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第三話 夕間暮れ

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思い込みだと思っていた。

物心がついた時から同じ状況の夢を見るようになった。
道路で男女が激しく口論をしていて、取っ組み合いになった末になぜだか男の方が俺に助けを求めてくるのだ。

警戒心が強い俺は、面倒に関わりたくなくて戸惑っているうちに夢から覚めてしまう。
小さい頃はその夢がいかに自分を疲弊させるのかを親に説明したりしたが、わかってはもらえなかった。

SNSで目にした『輪廻』と『T字路』という言葉に導かれるように、俺はその人に会ってみたくなった。
記憶の中のその男の人はごつい腕時計をしていて、時間を気にしていたように思う。

そしてT字路で女の人に捕まりそうになった彼は、絶望的な顔を俺に向けて自ら命を絶った。




「ヨークシャーテリア・・・」
そう呟いた私に、沙耶さやは何が?と首を傾げた。

「確信はないんだけど・・、私が夢の中で捕まえようとしていた男の人に、ひたすら吠えてた犬がいた気がする」
「ふんふん、毛が長い犬だっけ?」
私は、そう!と言うと時間は日が沈む頃で、学生服の女の子がその犬を散歩させていたと思うと付け加えた。

「じゃあその女の子も生まれ変わってれば日和ひよりと同じ記憶があるかもね」
「そうだね~。でも私が夢でみたことを勝手に過去の記憶だと思い込んでるだけで、実は間違ってたりするのかもね」

沙耶はそうかもねと言うと、もしかして日和がその男の人を追いかけていたのはその人を助けずにはいられなかったからかも!と私にとって都合のいい想像をしてくれた。
本当にそうだったらいいなと思っていると、沙耶は自分もそのメンツの一人だったら面白かったのにと残念がった。

沙耶とは長い付き合いでもないので、子どものようにはしゃぐ彼女の発言を疑ってかかるということはなかった。






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