重ねる

たこみ

文字の大きさ
6 / 6

第六話 それなりの理由があって

しおりを挟む
自由に生きるために日和ひよりから逃げていたのだろうか。
その優人ゆうとという人は。

肝心の日に結局お目当ての彼が現れなかったと言って日和は不貞腐れている。
「日和って過去に起きたことの全てを覚えてるわけではないんでしょ?そのソウさんて人はどうだったの?」

日和はうーんと思い出すように頭を傾げると、まあ感じのいい人ではあったけどねと言葉を止める。

「何か新しい記憶とかの話になった?」
ストローの袋を交互に折りながら、それが彼は優人さんとも自分とも直接の知り合いではなかったようで、近所で時々見かけるだけの関係だったらしく、自分が知らないような記憶は残っていないのだと残念そうな顔をした。

「ふーん。で、イケメンだった?」
「そうだなぁ。イケメンの部類に入るんじゃない?」
自信がありそうな感じで・・と説明しながら、日和は何か彼って印象に残る雰囲気があるというか、どこかで見たことがあるというか・・とこぼした。

「あんたの好きなK-POPの推しの誰かに似てたんじゃない?」
「まあ、そうかもね」

ソウさんのことを日和は今のところ深くは考えていないようだが、彼のことを思い出すのも時間の問題かもしれないと私はひやりとした。





いくらなんでも見知らぬ相手を助けようなどと思うだろうか。
優人さんのことを考えながら俺は自分のことを不思議に思った。
 
彼に直接連絡をして、今度二人だけで会う約束をしたときに、もしかして先日待ち合わせの場所まで来たりしましたかと探りをいれたところ、最初はLIMEで本当に電車で体調を崩してと言っていたが、言いにくいことがあるようだったら相談に乗ると優しい言葉をかけてみると、実は・・と認めたのでやっぱりねと思った。

「まだ準備ができていないと感じてしまったんです・・」
歳だけ大人なってしまったような、目の前に座るこの青年はおどおどしながらそう言った。

会社の帰り、優人さんが俺のオフィスの近くに来てくれることになり、駅ビルの中のカフェで話すことになった。

彼は共通の記憶を持つ者同士で色々なことを思い出す過程を楽しもうと心に決めていたのだが、申し訳ないけれど日和さんをみた瞬間、不安になってしまったそうだ。

「彼女は・・、昔のまんまだったんです」
「昔のまま・・」
容姿が前世と全く変わらないということだろうか?

「あの・・ソウさんは彼女と話した感じどうでしたか?」
あの日話した様子では、優人さんへの思いがとても強いのだなと思った。
例え彼に拒絶されたとしても、追い求めることをやめなそうな執着を日和さんに感じた。

「なんていうか、すごくはきはきとした明るい方で、できるだけ早く優人さんに会いたそうだったので、とても残念がってましたよ」
 
「そうですか・・」
消えそうな声でそう言った優人さんはもじもじして僕もぜひお会いしたいですと付け加えた。

俺は人のウソを見破るのが割と得意なので、心の準備ができていないようだったらムリすることはないと思いますと彼に言った。

「その・・、今日のことは日和さんに言わないでもらってもいいでしょうか」
俺の目を下から覗き込む優人さんにはそうする必要がありそうだなと感じた。

「はい、もちろん大丈夫ですよ」
寛容そうな笑みを浮かべながら、俺は心の中でよくわかんねえと思っていた。
この人は、どうしてここまで怖気づいてしまったのだろうか。

彼女に追い詰められて息絶えたあの瞬間のことを思い出したのだろうか。
少なくとも会う約束をした前はそのことを忘れていたはずだ。
日和さんの方も優人さんに会うのを待ちきれない様子から、きっと目の前で彼が亡くなったことは覚えていないだろう。

彼らがそれを思い出した時、どうやってその運命に耐えるのだろうか。
俺は後に、優人さんが生まれ変わった理由、死んでも死にきれなかった所以ゆえんを知ることになる。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...