43 / 62
第43話 シンデレラ・ナイトとその続き
しおりを挟む
激マズの栄養剤!
そんなところから、わかったのかしら。私が私だって?
「おかげであなたを見つけられた。愛する人」
その言葉に私は真っ赤になった。
私はずっと後悔していた。
イアンと無理矢理離れてしまって。
イアンには事情がありそうだと思ったの。だけど、後になってからこんなに悲しいのなら、偽りの生活でも、のちになって死ぬほど後悔をすることになっても、あのまま一緒に暮らせばよかったのかもと、役に立たないことを思ったりした。
彼の目が私の目をとらえた。見つめて、言った。
「会いたかった。やっと会えた」
その目とその言葉に、飢えていた私の心が満たされていく。
温かなイアンの手が、しっかり私の手を取って、会場の真ん中の方へ私を誘導していく。
ダンスパーティに参加しているすべての人の目が、私を見ているような気がする。
普段の私なら、注目を浴びるのを嫌がって、恥ずかしがって逃げただろう。
でも、今夜は違う。この愛を逃したりしない。この人は私のものなの。誰のものでもないの。
私はイアンと連れ立って、大広間の真ん中へ進んだ。
イアン王子こそが今夜の主人公。その人が、大広間のすみっこでダンスなんて許されない。
至る所でザワザワと話し声が沸き起こっていて、人々は、まるで潮が引くように私たちが通れるよう場所を開けてくれた。
「会いたかったの」
歩きながら私はつぶやくような調子で言った。
「僕も。もう二度と会えないかと思うと胸が苦しかった。僕は猟師になって生涯を終える覚悟を決めたのに」
まさか、本当に、一生猟師のつもりだったの?
「そうさ。君と暮らそうと思ったんだ」
そう言っていた。でも、恋心は揺れ動く。信じたいけど、信じきれないみたいな。
「二人きりで森の中で暮らしたかった。結局無理だったけど」
「無理だった?」
「無理だったと、君に締め出されてから、わかった。君の方が正しかった」
イアンは下を向いて答えた。
「やらなきゃならないこと、僕にしかできないこと、全部捨てて君に溺れようとしたんだよ」
イアンは私の手をぐっとつかんで、私の顔を見た。
「でも、二度と会えないように追い出してまで、僕にそんなことやらせようとする残酷な恋人っている? 義務を忘れるなって」
観衆は私たちを遠巻きに見守っていた。
「僕を嫌いになったのかと思った」
「そんなことは……」
本当は、ずっと心の中で後悔していたの。
「僕は君を好きだったのに。でも、君も泣いていたって。ずっと泣いていたって聞いて、それで僕は……」
ちょっと待って。それ、どこから情報?
イアンは話し続けた。
「ああ、リナは僕の物だ。僕のために泣いているんだって知って、うれしかった」
イアンは私の手を取って口づけた。
今度は大悲鳴が沸き起こる。大勢が見つめている。
ちょっと? これでいいの?
もう少し地味な発表方法はなかったんでしょうか。
イアンは意地の悪そうな顔をした。
「ここまで大げさに、隣国にまで響き渡るような大パーティの結果選ばれた花嫁だ。もう変更なんかできない」
彼は続けた。
「一生、木こりでも猟師でもいいからそばにいたいと思った、世界中でたった一人の人だ。そして今や僕は王太子殿下だ。すべての権力を使って、君を離さない」
独占宣言……
音楽が始まった。
イアンは私に向き直った。
「ロビア公爵令嬢、あなたの一生を僕にください」
私たちが踊り出すと周りは誰も踊らなかった。
ただただじっと見つめていた。
二曲目、三曲目とダンスは続き、その頃には他の人たちも踊り出したり、自分たち同士で話をしたりしていたが、イアンは一晩中私のそばを離れなった。
「リナ、愛している」
夢見心地で、王家の馬車でロビア家に送られた私はクタクタで、直ぐに寝室に逃げ込んだ。
翌朝、起きると、とても嬉しそうなハリエットがすぐやって来た。
「お嬢様。お目醒めですか? イアン殿下から花が届いています」
イアン……?
私はハッとして、昨夜の夢のようなシンデレラパーティーを思い出した。
イアンに会えた。
私のイアンに。
あとのことはどうだってよかった。イアンはイアンだ。私のことを好きで、私も彼とずっと一緒にいたい。
彼が誰だろうと。木こりでも、猟師でも、王子様でも。
……あれ? 王子様?
「王子?」
私はベッドからガバリと起き出した。
「しまった! 職業は王子だった!」
朝の支度の準備をしていたハリエットが怪訝な顔をした。
「ただの王子様ではございません。王太子殿下ですわ」
余計まずいわ!
どこかの領主なんだと信じてた。
それなら、ロビア家の娘なら十分だと思っていた。
だけど、王太子はハードルが、ちょーっと高いかなー?
「ロビア家なら十分でしょう」
朝食の席で、恐る恐る伯母にお伺いを立てると、伯母はちょっと怒ったように言った。
「そうでしょうか」
実際に会ってみると、こんなに恋しいなんて。毎日でも会いたい。
今日も会えないかな。
昨夜は夢だったのかな。
「あんなにずっとべったりだなんて。品がないわねえ。まあ、いいけど」
夢じゃないらしい。
でも、王子はないわー。
ハードル高すぎて、めまいがするわ。
もういっそ、イアンにジョブチェンジしてもらって、どっかの騎士でも猟師でもなってもらおうかと。
私は悪辣なことを考えた。
王太子妃は、いやかも。
薬作れなさそうだし。
「ダメです。イアン王子には執政をピシリとやってもらわないと!」
そう言うと、伯母に猛烈に叱られた。
「前王は病気のせいで、あのカサンドラ夫人のいいようにされていたのです。今、国を背負えるのはイアン王子しかいません!」
「ええ~」
せっかく前王の病気を治したのに? 前王、役に立たないの?
「見習い期間がなければ、いくら優秀なイアン王子でも無理ですから! 立派な王太子妃がついていてもです」
「立派な王太子妃?」
首をひねって聞いた私に、伯母はニヤリと笑った。
なんか悪いことを考えている顔だわ。
「ホーッホッホッホ。王太子妃は決まったわ! まあ、他に決まりようがなかったんですけどねっ」
そこへセバスが顔を紅潮させてやってきた。
「奥様、アンジェリーナ様、王家からのお使いです」
「まあっ。ますますシンデレラね! ガラスの靴が要るようですよ」
伯母はカラカラと高笑いしたが、笑いはそこまでだった。
「リナ!」
部屋へあいさつもなくダッシュで飛び込んできたイアンが、抱きついた。
「ねえ、昨夜のダンスが夢じゃないかと思ってさー」
「イアン! 何するのよ!」
「ねーねー、外行こう。二人きりになれるところへ。これまでのこと、話したくて話したくて」
イアンの目が踊った。
「これで君は僕の婚約者。おいしそうだから、ぜひ食べたい」
えーっと、実家にいる娘とその親族に向かってそのセリフはないのでは?
「あらあ。品がないわね、イアン殿下」
伯母は口だけだった。なんだか、笑っていた。
私たちはあっという間に馬車に乗り、しかし、イアン殿下の希望ですぐに降りた。
「行けるんだよね? あの隠れ家」
何も変わっていない。キラキラした目、ちょっと小意地悪そうな顔つき。
「ねえ。ぜひ」
ロビア家の屋敷から程遠からぬ例のあばらやへ案内し、私たちは二人だけでその家に入った。
護衛騎士と侍女は周りを囲んでいたが、そんな狭いところでナニするんだろうと思っているに違いない。
「心配なら、入っていいから」
いとも気軽にイアン殿下は言ったが、それはそれで問題なような。
だって、あの隠れ家に行くつもりなんでしょう? 護衛騎士と侍女が捜索に入っても私たち、居ないわ。王太子殿下失踪事件の発生よ。
心配になった私は護衛騎士と侍女に言った。
「何かあれば伯母のところへ」
「え? それはやめようよ。踏み込んでくるよ」
ごちゃごちゃ言いながら、イチャイチャ家に入る。
「行けるのかな? もう一度、あの家に」
イアンはワクワクしているようだ。
「行けるわよ」
私と一緒で、不可能はない。
私たちはドアを開けて、そして中に入って閉めた。
そんなところから、わかったのかしら。私が私だって?
「おかげであなたを見つけられた。愛する人」
その言葉に私は真っ赤になった。
私はずっと後悔していた。
イアンと無理矢理離れてしまって。
イアンには事情がありそうだと思ったの。だけど、後になってからこんなに悲しいのなら、偽りの生活でも、のちになって死ぬほど後悔をすることになっても、あのまま一緒に暮らせばよかったのかもと、役に立たないことを思ったりした。
彼の目が私の目をとらえた。見つめて、言った。
「会いたかった。やっと会えた」
その目とその言葉に、飢えていた私の心が満たされていく。
温かなイアンの手が、しっかり私の手を取って、会場の真ん中の方へ私を誘導していく。
ダンスパーティに参加しているすべての人の目が、私を見ているような気がする。
普段の私なら、注目を浴びるのを嫌がって、恥ずかしがって逃げただろう。
でも、今夜は違う。この愛を逃したりしない。この人は私のものなの。誰のものでもないの。
私はイアンと連れ立って、大広間の真ん中へ進んだ。
イアン王子こそが今夜の主人公。その人が、大広間のすみっこでダンスなんて許されない。
至る所でザワザワと話し声が沸き起こっていて、人々は、まるで潮が引くように私たちが通れるよう場所を開けてくれた。
「会いたかったの」
歩きながら私はつぶやくような調子で言った。
「僕も。もう二度と会えないかと思うと胸が苦しかった。僕は猟師になって生涯を終える覚悟を決めたのに」
まさか、本当に、一生猟師のつもりだったの?
「そうさ。君と暮らそうと思ったんだ」
そう言っていた。でも、恋心は揺れ動く。信じたいけど、信じきれないみたいな。
「二人きりで森の中で暮らしたかった。結局無理だったけど」
「無理だった?」
「無理だったと、君に締め出されてから、わかった。君の方が正しかった」
イアンは下を向いて答えた。
「やらなきゃならないこと、僕にしかできないこと、全部捨てて君に溺れようとしたんだよ」
イアンは私の手をぐっとつかんで、私の顔を見た。
「でも、二度と会えないように追い出してまで、僕にそんなことやらせようとする残酷な恋人っている? 義務を忘れるなって」
観衆は私たちを遠巻きに見守っていた。
「僕を嫌いになったのかと思った」
「そんなことは……」
本当は、ずっと心の中で後悔していたの。
「僕は君を好きだったのに。でも、君も泣いていたって。ずっと泣いていたって聞いて、それで僕は……」
ちょっと待って。それ、どこから情報?
イアンは話し続けた。
「ああ、リナは僕の物だ。僕のために泣いているんだって知って、うれしかった」
イアンは私の手を取って口づけた。
今度は大悲鳴が沸き起こる。大勢が見つめている。
ちょっと? これでいいの?
もう少し地味な発表方法はなかったんでしょうか。
イアンは意地の悪そうな顔をした。
「ここまで大げさに、隣国にまで響き渡るような大パーティの結果選ばれた花嫁だ。もう変更なんかできない」
彼は続けた。
「一生、木こりでも猟師でもいいからそばにいたいと思った、世界中でたった一人の人だ。そして今や僕は王太子殿下だ。すべての権力を使って、君を離さない」
独占宣言……
音楽が始まった。
イアンは私に向き直った。
「ロビア公爵令嬢、あなたの一生を僕にください」
私たちが踊り出すと周りは誰も踊らなかった。
ただただじっと見つめていた。
二曲目、三曲目とダンスは続き、その頃には他の人たちも踊り出したり、自分たち同士で話をしたりしていたが、イアンは一晩中私のそばを離れなった。
「リナ、愛している」
夢見心地で、王家の馬車でロビア家に送られた私はクタクタで、直ぐに寝室に逃げ込んだ。
翌朝、起きると、とても嬉しそうなハリエットがすぐやって来た。
「お嬢様。お目醒めですか? イアン殿下から花が届いています」
イアン……?
私はハッとして、昨夜の夢のようなシンデレラパーティーを思い出した。
イアンに会えた。
私のイアンに。
あとのことはどうだってよかった。イアンはイアンだ。私のことを好きで、私も彼とずっと一緒にいたい。
彼が誰だろうと。木こりでも、猟師でも、王子様でも。
……あれ? 王子様?
「王子?」
私はベッドからガバリと起き出した。
「しまった! 職業は王子だった!」
朝の支度の準備をしていたハリエットが怪訝な顔をした。
「ただの王子様ではございません。王太子殿下ですわ」
余計まずいわ!
どこかの領主なんだと信じてた。
それなら、ロビア家の娘なら十分だと思っていた。
だけど、王太子はハードルが、ちょーっと高いかなー?
「ロビア家なら十分でしょう」
朝食の席で、恐る恐る伯母にお伺いを立てると、伯母はちょっと怒ったように言った。
「そうでしょうか」
実際に会ってみると、こんなに恋しいなんて。毎日でも会いたい。
今日も会えないかな。
昨夜は夢だったのかな。
「あんなにずっとべったりだなんて。品がないわねえ。まあ、いいけど」
夢じゃないらしい。
でも、王子はないわー。
ハードル高すぎて、めまいがするわ。
もういっそ、イアンにジョブチェンジしてもらって、どっかの騎士でも猟師でもなってもらおうかと。
私は悪辣なことを考えた。
王太子妃は、いやかも。
薬作れなさそうだし。
「ダメです。イアン王子には執政をピシリとやってもらわないと!」
そう言うと、伯母に猛烈に叱られた。
「前王は病気のせいで、あのカサンドラ夫人のいいようにされていたのです。今、国を背負えるのはイアン王子しかいません!」
「ええ~」
せっかく前王の病気を治したのに? 前王、役に立たないの?
「見習い期間がなければ、いくら優秀なイアン王子でも無理ですから! 立派な王太子妃がついていてもです」
「立派な王太子妃?」
首をひねって聞いた私に、伯母はニヤリと笑った。
なんか悪いことを考えている顔だわ。
「ホーッホッホッホ。王太子妃は決まったわ! まあ、他に決まりようがなかったんですけどねっ」
そこへセバスが顔を紅潮させてやってきた。
「奥様、アンジェリーナ様、王家からのお使いです」
「まあっ。ますますシンデレラね! ガラスの靴が要るようですよ」
伯母はカラカラと高笑いしたが、笑いはそこまでだった。
「リナ!」
部屋へあいさつもなくダッシュで飛び込んできたイアンが、抱きついた。
「ねえ、昨夜のダンスが夢じゃないかと思ってさー」
「イアン! 何するのよ!」
「ねーねー、外行こう。二人きりになれるところへ。これまでのこと、話したくて話したくて」
イアンの目が踊った。
「これで君は僕の婚約者。おいしそうだから、ぜひ食べたい」
えーっと、実家にいる娘とその親族に向かってそのセリフはないのでは?
「あらあ。品がないわね、イアン殿下」
伯母は口だけだった。なんだか、笑っていた。
私たちはあっという間に馬車に乗り、しかし、イアン殿下の希望ですぐに降りた。
「行けるんだよね? あの隠れ家」
何も変わっていない。キラキラした目、ちょっと小意地悪そうな顔つき。
「ねえ。ぜひ」
ロビア家の屋敷から程遠からぬ例のあばらやへ案内し、私たちは二人だけでその家に入った。
護衛騎士と侍女は周りを囲んでいたが、そんな狭いところでナニするんだろうと思っているに違いない。
「心配なら、入っていいから」
いとも気軽にイアン殿下は言ったが、それはそれで問題なような。
だって、あの隠れ家に行くつもりなんでしょう? 護衛騎士と侍女が捜索に入っても私たち、居ないわ。王太子殿下失踪事件の発生よ。
心配になった私は護衛騎士と侍女に言った。
「何かあれば伯母のところへ」
「え? それはやめようよ。踏み込んでくるよ」
ごちゃごちゃ言いながら、イチャイチャ家に入る。
「行けるのかな? もう一度、あの家に」
イアンはワクワクしているようだ。
「行けるわよ」
私と一緒で、不可能はない。
私たちはドアを開けて、そして中に入って閉めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,442
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる