10 / 13
【10】
しおりを挟む
「かなり酔ってますね。あ、これどうぞ。レモンキャンディです。少しはすっきりすると思いますよ」
「ありがとう」
純玲は梅木戸がくれた飴を躊躇なく口に放り込んだ。レモンの爽やかな酸味が広がる。
「気分悪いなら、どっかで休憩していきますか?」
「いや、そんなに気分は悪くないけど……」
答えながら、体に違和感を覚え出していた。飴が口の中で転がるたび、頭の芯が痺れてくるようで火照ってくる。とても酒のせいと思えない妙な感じだ。しばらく耐えて歩いていたが、ついにはがくりと膝を折った。
「こんなところに座り込んじゃって、大丈夫ですか?」
梅木戸が困ったように純玲を見下ろしていた。
「そんな、なぜお前が……」
体がどんどん火照ってくる。ものが二重に見え始めた。間違いない、すべて前に経験したことのある症状だった。
「飴嘗めたぐらいで、こんなに色っぽくなるなんて、意外だったな――」
梅木戸が屈んで、息の荒くなり始めた純玲の顎を取る。
「おい、梅、木戸、な、何…考えてるんだ……」
声を上げるが、とても静止できるほどの強さはなかった。
「俺、前に言いましたよね。藤代さんに試させて欲しいって」
「あ、あれは――、冗談じゃ――」
まさか本気で自分とあれしたいと思っていたのか。
「もう少し我慢してください。ホテルすぐですから。でもその前にキスだけしておこうかな。藤代さんもしたいんですよね」
「バカなっ。止せ、梅木戸っ」
いざ目の前に梅木戸の顔が迫ってくると、キスという行為がそう簡単にできるものではないのだと改めて知った。それに、もしこのまま梅木戸とキスしたらどうなるか考えるのは容易だ。あのレモンキャンディがあれだとするならば。
嫌だ、こんなの絶対。心を無視して恋させられるなんて。
何てバカだったのだ。同じことを千種にしようとしていた自分が恥ずかしい。
「そこまでにしてもらおうかな」
「誰だ!?」
梅木戸の誰何に、暗闇から男が姿を現した。
「お前、さっきの店にいた――」
「リ、リリ……」
純玲は、ほっと安堵の吐息を漏らした。強張らせていた体から力が抜けていく。
「情けねえのな、スミレ。いつもの威勢はどうしたんだよ」
「バ、カ、ヤロ。そんなもんあるか、よ」
「どういうことだ、藤代さんの知り合い?」
梅木戸が純玲とリリを交互に見る。
「ま、そういうこった。おい、姿見せろよ。いるんだろ、そこに」
まだ誰かここにいるのか。リリの低く凄んだ声に純玲は身を竦ませる。
「ふん、相変わらず無粋だな、お前は」
「えっ!?」
声のしたほうに首を回せば、そこに立っていたのは不破だった。
「よくもさんざん邪魔してくれたよな」
なおも凄みをましてリリは不破に向かって言い放つ。
「リリ、どういうことだよ。どうして不破さんが――」
「こいつはな――」
リリの姿がその場から一瞬にして消え、不破の前に現れる。そして「ぱしっ」と何かが叩き落とされる音と「ぽんっ」と弾ける音がほぼ同時に上がった。
「え、うそ――」
純玲は目を擦る。酔っ払っているどころではなかった。不破の姿はなく、背中のランドセル型の箱から翅を出した、小さなものが浮いていた。
「ヨーヨーティスモ・スパリティアット・ファイファテール――オレの兄貴だ」
「ヨーヨーティスモ、って……長っ。え、不破がリリのお兄さん!?」
声を上げる純玲の横で、梅木戸も驚愕に目を見開いていた。
「そういうお前こそ、邪魔してくれているではないか。店の周囲に妖精結界張って私が入れなくしたばかりか、今だってせっかく恋乳の効果が出始めたところなのに」
元不破――ティスモの声は意外にも落ち着き払っていた。対してリリは目を眇め、睨めつけている。
「てめーのやり方はいつも気に食わないんだ。回りくどくて無関係に人を巻き込んで」
「周到で緻密な計画と言え。お前こそ、その行き当たりばったりなのはどうにかならないのか。第一、お前の契約者の願いは『恋人が欲しい』だろうに。だったらこの梅でもよかったのではなかったのか? 相手を指定されていたわけでもあるまいに」
「うるせえよ。誰でもいいってわけじゃないだろ。現にスミレはコイツを嫌がってんだ。そんな相手で契約完遂できるわけねえだろうが」
リリの言葉に梅木戸が気まずそうに純玲を見る。見られた純玲も気まずさは同じだ。
「お前、そう言って契約者のせいにしているが、本当はお前が嫌なんだろう? ずいぶん入れ込んでいるようだからな」
「黙れっ!! オレはお前のやり方が気に入らないだけだ。それ以上何か言ったら、その翅、毟るぞ。さっさとこの男を連れて帰れっ」
リリが苛立ったように声を荒げて言い放つ。
「そうやって分が悪くなると、吠え立てて。まったく動物並だな」
ティスモはやれやれといった風情で、リリに落とされた眼鏡のところにすいっと下降した。
「今日のところはこれで終わりにしてやる。言っておくが私の恋乳は少々のオプションつきのバージョン1.73。お前のより効力は上だからな」
再び、「ぽんっ」と弾ける音がして人が現れる。不破だった。
「引き上げるぞ、梅」
不破の姿になったティスモは梅木戸の腕を取ると立たせた。そしてまだへたり込んでいる純玲を静かに見下ろす。
「お前は本当にいい香りがするな」
「いい香りって、言われても……」
前にも言われたことだ。戸惑いを隠せずにいる純玲に不破が冷めた目を向けた。
「体質なのだろうがその香りは、妖精には禁物だ。この私でさえ惑わされてしまう」
「大丈夫か、スミレ」
「大丈夫…な……もの、か。体が…熱い……」
あれからリリに担がれて帰ってきた。部屋に入ると、着ているものもそのままにベッドに転がされた。
「ほら水だ。飲め」
リリがグラスに水を汲み純玲のもとに来る。
「ん……飲ませて……お願い……」
なぜこうも媚びた行動に出てしまうのか、すべて梅木戸からもらったレモンキャンディ、ティスモの恋乳バージョン1.73のせいだ。
「おい、頼むからしっかりしろ。自分が何言ってるか分かってんだろ?」
「分かって…る。でも止められ…な、いんだ」
頭の芯はぼんやりして、本当に体が熱くて堪らない。どうしようもなく何かに飢えて渇いている。前のリリの恋乳とは大違いだった。
「そのままじっと耐えろよ。オレに言われたって困るんだよ」
横を向き、手にしていた水を自分で飲み干した。
純玲は、リリも何か耐えているのを感じる。
「ごめん、リリ。でも気が変になりそうなんだ。恋乳の、せいなんだろ? 効力が…早く切れる、方法…ないのか?」
自分でも自覚している潤んだ眼差しで、リリに術を乞う。
「ああ、もう! ったく!! お前、恋乳効きすぎ!! ティスモのヤツ、たかだか1.73でこんな状態になるなんて、あいつどんなオプションつけてやがったんだ」
頭をがしがしと掻き、リリが首を振った。
「方法はある。手っ取り早く無効化するなら妖精とそれなりの交わりをすればいいんだ」
「交わり? 方法があるんだったらさっさとしてくれよ。お前妖精だろ」
言っている間に体はどんどん熱くなっていた。純玲は締めていたネクタイを抜き去り、シャツのボタンを外す。
「だからだよ! オレは妖精だ。今のお前の状態はな、どうしてだか恋乳の『シリーズ3』と同等の効果が出てんだ。ていうことは、それを無効化するにはAAAレベルの魔法力、つまり報酬が必要ってことだ。いきなりAAすっ飛ばしてAAAなんだぞ」
そういうシステムになっているんだからな、と荒げた声で言い放ったリリは、どうしてなのか辛そうに見える。
「AAA――?」
Aの報酬はキスだった。ならAAAは何を報酬とするのだろう。
「AAAにしたら、楽になれるのか? じゃあ、してよ。本当にもう苦しいんだ。熱くてこれ以上このままだったら気が狂いそうなくらい」
つうっと頬に涙が伝う。この体の熱を冷ましてくれるなら構わない。それほど苦しくて堪らないのだ。
「本気で言ってるのか? 特約AAAの報酬は契約者の体だ。お前、オレとセックスできるのか?」
「セ…ックス?」
えっ、と頭の中が真っ白になった。リリと、妖精と、セックス――?
息を飲み驚く純玲に、リリはふっと笑みを浮かべた。
「分かった、AAで済むように何とかしてやる。ちょっと魔法力は使うが、オレは体力には自信あるからな」
お前の初めては取っておいてやるよ。未来の恋人のために――。
そう言って抱き締めてくれたリリの腕は優しくて、降りてきたキスは涙が出るほど切なかった。
リリになら、こんなにも安心して身を委ねることができる。キスだってもう何度もしている。練習だといって毎晩していたのだから。
けれどそのキスが子供騙しに過ぎなかったのを純玲は今感じていた。千切れるかと舌を思うほどきつく吸い上げられ、容赦なく搦め取られる。
「スミレ、オレの唾液、飲んで。そう……」
言われるまま、ごくごくと純玲は喉を鳴らす。リリの唾液は甘く、まるで蜜のようだった。
「あは、あふぅ、んっ、リ、リリ……んっ、あ…もっと…欲し、い」
純玲がねだれば、リリはまた口づける。口内を縦横に動き回る舌に自ら搦ませて、離すときに舌先から糸を引く唾液をまた舐る。
「ウマいか?」
「う…ん……。でも、まだ……欲しい。それに……」
どんなに飲んでもまだ足りず渇きは治まらない。それに中心に集中してくる熱を逃したくて、腰がリリの体に擦りつけるように動いてしまう。
「ったく、お前は――じゃあ、そろそろこっちも構ってやるな」
唇を合わせたまま、リリの手が純玲の体を滑らかに撫でて中心へと向かう。ウエストは緩められ、シャツの裾は既に引っ張り出されていた。
「あっ」
硬く張りつめていた純玲自身にリリの指がかかった。
「触られるの、初めてか?」
こくり、と頷く。だいたいキスもリリと出会うまでしたことがなかったのだ。こうやって誰かと体を重ねることもしたことがない。
「すぐにいかしてやる。オレに任せておけばいい」
低く囁くリリの声が純玲の鼓膜を震わせる。そして余韻に浸るまもなく、自身の敏感な熱を握り込まれて先端を擦られた。上下に扱かれる。
「あ、あん、ん、やぁ、あ、リ、リリ、あ、あぅ、んっ」
初めて自分以外の手で施される刺激は、純玲の全身を電撃のように走る。喉から出る嬌声は引っ切り無しに上がり、どうしたら止められるのか分からない。
「そんなにいい顔をするな。くそ、堪んねえよ。何でこういい匂いさせるんだ、お前は」
純玲には自分の身で精いっぱいで、辛そうに自分を見つめるリリに気づいても、その理由を考える余裕はなかった。
「――スミレ、落ち着いたか?」
「リ…リ……?」
名を呼ぶ声に目を開ければ、枕元で覗き込んでいたのは妖精の姿のリリだった。
「お前、小さくなって……」
「ちょっと力使い過ぎて電池切れだ、気にするな」
耳元でそっと言うリリの声は、少し甲高くても優しく届く。
指を伸ばし、くしゃっとリリの髪に搦めて、するりと頬に滑らせた。リリはされるがままに、くすぐったそうな顔をした。
「リリって、髪柔らかいんだ。それにホントにほっぺもぷにぷに……」
一度触ってみたかったんだ、と告げて目を閉じる。さっきまでの熱さが嘘のように引いて、安らかだった。
「スミレ……、今日のことはもう忘れろ。契約は特約AAつきになってしまったが、オレは必ずお前の願いを叶えるから」
リリの声が、落ちていく眠りの中で聞こえた。
「ありがとう」
純玲は梅木戸がくれた飴を躊躇なく口に放り込んだ。レモンの爽やかな酸味が広がる。
「気分悪いなら、どっかで休憩していきますか?」
「いや、そんなに気分は悪くないけど……」
答えながら、体に違和感を覚え出していた。飴が口の中で転がるたび、頭の芯が痺れてくるようで火照ってくる。とても酒のせいと思えない妙な感じだ。しばらく耐えて歩いていたが、ついにはがくりと膝を折った。
「こんなところに座り込んじゃって、大丈夫ですか?」
梅木戸が困ったように純玲を見下ろしていた。
「そんな、なぜお前が……」
体がどんどん火照ってくる。ものが二重に見え始めた。間違いない、すべて前に経験したことのある症状だった。
「飴嘗めたぐらいで、こんなに色っぽくなるなんて、意外だったな――」
梅木戸が屈んで、息の荒くなり始めた純玲の顎を取る。
「おい、梅、木戸、な、何…考えてるんだ……」
声を上げるが、とても静止できるほどの強さはなかった。
「俺、前に言いましたよね。藤代さんに試させて欲しいって」
「あ、あれは――、冗談じゃ――」
まさか本気で自分とあれしたいと思っていたのか。
「もう少し我慢してください。ホテルすぐですから。でもその前にキスだけしておこうかな。藤代さんもしたいんですよね」
「バカなっ。止せ、梅木戸っ」
いざ目の前に梅木戸の顔が迫ってくると、キスという行為がそう簡単にできるものではないのだと改めて知った。それに、もしこのまま梅木戸とキスしたらどうなるか考えるのは容易だ。あのレモンキャンディがあれだとするならば。
嫌だ、こんなの絶対。心を無視して恋させられるなんて。
何てバカだったのだ。同じことを千種にしようとしていた自分が恥ずかしい。
「そこまでにしてもらおうかな」
「誰だ!?」
梅木戸の誰何に、暗闇から男が姿を現した。
「お前、さっきの店にいた――」
「リ、リリ……」
純玲は、ほっと安堵の吐息を漏らした。強張らせていた体から力が抜けていく。
「情けねえのな、スミレ。いつもの威勢はどうしたんだよ」
「バ、カ、ヤロ。そんなもんあるか、よ」
「どういうことだ、藤代さんの知り合い?」
梅木戸が純玲とリリを交互に見る。
「ま、そういうこった。おい、姿見せろよ。いるんだろ、そこに」
まだ誰かここにいるのか。リリの低く凄んだ声に純玲は身を竦ませる。
「ふん、相変わらず無粋だな、お前は」
「えっ!?」
声のしたほうに首を回せば、そこに立っていたのは不破だった。
「よくもさんざん邪魔してくれたよな」
なおも凄みをましてリリは不破に向かって言い放つ。
「リリ、どういうことだよ。どうして不破さんが――」
「こいつはな――」
リリの姿がその場から一瞬にして消え、不破の前に現れる。そして「ぱしっ」と何かが叩き落とされる音と「ぽんっ」と弾ける音がほぼ同時に上がった。
「え、うそ――」
純玲は目を擦る。酔っ払っているどころではなかった。不破の姿はなく、背中のランドセル型の箱から翅を出した、小さなものが浮いていた。
「ヨーヨーティスモ・スパリティアット・ファイファテール――オレの兄貴だ」
「ヨーヨーティスモ、って……長っ。え、不破がリリのお兄さん!?」
声を上げる純玲の横で、梅木戸も驚愕に目を見開いていた。
「そういうお前こそ、邪魔してくれているではないか。店の周囲に妖精結界張って私が入れなくしたばかりか、今だってせっかく恋乳の効果が出始めたところなのに」
元不破――ティスモの声は意外にも落ち着き払っていた。対してリリは目を眇め、睨めつけている。
「てめーのやり方はいつも気に食わないんだ。回りくどくて無関係に人を巻き込んで」
「周到で緻密な計画と言え。お前こそ、その行き当たりばったりなのはどうにかならないのか。第一、お前の契約者の願いは『恋人が欲しい』だろうに。だったらこの梅でもよかったのではなかったのか? 相手を指定されていたわけでもあるまいに」
「うるせえよ。誰でもいいってわけじゃないだろ。現にスミレはコイツを嫌がってんだ。そんな相手で契約完遂できるわけねえだろうが」
リリの言葉に梅木戸が気まずそうに純玲を見る。見られた純玲も気まずさは同じだ。
「お前、そう言って契約者のせいにしているが、本当はお前が嫌なんだろう? ずいぶん入れ込んでいるようだからな」
「黙れっ!! オレはお前のやり方が気に入らないだけだ。それ以上何か言ったら、その翅、毟るぞ。さっさとこの男を連れて帰れっ」
リリが苛立ったように声を荒げて言い放つ。
「そうやって分が悪くなると、吠え立てて。まったく動物並だな」
ティスモはやれやれといった風情で、リリに落とされた眼鏡のところにすいっと下降した。
「今日のところはこれで終わりにしてやる。言っておくが私の恋乳は少々のオプションつきのバージョン1.73。お前のより効力は上だからな」
再び、「ぽんっ」と弾ける音がして人が現れる。不破だった。
「引き上げるぞ、梅」
不破の姿になったティスモは梅木戸の腕を取ると立たせた。そしてまだへたり込んでいる純玲を静かに見下ろす。
「お前は本当にいい香りがするな」
「いい香りって、言われても……」
前にも言われたことだ。戸惑いを隠せずにいる純玲に不破が冷めた目を向けた。
「体質なのだろうがその香りは、妖精には禁物だ。この私でさえ惑わされてしまう」
「大丈夫か、スミレ」
「大丈夫…な……もの、か。体が…熱い……」
あれからリリに担がれて帰ってきた。部屋に入ると、着ているものもそのままにベッドに転がされた。
「ほら水だ。飲め」
リリがグラスに水を汲み純玲のもとに来る。
「ん……飲ませて……お願い……」
なぜこうも媚びた行動に出てしまうのか、すべて梅木戸からもらったレモンキャンディ、ティスモの恋乳バージョン1.73のせいだ。
「おい、頼むからしっかりしろ。自分が何言ってるか分かってんだろ?」
「分かって…る。でも止められ…な、いんだ」
頭の芯はぼんやりして、本当に体が熱くて堪らない。どうしようもなく何かに飢えて渇いている。前のリリの恋乳とは大違いだった。
「そのままじっと耐えろよ。オレに言われたって困るんだよ」
横を向き、手にしていた水を自分で飲み干した。
純玲は、リリも何か耐えているのを感じる。
「ごめん、リリ。でも気が変になりそうなんだ。恋乳の、せいなんだろ? 効力が…早く切れる、方法…ないのか?」
自分でも自覚している潤んだ眼差しで、リリに術を乞う。
「ああ、もう! ったく!! お前、恋乳効きすぎ!! ティスモのヤツ、たかだか1.73でこんな状態になるなんて、あいつどんなオプションつけてやがったんだ」
頭をがしがしと掻き、リリが首を振った。
「方法はある。手っ取り早く無効化するなら妖精とそれなりの交わりをすればいいんだ」
「交わり? 方法があるんだったらさっさとしてくれよ。お前妖精だろ」
言っている間に体はどんどん熱くなっていた。純玲は締めていたネクタイを抜き去り、シャツのボタンを外す。
「だからだよ! オレは妖精だ。今のお前の状態はな、どうしてだか恋乳の『シリーズ3』と同等の効果が出てんだ。ていうことは、それを無効化するにはAAAレベルの魔法力、つまり報酬が必要ってことだ。いきなりAAすっ飛ばしてAAAなんだぞ」
そういうシステムになっているんだからな、と荒げた声で言い放ったリリは、どうしてなのか辛そうに見える。
「AAA――?」
Aの報酬はキスだった。ならAAAは何を報酬とするのだろう。
「AAAにしたら、楽になれるのか? じゃあ、してよ。本当にもう苦しいんだ。熱くてこれ以上このままだったら気が狂いそうなくらい」
つうっと頬に涙が伝う。この体の熱を冷ましてくれるなら構わない。それほど苦しくて堪らないのだ。
「本気で言ってるのか? 特約AAAの報酬は契約者の体だ。お前、オレとセックスできるのか?」
「セ…ックス?」
えっ、と頭の中が真っ白になった。リリと、妖精と、セックス――?
息を飲み驚く純玲に、リリはふっと笑みを浮かべた。
「分かった、AAで済むように何とかしてやる。ちょっと魔法力は使うが、オレは体力には自信あるからな」
お前の初めては取っておいてやるよ。未来の恋人のために――。
そう言って抱き締めてくれたリリの腕は優しくて、降りてきたキスは涙が出るほど切なかった。
リリになら、こんなにも安心して身を委ねることができる。キスだってもう何度もしている。練習だといって毎晩していたのだから。
けれどそのキスが子供騙しに過ぎなかったのを純玲は今感じていた。千切れるかと舌を思うほどきつく吸い上げられ、容赦なく搦め取られる。
「スミレ、オレの唾液、飲んで。そう……」
言われるまま、ごくごくと純玲は喉を鳴らす。リリの唾液は甘く、まるで蜜のようだった。
「あは、あふぅ、んっ、リ、リリ……んっ、あ…もっと…欲し、い」
純玲がねだれば、リリはまた口づける。口内を縦横に動き回る舌に自ら搦ませて、離すときに舌先から糸を引く唾液をまた舐る。
「ウマいか?」
「う…ん……。でも、まだ……欲しい。それに……」
どんなに飲んでもまだ足りず渇きは治まらない。それに中心に集中してくる熱を逃したくて、腰がリリの体に擦りつけるように動いてしまう。
「ったく、お前は――じゃあ、そろそろこっちも構ってやるな」
唇を合わせたまま、リリの手が純玲の体を滑らかに撫でて中心へと向かう。ウエストは緩められ、シャツの裾は既に引っ張り出されていた。
「あっ」
硬く張りつめていた純玲自身にリリの指がかかった。
「触られるの、初めてか?」
こくり、と頷く。だいたいキスもリリと出会うまでしたことがなかったのだ。こうやって誰かと体を重ねることもしたことがない。
「すぐにいかしてやる。オレに任せておけばいい」
低く囁くリリの声が純玲の鼓膜を震わせる。そして余韻に浸るまもなく、自身の敏感な熱を握り込まれて先端を擦られた。上下に扱かれる。
「あ、あん、ん、やぁ、あ、リ、リリ、あ、あぅ、んっ」
初めて自分以外の手で施される刺激は、純玲の全身を電撃のように走る。喉から出る嬌声は引っ切り無しに上がり、どうしたら止められるのか分からない。
「そんなにいい顔をするな。くそ、堪んねえよ。何でこういい匂いさせるんだ、お前は」
純玲には自分の身で精いっぱいで、辛そうに自分を見つめるリリに気づいても、その理由を考える余裕はなかった。
「――スミレ、落ち着いたか?」
「リ…リ……?」
名を呼ぶ声に目を開ければ、枕元で覗き込んでいたのは妖精の姿のリリだった。
「お前、小さくなって……」
「ちょっと力使い過ぎて電池切れだ、気にするな」
耳元でそっと言うリリの声は、少し甲高くても優しく届く。
指を伸ばし、くしゃっとリリの髪に搦めて、するりと頬に滑らせた。リリはされるがままに、くすぐったそうな顔をした。
「リリって、髪柔らかいんだ。それにホントにほっぺもぷにぷに……」
一度触ってみたかったんだ、と告げて目を閉じる。さっきまでの熱さが嘘のように引いて、安らかだった。
「スミレ……、今日のことはもう忘れろ。契約は特約AAつきになってしまったが、オレは必ずお前の願いを叶えるから」
リリの声が、落ちていく眠りの中で聞こえた。
1
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
冒険者の幼馴染と、ずっとその隣にいたい男の話
くろねこや
BL
お前の隣で、一緒に歳をとって生きていくんだと思ってた。
例えお前が誰かと結婚しても、子どもが生まれても。
◇
15歳になると神様から魔法が与えられる世界で、たった一人魔法が使えないイスト。
火魔法と氷魔法を授かった幼馴染は冒険者になった。
オレにあるのは畑や動物たちをちょこっと元気にする力だけ…。
ところが、そこへ謎の老婆が現れて…。
え? オレも冒険者になれるの?
“古代種様”って何?!
※『横書き』方向に設定してお読みください。
※『設定 こぼれ話』は情報を追加・修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる