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第五話 それが私です
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とうとうこの日が来た。
この世の中に、自分と同じ記憶を持つ人たち、もしくは同じ夢をみたことがある人たちがいる。
僕は彼らに強い結びつきを感じて、直ぐに会う約束をしてしまったのだが、今日が近付くにつれ、高揚感よりも不安の方が大きくなってきてしまった。
本当に僕の話を理解してもらえるのだろうか・・。
もしかして、奇妙なことを言っている僕をからかってやろうと思っているのではないか。
待ち合わせのカフェに、少し遅れて到着したのだが、入るのをためらってしまう。
薄暗い店内を覗いてみるが人気がないので自分が1番に来てしまったのだろうかとそわそわした。
軽い気持ちで楽しもうと決めたではないかと思いなおし、僕は恐る恐るカフェのドアを開けた。
カランコロンという音とともに、古い家具のような匂いが鼻をさしてきた。
薄暗い店内をおずおずと歩くと、コーヒーの豆をひいた香りがしてくる。
奥の窓際の席に、男女が座っており、手前は男性の後頭部、正面に座っている若い女性を見た瞬間、僕は激しく混乱した。
よどみのない目をして生き生きと話しているその女性は、僕の夢の中に出てくる女性そのものだった。
「ゆっくり休んでね」
その瞬間、ガツンと僕の頭の中に彼女の吐いたセリフが蘇ってきた。
薄れていく意識の中、かつての彼女は僕にそう言ったのだ。
歩みを止めてしまった僕は、くるりと踵をかえした。
そして彼らに気付かれないようにゆっくりと店の入り口に向かい、そうっと店を後にした。
「おっ」
LIMEに連絡がきたので確認すると、優人さんからだった。
来る途中の電車で気分が悪くなったので今日は残念だが遠慮させてもらうという内容だった。
日和さんを見ると彼女も携帯を見つめて明らかにがっかりとした顔をしている。
「残念ですね・・」
彼女は我に返ったような表情をすると、えっ?ああ、そうですねと言った。
深いため息をつく日和さんに、かねてから疑問に思っていたことを訊いた。
「優人さんとは以前恋人同士だったんですか?」
うーんと考え込んだ彼女は、彼のことを大切に思っていたことは確かだと思うが関係性までは覚えていないと言った。
「そうですか・・」
そう言った後に、この人は過去の優人さんが最後に自分で区切りをつけたことも覚えていないのではと思った。
「彼の存在はすごく覚えているんですけど、一緒にいて幸せだったような記憶は正直ないんです・・」
「なるほど・・」
自分の目の前で彼が亡くなり、その後はどんな気持ちでこの人は生き続けたのだろうか。
「今の日和さんは幸せですか?」
「えっ?」
ぽかんとしている彼女に、いえ、ちょっと気になっただけですと俺は頭をかいて笑ってみせた。
「はい。家族や友達にも恵まれてますし、中にはこの話を熱心に聞いてくれるこもいるんですよ」
えへへと笑う彼女を見ながら、こんな胡散臭い話を受け止めてくれる友達がいるのかと驚いてしまった。
仮に俺の友達が前世の話などしてきたら、夢から覚めろと言ってやりたくなるだろう。
「そうなんですか」
今度はそのお友達も含めて日を改めて会えるといいですねと社交辞令的なことを口走りながら、その前に優人さんと二人で会った方がよさそうだなと俺は心の中で思っていた。
この世の中に、自分と同じ記憶を持つ人たち、もしくは同じ夢をみたことがある人たちがいる。
僕は彼らに強い結びつきを感じて、直ぐに会う約束をしてしまったのだが、今日が近付くにつれ、高揚感よりも不安の方が大きくなってきてしまった。
本当に僕の話を理解してもらえるのだろうか・・。
もしかして、奇妙なことを言っている僕をからかってやろうと思っているのではないか。
待ち合わせのカフェに、少し遅れて到着したのだが、入るのをためらってしまう。
薄暗い店内を覗いてみるが人気がないので自分が1番に来てしまったのだろうかとそわそわした。
軽い気持ちで楽しもうと決めたではないかと思いなおし、僕は恐る恐るカフェのドアを開けた。
カランコロンという音とともに、古い家具のような匂いが鼻をさしてきた。
薄暗い店内をおずおずと歩くと、コーヒーの豆をひいた香りがしてくる。
奥の窓際の席に、男女が座っており、手前は男性の後頭部、正面に座っている若い女性を見た瞬間、僕は激しく混乱した。
よどみのない目をして生き生きと話しているその女性は、僕の夢の中に出てくる女性そのものだった。
「ゆっくり休んでね」
その瞬間、ガツンと僕の頭の中に彼女の吐いたセリフが蘇ってきた。
薄れていく意識の中、かつての彼女は僕にそう言ったのだ。
歩みを止めてしまった僕は、くるりと踵をかえした。
そして彼らに気付かれないようにゆっくりと店の入り口に向かい、そうっと店を後にした。
「おっ」
LIMEに連絡がきたので確認すると、優人さんからだった。
来る途中の電車で気分が悪くなったので今日は残念だが遠慮させてもらうという内容だった。
日和さんを見ると彼女も携帯を見つめて明らかにがっかりとした顔をしている。
「残念ですね・・」
彼女は我に返ったような表情をすると、えっ?ああ、そうですねと言った。
深いため息をつく日和さんに、かねてから疑問に思っていたことを訊いた。
「優人さんとは以前恋人同士だったんですか?」
うーんと考え込んだ彼女は、彼のことを大切に思っていたことは確かだと思うが関係性までは覚えていないと言った。
「そうですか・・」
そう言った後に、この人は過去の優人さんが最後に自分で区切りをつけたことも覚えていないのではと思った。
「彼の存在はすごく覚えているんですけど、一緒にいて幸せだったような記憶は正直ないんです・・」
「なるほど・・」
自分の目の前で彼が亡くなり、その後はどんな気持ちでこの人は生き続けたのだろうか。
「今の日和さんは幸せですか?」
「えっ?」
ぽかんとしている彼女に、いえ、ちょっと気になっただけですと俺は頭をかいて笑ってみせた。
「はい。家族や友達にも恵まれてますし、中にはこの話を熱心に聞いてくれるこもいるんですよ」
えへへと笑う彼女を見ながら、こんな胡散臭い話を受け止めてくれる友達がいるのかと驚いてしまった。
仮に俺の友達が前世の話などしてきたら、夢から覚めろと言ってやりたくなるだろう。
「そうなんですか」
今度はそのお友達も含めて日を改めて会えるといいですねと社交辞令的なことを口走りながら、その前に優人さんと二人で会った方がよさそうだなと俺は心の中で思っていた。
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