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第54話 恋の果てに残ったもの
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実は来ないでくれて、手紙ででもお礼を言って終わりたいくらいだったが、姉のクリスチンは、燦然と輝いて出席していた。
ジャックがクリスチンに改めて礼を言うと、クリスチンはケラケラと笑った。
「クリスチン?」
ジャックは姉を不審そうに見つめた。
「ごめん。だって、私、何もしてないんだもん」
ジャックの目は大きく見開かれた。
「だって、シャーロットに結婚してくれるように正式に申し込めば、帝国に圧力をかけてくれるって……」
ジャックは言いかけたが、姉は笑いすぎて、涙をぬぐっていた。
「確かにそう言ったけど……。でも、間に合わなかったのよ」
「どう言うこと?」
顔色を変えてジャックが聞いた。
「考えてもごらんなさい。セントアイヴァンズバーグからここまで何日かかると思っているの?」
ジャックはよくわからないながら、姉を睨んだ。
「ここから知らせを持たせて、セントアイヴァンズバーグまで行かせて、皇帝陛下に圧力をかけて……もちろん、直接圧力をかけたり出来ないわ。最終的にはもちろん言うことは聞いてもらえるだろうけど、それでもある程度時間がかかる。そして、結果がここまで届くのに二週間くらいはかかる」
「全然ダメじゃないか、それ!」
「スピードとしてはね」
「クリスチン! 騙しただけか!」
「怒らないでよ、ジャック」
姉はなだめた。
「なんの役にも立ってないくせに!」
「立ったわよ」
「……え?」
「少なくとも、役に立とうとは思ったの。あなたには言えなかったけど、他の方法があると思ったの」
ジャックは、立ち上がりかけていたが、再びソファーに腰を下ろした。
クリスチンが珍しく優しい笑顔になっていた。
「私はフィオナに頼もうと思ったの。結局、頼まなかったのだけど。先に頼んでいた人がいたのでね」
「どう言うこと?」
「フィオナはね、同じように他国から嫁いて苦労した経験のある王妃様と知り合って、すっかり仲良くなってしまっていたの」
ジャックは呆然と姉の話を聞いていた。
「ロストフ公爵の処遇を変えたのは王妃様よ。王女殿下へ猥談を聞かせたのが決定打なのだけど、フィオナが王妃様にシャーロットの話を聞かせたのよ。王室の風向きはいっぺんに変わったわ」
「誰が侯爵夫人にシャーロットの話を聞かせたのですか?」
「シャーロット本人よ。他にどうしようもなくなった時、他人に頼ることも必要なのね。自分でどうしようもなくなったら、の話だけど」
シャーロット!
彼女はジャックに頼ろうとしなかった。
あんなに、他人に無意味にすがることを嫌った彼女だったが、追い詰められた時、冷静な判断で頼るべき人を頼ったのだろう。
「それでも、足りなかった。足りなかったのは言い訳。何か事件が欲しかった。口実が」
ジャックはあっけに取られた。
「まさか? ソーントン男爵令嬢の事件は仕組まれていた?」
姉は笑った。
「そんなことないわ。あれは偶然。とは言え、あんなに教育もなければ礼儀もない、堪え性のない連中を集めて煽れば、ああなっても当然だったかもしれないけれど。とにかく王妃様はとても喜んでおられたわ」
「そう」
「時間的にはマークに頼んでいては間に合わない。フィオナに頼みたかった。でも、あなたにそう言ったら、きっと動かなかったでしょう?」
フィオナに頼るつもりなんかなかった。
「頼るべき時に頼るべき人に頼ることを、あなたは出来ないだろうなと思って」
クリスチンは続けた。
「でも、当たり前よね。でも、フィオナに頼むにしても、あなたが本気ならって言うのは最低条件だった。だから、聞いたのよ」
「シャーロットに頼まれても、それだけじゃフィオナは動かなかったと思うわ。フィオナを動かしたのは、あなたよ」
ジャックは石化していた。
「あなたのことを決して嫌いじゃなかったのよ。あなたの人間は認めていたのよ。好きだったと思う。あなたもそうでしょう? だから、あなたのために動いたの。まあ、王妃様に事情を話しただけなんでしょうけど」
知らない間に、かつての恋人は苦労して、成長していた。
「でも、この話は無かったことに」
クリスチンが神妙に言った。
「シャーロットが泣くと思うし、私、あなたがグレンフェル侯爵に決闘を申し込まれても困るから。侯爵相手じゃ、あんたなんか二分で死体になっちゃうわ」
秘密の守り手がクリスチンだと言うのが、甚だいただけなかったが、ジャックは黙ってうなずいた。
「だから、せいぜいあんた、頑張りなさいよ」
急に姉が言った。
「シャーロットにも、フィオナにも負けないようにね」
ジャックがクリスチンに改めて礼を言うと、クリスチンはケラケラと笑った。
「クリスチン?」
ジャックは姉を不審そうに見つめた。
「ごめん。だって、私、何もしてないんだもん」
ジャックの目は大きく見開かれた。
「だって、シャーロットに結婚してくれるように正式に申し込めば、帝国に圧力をかけてくれるって……」
ジャックは言いかけたが、姉は笑いすぎて、涙をぬぐっていた。
「確かにそう言ったけど……。でも、間に合わなかったのよ」
「どう言うこと?」
顔色を変えてジャックが聞いた。
「考えてもごらんなさい。セントアイヴァンズバーグからここまで何日かかると思っているの?」
ジャックはよくわからないながら、姉を睨んだ。
「ここから知らせを持たせて、セントアイヴァンズバーグまで行かせて、皇帝陛下に圧力をかけて……もちろん、直接圧力をかけたり出来ないわ。最終的にはもちろん言うことは聞いてもらえるだろうけど、それでもある程度時間がかかる。そして、結果がここまで届くのに二週間くらいはかかる」
「全然ダメじゃないか、それ!」
「スピードとしてはね」
「クリスチン! 騙しただけか!」
「怒らないでよ、ジャック」
姉はなだめた。
「なんの役にも立ってないくせに!」
「立ったわよ」
「……え?」
「少なくとも、役に立とうとは思ったの。あなたには言えなかったけど、他の方法があると思ったの」
ジャックは、立ち上がりかけていたが、再びソファーに腰を下ろした。
クリスチンが珍しく優しい笑顔になっていた。
「私はフィオナに頼もうと思ったの。結局、頼まなかったのだけど。先に頼んでいた人がいたのでね」
「どう言うこと?」
「フィオナはね、同じように他国から嫁いて苦労した経験のある王妃様と知り合って、すっかり仲良くなってしまっていたの」
ジャックは呆然と姉の話を聞いていた。
「ロストフ公爵の処遇を変えたのは王妃様よ。王女殿下へ猥談を聞かせたのが決定打なのだけど、フィオナが王妃様にシャーロットの話を聞かせたのよ。王室の風向きはいっぺんに変わったわ」
「誰が侯爵夫人にシャーロットの話を聞かせたのですか?」
「シャーロット本人よ。他にどうしようもなくなった時、他人に頼ることも必要なのね。自分でどうしようもなくなったら、の話だけど」
シャーロット!
彼女はジャックに頼ろうとしなかった。
あんなに、他人に無意味にすがることを嫌った彼女だったが、追い詰められた時、冷静な判断で頼るべき人を頼ったのだろう。
「それでも、足りなかった。足りなかったのは言い訳。何か事件が欲しかった。口実が」
ジャックはあっけに取られた。
「まさか? ソーントン男爵令嬢の事件は仕組まれていた?」
姉は笑った。
「そんなことないわ。あれは偶然。とは言え、あんなに教育もなければ礼儀もない、堪え性のない連中を集めて煽れば、ああなっても当然だったかもしれないけれど。とにかく王妃様はとても喜んでおられたわ」
「そう」
「時間的にはマークに頼んでいては間に合わない。フィオナに頼みたかった。でも、あなたにそう言ったら、きっと動かなかったでしょう?」
フィオナに頼るつもりなんかなかった。
「頼るべき時に頼るべき人に頼ることを、あなたは出来ないだろうなと思って」
クリスチンは続けた。
「でも、当たり前よね。でも、フィオナに頼むにしても、あなたが本気ならって言うのは最低条件だった。だから、聞いたのよ」
「シャーロットに頼まれても、それだけじゃフィオナは動かなかったと思うわ。フィオナを動かしたのは、あなたよ」
ジャックは石化していた。
「あなたのことを決して嫌いじゃなかったのよ。あなたの人間は認めていたのよ。好きだったと思う。あなたもそうでしょう? だから、あなたのために動いたの。まあ、王妃様に事情を話しただけなんでしょうけど」
知らない間に、かつての恋人は苦労して、成長していた。
「でも、この話は無かったことに」
クリスチンが神妙に言った。
「シャーロットが泣くと思うし、私、あなたがグレンフェル侯爵に決闘を申し込まれても困るから。侯爵相手じゃ、あんたなんか二分で死体になっちゃうわ」
秘密の守り手がクリスチンだと言うのが、甚だいただけなかったが、ジャックは黙ってうなずいた。
「だから、せいぜいあんた、頑張りなさいよ」
急に姉が言った。
「シャーロットにも、フィオナにも負けないようにね」
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