40 / 62
第40話 マーゲート伯爵夫人のお茶会
しおりを挟む
意外なことに、マーゲート伯爵夫人のお茶会は、とても楽しかった。
私は最初はとても緊張してしまったのだけれど、マーゲート夫人をはじめとしたお客様の皆様はとても自然に接してくれた。
不思議だった。
誰も、私のことを変だと言わなかった。
それどころか、ロビア家の跡取りとして丁重に扱ってくださった。
そうこられれば、私も丁重にならざるを得ない。
その方の趣味のお話をお聞きしたり、お手持ちのステキな扇子の出所や、お庭の花の種類や、当たり障りのない話題でも、相手が上手く話を繋ごうとしてくだされば、こうまで違うのだろうか。
若い男性も多く参加していたので、少しばかり話を聞くことが出来た。マーゲート夫人の息子さんも出席していて、そのお友達が来ているらしい。
「マーク・ロウと申します。マーゲート家の長男です」
マーゲート伯爵夫人の息子は、王宮で働いているのだと言った。イアン殿下の担当だそうだ。
ということは、マーゲート夫人は完全に王太子派だと言うことだ。つまり、伯母もイアン王太子派なのだ。私はちょっとびっくりしたが、カサンドラ夫人はもう失脚している。
彼は、現在、縁談が全面的にストップしていること、王子殿下の結婚さえ決まれば一斉に動き出すだろうなどと言った話を話してくれた。
「殿下のパーティで、縁談が全面的にストップって、皆様、ご迷惑ではございませんこと?」
「シンデレラ・パーティ? いや、逆に、その場で気に入った女性がいたら、おこぼれにあずかろうと思っている」
おかしくなって私は笑った。
「それも考え方ですわね」
「意外に知り合いになる機会が少ないからね。毎年、開いてもらいたいくらいだよ、シンデレラ・パーティ。参加女性は、全員フリーのはずだもの」
知り合いになる機会……私はイアンと出会った時のことを思い出した。
イアンとは、もう二度と会えないかもしれない。そう思うと胸が苦しくなった。
「どうしたの? 顔色が悪いよ?」
「いえ、そんなことは」
ああ、もう、自分が開きたいわ、シンデレラボーイ・パーティ。
もし自分が継承権のある王女様なら、イアンを探すためにパーティを開く。
国中にお触れを出して、五歳年上の黒髪の男性限定で、パーティ参加者を募る。
どこにいてもイアンなら私は探し出せる自信がある。
「そうだわ! もしかすると、イアンもこのパーティに参加するかも」
シンデレラ・パーティは男性も一定の身分以上なら参加可能なのだ。
それはそうだ。だって、女ばかりじゃダンスパーティにならない。先ほどの男性が言っていたように、男性側にも、それから選ばれなかった女性にもメリットがあれば参加者が増える。
独身者に優しいパーティなのだ。
シンデレラ・パーティが、思う程、反発を食らわなかった理由がここにある。
「アンジェリーナ嬢、今日はとても楽しかったわ」
最後に、マーゲート伯爵夫人が言葉をかけてくださった。
「また、ぜひ、お越しになってちょうだいな」
シンデレラ・パーティが終わったら、私はマグリナに帰るつもりだ。だから、「また」はきっとないと思う。だけど、こんなに良くしてくださったマーゲート夫人にそんなすげない返事はできない。
私はにっこり笑って、必ずまたお邪魔させてくださいませと返事した。
私は、自邸に戻ってから、星祭りに参加した時、イアンに買ってもらったリボンを探し出した。
「シンデレラ・パーティ、なんの役にも立たないと思っていたけれど……」
豪華なドレスとは、質も何もかも全くそぐわないつましいリボンだったけど、もし、イアンがこのパーティに参加するなら、これが目印になる。
「参加しているだなんて、考えたくないけどね」
だって、私を好きだって言ってくれたのに。別な女性を探しにパーティに参加しているだなんて思いたくない。
でも、私だって周囲の事情で参加することになっている。
「このリボン、絶対つけよう!」
私には大事な人がいます。
その意味を込めて。バカみたいだけど。
私は最初はとても緊張してしまったのだけれど、マーゲート夫人をはじめとしたお客様の皆様はとても自然に接してくれた。
不思議だった。
誰も、私のことを変だと言わなかった。
それどころか、ロビア家の跡取りとして丁重に扱ってくださった。
そうこられれば、私も丁重にならざるを得ない。
その方の趣味のお話をお聞きしたり、お手持ちのステキな扇子の出所や、お庭の花の種類や、当たり障りのない話題でも、相手が上手く話を繋ごうとしてくだされば、こうまで違うのだろうか。
若い男性も多く参加していたので、少しばかり話を聞くことが出来た。マーゲート夫人の息子さんも出席していて、そのお友達が来ているらしい。
「マーク・ロウと申します。マーゲート家の長男です」
マーゲート伯爵夫人の息子は、王宮で働いているのだと言った。イアン殿下の担当だそうだ。
ということは、マーゲート夫人は完全に王太子派だと言うことだ。つまり、伯母もイアン王太子派なのだ。私はちょっとびっくりしたが、カサンドラ夫人はもう失脚している。
彼は、現在、縁談が全面的にストップしていること、王子殿下の結婚さえ決まれば一斉に動き出すだろうなどと言った話を話してくれた。
「殿下のパーティで、縁談が全面的にストップって、皆様、ご迷惑ではございませんこと?」
「シンデレラ・パーティ? いや、逆に、その場で気に入った女性がいたら、おこぼれにあずかろうと思っている」
おかしくなって私は笑った。
「それも考え方ですわね」
「意外に知り合いになる機会が少ないからね。毎年、開いてもらいたいくらいだよ、シンデレラ・パーティ。参加女性は、全員フリーのはずだもの」
知り合いになる機会……私はイアンと出会った時のことを思い出した。
イアンとは、もう二度と会えないかもしれない。そう思うと胸が苦しくなった。
「どうしたの? 顔色が悪いよ?」
「いえ、そんなことは」
ああ、もう、自分が開きたいわ、シンデレラボーイ・パーティ。
もし自分が継承権のある王女様なら、イアンを探すためにパーティを開く。
国中にお触れを出して、五歳年上の黒髪の男性限定で、パーティ参加者を募る。
どこにいてもイアンなら私は探し出せる自信がある。
「そうだわ! もしかすると、イアンもこのパーティに参加するかも」
シンデレラ・パーティは男性も一定の身分以上なら参加可能なのだ。
それはそうだ。だって、女ばかりじゃダンスパーティにならない。先ほどの男性が言っていたように、男性側にも、それから選ばれなかった女性にもメリットがあれば参加者が増える。
独身者に優しいパーティなのだ。
シンデレラ・パーティが、思う程、反発を食らわなかった理由がここにある。
「アンジェリーナ嬢、今日はとても楽しかったわ」
最後に、マーゲート伯爵夫人が言葉をかけてくださった。
「また、ぜひ、お越しになってちょうだいな」
シンデレラ・パーティが終わったら、私はマグリナに帰るつもりだ。だから、「また」はきっとないと思う。だけど、こんなに良くしてくださったマーゲート夫人にそんなすげない返事はできない。
私はにっこり笑って、必ずまたお邪魔させてくださいませと返事した。
私は、自邸に戻ってから、星祭りに参加した時、イアンに買ってもらったリボンを探し出した。
「シンデレラ・パーティ、なんの役にも立たないと思っていたけれど……」
豪華なドレスとは、質も何もかも全くそぐわないつましいリボンだったけど、もし、イアンがこのパーティに参加するなら、これが目印になる。
「参加しているだなんて、考えたくないけどね」
だって、私を好きだって言ってくれたのに。別な女性を探しにパーティに参加しているだなんて思いたくない。
でも、私だって周囲の事情で参加することになっている。
「このリボン、絶対つけよう!」
私には大事な人がいます。
その意味を込めて。バカみたいだけど。
18
あなたにおすすめの小説
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。
お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。
……少なくとも、リオナはそう信じていた。
ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。
距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。
「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」
どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。
“白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。
すれ違い、誤解、嫉妬。
そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。
「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」
そんなはずじゃなかったのに。
曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。
白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。
鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。
「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」
「……はい。私も、カイルと歩きたいです」
二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。
-
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる