この借りた部屋の中で過ごすことになると言う。
「あ、あの、お食事は一緒にとっていただけませんか?」
「え?」
ジャックは少しびっくりしたようだった。
だが、彼は少し考えると渋い顔に変わった。
「いや、結構。別々にしよう」
シャーロットはちょっとショックを受けた。そんなに嫌なのかしら。好かれているとは思っていなかったけれど、全部拒否とは……。
シャーロットの萎れた表情に気が付いたのか、ジャックは付け加えた。
「あなたも食事の好みがあるだろう。生活リズムも違うだろうし。ロストフ公爵の目につくようにパーティに出る時以外、気を使ってくれなくていい」
「……はい」
これは思いやりなのだろうか。
出来るだけお互いの生活に介入しないでおこうと言われてしまった。
自分のせいで、彼を巻き添えにしてしまった。申し訳なさと何か埋め合わせをしたい気持ちにかられた。
でも、何もできない。食事くらい、おいしいものをと思ったのだが、みごとに断られてしまった。
シャーロットはちらりとジャックを盗み見た。
ジャックはまるで関心はなさそうで、ヒューズ家の客間のソファに座ったまま黙って自分の靴の先を見つめていた。
マッキントッシュ夫人が、何回かジャックを自宅に招待したが(パーシヴァル家に行くわけにはいかなかったので)一度もジャックは来なかったし、フレデリックを通じて何もしてくれなくて結構だと返事してきた。
マッキントッシュ家がピアで借りたのは、ピアの目抜き通り、もっともにぎやかなプールヴァール通りに面して建っている豪華なホテルだった。
そして部屋は、贅の限りを尽くした最上等の組部屋だった。
両親はジャックに気を使ってこの部屋を借りたのだろう。
プールヴァール通りに面したバルコニーからは、にぎやかなプールヴァール通りを行きかう馬車や着飾って下を通る人の様子が見えた。
特に陽が落ちる頃には、ダンスパーティなどへ繰り出す馬車や、なんということもなく散歩して、通り沿いのレストランやカフェへ入ったり、こぎれいに贅沢な品々を並べた店をのぞき見しながら時間を過ごす人たちなどで賑やかだった。
客間は十分な広さで、落ち着いた色調のダマスク織の布張りの椅子やソファが程よく置かれ、今は夏なので使わないが大理石の暖炉の上には金時計とシナ製の素晴らしい陶器が飾られている。そこここに花が一杯に活けられ、壁の間に飾られた鏡の中でも咲き誇っていた。
部屋に入ったシャーロットは、息をのんで立ち尽くした。
こんな華やかな部屋で、ジャックと二人きりで生活するのか……。花の香りでむせ返るようだ。
ジャックは何も言わず部屋の中に足を踏み入れ、窓際まで進むとくるりと振り返ってシャーロットを見た。
「お嬢様、寝室の方へお荷物を入れておきます」
ジェンとヒルダがせっせと荷物を運び込んで荷ほどきしているらしい。
その言葉を聞いて、シャーロットは実感がわいてきた。これからこの人と一日中一緒なのだ。約二週間。
ジャックの顔は逆光になっていて、表情が読めない。
この偽装結婚が決ってから、彼はずっと無表情だった。
シャーロットと二人きりが嫌なのかもしれなかった。二人はお互いのことをほとんど知らない。
ジャックは知らないが、シャーロットはジャックを見たことが何回もあった。
何年か前のピア、デビューしてからの仮面舞踏会。
ジャックはきれいな顔をしていた。
パーティの席などでは、彼は愛想がよく、ニコニコしながらも鋭く会話に入ってくるので、そちらばかりが目立つが、今のように黙っていると、逆に顔立ちが目立った。
シャーロットは唇を引き結び、一言も発しないジャックに気をもんだ。
きっと、自分のような小娘と一緒では、退屈で面白くないのだろう。
「よ、夜には母が来ますわ」
「フレデリックに誤解されては困るからね」
緊張が解けて、ジャックは苦笑して答えた。若い未婚の娘なのだ。マッキントッシュ夫人に来てもらわないとジャックも困る。
「あなたも災難だったな。とりあえず二週間、無事に過ごせばこの茶番も終わるから」
ジャックは、シャーロットの顔を見つめた。
「外には出られない。レストランも、買い物も全部だめだ」
「はい」
「自宅でいちゃいちゃしていると思われないといけないらしい」
言い方は冷たかったが、言葉の意味の方に、シャーロットはちょっと、クラッとなった。
ジャックは窓の外の方に視線を逸らした。
「実際にはそんなことはしないけど。あと、今後の予定だけど、出なくてはならないパーティはモンゴメリ卿が指定してきた」
ジャックはポケットからメモを取り出してきて、シャーロットにも見せてくれた。
公爵が出席することがはっきりしている、出来るだけ小規模のパーティを選んでくれていた。
「一応、明日の午後、一緒に出掛けないとならない。その後はモンゴメリ卿主催のダンスパーティ。後は二人での外出はなしだ。食事は取り寄せかな」
大体、この借りた部屋の中で過ごすことになると言う。
「あ、あの、お食事は一緒にとっていただけませんか?」
「え?」
ジャックは少しびっくりしたようだった。
だが、彼は少し考えると渋い顔に変わった。
「いや、結構。別々にしよう」
シャーロットはちょっとショックを受けた。そんなに嫌なのかしら。好かれているとは思っていなかったけれど、全部拒否とは……。
シャーロットの萎れた表情に気が付いたのか、ジャックは付け加えた。
「あなたも食事の好みがあるだろう。生活リズムも違うだろうし。ロストフ公爵の目につくようにパーティに出る時以外、気を使ってくれなくていい」
「……はい」
これは思いやりなのだろうか。
出来るだけお互いの生活に介入しないでおこうと言われてしまった。
自分のせいで、彼を巻き添えにしてしまった。申し訳なさと何か埋め合わせをしたい気持ちにかられた。
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