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黄昏のマロード
4.再会(黄昏のマロード/完結)
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母の胸に抱かれているような柔らかな温もりが、この身を包んでいた。ここはどこだろうか。
そういえば自分はどうしたのだろう。〈クソガキ〉に何か箱に閉じ込められて、どこかに運ばれようとしていたところまでは、記憶にある。
鼻先にふわりと甘い匂いが掠めた。
ああ、これは。この匂いは間違いない。はつのものだ――
「ゴウ――、気がついた」
「はつっ!?」
目を開けたゴウは、自分に被さるように覗き込んでいたはつの顔に、驚きの声を上げた。こんなに近く顔があるなんて、吐息がかかってしまう。
「あ、あれ? あれ? え?」
しかしそれよりも、覚えた違和感にゴウは上体を起こし、顔、耳、口、体、手の先、足の先と、慌てて自分の手を全身に滑らせた。
「嘘……何で……?」
この手は何だ? 見慣れた黒い被毛はなくて肉球も収納可能な爪もない。五本ある指は、少し節くれが目立つがすんなりと長く、指先には丸い爪が乗っていた。まるで人間のような手だ。
人間のような、手?
その手で顔を撫でれば、横にぴんと張ったヒゲも被毛もなくつるんとしている。それにいつもは見上げていたはつが、自分と同じくらいの大きさになっていた。
つまり、自分は今……。
「は、はつ。オレ、オレ――」
言葉にならない。
「うん、そうだよ。人間になっちゃってるよ、ゴウってば」
あっさりとはつが認める。
「嘘みたいだ」
自分は今、願いが叶って人間になっているのだ。月猫でもないのに。
「ゴメンね。僕がもう少し気をつけていればよかったんだ。まさかゴウまで人間の姿になるなんて思わなかった」
「いや、オレは人間になりたいって望んだことだから……って、はつ? ちょっと待ってくれよ、その言い方だとまるではつも人間になった猫みたいじゃないか。まさか月猫?」
「みたい、じゃないよ。月猫じゃないけど、僕も猫なんだ。ただ僕は今、元月猫だったレンさんに養われている。そんな関係で、ときどき妙なところで魔法の影響を受けてしまうんだ」
月猫の名は「ルイ」と聞いていたが、「レン」? この名は初めて聞いた。
しかし月猫の名前よりも、はつが元は猫だというほうが、衝撃が大きい。
「は、はつが……、はつがオレと同じ猫? 本当なのか」
「本当だよ。あの日、君を探しにナオさんに公園に連れて来てもらった僕は、中に入った途端この姿になってしまったんだ」
はつは、自分が茶トラの猫だと言った。そして、養い主であるレンから、月の影響が本格的になる夜になる前に必ず戻ってくるように言われたそうだ。でなければ、月の魔法に捕らわれて帰ってこれなくなると。
「帰って――って、ここはっ!? 今、何時だ!?」
ゴウは慌てて周囲を見回す。目に映るのはすべて見慣れた風景で、いつもはつと会っていた噴水塔の前にあるベンチだった。ただ違うのはあの昼と夜が混ざり合う夕刻ではなく、すでに暗く夜の闇に包まれているということだ。あきらかに、はつが言った時刻は過ぎていた。
「はつ――、まさか」
「うん、閉じ込められたかな。月の魔法に。でも多分、大丈夫だよ。今日はレンさんと一緒にここに来たから」
大丈夫だと力強く言ったはつに、ゴウは安堵する。自分はどうなっても構わないが、はつは、はつの世界に帰してやらなければならない。
「つまりこうなったのって、オレのせいなんだよな」
確か自分は、あのクソガキどもに捕まって、絶体絶命の窮地に陥っていた。それからどうしたのだろう。
「ゴウのせいじゃないよ。ああ、そうそう。ゴウを段ボール箱に閉じ込めた教育的指導が必要なお子様はたちは、きっちり指導しておいたから」
安心して、と小首を傾げたはつに微笑まれたゴウは、ドキッとした。いつにも増してはつが、可愛くてたまらないのだ。ゴウは、滾ってくる熱を体の奥に感じた。このままだと、猫のときは諦めていたが、はつを押し倒して上に乗ってしまいそうだ。
「うーん、困ったな。ゴウを見てたら、欲しくなってきた」
「欲しい?」
自分ではあるまいし、はつは、何が欲しいのだろうかとゴウは考えるが、分からない。
「ゴウが、だよ。僕は今、ゴウが欲しいんだ。そろそろ発情期が来るなって思っていたけどね」
「は、発情期!?」
ずいっとはつが伸しかかってくる。ゴウはそのままベンチの上に押し倒された。
ちょっと待ってくれ。これは、この体勢は!?
「ゴウが僕を見てそわそわしていたのは感じていたよ」
「そ、そう? あっ」
伸しかかったはつが、ふみゅっと唇を押しつけてきた。そのまま唇を食まれて、舌が口内に入ってくる。
「んん、んふっ」
「あ……、ゴウの唇、甘いっ、んっ」
はつの舌は、ゴウの口内をまるで意志を持った生き物のように蠢き、ねぶってゴウの舌を搦めた。そしてきつく吸い上げる。
「ふぅ、あ、んんっ」
ゴウは自分の口から上がる艶めかしい声に困惑を隠せず、でもされるがままなのも面白くなく、おずおずとだがはつの舌を同じように吸う。
「あん、んっ。こ、応えてくれて、嬉しいよ、ゴウ。じゃあ、同じ気持ちっていうことで、いいね?」
「い、いい? あ、うん」
頷いたゴウだったが、さわさわと、はつの手がゴウの胸を何度も撫で出し、すぐに間違いに気づく。
「や、は、はつ! 待ってくれっ」
「待たないよ。僕はずっとこんな日が来るのを待ったんだ。好きだよ、ゴウ。君が僕の母、茶々のところにやって来たときからね。僕は弱くて公園猫として生きていけなくてレンさんに引き取られたけど、君を忘れたことはなかった」
「ずっと、好きだった? オレを?」
はつの言葉がゴウの心にしみ込んでいく。
「ああ、初めて君と会ったときからね。茶々には今日からお前の弟なんだから面倒見るのよって言われたけど、大きくなったら絶対嫁にしようって思った」
そうだった。公園の入口に捨てられていた自分は、茶々のもとで、はつと一緒に育ったのだ。
でもある日突然、はつはいなくなった。その寂しさから、初めからいなかったのだと思い込むようになったのだ。
「はつ、忘れててゴメン。オレもはつが好きだったんだ」
だからこんなにも、人間の姿をしていたけれど、はつに惹かれた。
「ゴウ。やっと僕を思い出してくれたんだね。嬉しいよ」
ゴウの胸を撫でていたはつの手の動きが変わる。指先がゴウの胸の小さな突起を捉えて捏ね始めた。
「あ、あ、は、はつ――」
ゴウはくすぐったさに身を捩りながらも、甘く疼くものを感じる。それは熱となって、足のつけ根の部分に流れ込んでいく。
「ゴウ、もうこんなにして」
胸の突起を弄っていた指が、ゴウの熱の芯を捉えた。扱かれて、さらに熱くしていく。
「はつ、オ、オレ――、はつが欲し、いっ」
「分かってる」
はつがゴウの下肢を剥き出しにした。外気にさらされても熱で膨らんだものは冷めることはなく、なおも天を向いていた。
「ああ、ゴウ。君のは力強いね」
「ひゃんっ」
ゴウのものは、はつの口の中に納められた。舌が口内を侵したときと同じように、ゴウのものにねっとりと搦みつく。
「あ、あ、あん、ああっ、あ――」
ちゅうっと先端を吸われてたゴウは、たまらず短く声を上げる。
「や、あ……、はつ、駄目だ。で、出てしまうっ」
「あふぅ、ん、いいよ、そのまま出して」
「でも――、んっ、やあぁ、は、つ、と一緒が、いいっ」
ゴウは初めて体験する刺激に体を震わせながら、まだいけないと唇を噛んで耐える。
「そんな可愛いこと言って、煽らないでくれ。加減出来なくなる」
「ひうっ、や、そんなとこっ」
ゴウのものに搦んでいたはつの舌が、さらに奥深いところを嘗め始めた。
「ここのニオイを嗅ぐのは、猫同士の挨拶だけどね」
「嗅ぐだけだろ。普通、嘗めはしないだろ」
「場合によるね。僕は今、ゴウのここをとっても嘗めたいんだ」
しゅるっとはつの尖らせた舌が、ゴウの閉じている菊襞を解すように突き出す。
「あっ、ああっ」
「ゴウ、君はとっても素直なんだね。感じて解れてきた」
「はつが、するからだ」
「そろそろ、入れるよ」
体を起こしたはつが、ゴウの足を割って腰を抱えた。
初めて取らされる体勢にゴウの体は震え、頷くのがやっとだ。
ちらりと見えたはつの剛直はしっかりと天を突くように上を向いており、先端からは嘗めたわけでもないのに雫を零していた。
「くっ、ゴウ、力を抜いて」
「あ、あうっ、む、無理っ」
力を抜けと言われても、どうすればいいのか分からないのだ。
「じゃあ、息を吐いて」
「息? あふぅ、うぅ」
何とか深呼吸を試みるが、すぐに息を詰めてしまう。
「あ、も、もう、いい、からっ、そのまま、はつ――」
「ゴウ――」
「ひゃあっ、あっ、うぐっ」
喉から悲鳴に近い声がほとばしる。めりめりっと菊襞を押し広げて、はつの熱の塊が中に入ってくる。このまま体が二つに裂けてしまいそうな衝撃だった。
「ゴメン、ゴウ。あと少しだから」
「んっ」
ゴウはがくがくと頷くことしか出来ない。
「うんっ、あっ、き、気持ち、いいよ、ゴウ。ゴウのここ、すごく締めつける」
「あ、んん――っ、は、はつが、気持ち、いいなら、いいっ」
自分は痛みしかないけれど、はつが感じているならそれも耐えられる。
「ぜ、んぶ、入ったよ。今僕たちは繋がってるんだ。ここで」
「ああ、つな、がってる」
どくどくとすごい速さで、はつを受け入れた最奥が脈打っている。ゴウは喘ぎながら、自分の体内ではつの存在を感じていた。
やっと、想いを繋げられたのだ。それがたまらないほど嬉しくて、愛しかった。
「ゴウ、あと少し、頑張ってくれ」
「分かっ、た」
せっかく中に納めたはつの熱が、するりと抜かれていく。けれど抜け落ちる寸前で止まり、一気に突き入れられた。
「ああ、あ、あ」
より深いところを抉るように、抜き差しが繰り返される。
「ゴウ、愛してる。大切な君、僕の弟――」
「あ、うん、オ、オレも、はつが好きだ。お、お兄ちゃん……っ」
はつは、母猫茶々と同じ毛色の茶トラだった。早く、猫のときのはつにも会いたいと思った。きっときれいな猫なんだろうと、脳裏に描く。
もう自分は独りぼっちじゃない。これからは、はつと一緒なのだ。
「ゴウ――っ」
「あ、ああっ」
一際深く内壁を抉られたとき、ゴウは体内に熱い迸りを感じた。それと同時に、自分も想いの証の熱を噴き上げた。
ゴウはぬくぬくした毛布に包まれて、バスケットの中で丸くなっていた。その傍らには同じように毛布に包まれ、うとうとと眠る茶トラの猫、はつがいた。
はつは、思ったとおりのきれいな茶トラだった。母猫の毛並みよりも幾分濃い金茶で、縞模様もくっきりしていた。
あの闇の世界からレンに助け出され、自分たちは今このレンが住む〈マンション〉にいるわけだが、どうにも落ち着かない。目にするものすべてが初めてで物珍しいものばかり。とてもゴウには、はつのように、眠ることが出来ない。
「レーン、はつの具合どう?」
「疲れて今眠っていますよ。少し休めば大丈夫でしょう」
先ほどから自分たちのすぐ横で話をしている〈ニンゲン〉二人。この二人が元月猫だという「レン」と「ルイ」だそうだ。はつが気を失う前にそう教えてくれた。
レンは茶と黒とグレイと混ざった不思議な髪の色をしていて、〈ニンゲン〉の美醜はよく分からないゴウでも、すごく美人だと思った。
ルイはまたレンとは違った雰囲気があり、前髪に白毛のメッシュが入っている。少しやんちゃな、でも頼れる兄貴という感じだ。
「それに、何? こっちの黒、尻に裂傷なんて、信じられないぞ」
ルイに顔を覗き込まれたゴウは、少し仰け反り、「頼れる兄貴」と思ったことをすぐさま否定した。減らず口な意地悪兄貴だ。
あえてそんなこと言われなくてもいいのに。そんなふうに言われたら、悪いことをしたような気になってしまうではないか。
「さっき塗り薬をつけてやりましたから、すぐに治ると思いますよ。それと、この子は『クロ』じゃなくて『ゴウ』という名前だそうです」
「へー、『ゴウ』ね。そりゃ失礼。でもさ、レンが行くまでの間、いったい、二人で何やってたんだか。想像つくだけに、笑っちゃうよな」
「ルイ、そういうこと言うのは止めなさい。ナオに言いつけますよ」
「うわっ。ごめんなさい。もう言いません」
レンに窘められたルイは、すぐに謝る。力関係はすぐに分かった。
「それでさ、レン。この子どうするんだ?」
ひくりとゴウは耳を動かした。
「ゴウですか? もちろんうちの子になるんですよ。はつの大事な弟ですからね」
「へー、弟。じゃあこいつら兄弟で……」
「お黙りなさい、ルイ」
ぎろりとレンに睨まれたルイは首を竦めた。
はつは、レンに話していないのだろうか。自分は茶々に拾われた子で、本当の兄弟ではないってことを。
(あ……)
ぎゅぴーんと毛布が引っ張られた。はつが後ろ足をぴんと伸ばして伸びをしていた。ゴウは、はつがかけている毛布に頭を突っ込み、お尻を気にしながら寄り添うように身を横たえる。
(はつ、起きた?)
(んー、まあね。本当はさっきから目を覚ましてたけど)
(じゃあ、寝たふり? もう。はつを起こさないようにオレじっとしていたのに――わわっ!)
いきなり耳の後ろが嘗められたゴウは、驚いて身震いする。はつが、ゴウの耳元を甘噛みして嘗めていた。
(お腹空いたの? だったら遠慮なく何か食べさせろって言えばいいんだ。にゃんって鳴くだけで、レンさんには分かるから)
(でも、よそのうちでそんなこと……)
(あれ? さっきレンさんが言っただろ? ゴウはうちの子だって)
(え、それ本気なの? オレ、ここの家の子になるの?)
(ゴウが嫌だって言っても、僕は離さないよ)
ゴウはここで僕と、僕たちと一緒に暮らすんだからね、とはつが笑んだ。そのために僕は公園まで迎えに行ったのだからと。
はつはそう言って、ゴウの体をぎゅっと抱きしめた。
「黄昏のマロード」END
そういえば自分はどうしたのだろう。〈クソガキ〉に何か箱に閉じ込められて、どこかに運ばれようとしていたところまでは、記憶にある。
鼻先にふわりと甘い匂いが掠めた。
ああ、これは。この匂いは間違いない。はつのものだ――
「ゴウ――、気がついた」
「はつっ!?」
目を開けたゴウは、自分に被さるように覗き込んでいたはつの顔に、驚きの声を上げた。こんなに近く顔があるなんて、吐息がかかってしまう。
「あ、あれ? あれ? え?」
しかしそれよりも、覚えた違和感にゴウは上体を起こし、顔、耳、口、体、手の先、足の先と、慌てて自分の手を全身に滑らせた。
「嘘……何で……?」
この手は何だ? 見慣れた黒い被毛はなくて肉球も収納可能な爪もない。五本ある指は、少し節くれが目立つがすんなりと長く、指先には丸い爪が乗っていた。まるで人間のような手だ。
人間のような、手?
その手で顔を撫でれば、横にぴんと張ったヒゲも被毛もなくつるんとしている。それにいつもは見上げていたはつが、自分と同じくらいの大きさになっていた。
つまり、自分は今……。
「は、はつ。オレ、オレ――」
言葉にならない。
「うん、そうだよ。人間になっちゃってるよ、ゴウってば」
あっさりとはつが認める。
「嘘みたいだ」
自分は今、願いが叶って人間になっているのだ。月猫でもないのに。
「ゴメンね。僕がもう少し気をつけていればよかったんだ。まさかゴウまで人間の姿になるなんて思わなかった」
「いや、オレは人間になりたいって望んだことだから……って、はつ? ちょっと待ってくれよ、その言い方だとまるではつも人間になった猫みたいじゃないか。まさか月猫?」
「みたい、じゃないよ。月猫じゃないけど、僕も猫なんだ。ただ僕は今、元月猫だったレンさんに養われている。そんな関係で、ときどき妙なところで魔法の影響を受けてしまうんだ」
月猫の名は「ルイ」と聞いていたが、「レン」? この名は初めて聞いた。
しかし月猫の名前よりも、はつが元は猫だというほうが、衝撃が大きい。
「は、はつが……、はつがオレと同じ猫? 本当なのか」
「本当だよ。あの日、君を探しにナオさんに公園に連れて来てもらった僕は、中に入った途端この姿になってしまったんだ」
はつは、自分が茶トラの猫だと言った。そして、養い主であるレンから、月の影響が本格的になる夜になる前に必ず戻ってくるように言われたそうだ。でなければ、月の魔法に捕らわれて帰ってこれなくなると。
「帰って――って、ここはっ!? 今、何時だ!?」
ゴウは慌てて周囲を見回す。目に映るのはすべて見慣れた風景で、いつもはつと会っていた噴水塔の前にあるベンチだった。ただ違うのはあの昼と夜が混ざり合う夕刻ではなく、すでに暗く夜の闇に包まれているということだ。あきらかに、はつが言った時刻は過ぎていた。
「はつ――、まさか」
「うん、閉じ込められたかな。月の魔法に。でも多分、大丈夫だよ。今日はレンさんと一緒にここに来たから」
大丈夫だと力強く言ったはつに、ゴウは安堵する。自分はどうなっても構わないが、はつは、はつの世界に帰してやらなければならない。
「つまりこうなったのって、オレのせいなんだよな」
確か自分は、あのクソガキどもに捕まって、絶体絶命の窮地に陥っていた。それからどうしたのだろう。
「ゴウのせいじゃないよ。ああ、そうそう。ゴウを段ボール箱に閉じ込めた教育的指導が必要なお子様はたちは、きっちり指導しておいたから」
安心して、と小首を傾げたはつに微笑まれたゴウは、ドキッとした。いつにも増してはつが、可愛くてたまらないのだ。ゴウは、滾ってくる熱を体の奥に感じた。このままだと、猫のときは諦めていたが、はつを押し倒して上に乗ってしまいそうだ。
「うーん、困ったな。ゴウを見てたら、欲しくなってきた」
「欲しい?」
自分ではあるまいし、はつは、何が欲しいのだろうかとゴウは考えるが、分からない。
「ゴウが、だよ。僕は今、ゴウが欲しいんだ。そろそろ発情期が来るなって思っていたけどね」
「は、発情期!?」
ずいっとはつが伸しかかってくる。ゴウはそのままベンチの上に押し倒された。
ちょっと待ってくれ。これは、この体勢は!?
「ゴウが僕を見てそわそわしていたのは感じていたよ」
「そ、そう? あっ」
伸しかかったはつが、ふみゅっと唇を押しつけてきた。そのまま唇を食まれて、舌が口内に入ってくる。
「んん、んふっ」
「あ……、ゴウの唇、甘いっ、んっ」
はつの舌は、ゴウの口内をまるで意志を持った生き物のように蠢き、ねぶってゴウの舌を搦めた。そしてきつく吸い上げる。
「ふぅ、あ、んんっ」
ゴウは自分の口から上がる艶めかしい声に困惑を隠せず、でもされるがままなのも面白くなく、おずおずとだがはつの舌を同じように吸う。
「あん、んっ。こ、応えてくれて、嬉しいよ、ゴウ。じゃあ、同じ気持ちっていうことで、いいね?」
「い、いい? あ、うん」
頷いたゴウだったが、さわさわと、はつの手がゴウの胸を何度も撫で出し、すぐに間違いに気づく。
「や、は、はつ! 待ってくれっ」
「待たないよ。僕はずっとこんな日が来るのを待ったんだ。好きだよ、ゴウ。君が僕の母、茶々のところにやって来たときからね。僕は弱くて公園猫として生きていけなくてレンさんに引き取られたけど、君を忘れたことはなかった」
「ずっと、好きだった? オレを?」
はつの言葉がゴウの心にしみ込んでいく。
「ああ、初めて君と会ったときからね。茶々には今日からお前の弟なんだから面倒見るのよって言われたけど、大きくなったら絶対嫁にしようって思った」
そうだった。公園の入口に捨てられていた自分は、茶々のもとで、はつと一緒に育ったのだ。
でもある日突然、はつはいなくなった。その寂しさから、初めからいなかったのだと思い込むようになったのだ。
「はつ、忘れててゴメン。オレもはつが好きだったんだ」
だからこんなにも、人間の姿をしていたけれど、はつに惹かれた。
「ゴウ。やっと僕を思い出してくれたんだね。嬉しいよ」
ゴウの胸を撫でていたはつの手の動きが変わる。指先がゴウの胸の小さな突起を捉えて捏ね始めた。
「あ、あ、は、はつ――」
ゴウはくすぐったさに身を捩りながらも、甘く疼くものを感じる。それは熱となって、足のつけ根の部分に流れ込んでいく。
「ゴウ、もうこんなにして」
胸の突起を弄っていた指が、ゴウの熱の芯を捉えた。扱かれて、さらに熱くしていく。
「はつ、オ、オレ――、はつが欲し、いっ」
「分かってる」
はつがゴウの下肢を剥き出しにした。外気にさらされても熱で膨らんだものは冷めることはなく、なおも天を向いていた。
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「ひゃんっ」
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ちゅうっと先端を吸われてたゴウは、たまらず短く声を上げる。
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「あふぅ、ん、いいよ、そのまま出して」
「でも――、んっ、やあぁ、は、つ、と一緒が、いいっ」
ゴウは初めて体験する刺激に体を震わせながら、まだいけないと唇を噛んで耐える。
「そんな可愛いこと言って、煽らないでくれ。加減出来なくなる」
「ひうっ、や、そんなとこっ」
ゴウのものに搦んでいたはつの舌が、さらに奥深いところを嘗め始めた。
「ここのニオイを嗅ぐのは、猫同士の挨拶だけどね」
「嗅ぐだけだろ。普通、嘗めはしないだろ」
「場合によるね。僕は今、ゴウのここをとっても嘗めたいんだ」
しゅるっとはつの尖らせた舌が、ゴウの閉じている菊襞を解すように突き出す。
「あっ、ああっ」
「ゴウ、君はとっても素直なんだね。感じて解れてきた」
「はつが、するからだ」
「そろそろ、入れるよ」
体を起こしたはつが、ゴウの足を割って腰を抱えた。
初めて取らされる体勢にゴウの体は震え、頷くのがやっとだ。
ちらりと見えたはつの剛直はしっかりと天を突くように上を向いており、先端からは嘗めたわけでもないのに雫を零していた。
「くっ、ゴウ、力を抜いて」
「あ、あうっ、む、無理っ」
力を抜けと言われても、どうすればいいのか分からないのだ。
「じゃあ、息を吐いて」
「息? あふぅ、うぅ」
何とか深呼吸を試みるが、すぐに息を詰めてしまう。
「あ、も、もう、いい、からっ、そのまま、はつ――」
「ゴウ――」
「ひゃあっ、あっ、うぐっ」
喉から悲鳴に近い声がほとばしる。めりめりっと菊襞を押し広げて、はつの熱の塊が中に入ってくる。このまま体が二つに裂けてしまいそうな衝撃だった。
「ゴメン、ゴウ。あと少しだから」
「んっ」
ゴウはがくがくと頷くことしか出来ない。
「うんっ、あっ、き、気持ち、いいよ、ゴウ。ゴウのここ、すごく締めつける」
「あ、んん――っ、は、はつが、気持ち、いいなら、いいっ」
自分は痛みしかないけれど、はつが感じているならそれも耐えられる。
「ぜ、んぶ、入ったよ。今僕たちは繋がってるんだ。ここで」
「ああ、つな、がってる」
どくどくとすごい速さで、はつを受け入れた最奥が脈打っている。ゴウは喘ぎながら、自分の体内ではつの存在を感じていた。
やっと、想いを繋げられたのだ。それがたまらないほど嬉しくて、愛しかった。
「ゴウ、あと少し、頑張ってくれ」
「分かっ、た」
せっかく中に納めたはつの熱が、するりと抜かれていく。けれど抜け落ちる寸前で止まり、一気に突き入れられた。
「ああ、あ、あ」
より深いところを抉るように、抜き差しが繰り返される。
「ゴウ、愛してる。大切な君、僕の弟――」
「あ、うん、オ、オレも、はつが好きだ。お、お兄ちゃん……っ」
はつは、母猫茶々と同じ毛色の茶トラだった。早く、猫のときのはつにも会いたいと思った。きっときれいな猫なんだろうと、脳裏に描く。
もう自分は独りぼっちじゃない。これからは、はつと一緒なのだ。
「ゴウ――っ」
「あ、ああっ」
一際深く内壁を抉られたとき、ゴウは体内に熱い迸りを感じた。それと同時に、自分も想いの証の熱を噴き上げた。
ゴウはぬくぬくした毛布に包まれて、バスケットの中で丸くなっていた。その傍らには同じように毛布に包まれ、うとうとと眠る茶トラの猫、はつがいた。
はつは、思ったとおりのきれいな茶トラだった。母猫の毛並みよりも幾分濃い金茶で、縞模様もくっきりしていた。
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「レーン、はつの具合どう?」
「疲れて今眠っていますよ。少し休めば大丈夫でしょう」
先ほどから自分たちのすぐ横で話をしている〈ニンゲン〉二人。この二人が元月猫だという「レン」と「ルイ」だそうだ。はつが気を失う前にそう教えてくれた。
レンは茶と黒とグレイと混ざった不思議な髪の色をしていて、〈ニンゲン〉の美醜はよく分からないゴウでも、すごく美人だと思った。
ルイはまたレンとは違った雰囲気があり、前髪に白毛のメッシュが入っている。少しやんちゃな、でも頼れる兄貴という感じだ。
「それに、何? こっちの黒、尻に裂傷なんて、信じられないぞ」
ルイに顔を覗き込まれたゴウは、少し仰け反り、「頼れる兄貴」と思ったことをすぐさま否定した。減らず口な意地悪兄貴だ。
あえてそんなこと言われなくてもいいのに。そんなふうに言われたら、悪いことをしたような気になってしまうではないか。
「さっき塗り薬をつけてやりましたから、すぐに治ると思いますよ。それと、この子は『クロ』じゃなくて『ゴウ』という名前だそうです」
「へー、『ゴウ』ね。そりゃ失礼。でもさ、レンが行くまでの間、いったい、二人で何やってたんだか。想像つくだけに、笑っちゃうよな」
「ルイ、そういうこと言うのは止めなさい。ナオに言いつけますよ」
「うわっ。ごめんなさい。もう言いません」
レンに窘められたルイは、すぐに謝る。力関係はすぐに分かった。
「それでさ、レン。この子どうするんだ?」
ひくりとゴウは耳を動かした。
「ゴウですか? もちろんうちの子になるんですよ。はつの大事な弟ですからね」
「へー、弟。じゃあこいつら兄弟で……」
「お黙りなさい、ルイ」
ぎろりとレンに睨まれたルイは首を竦めた。
はつは、レンに話していないのだろうか。自分は茶々に拾われた子で、本当の兄弟ではないってことを。
(あ……)
ぎゅぴーんと毛布が引っ張られた。はつが後ろ足をぴんと伸ばして伸びをしていた。ゴウは、はつがかけている毛布に頭を突っ込み、お尻を気にしながら寄り添うように身を横たえる。
(はつ、起きた?)
(んー、まあね。本当はさっきから目を覚ましてたけど)
(じゃあ、寝たふり? もう。はつを起こさないようにオレじっとしていたのに――わわっ!)
いきなり耳の後ろが嘗められたゴウは、驚いて身震いする。はつが、ゴウの耳元を甘噛みして嘗めていた。
(お腹空いたの? だったら遠慮なく何か食べさせろって言えばいいんだ。にゃんって鳴くだけで、レンさんには分かるから)
(でも、よそのうちでそんなこと……)
(あれ? さっきレンさんが言っただろ? ゴウはうちの子だって)
(え、それ本気なの? オレ、ここの家の子になるの?)
(ゴウが嫌だって言っても、僕は離さないよ)
ゴウはここで僕と、僕たちと一緒に暮らすんだからね、とはつが笑んだ。そのために僕は公園まで迎えに行ったのだからと。
はつはそう言って、ゴウの体をぎゅっと抱きしめた。
「黄昏のマロード」END
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と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
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上司×部下BL
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真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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