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第18話 兄が語る真相
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珍しく、父が母の肩を抱いて部屋を出て行ったあと、私は兄に詰め寄った。
「お兄様、ダシに使われた私には、本当のことを教えてくださいな」
兄は絶対に何か知っていると思う。
兄はフフフと笑った。
「サラは、わかっているじゃないか」
私は黙った。
まだ、あのワンシーンは目に焼き付いている。
少し戸惑っているようなオフィーリアお姉様と、わずかにほおを染めて一緒に歩いていくマーク殿下。
私は、うまいこと使われたのかも知れなかったけど、怒りはなかった。
「お姉様は何もご存じなかったのね」
「そう。今回のお茶会は、妹のために一肌脱いだだけだ。姉上は、とても聡いお方だ。お前が、事情を知っていたら、きっとバレてしまって、出てはくださらなかったろう。だからまずお前と母上を騙す必要があった」
「まあ。私、お母様と連合を組もうかしら」
「父上と僕が大変になるからやめてくれ」
お兄さまは笑った。
「姉上は、孤児院で女の子たちに読み書きを教え、将来の世話をしてやっていた。どんな子どももなんとか世の中で暮らしていけるようにと。やり甲斐を感じて、頑張っていた。あのままだったら多分、慈悲深い貴族の未亡人として名を残したろうね」
「それはそれで、悪くはなかったのではないかしら」
「もちろんそうだよ。だけど、殿下はそうはいかなかったのだろう。夫が亡くなってから二年も経つ。それでも、あきらめられなかったのだろう。チャンスがあればと見張っていたのだろう。そして、そのチャンスがやってきたのだ。見逃すはずがない」
私は思わず言った。
「お姉様がなんとおっしゃるか」
「さあ。でも、きっと殿下は一緒に子どもの教育事業を続けましょうとか、口の上手いことを言うんじゃないかな。王家が噛めば、もっと本格的にできますよとかなんとか」
昨日のお茶会の帰り、殿下がお姉様を誘い出す時の文句が、あなたの孤児院での教育事業に興味が湧いた、だった。
マーク殿下は賢いと評判を取るだけある。
「姉上も賢い人だよ。きっとしばらく時間はかかると思うけど、僕の勘では、きっと二人とも幸せになるよ」
私はジロリと兄を見回した。お兄様に何がわかると言うの? 幸せになるって、お兄様が王宮の御覚えがめでたくなって、出世すると言う意味なの?
色々と乗り越えなくては行けない壁はありそうだけど。
「お前はオーウェンと結婚することになったのかい?」
お兄様が不意に聞いた。
「それなのよ!」
私はお兄さまに向き直った。
「どうして誰も私にそのことを聞いてこないの? お姉様の話ばかりだわ!」
いくら殿下の姉へのご執心があらわになったとはいえ、私の縁談はどうなったの? どうして誰も何も聞かないの?
お兄さまはプッと吹き出した。
「だって、お前が知らない間に、クリントン公爵夫妻がここへ来て」
「え? いつの話?」
「えーと、あれ、いつだったっけ? 確か、お茶会がどうこう言い出した最初の頃かな」
だいぶ前じゃないの。
「マーク殿下が乗り出してきては、勝ち目がないと思ったんだろうな。ぜひ、息子の嫁にと所望して帰った」
「なんですって?」
「でも、マーク殿下の本当の目的はオフィーリアだ。関係ないクリントン公爵夫妻にしゃべるわけにはいかないから、一応お帰りいただくしかなかった。もし、殿下のお話がなくなったら、必ずクリントン家へと約束して」
「ええ……?」
またもや、勝手に決められる婚約……
「実は昨日のうちに、使いを立てている。お気持ちが変わらなければ、お話を進めさせていただきたいと」
なんですってええ?
「お兄さま! 私の気持ちは?」
「おや。オーウェンが嫌いなのかい?」
私は、ちょっぴり赤くなったかなと思う。
憎たらしいお兄さまが、腹を抱えて笑い出したからだ。
「オーウェンの気持ちも聞いてみないといけないな。もしかすると、サラを嫌いなのかもしれないし」
「え……」
それはない……と思う。
お兄さまは続けた。
「クリントン公爵への返事には、条件がついている。お前の意志だ。お前が嫌なら嫁がなくていいことになっている」
そ、そう言われると……
「だけど、なんでも、オーウェンと一緒にカフェに行くそうじゃないか。もう、決まっているんじゃないのか?」
お兄様が憎たらしくなってきたわ!
「お兄様、ダシに使われた私には、本当のことを教えてくださいな」
兄は絶対に何か知っていると思う。
兄はフフフと笑った。
「サラは、わかっているじゃないか」
私は黙った。
まだ、あのワンシーンは目に焼き付いている。
少し戸惑っているようなオフィーリアお姉様と、わずかにほおを染めて一緒に歩いていくマーク殿下。
私は、うまいこと使われたのかも知れなかったけど、怒りはなかった。
「お姉様は何もご存じなかったのね」
「そう。今回のお茶会は、妹のために一肌脱いだだけだ。姉上は、とても聡いお方だ。お前が、事情を知っていたら、きっとバレてしまって、出てはくださらなかったろう。だからまずお前と母上を騙す必要があった」
「まあ。私、お母様と連合を組もうかしら」
「父上と僕が大変になるからやめてくれ」
お兄さまは笑った。
「姉上は、孤児院で女の子たちに読み書きを教え、将来の世話をしてやっていた。どんな子どももなんとか世の中で暮らしていけるようにと。やり甲斐を感じて、頑張っていた。あのままだったら多分、慈悲深い貴族の未亡人として名を残したろうね」
「それはそれで、悪くはなかったのではないかしら」
「もちろんそうだよ。だけど、殿下はそうはいかなかったのだろう。夫が亡くなってから二年も経つ。それでも、あきらめられなかったのだろう。チャンスがあればと見張っていたのだろう。そして、そのチャンスがやってきたのだ。見逃すはずがない」
私は思わず言った。
「お姉様がなんとおっしゃるか」
「さあ。でも、きっと殿下は一緒に子どもの教育事業を続けましょうとか、口の上手いことを言うんじゃないかな。王家が噛めば、もっと本格的にできますよとかなんとか」
昨日のお茶会の帰り、殿下がお姉様を誘い出す時の文句が、あなたの孤児院での教育事業に興味が湧いた、だった。
マーク殿下は賢いと評判を取るだけある。
「姉上も賢い人だよ。きっとしばらく時間はかかると思うけど、僕の勘では、きっと二人とも幸せになるよ」
私はジロリと兄を見回した。お兄様に何がわかると言うの? 幸せになるって、お兄様が王宮の御覚えがめでたくなって、出世すると言う意味なの?
色々と乗り越えなくては行けない壁はありそうだけど。
「お前はオーウェンと結婚することになったのかい?」
お兄様が不意に聞いた。
「それなのよ!」
私はお兄さまに向き直った。
「どうして誰も私にそのことを聞いてこないの? お姉様の話ばかりだわ!」
いくら殿下の姉へのご執心があらわになったとはいえ、私の縁談はどうなったの? どうして誰も何も聞かないの?
お兄さまはプッと吹き出した。
「だって、お前が知らない間に、クリントン公爵夫妻がここへ来て」
「え? いつの話?」
「えーと、あれ、いつだったっけ? 確か、お茶会がどうこう言い出した最初の頃かな」
だいぶ前じゃないの。
「マーク殿下が乗り出してきては、勝ち目がないと思ったんだろうな。ぜひ、息子の嫁にと所望して帰った」
「なんですって?」
「でも、マーク殿下の本当の目的はオフィーリアだ。関係ないクリントン公爵夫妻にしゃべるわけにはいかないから、一応お帰りいただくしかなかった。もし、殿下のお話がなくなったら、必ずクリントン家へと約束して」
「ええ……?」
またもや、勝手に決められる婚約……
「実は昨日のうちに、使いを立てている。お気持ちが変わらなければ、お話を進めさせていただきたいと」
なんですってええ?
「お兄さま! 私の気持ちは?」
「おや。オーウェンが嫌いなのかい?」
私は、ちょっぴり赤くなったかなと思う。
憎たらしいお兄さまが、腹を抱えて笑い出したからだ。
「オーウェンの気持ちも聞いてみないといけないな。もしかすると、サラを嫌いなのかもしれないし」
「え……」
それはない……と思う。
お兄さまは続けた。
「クリントン公爵への返事には、条件がついている。お前の意志だ。お前が嫌なら嫁がなくていいことになっている」
そ、そう言われると……
「だけど、なんでも、オーウェンと一緒にカフェに行くそうじゃないか。もう、決まっているんじゃないのか?」
お兄様が憎たらしくなってきたわ!
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(他「エブリスタ」様に投稿)
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