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第一章
10.婚約者との鉢合わせ
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「とても美味しい紅茶だったわ」
エルフリーデはカフェから出ると、満足そうな顔でそう言った。
クリステルも自慢げだ。
「わたくしあのカフェ大好きですの。よければまた一緒に行きたいわ。今度はタルトを食べないと」
永遠にメニューと睨めっこした結果、クリステルが今回選んだのはショートケーキだった。
付き合わされたノルベルトはやれやれと呆れている。
「そうだわ、最後にもう一軒、ドレスを見に行ってもよろしい? 普段着のドレスを作ってもらいたいのよ」
「僕はいいけど、そんな長い時間エルフリーデを放っておくのかい」
「わたくしもいいわよ。近くの書店に行きたいと思っていたの」
そういうわけで、クリステルはドレスを作りに行った。
エルフリーデは近くの書店へ行こうとしたが、ノルベルトもなぜかこちらについてくる。
「クリステルをひとりにしても大丈夫なの?」
「ああ、少しくらい大丈夫さ。それより、エルフリーデはどんな本を読むの?」
「わたくし、少し恥ずかしいのだけれど、ロマンス小説を読むのが好きなの。素敵な恋のお話よ」
ノルベルトは驚いたような顔をして、エルフリーデを見つめる。
「な、なんですの」
「ううん、今日は色んなエルフリーデが見えたなって。街にあまり来ないこととか、ロマンス小説が好きなこととか、意外だったよ」
エルフリーデも、そんなことを言われると照れてしまう。
顔を下に向けた、その時。
「な、エルフリーデ!?」
「……? あら、ユリアン」
ユリアンは、夜会の時と同じように、ピンクブロンドの少女を横に連れている。
――面倒なタイミングで会ったわね、これは。
エルフリーデは、これから言われそうなことを予想した。
「どうして男といる? 君こそ隠れて浮気していたのか!」
――予想通りで笑っちゃうわ。
エルフリーデは笑いそうになった口元を隠すため、とっさに下を向く。
すると、その仕草が後ろめたさからきているものと勘違いしたのか、少女は勝ち誇ったように言った。
「まあ、そうだったんですか? 意外です」
今日のピンクブロンドの少女は、どことなく強気だ。
エルフリーデは不思議に思う。
「あなたは?」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はエミリーと申します」
慇懃な態度でドレスの裾をすまみ、一礼した。
――婚約者のいる男性とデートするわりには、かなり礼儀がしっかりしているわ。
エルフリーデは、どこかずれた感心をする。
「わたくしはエルフリーデです。エミリーさん、あなたユリアンと大変仲がよろしいのね」
「それはエルフリーデも同じだろう! 最近プレゼントを贈っても反応がないと思えば……。お前がそんな面食いだったとは知らなかったぞ」
プレゼント、という言葉に、ノルベルトとエミリーがピクリと反応した。
エミリーはぎろりとユリアンを睨みつけると、可愛い顔で問いただす。
「どういうことですの? もう婚約者に心はないとおっしゃっていましたよね」
「ああ、いや、それはその……」
――なるほど、このふたりはエミリーのほうが強いのね。
面白がってふたりの会話を見ているエルフリーデはに、ノルベルトは彼女にしか聞こえない声で尋ねた。
「プレゼント、というのは?」
「センスの悪い贈り物のことよ。いままでまったく贈ってこなかったのに、夜会のあとから急に贈ってくるようになって。心の底から困っているのよ」
ひそひそと顔を近づけて会話するふたりに、ユリアンは胸がざわつく。
「とにかく、エルフリーデもそういうことをしていたんだ。僕だけ咎められるのはおかしい」
エルフリーデは、おかしなことを言う婚約者にクスリと笑った。
「もしわたくしとノルベルトがそういう仲だったとしても、あなたが彼女とそういう仲になった後のことであるのは間違いないわ」
「そ、そんな、時期なんて関係ないだろう」
「そうかしら? それにね、わたくしとノルベルトはふたりでお出かけしているわけではないわ。もとは彼の妹とふたりでお出かけする予定でしたの」
ユリアンはハンッと鼻を鳴らす。嘘をついていると思っているようだ。
「クリステルと合流して、事実だと証明してもいいんですのよ」
「そうか? それでは合流してもらおうか」
ユリアンは未だにふんぞり返っているが、横のエミリーはなにかを思いついたようにユリアンに耳打ちした。
小賢しい女ということは、ユリアンの横にいる時点で分かっていた。
「なんですの?」
「いえ、私たちはこのあたりで失礼します。お邪魔立てしてすみませんでした」
いまいち納得のいかないユリアンを引っ張るようにして、エミリーたちは去っていった。
――なにを企んでいるのかしら。
とにかく、面倒なふたりは消えた。
エルフリーデは今度こそ書店へ行こうとしたが――
「エルフリーデ、悪いけど一緒についてきてくれないかな」
エルフリーデも、ノルベルトに引っ張られるようにして書店から離れていった。
「買い忘れたものがあってね」
ノルベルトはそう言うと、さきほどのブティックのなかに入った。
髪飾りがたくさん並ぶお店だ。
「買い忘れですの?」
――妹へのプレゼントかしら。
そう思いつつ、エルフリーデは別行動をとり、店の中を自由に歩き回る。
「お待たせ」
ノルベルトは、案外早く戻ってきた。
手には買い物袋を持っている。
「待ってませんわ。さ、書店へ行きましょ」
店の外に出ると、ノルベルトは持っていた袋をエルフリーデに押しつけた。
「これ、エルフリーデへの贈り物」
「えっ?」
歩道のすみによけて、袋を開けてみる。
「これ、あのカチューシャ……!」
「うん。婚約者からの贈り物を、僕ので上書きしたくて」
エルフリーデは胸がドキリと鳴る。
出会った時から、この青年の軽妙なトークにドキドキしっぱなしである。
「大事にしますわ。それと、婚約者からのセンスのない贈り物ですわよ」
にぃっと意地悪そうな顔をする。
――ユリアンの微妙なプレゼントより、何倍も嬉しい……。
赤いカチューシャを大事そうに見つめるエルフリーデ。そんな彼女を横目で見たノルベルトは、頬を赤く染めた。
エルフリーデは、そんなノルベルトに気付いていないようだった。
エルフリーデはカフェから出ると、満足そうな顔でそう言った。
クリステルも自慢げだ。
「わたくしあのカフェ大好きですの。よければまた一緒に行きたいわ。今度はタルトを食べないと」
永遠にメニューと睨めっこした結果、クリステルが今回選んだのはショートケーキだった。
付き合わされたノルベルトはやれやれと呆れている。
「そうだわ、最後にもう一軒、ドレスを見に行ってもよろしい? 普段着のドレスを作ってもらいたいのよ」
「僕はいいけど、そんな長い時間エルフリーデを放っておくのかい」
「わたくしもいいわよ。近くの書店に行きたいと思っていたの」
そういうわけで、クリステルはドレスを作りに行った。
エルフリーデは近くの書店へ行こうとしたが、ノルベルトもなぜかこちらについてくる。
「クリステルをひとりにしても大丈夫なの?」
「ああ、少しくらい大丈夫さ。それより、エルフリーデはどんな本を読むの?」
「わたくし、少し恥ずかしいのだけれど、ロマンス小説を読むのが好きなの。素敵な恋のお話よ」
ノルベルトは驚いたような顔をして、エルフリーデを見つめる。
「な、なんですの」
「ううん、今日は色んなエルフリーデが見えたなって。街にあまり来ないこととか、ロマンス小説が好きなこととか、意外だったよ」
エルフリーデも、そんなことを言われると照れてしまう。
顔を下に向けた、その時。
「な、エルフリーデ!?」
「……? あら、ユリアン」
ユリアンは、夜会の時と同じように、ピンクブロンドの少女を横に連れている。
――面倒なタイミングで会ったわね、これは。
エルフリーデは、これから言われそうなことを予想した。
「どうして男といる? 君こそ隠れて浮気していたのか!」
――予想通りで笑っちゃうわ。
エルフリーデは笑いそうになった口元を隠すため、とっさに下を向く。
すると、その仕草が後ろめたさからきているものと勘違いしたのか、少女は勝ち誇ったように言った。
「まあ、そうだったんですか? 意外です」
今日のピンクブロンドの少女は、どことなく強気だ。
エルフリーデは不思議に思う。
「あなたは?」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はエミリーと申します」
慇懃な態度でドレスの裾をすまみ、一礼した。
――婚約者のいる男性とデートするわりには、かなり礼儀がしっかりしているわ。
エルフリーデは、どこかずれた感心をする。
「わたくしはエルフリーデです。エミリーさん、あなたユリアンと大変仲がよろしいのね」
「それはエルフリーデも同じだろう! 最近プレゼントを贈っても反応がないと思えば……。お前がそんな面食いだったとは知らなかったぞ」
プレゼント、という言葉に、ノルベルトとエミリーがピクリと反応した。
エミリーはぎろりとユリアンを睨みつけると、可愛い顔で問いただす。
「どういうことですの? もう婚約者に心はないとおっしゃっていましたよね」
「ああ、いや、それはその……」
――なるほど、このふたりはエミリーのほうが強いのね。
面白がってふたりの会話を見ているエルフリーデはに、ノルベルトは彼女にしか聞こえない声で尋ねた。
「プレゼント、というのは?」
「センスの悪い贈り物のことよ。いままでまったく贈ってこなかったのに、夜会のあとから急に贈ってくるようになって。心の底から困っているのよ」
ひそひそと顔を近づけて会話するふたりに、ユリアンは胸がざわつく。
「とにかく、エルフリーデもそういうことをしていたんだ。僕だけ咎められるのはおかしい」
エルフリーデは、おかしなことを言う婚約者にクスリと笑った。
「もしわたくしとノルベルトがそういう仲だったとしても、あなたが彼女とそういう仲になった後のことであるのは間違いないわ」
「そ、そんな、時期なんて関係ないだろう」
「そうかしら? それにね、わたくしとノルベルトはふたりでお出かけしているわけではないわ。もとは彼の妹とふたりでお出かけする予定でしたの」
ユリアンはハンッと鼻を鳴らす。嘘をついていると思っているようだ。
「クリステルと合流して、事実だと証明してもいいんですのよ」
「そうか? それでは合流してもらおうか」
ユリアンは未だにふんぞり返っているが、横のエミリーはなにかを思いついたようにユリアンに耳打ちした。
小賢しい女ということは、ユリアンの横にいる時点で分かっていた。
「なんですの?」
「いえ、私たちはこのあたりで失礼します。お邪魔立てしてすみませんでした」
いまいち納得のいかないユリアンを引っ張るようにして、エミリーたちは去っていった。
――なにを企んでいるのかしら。
とにかく、面倒なふたりは消えた。
エルフリーデは今度こそ書店へ行こうとしたが――
「エルフリーデ、悪いけど一緒についてきてくれないかな」
エルフリーデも、ノルベルトに引っ張られるようにして書店から離れていった。
「買い忘れたものがあってね」
ノルベルトはそう言うと、さきほどのブティックのなかに入った。
髪飾りがたくさん並ぶお店だ。
「買い忘れですの?」
――妹へのプレゼントかしら。
そう思いつつ、エルフリーデは別行動をとり、店の中を自由に歩き回る。
「お待たせ」
ノルベルトは、案外早く戻ってきた。
手には買い物袋を持っている。
「待ってませんわ。さ、書店へ行きましょ」
店の外に出ると、ノルベルトは持っていた袋をエルフリーデに押しつけた。
「これ、エルフリーデへの贈り物」
「えっ?」
歩道のすみによけて、袋を開けてみる。
「これ、あのカチューシャ……!」
「うん。婚約者からの贈り物を、僕ので上書きしたくて」
エルフリーデは胸がドキリと鳴る。
出会った時から、この青年の軽妙なトークにドキドキしっぱなしである。
「大事にしますわ。それと、婚約者からのセンスのない贈り物ですわよ」
にぃっと意地悪そうな顔をする。
――ユリアンの微妙なプレゼントより、何倍も嬉しい……。
赤いカチューシャを大事そうに見つめるエルフリーデ。そんな彼女を横目で見たノルベルトは、頬を赤く染めた。
エルフリーデは、そんなノルベルトに気付いていないようだった。
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