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桑原雪乃の章
第二話
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桑原さんから鵜崎さんを見たという報告が日課になりつつあるのだが、桑原さんはそれを僕に伝えるだけで何かをしようという気持ちは無いようだ。桑原さんにとっては共通の話題として何となく言っているだけのかもしれないが、僕は何となく水瀬さん絡みの事を探られているような気がして不安になっていた。
別に悪いことをしたわけではないのだけれど、何となく説明しにくい。自分の事ならまだしも、水瀬さんと水瀬さんの家族に関わることなので僕の口から言って全てが正確に伝わることも無さそうだと思うので、僕はあの日の晩の事を聞かれても答えるつもりはなかった。
「詩乃なんだけど、昨日の夜はお風呂上りにまた誰かと話してたんだよね。私は自分の髪を乾かしていたんでそれに気付かなかったんだけど、主人が何か気味悪がっちゃってるんだよね。もしかしたら、詩乃に変なのが憑いてるんじゃないかって言うんだけど、見てもらえたりしないかな?」
「僕には見たりすることは出来ないんでお義父さんか妻に頼むことになると思うんだけど、今すぐには見てもらえるかわからないよ。一応、話はしてみるけど、どんな感じで話してるのかな?」
「私が見た時は話しているというよりも、何か喜んでいるように見えたのよ。詩乃って周りの子よりも言葉を話すのが遅かったんだけど、そういうのも関係あったりするのかな。そうそう、主人が言うには、日本語でも英語でもない聞いたことのない言葉を話してたって言うんだよね。それって、もしかして死後の世界の言葉だったりするのかな?」
「申し訳ないけど、僕は死後の世界でどんな言葉が使われているのかわからないんだよね。それも聞いてみるけど、桑原さんの期待に沿えるかわからないよ」
「期待なんてとんでもない。こうして話を聞いてもらえるだけでもありがたいよ。こんな話は誰にしたって神経質なおかしい人って思われるだけだもんね。私のお母さんも気にし過ぎだって言ってくるし、私も小さい時は何語を話しているのかわからなかったって言ってくるんだよ。ちょっとそれは失礼だよね。そうだ、今日はクリーニング屋さんに行かないといけないんだって。今日はこの辺で失礼するね。じゃあ、詩乃の話をよろしくお願いします」
詩乃ちゃんが帰っていく姿を見ると沙弥はいつも悲しそうな表情をしていた。初めてできたお友達と言ってもいい詩乃ちゃんと遊ぶのは楽しいのだろう。その分別れがつらそうなのだけれど、ご飯を食べるまで僕が詩乃ちゃんの代わりに遊んであげるので少しは機嫌も良くなるといいな。
「今日は詩乃ちゃんと何をして遊んでいたの?」
「お人形と絵」
「お人形で遊んだ後に絵を描いたの?」
「うーん、沙弥は絵」
「詩乃ちゃんがお人形で遊んでたの?」
「うん」
「二人で一緒に遊んでなかったの?」
「違うよ。遊んだよ」
「そうなんだ。楽しかった?」
「うん。いつも楽しい」
沙弥は水瀬さんの一件以来今まで以上に絵を描くのが好きになったみたいだった。ただ、子供の描く絵なのでその内容を正確に当てることは難しいのだが、人の絵を描くのは上手だと思う。何せ、僕の絵は髪が生えているのだけれど、お義父さんの絵は髪が生えていないのだ。そこでは区別がつくのだけれど、僕の妻と桑原さんの絵はどちらが妻なのか区別がつかないこともある。髪の長さも体型も似ているので仕方ないというところもあるのだが、不思議な事に妻はどっちが自分か正確に当てることが出来るのだ。僕がソレを外すと妻は少し不機嫌になってしまうので気を付けなればいけないのだ。
ご飯が出来るまでもう少し時間があるので先にお風呂に入ることにしたのだが、今日は珍しく沙弥が僕と一緒に入ると言ってきた。沙弥が誰と一緒にお風呂に入るのかは沙弥が気分で決めているのだが、僕が選ばれたのは水瀬さんの所に言った翌日以来だったと思う。
「今日はどうしてパパと一緒が良いの?」
「わかんない」
「わかんないのか。じゃあ、わからなくてもいいか」
妻も義父も熱めのお風呂を好むので沙弥もそっち方面に進んでしまうのかなと心配していたのだけれど、妻に聞いた話では一緒にお風呂に入る時はあまり湯船には浸かっていないそうだ。浴槽が結構深めに出来ているという事もあるのだろうが、沸かしながら入っているとお湯も上の方から熱くなるので沙弥には耐えられないのかもしれない。
そんな事を思いながらも、僕も妻と一緒にお風呂に張った時はのぼせる一歩手前だったという事を思い出していた。今では一緒に入ることなんて無いけれど、近いうちに旅行にでも行く機会があれば客室露天風呂付きの部屋でもとってみようかなと思案してみた。
沙弥の体を洗っていて気が付いたのだが、首の後ろの所が少しだけ煤のようなもので汚れいていた。石鹸を付けたタオルでこすると簡単に汚れが落ちたのだけれど、手も足も顔も煤なんてついていなかったので不思議に感じていた。
普通に煤が付くにしても手や足につくだろうし、顔にも髪にもそんなものがついている様子も見られなかった。もちろん、他の所にも付いてはいなかったので少し気になってしまっていた。もしかしたら、お風呂に入る前に妻が手や顔に付いた煤を落としたのかもしれないが、几帳面な妻が首に憑いている煤を見逃すとは思えなかった。お風呂に入る前は髪をお団子にしていたので首が見えないということも無いと思うのだけれど、それにしては首の後ろにだけ煤が付いているというのはおかしな話だった。
まあ、そんな事を考えても答えなんて見つからないと思うし、そんな事は気にせずにのんびりとお風呂を楽しむことにしよう。沙弥が背中を洗ってくれるのは嬉しいのだけれど、途中で飽きて背中を叩きだすのだけはやめて欲しいと思っていた。
お風呂上りに沙弥の髪を乾かしていると、脱衣所の窓から狐が庭を駆け抜けていくところが見えた。最近ではあまり見かけなかったのだけれど、山に餌が無くなってきたのだろうか。動物好きの沙弥が見つけてしまったら追いかけてしまうんだろうなと想像していた。動物に囲まれている沙弥も可愛らしいな。そう思っていると、髪が渇いた沙弥が脱衣所から出て台所へと消えていった。僕も自分の髪を乾かしているのだけれど、それほど長くはないので沙弥ほど時間はかからないのだった。
僕はそのまま茶の間へ向かっていったのだが、そこにはアイスを美味しそうに食べている沙弥の姿があった。妻からはご飯を食べる前にアイスを食べちゃダメだと怒られているのだけれど、義父が沙弥を一生懸命に庇っていた。僕も本当はアイスを食べたかったのだけれど、妻に怒られても義父は庇ってくれなそうだったのであきらめるのだ。でも、優しい沙弥は食べきれなかったアイスを僕にくれるのだ。義父も本当は沙弥からもらいたいのかもしれないけれど、僕は沙弥の父親なのだから当然食べ残しを貰う権利があるというものが。
晩御飯を食べ終わって洗い物をしていると、沙弥がいつものように今日あったことを妻と義父にも教えていた。何を言っているのかわからないこともまだあるのだけれど、それを聞いている義父も妻も楽しそうにしているのが離れて見ても手に取るようにわかっていた。
ただ、沙弥が描いた絵の話題になると義父はいつも何かを誤魔化してしまう。それは沙弥が描いた絵が何を表しているのかわからないからなのだとは思うのだけれど、沙弥の絵を見る時だけ祖父は普段は僕たちに見せ無い表情をしていた。どこかで見たことがある表情だとは思うのだけれど、思い出せない。もしかしたら、水瀬さんの家でお経を唱えている時にあんな表情をしていたような気もしていた。
「お義父さんにお願い事があるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
「将也君から頼み事とは珍しいね。あの時以来じゃないかな」
「そうかもしれないですね。それで、お願いっていうのが、桑原さんの娘さんの詩乃ちゃんの事なんですが」
「最近よく沙弥と遊んでくれる女の子かな?」
「はい、その詩乃ちゃんなんですが、家にいる時に誰かと話しているようなんですよ。それって、何か良くないことの兆候だったりするんですかね?」
「その話しているところを見ないと何とも言えないが、何度か姿は見たことがあるけど変なものが憑いているといった痕跡は無かったと思うよ。それに、そんなことがあったとしたら将也君に頼まれるよりも先に私か幸子が気付いて声をかけてると思うな。でも、そんなに心配だったら今度来た時に話を聞いてあげるから遠慮せずに言っていいからね」
「ありがとうございます。桑原さんはたぶん週明けに来ると思いますので、その時に時間があればお願いしますね」
良く考えてみると、お義父さんはこういう相談事は断ったりしないだろう。なんで断られるのかもしれないと思ったかというと、同級生とはいえ他の女性の頼みごとを引き受けたことが妻にとって嬉しいことではないような気がしていたからだ。困っている人を助けることは良いことだと言ってくれたけれど、その困っている人が大体女性なのは偶然なのだが妻は良い気はしていないのかもしれない。
桑原さんの心配が解決したら妻に何かプレゼントでも買ってあげようかと思ったけれど、そんな事をしたら余計に裏があるのではないかと怪しまれてしまいそうだ。よし、何となく妻が行きたがっていたカフェに誘ってみよう。あのカフェだったら小さい子供を連れていても問題無さそうだ。
「なあ、幸子。来週の水曜日か木曜日に車屋の隣のカフェに行ってみないか?」
「急にどうしたの?」
「この前タウン誌に載ってて気になってたんだ。小さい子供連れでも安心って書いてたからさ。幸子ってカフェ巡好きだろ?」
「好きだけど、何かやましいことでもしてるの?」
「そんなことあるわけないだろ。そうじゃなくて、たまにはそう言った場所に行ってみるのもいいんじゃないかなって思ってるだけだって」
「あ、桑原さんの事気にしてるでしょ。私は別に気にしてないから大丈夫だよ。将也君は隠れて何かするってことが出来ないタイプだし、その点は安心出来るかな。そうだな、でも将也君が誘ってくれるって珍しいし、沙弥も一緒なら朝から動物園に行ってカフェに行こうよ。沙弥も動物園にまた行きたいって言ってたし。ねえ、お父さん。来週の水曜日と木曜日に三人で遊びに行ってきてもいい?」
「来週は特に予定も入ってないから大丈夫だよ。将也君もずっとまともに休んでないんだから遠慮しないで良いからね」
別に悪いことをしたわけではないのだけれど、何となく説明しにくい。自分の事ならまだしも、水瀬さんと水瀬さんの家族に関わることなので僕の口から言って全てが正確に伝わることも無さそうだと思うので、僕はあの日の晩の事を聞かれても答えるつもりはなかった。
「詩乃なんだけど、昨日の夜はお風呂上りにまた誰かと話してたんだよね。私は自分の髪を乾かしていたんでそれに気付かなかったんだけど、主人が何か気味悪がっちゃってるんだよね。もしかしたら、詩乃に変なのが憑いてるんじゃないかって言うんだけど、見てもらえたりしないかな?」
「僕には見たりすることは出来ないんでお義父さんか妻に頼むことになると思うんだけど、今すぐには見てもらえるかわからないよ。一応、話はしてみるけど、どんな感じで話してるのかな?」
「私が見た時は話しているというよりも、何か喜んでいるように見えたのよ。詩乃って周りの子よりも言葉を話すのが遅かったんだけど、そういうのも関係あったりするのかな。そうそう、主人が言うには、日本語でも英語でもない聞いたことのない言葉を話してたって言うんだよね。それって、もしかして死後の世界の言葉だったりするのかな?」
「申し訳ないけど、僕は死後の世界でどんな言葉が使われているのかわからないんだよね。それも聞いてみるけど、桑原さんの期待に沿えるかわからないよ」
「期待なんてとんでもない。こうして話を聞いてもらえるだけでもありがたいよ。こんな話は誰にしたって神経質なおかしい人って思われるだけだもんね。私のお母さんも気にし過ぎだって言ってくるし、私も小さい時は何語を話しているのかわからなかったって言ってくるんだよ。ちょっとそれは失礼だよね。そうだ、今日はクリーニング屋さんに行かないといけないんだって。今日はこの辺で失礼するね。じゃあ、詩乃の話をよろしくお願いします」
詩乃ちゃんが帰っていく姿を見ると沙弥はいつも悲しそうな表情をしていた。初めてできたお友達と言ってもいい詩乃ちゃんと遊ぶのは楽しいのだろう。その分別れがつらそうなのだけれど、ご飯を食べるまで僕が詩乃ちゃんの代わりに遊んであげるので少しは機嫌も良くなるといいな。
「今日は詩乃ちゃんと何をして遊んでいたの?」
「お人形と絵」
「お人形で遊んだ後に絵を描いたの?」
「うーん、沙弥は絵」
「詩乃ちゃんがお人形で遊んでたの?」
「うん」
「二人で一緒に遊んでなかったの?」
「違うよ。遊んだよ」
「そうなんだ。楽しかった?」
「うん。いつも楽しい」
沙弥は水瀬さんの一件以来今まで以上に絵を描くのが好きになったみたいだった。ただ、子供の描く絵なのでその内容を正確に当てることは難しいのだが、人の絵を描くのは上手だと思う。何せ、僕の絵は髪が生えているのだけれど、お義父さんの絵は髪が生えていないのだ。そこでは区別がつくのだけれど、僕の妻と桑原さんの絵はどちらが妻なのか区別がつかないこともある。髪の長さも体型も似ているので仕方ないというところもあるのだが、不思議な事に妻はどっちが自分か正確に当てることが出来るのだ。僕がソレを外すと妻は少し不機嫌になってしまうので気を付けなればいけないのだ。
ご飯が出来るまでもう少し時間があるので先にお風呂に入ることにしたのだが、今日は珍しく沙弥が僕と一緒に入ると言ってきた。沙弥が誰と一緒にお風呂に入るのかは沙弥が気分で決めているのだが、僕が選ばれたのは水瀬さんの所に言った翌日以来だったと思う。
「今日はどうしてパパと一緒が良いの?」
「わかんない」
「わかんないのか。じゃあ、わからなくてもいいか」
妻も義父も熱めのお風呂を好むので沙弥もそっち方面に進んでしまうのかなと心配していたのだけれど、妻に聞いた話では一緒にお風呂に入る時はあまり湯船には浸かっていないそうだ。浴槽が結構深めに出来ているという事もあるのだろうが、沸かしながら入っているとお湯も上の方から熱くなるので沙弥には耐えられないのかもしれない。
そんな事を思いながらも、僕も妻と一緒にお風呂に張った時はのぼせる一歩手前だったという事を思い出していた。今では一緒に入ることなんて無いけれど、近いうちに旅行にでも行く機会があれば客室露天風呂付きの部屋でもとってみようかなと思案してみた。
沙弥の体を洗っていて気が付いたのだが、首の後ろの所が少しだけ煤のようなもので汚れいていた。石鹸を付けたタオルでこすると簡単に汚れが落ちたのだけれど、手も足も顔も煤なんてついていなかったので不思議に感じていた。
普通に煤が付くにしても手や足につくだろうし、顔にも髪にもそんなものがついている様子も見られなかった。もちろん、他の所にも付いてはいなかったので少し気になってしまっていた。もしかしたら、お風呂に入る前に妻が手や顔に付いた煤を落としたのかもしれないが、几帳面な妻が首に憑いている煤を見逃すとは思えなかった。お風呂に入る前は髪をお団子にしていたので首が見えないということも無いと思うのだけれど、それにしては首の後ろにだけ煤が付いているというのはおかしな話だった。
まあ、そんな事を考えても答えなんて見つからないと思うし、そんな事は気にせずにのんびりとお風呂を楽しむことにしよう。沙弥が背中を洗ってくれるのは嬉しいのだけれど、途中で飽きて背中を叩きだすのだけはやめて欲しいと思っていた。
お風呂上りに沙弥の髪を乾かしていると、脱衣所の窓から狐が庭を駆け抜けていくところが見えた。最近ではあまり見かけなかったのだけれど、山に餌が無くなってきたのだろうか。動物好きの沙弥が見つけてしまったら追いかけてしまうんだろうなと想像していた。動物に囲まれている沙弥も可愛らしいな。そう思っていると、髪が渇いた沙弥が脱衣所から出て台所へと消えていった。僕も自分の髪を乾かしているのだけれど、それほど長くはないので沙弥ほど時間はかからないのだった。
僕はそのまま茶の間へ向かっていったのだが、そこにはアイスを美味しそうに食べている沙弥の姿があった。妻からはご飯を食べる前にアイスを食べちゃダメだと怒られているのだけれど、義父が沙弥を一生懸命に庇っていた。僕も本当はアイスを食べたかったのだけれど、妻に怒られても義父は庇ってくれなそうだったのであきらめるのだ。でも、優しい沙弥は食べきれなかったアイスを僕にくれるのだ。義父も本当は沙弥からもらいたいのかもしれないけれど、僕は沙弥の父親なのだから当然食べ残しを貰う権利があるというものが。
晩御飯を食べ終わって洗い物をしていると、沙弥がいつものように今日あったことを妻と義父にも教えていた。何を言っているのかわからないこともまだあるのだけれど、それを聞いている義父も妻も楽しそうにしているのが離れて見ても手に取るようにわかっていた。
ただ、沙弥が描いた絵の話題になると義父はいつも何かを誤魔化してしまう。それは沙弥が描いた絵が何を表しているのかわからないからなのだとは思うのだけれど、沙弥の絵を見る時だけ祖父は普段は僕たちに見せ無い表情をしていた。どこかで見たことがある表情だとは思うのだけれど、思い出せない。もしかしたら、水瀬さんの家でお経を唱えている時にあんな表情をしていたような気もしていた。
「お義父さんにお願い事があるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
「将也君から頼み事とは珍しいね。あの時以来じゃないかな」
「そうかもしれないですね。それで、お願いっていうのが、桑原さんの娘さんの詩乃ちゃんの事なんですが」
「最近よく沙弥と遊んでくれる女の子かな?」
「はい、その詩乃ちゃんなんですが、家にいる時に誰かと話しているようなんですよ。それって、何か良くないことの兆候だったりするんですかね?」
「その話しているところを見ないと何とも言えないが、何度か姿は見たことがあるけど変なものが憑いているといった痕跡は無かったと思うよ。それに、そんなことがあったとしたら将也君に頼まれるよりも先に私か幸子が気付いて声をかけてると思うな。でも、そんなに心配だったら今度来た時に話を聞いてあげるから遠慮せずに言っていいからね」
「ありがとうございます。桑原さんはたぶん週明けに来ると思いますので、その時に時間があればお願いしますね」
良く考えてみると、お義父さんはこういう相談事は断ったりしないだろう。なんで断られるのかもしれないと思ったかというと、同級生とはいえ他の女性の頼みごとを引き受けたことが妻にとって嬉しいことではないような気がしていたからだ。困っている人を助けることは良いことだと言ってくれたけれど、その困っている人が大体女性なのは偶然なのだが妻は良い気はしていないのかもしれない。
桑原さんの心配が解決したら妻に何かプレゼントでも買ってあげようかと思ったけれど、そんな事をしたら余計に裏があるのではないかと怪しまれてしまいそうだ。よし、何となく妻が行きたがっていたカフェに誘ってみよう。あのカフェだったら小さい子供を連れていても問題無さそうだ。
「なあ、幸子。来週の水曜日か木曜日に車屋の隣のカフェに行ってみないか?」
「急にどうしたの?」
「この前タウン誌に載ってて気になってたんだ。小さい子供連れでも安心って書いてたからさ。幸子ってカフェ巡好きだろ?」
「好きだけど、何かやましいことでもしてるの?」
「そんなことあるわけないだろ。そうじゃなくて、たまにはそう言った場所に行ってみるのもいいんじゃないかなって思ってるだけだって」
「あ、桑原さんの事気にしてるでしょ。私は別に気にしてないから大丈夫だよ。将也君は隠れて何かするってことが出来ないタイプだし、その点は安心出来るかな。そうだな、でも将也君が誘ってくれるって珍しいし、沙弥も一緒なら朝から動物園に行ってカフェに行こうよ。沙弥も動物園にまた行きたいって言ってたし。ねえ、お父さん。来週の水曜日と木曜日に三人で遊びに行ってきてもいい?」
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