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第30話 パーティでの顛末 1
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伯父にファンになってもらっても、どうしようもないのであって。
王城の今回のパーティは、恒例のものだったが、なんだか王家として発表することがあるらしく、普段より参加者が多かった。
私は、落第令嬢の嗜みとして、居心地のよさそうな壁を懸命に探した。
本日は生存証明のために来たの。それ以外の行動をとるつもりはない。会話とか、ダンスとか。
しかし、壁と言う壁が全部埋まっていたのには閉口した。
楽しそうに会話する連中が、憩いの場所として使用中だった。
どうやら王家のパーティということで少々気が張るらしく、みんなが避難行動をとっていたらしい。
壁は売れ残り令嬢の避難場所と相場が決まっているでしょう! 何のために壁の花という言葉が存在するのよ。
もう、悲しかった。壁際令嬢の最後の砦はどこへ行ったの?
それに、そもそも壁にたどり着けなかった。話しかけてくる人がやたらに多かったのだ。
「ロビア家のご令嬢ですか? アンジェリーナ嬢って?」
来たわ? 来たな?
流行の夜会服に身を固めた、若い紳士がにこやかに出現した。
「ロビア家の令嬢と言えば、エミリ嬢と社交界に出られない姉上だけと思っていたけれど、あなたはエミリ嬢のお妹様ですか? 失礼と思いつつ、余りのお美しさにお近づきになりたくて」
「いいえ」
私は答えた。
ここは修羅場。戦場だ。
「私に姉妹は居ませんわ。エミリは私の従姉妹で、私の父ロビア公爵にとって姪にあたります」
彼は私を嘘つきと決めつけるだろうか。
「え?」
彼は驚いて、私の顔をまじまじと見つめた。
「多分、エミリの言うアンジェリーナと言う名前の姉というのは、私のことでしょうね」
「え? そんな。エミリ嬢は、姉は外には出られない、行動がとても変わっているのでと……」
本人に向かってそれを言う?
私はうっすら笑って見せた。
「ええ。アンジェリーナは私ですわ」
そのすっごく醜くて、社交界に出れないくらいオカシイ令嬢こそ、私ですのよ。
「あっ、ええと、そんなっ……違いますよ……申し訳ないことを言いました。あなたは……その、とてもきれいな方なのに」
私は朗らかに笑った。
「従姉妹のエミリは、いつも私が醜いと気の毒がっていましたわ。あなたはエミリから、その通りの言葉を聞いたのだと思います」
「アンジェリーナ嬢、僕は事情を知らなくて失礼を申し上げたのかもしれません」
相手は結構まともだった。必死になって弁解を始めた。
「あら、あなたは、あなたがお聞きになったことを、私におっしゃっただけでしょう? 失礼ではないと思います」
私は優しく言った。
「ただ、エミリは私の従姉妹であって妹ではありませんの。亡くなった私の父、ロビア家の前当主の弟の娘ですわ」
ブスでもなんでも、どうでもよろしい。当主の娘たる私が、そこまでおかしくなくて、生きていることさえ伝わればいい。
私は軽く頭を下げて、彼のそばから離れていこうとした。
「あ、待って。アンジェリーナ嬢。このままお別れするわけにはいきません。申し訳ないことを……」
私の方こそ、何やら罪悪感が湧いて生きたわ。私のせいじゃないけど、エミリの言葉を素直に信じていたのね。
令嬢たちも近寄ってきたが、彼女たちも不思議そうに同じことを聞く。
「ロビア家のアンジェリーナ様と言うと、エミリ様のお姉さまですか?」
意外にみんな礼儀正しい。エミリを虐め倒した悪女中の悪女だと言うのに、グラスを投げつけようと言う勇者はまだ現れなかった。
だが、この質問をするのが若い層、それもどちらかと言えば低位の貴族ばかりだと言うことに私は気がついた。
高位貴族は、知っているのだ。バーバラ夫人とエミリの出自を。
本来、何の関係もない彼女たちがロビア家を支配している理由は、本来の当主が異常で、家を継ぐなどとても出来ないから、自分たちが代わりを務めていると説明されていた。
その、異常極まりない当人が今、目の前にいる。
「皆さん、好奇心で一杯だと思うわ。お話してらっしゃい」
伯母が言った。
「私は知らない方とお話しするのが苦手で……(面倒くさくて)」
「面倒くさいとか言っている場合ではないので、お話していらっしゃい。今晩限りでいいですから」
そう、見た目が醜くても、それは問題ではないと思う。どれほど異常なのか、本当に家を継ぐことができないのか。
私は、待ち構える令夫人や令嬢たちの方に顔を向けた。
「ロビア公爵令嬢?」
最初に、いかにも身分の高そうな、目だけは鋭い初老の貴婦人から声をかけられた時は、ちょっとドキンとした。
ロビア家の内情を知っているのだ。彼女の目が私を値踏みしている。
私は、穏やかに愛想よく、会った人全員と、当たり前の話をしただけだった。
たったそれだけのことが、多分、私の生きる場所を作ってくれる。
伯母の言う言葉が理解できた。皆、バーバラ夫人とエミリのことを疑っていたのだ。
「きれいな人よね」
「少し話してみましたわ。別におかしなところは何もなかったわ」
漏れ聞こえるうわさ話を私は耳で拾った。
「でも、どうして社交界にデビューなさらなかったのかしら?」
それは……来たわ。その原因が。
バーバラ夫人とエミリがついに現れた。
王城の今回のパーティは、恒例のものだったが、なんだか王家として発表することがあるらしく、普段より参加者が多かった。
私は、落第令嬢の嗜みとして、居心地のよさそうな壁を懸命に探した。
本日は生存証明のために来たの。それ以外の行動をとるつもりはない。会話とか、ダンスとか。
しかし、壁と言う壁が全部埋まっていたのには閉口した。
楽しそうに会話する連中が、憩いの場所として使用中だった。
どうやら王家のパーティということで少々気が張るらしく、みんなが避難行動をとっていたらしい。
壁は売れ残り令嬢の避難場所と相場が決まっているでしょう! 何のために壁の花という言葉が存在するのよ。
もう、悲しかった。壁際令嬢の最後の砦はどこへ行ったの?
それに、そもそも壁にたどり着けなかった。話しかけてくる人がやたらに多かったのだ。
「ロビア家のご令嬢ですか? アンジェリーナ嬢って?」
来たわ? 来たな?
流行の夜会服に身を固めた、若い紳士がにこやかに出現した。
「ロビア家の令嬢と言えば、エミリ嬢と社交界に出られない姉上だけと思っていたけれど、あなたはエミリ嬢のお妹様ですか? 失礼と思いつつ、余りのお美しさにお近づきになりたくて」
「いいえ」
私は答えた。
ここは修羅場。戦場だ。
「私に姉妹は居ませんわ。エミリは私の従姉妹で、私の父ロビア公爵にとって姪にあたります」
彼は私を嘘つきと決めつけるだろうか。
「え?」
彼は驚いて、私の顔をまじまじと見つめた。
「多分、エミリの言うアンジェリーナと言う名前の姉というのは、私のことでしょうね」
「え? そんな。エミリ嬢は、姉は外には出られない、行動がとても変わっているのでと……」
本人に向かってそれを言う?
私はうっすら笑って見せた。
「ええ。アンジェリーナは私ですわ」
そのすっごく醜くて、社交界に出れないくらいオカシイ令嬢こそ、私ですのよ。
「あっ、ええと、そんなっ……違いますよ……申し訳ないことを言いました。あなたは……その、とてもきれいな方なのに」
私は朗らかに笑った。
「従姉妹のエミリは、いつも私が醜いと気の毒がっていましたわ。あなたはエミリから、その通りの言葉を聞いたのだと思います」
「アンジェリーナ嬢、僕は事情を知らなくて失礼を申し上げたのかもしれません」
相手は結構まともだった。必死になって弁解を始めた。
「あら、あなたは、あなたがお聞きになったことを、私におっしゃっただけでしょう? 失礼ではないと思います」
私は優しく言った。
「ただ、エミリは私の従姉妹であって妹ではありませんの。亡くなった私の父、ロビア家の前当主の弟の娘ですわ」
ブスでもなんでも、どうでもよろしい。当主の娘たる私が、そこまでおかしくなくて、生きていることさえ伝わればいい。
私は軽く頭を下げて、彼のそばから離れていこうとした。
「あ、待って。アンジェリーナ嬢。このままお別れするわけにはいきません。申し訳ないことを……」
私の方こそ、何やら罪悪感が湧いて生きたわ。私のせいじゃないけど、エミリの言葉を素直に信じていたのね。
令嬢たちも近寄ってきたが、彼女たちも不思議そうに同じことを聞く。
「ロビア家のアンジェリーナ様と言うと、エミリ様のお姉さまですか?」
意外にみんな礼儀正しい。エミリを虐め倒した悪女中の悪女だと言うのに、グラスを投げつけようと言う勇者はまだ現れなかった。
だが、この質問をするのが若い層、それもどちらかと言えば低位の貴族ばかりだと言うことに私は気がついた。
高位貴族は、知っているのだ。バーバラ夫人とエミリの出自を。
本来、何の関係もない彼女たちがロビア家を支配している理由は、本来の当主が異常で、家を継ぐなどとても出来ないから、自分たちが代わりを務めていると説明されていた。
その、異常極まりない当人が今、目の前にいる。
「皆さん、好奇心で一杯だと思うわ。お話してらっしゃい」
伯母が言った。
「私は知らない方とお話しするのが苦手で……(面倒くさくて)」
「面倒くさいとか言っている場合ではないので、お話していらっしゃい。今晩限りでいいですから」
そう、見た目が醜くても、それは問題ではないと思う。どれほど異常なのか、本当に家を継ぐことができないのか。
私は、待ち構える令夫人や令嬢たちの方に顔を向けた。
「ロビア公爵令嬢?」
最初に、いかにも身分の高そうな、目だけは鋭い初老の貴婦人から声をかけられた時は、ちょっとドキンとした。
ロビア家の内情を知っているのだ。彼女の目が私を値踏みしている。
私は、穏やかに愛想よく、会った人全員と、当たり前の話をしただけだった。
たったそれだけのことが、多分、私の生きる場所を作ってくれる。
伯母の言う言葉が理解できた。皆、バーバラ夫人とエミリのことを疑っていたのだ。
「きれいな人よね」
「少し話してみましたわ。別におかしなところは何もなかったわ」
漏れ聞こえるうわさ話を私は耳で拾った。
「でも、どうして社交界にデビューなさらなかったのかしら?」
それは……来たわ。その原因が。
バーバラ夫人とエミリがついに現れた。
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