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第39話 使用人たちの勘違い
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使用人たちは真っ赤になった。そして口々にしゃべりだした。
「私たちはバーバラ夫人に正式に雇われたのです」
「そうよ、そうよ。あんたなんかに雇われたわけじゃないよ」
「本当に生意気な娘だよ! 仕事もろくすっぽできないくせに!」
「それならいいではありませんか。バーバラ夫人のもとへお行きなさい」
私は言った。
「そうね。バーバラ夫人に雇われたのだから、この家にいなくてもいいでしょう」
伯母も口添えした。
「リナに仕えたくないなら、ここで働くことはありますまい」
全員が困った顔になった。解雇は困るらしい。
料理番の女が代表して、私に向かって、以前と同じような調子で脅しにかかった。
「そんなことを言っていいの? 私たちは、どこかよそのお宅へ行って、この話をするかもしれないのよ。それでもいいの?」
私は思わずクスッと笑った。脅しているつもりかしら。
多分、私たちがどんなに言い聞かせても、わかってくれない。
私たちの常識は、この人たちには通用しないのだ。
でも、ロビア家に仕える心得を、教えるような手間はかけられない。そんなエネルギーも気力もない。
正義の不満に燃える使用人たちに、私は言った。
「私はバーバラ夫人の居所を知らないけれど、ステインなら知っているのでしょう。苦情があるなら、バーバラ夫人のところに行って訴えたらいいと思うわ」
去り際に、私を邪険に扱っていた女中は、「こんなことをして、ただで済むと思うな」と捨て台詞を吐いたし、料理番は、「貴族なんて、自分のことなんか何も出来ないくせに。今日の夕食にも困るくせに」と言い捨てた。女中頭はむすっとして、私たちを無視して出て行った。
「やれやれ。思っていたより、ずっと頭が固い人たちだったわね」
伯母はあきれて言った。
「本当ですわ。それに手際が悪いこと」
私はクルクルと掃除魔法をかけながら言った。屋敷中が汚れている。
伯母は、誰もいないことをいいことに、自分でお茶の用意を始めた。
ヤカンがきれいに洗われて、火にかけられた。洗い立ての清潔なテーブルクロスが自分からテーブルの上に広がったところへ、茶器が軽い音を立てて空を飛んできて、静かに着地した。
「よかった。お茶の葉はまあまあのを使っているらしいわ。あと、お茶菓子があったわ」
全部魔法で済んでしまう。使用人なんていらないのじゃないかしら。
「あの人たちは要らないわ。でも、誰もいないのはおかしいでしょう? それに、女中や侍女の働くところがなくなってしまうわ」
あの人たちはバーバラ夫人に雇われた。誰が本物の跡取りなのか、バーバラ夫人の言葉を信じているのだと思う。逆に、私のことをお家乗っ取りをたくらむ悪者だと思っているかもしれない。
「バーバラ夫人とエミリがいる限り、あなたがこの家に帰ってこないかもしれないと心配だったの」
「だって、あの人たち、私を殺す算段をするくらいなのですもの。床を磨いたり、皿を洗うくらい全然かまいませんけど、殺されるのは困りますわ」
伯母とセバスが顔色を変えた。
「あら、セバス、あなたは知っているでしょう? エミリが私を始末するって言ってましたわ」
そう言えば、あの場にセバスはいなかったかも。私の屋根裏部屋までエミリが来て話していた内容だったわ。
「セバス!」
伯母が鋭い調子でセバスに命じた。
「はい。奥様」
大急ぎでセバスは出て行き、伯母はその背中をしばらく追っていたが、私の方に向き直った時は、もう微笑んだ顔に戻っていた。
「ステインやもう一人の厚かましい男は、セバスが処理してくれますわ」
伯母様、オスカーのことはとことん嫌いなのね。名前を言わないだなんて。まあ、私も嫌いだけど。
「それはとにかく……」
伯母は声の調子を変えて優しくいった。
「三日後にお友達のマーゲート伯爵夫人のお茶会があるの。あなたのお母様の親友だった方だけど、今の社交界で一番有名な方なのよ。リナをご招待していただいたの。行ってらっしゃい」
「私、マグリナにすぐに戻るので……」
伯母は私を押しとどめた。
「リナ、エミリやバーバラ夫人が何を言ったか知らないけど、大丈夫、あなたは十分通用するわ。背中ばかりを向けてはいけないわ。いずれにせよ、イアン王子のパーティが済めばマグリナに戻るのだから、楽しんでらっしゃいよ」
私は不思議な気がした。
「楽しめるでしょうか?」
「もちろんよ。何のために私がフリージアに残ったと思っているの?」
伯母が言った。
「私たちはバーバラ夫人に正式に雇われたのです」
「そうよ、そうよ。あんたなんかに雇われたわけじゃないよ」
「本当に生意気な娘だよ! 仕事もろくすっぽできないくせに!」
「それならいいではありませんか。バーバラ夫人のもとへお行きなさい」
私は言った。
「そうね。バーバラ夫人に雇われたのだから、この家にいなくてもいいでしょう」
伯母も口添えした。
「リナに仕えたくないなら、ここで働くことはありますまい」
全員が困った顔になった。解雇は困るらしい。
料理番の女が代表して、私に向かって、以前と同じような調子で脅しにかかった。
「そんなことを言っていいの? 私たちは、どこかよそのお宅へ行って、この話をするかもしれないのよ。それでもいいの?」
私は思わずクスッと笑った。脅しているつもりかしら。
多分、私たちがどんなに言い聞かせても、わかってくれない。
私たちの常識は、この人たちには通用しないのだ。
でも、ロビア家に仕える心得を、教えるような手間はかけられない。そんなエネルギーも気力もない。
正義の不満に燃える使用人たちに、私は言った。
「私はバーバラ夫人の居所を知らないけれど、ステインなら知っているのでしょう。苦情があるなら、バーバラ夫人のところに行って訴えたらいいと思うわ」
去り際に、私を邪険に扱っていた女中は、「こんなことをして、ただで済むと思うな」と捨て台詞を吐いたし、料理番は、「貴族なんて、自分のことなんか何も出来ないくせに。今日の夕食にも困るくせに」と言い捨てた。女中頭はむすっとして、私たちを無視して出て行った。
「やれやれ。思っていたより、ずっと頭が固い人たちだったわね」
伯母はあきれて言った。
「本当ですわ。それに手際が悪いこと」
私はクルクルと掃除魔法をかけながら言った。屋敷中が汚れている。
伯母は、誰もいないことをいいことに、自分でお茶の用意を始めた。
ヤカンがきれいに洗われて、火にかけられた。洗い立ての清潔なテーブルクロスが自分からテーブルの上に広がったところへ、茶器が軽い音を立てて空を飛んできて、静かに着地した。
「よかった。お茶の葉はまあまあのを使っているらしいわ。あと、お茶菓子があったわ」
全部魔法で済んでしまう。使用人なんていらないのじゃないかしら。
「あの人たちは要らないわ。でも、誰もいないのはおかしいでしょう? それに、女中や侍女の働くところがなくなってしまうわ」
あの人たちはバーバラ夫人に雇われた。誰が本物の跡取りなのか、バーバラ夫人の言葉を信じているのだと思う。逆に、私のことをお家乗っ取りをたくらむ悪者だと思っているかもしれない。
「バーバラ夫人とエミリがいる限り、あなたがこの家に帰ってこないかもしれないと心配だったの」
「だって、あの人たち、私を殺す算段をするくらいなのですもの。床を磨いたり、皿を洗うくらい全然かまいませんけど、殺されるのは困りますわ」
伯母とセバスが顔色を変えた。
「あら、セバス、あなたは知っているでしょう? エミリが私を始末するって言ってましたわ」
そう言えば、あの場にセバスはいなかったかも。私の屋根裏部屋までエミリが来て話していた内容だったわ。
「セバス!」
伯母が鋭い調子でセバスに命じた。
「はい。奥様」
大急ぎでセバスは出て行き、伯母はその背中をしばらく追っていたが、私の方に向き直った時は、もう微笑んだ顔に戻っていた。
「ステインやもう一人の厚かましい男は、セバスが処理してくれますわ」
伯母様、オスカーのことはとことん嫌いなのね。名前を言わないだなんて。まあ、私も嫌いだけど。
「それはとにかく……」
伯母は声の調子を変えて優しくいった。
「三日後にお友達のマーゲート伯爵夫人のお茶会があるの。あなたのお母様の親友だった方だけど、今の社交界で一番有名な方なのよ。リナをご招待していただいたの。行ってらっしゃい」
「私、マグリナにすぐに戻るので……」
伯母は私を押しとどめた。
「リナ、エミリやバーバラ夫人が何を言ったか知らないけど、大丈夫、あなたは十分通用するわ。背中ばかりを向けてはいけないわ。いずれにせよ、イアン王子のパーティが済めばマグリナに戻るのだから、楽しんでらっしゃいよ」
私は不思議な気がした。
「楽しめるでしょうか?」
「もちろんよ。何のために私がフリージアに残ったと思っているの?」
伯母が言った。
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