恨みっていうモノは案外些細な事で無くなるものらしい

釧路太郎

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桑原雪乃の章

最終話

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 詩乃ちゃんは相変わらず見えない誰かと遊んでいることが多かったようなのだが、桑原さん夫妻はそれについて気味悪がることも無くなっていた。今ではそれも詩乃ちゃんの個性だと思うようになったようだ。
 沙弥と詩乃ちゃんが遊んでいる時は相変わらず各々が好きな事をやっているようなのだけれど、お互いにそれで楽しそうなのであまり変な横やりを入れないようにしていた。

「小野君に相談してみて良かったと思うよ。あのままずっと気にしてたら主人と言い合いになってどうなってたかわからないもんね。私が主人に気持ちを伝えることが出来たのも住職様のお陰だし、主人もそれをちゃんと理解してくれたのよ。話せばわかってくれる人だって忘れてたんだけど、もう少し早く相談しておけば良かったなって思うよ」

 桑原さんはスッキリした表情で僕にそう言うと隣でお菓子を食べている詩乃ちゃんの頭を撫でた。詩乃ちゃんは頭を撫でられて嬉しそうにしていたのだが、それを見た沙弥も頭を撫でて欲しそうに僕を見ていた。僕はそんな沙弥を愛おしく思って頭を優しく撫でた。沙弥はとても幸せそうな顔で僕の手の動きと同じように頭を動かしていた。

「私の主人もね。ちょっと思うところがあって色々と相談していたみたいなんだよ。それがね、全くの偶然だと思うんだけど、主人が相談していた相手っていうのが鵜崎さんだったんだよ。私はあんまり鵜崎さんと話したことなかったんで知らなかったんだけど、鵜崎さんってそっちの世界では有名な人みたいだね。教会に住んでたんだからそう言うのもあるんだろうなって思ってたんだけど、主人の話では無償で相談に乗ってくれる良い人だって。美緒の時もお礼を受け取らなかったって言うし、主人と私でお礼を言いに行った時も何も受け取ってもらえなかったんだよね。でもさ、どうして無償で相談に乗ってくれたんだろうね。私と鵜崎さんって全然仲が良いって感じじゃなかったのにな」
「僕も鵜崎さんの事は全然知らないんだけどさ、水瀬さんの所でちょっとあった時も解決した後にお礼を渡されても受け取らなかったんだよね。僕が水瀬さんの代理で渡そうとした時も受け取ってくれなかったし、自分が望む物以外は何も受け取らないって言ってたんだよ」
「そうなんだ。でも、お金っていくらあっても困ることは無いと思うんだし、受け取って貰えた方がこっちとしては助かるんだけどな。そう言えば、小野君のお義父さんも受け取ってくれなかったよね。それも鵜崎さんと同じ理由なの?」
「さあ、それはどうなんだろうね。でも、お義父さんは言ってたけど、詩乃ちゃんは沙弥と仲良くしてくれているから特別だって思ってるんじゃないかな。それに、何かをしたってわけでもなく、ただどういうモノなのか見たってだけだからね。何かを使ったとかそう言うことも無いし、普通に日常会話をしたって感覚なのかもよ。そんなのでお礼とかもらっても困るだけだと思うからね」
「そう思ってもらえたなら良いんだけどね。もしかしてさ、鵜崎さんって私達にはわからない事を解決してくれる正義の味方なのかもね。美緒の時も詩乃の事での悩みも無償で助けてくれるヒーローなのかも」

 鵜崎さんがヒーローなのかはわからないけれど、水瀬さんが元の生活に戻れたのは鵜崎さんの力が大きいだろう。義父と妻も手を貸したことには変わりないのだが、二人の話によると鵜崎さんのサポートというよりも鵜崎さんが来るまでの時間稼ぎしかしていなかったという事だった。見ていただけの僕が言うのも何なのだが、二人がいなければ水瀬さん家族は三人とも憑りつかれていたように思える。少なくとも、旦那さんが助かっていたのは妻と義父の力によるところが大きいのではないだろうか。
 桑原さんが水瀬さんの件をどこまで知っているのかわからないので迂闊な事は言えないのだが、少なくとも水瀬家が助かったという意味では鵜崎さんだけの力ではないような気もする。だからと言って、僕は二人の功績について吹聴することは無いのだが、もう少し義父と妻も称えられてもいいのではないかと思っていた。二人がそれを望んでいるとは思えないのだけれど、僕はもう少し感謝されてもいいような気がしてた。

「でも、鵜崎さんにお礼を言おうって思ってるんだけど、主人の相談に乗ってもらってから全然姿を見かけなくなったのよね。前はあんなに頻繁に見かけていたのにさ、変な話だよね」
「まあ、鵜崎さんも忙しいみたいだし、どこか別の町にでも行ってるんじゃないかな」
「そうなのよね。それでね、鵜崎さんが代表をしているところに電話をしてみたんだけど、そこにも鵜崎さんは出かけているって言われたんだ。一応高校の同級生ですって伝えて連絡が取れる時に教えて欲しいって言ったんだけど、いつになる変わらないからそれは出来ないって言われたんだよ。同級生の桑原ですって言ったら理解してくれていたみたいなんで鵜崎さんも私達の事は言ってたみたいなんだけど、それって私達の事を気にかけていてくれたって事だよね?」
「そうなのかもね。鵜崎さんってあんまりそんな風には見えなかったけど、繋がりを大切にするタイプなのかもね。三年間一緒に勉強した仲ってのもあるかもしれないしね」
「主人とも話してたんだけどさ、もっと鵜崎さんと仲良くしておけば良かったなって思ってるよ。変な意味じゃなくてさ、そう言うのが見える人って興味あるじゃない。私も主人もそう言う話は好きなんだけど、今までどこに行ってもそう言うのを見たことが無いんだよね。怖い話とか見たり聞いたりするのは好きなんだけど、見えないからこそ興味があるって言うか、見える人ってそう言うのが怖くなかったりするのかな?」
「どうなんだろうね。僕も桑原さんと一緒で見えない側の人間だからそこのところはわからないけど、見えるからって怖くないとか見えるから怖いってのはあるのかもしれないよ。見えるって言ったって僕がこうして桑原さんを見ているみたいにハッキリ見えるってわけでもないみたいだし、ぼんやりとしか見えないってのもあるみたいなんだ。それってさ、中途半端に見えることで余計に不気味に感じたりするんじゃないかな」
「そう言われたらそうかも。ハッキリ見えるのと何も見えないのよりも何かいるような気がするけどハッキリ見えないって状況が一番怖いかも。それと、主人が鵜崎さんから言われたことで小野君に相談があるんだけどいいかな?」
「どんな事かな?」
「主人が言うにはね、お寺とか神社の関係者で懇意にしている人がいればその人の近くで詩乃を遊ばせておくとより守られる力が強くなるんだって。だからさ、今まで見たいに時々遊びに来てもいいかな?」
「それが無くても遊びに来てくれてかまわないよ。沙弥も詩乃ちゃんと遊べて楽しそうだし、沙弥と詩乃ちゃんも一緒に入れて嬉しそうだもんね」
「でも、一緒の幼稚園には行けないと思うんだよね。私は正直どこの幼稚園でもいいと思ってたんだけどね、お義母さんが大学付属の幼稚園に入れたいって言ってるんだよ。ウチにはそんなお金はないって言ってるんだけど、大学卒業までの学費は全部払ってくれるって言ってるし、幼稚園受験に合格出来たらそうなるのも詩乃の為にはいいんじゃないかなって思うんだ。それってさ、詩乃にとって良いことなのかな?」
「今の詩乃ちゃんに聞いてもわからないと思うけど、桑原さんがその方が良いって思うんだったら詩乃ちゃんにとってはそれもいいんじゃないかな。今はまだわからないけど、そっちの方が将来の選択肢も増えると思うよ」
「まだ合格もしていないのに気が早いとは思うんだけど、やっぱりそうなんだよね。私も詩乃のためにパートをして少しでもお金を貯めようかなって思ってるんだ。少しずつでもためておけば困った時の役には立つだろうしね。ねえ、沙弥ちゃんも付属の受験一緒にしてみない?」
「それは出来ないと思うよ。ウチはそれほど裕福じゃないからさ。幼稚園受験だけでも一杯一杯だと思うな。でも、協力出来ることがあったら言ってくれたら力にはなるよ。何が出来るのかわからないけどさ」
「ありがとう。勉強とかは受験対策とかは私にはわからないけど、詩乃が寂しそうにしてたらよろしくね。じゃあ、今日はこれくらいで失礼させてもらうね。今日もありがとうね」

 桑原さんは幸子に頭を下げてから詩乃ちゃんの手を引いて帰っていった。詩乃ちゃんは何度も沙弥に手を振っていた。それに応えるように沙弥も詩乃ちゃんに向かって手を振っていたのだ。二人が乗った車が見えなくなるまで沙弥は手を振っていたのだけれど、車が見えなくなった途端にクレヨンをもって再び絵を描き始めた。

「桑原さんの悩みが解決したみたいだよ。お義父さんに相談して良かったって言ってたよ」
「それなら良かった。その割には深刻そうな顔をしてたように見えたけど」
「それなんだけどさ、詩乃ちゃんが付属幼稚園の受験をするらしいよ。今度はそっちで悩んでるってさ。こればっかりは幸子もお義父さんもどうすることも出来ないよね」
「付属か。あそこは色々と大変そうだもんね。でも、桑原さんのお宅ってそんなに裕福だったんだね」
「桑原さんの旦那さんの実家が援助してくれるって話しみたいだよ。詩乃ちゃんが合格したら沙弥と同じ学校に通うってことも無いんだろうね。受験するなら合格して欲しいなって思うけど、せっかく出来た友達と離れ離れになるってのは寂しいもんだよね」
「そうかもしれないけどさ、まだ沙弥も詩乃ちゃんも小さいんだし他にも友達っていっぱいできると思うよ」
「そうなんだけどさ、それとは違ってなんかこう、特別なものを感じるって友達はもう出来ないんじゃないかなって思うんだよ。僕には全く気付かなかったけど、僕にとっての幸子みたいな存在かな」
「それって、私が見えるからって意味?」
「それもあるんだけどさ、それが無くても特別だよ。好きになった時からずっと見える人だって知らなかったしね。知っても怖いって思うよりも凄いなって素直に感心したもん。正直に言うとさ、水瀬さんの時に鵜崎さんを見て怖いなって少し思ったからね」
「まあ、鵜崎さんの力は私から見てもちょっと凄すぎるなって思ったよ。今まで見た人の中でも一番凄いなって思ったかもしれないもん。理香ちゃんに憑いてたのをあんなに簡単にどうにかしちゃうなんて凄すぎるよね」
「見えない僕にも解決したんだなってのがわかったくらいだからね。ああいうのって撮影しても良かったのかな?」
「まあ、よくは無いと思うよ。個人的に学びたいって思うんだったら悪くはないのかもしれないけど、鵜崎さんだけじゃなくて相手の事も考えないといけないしね。あの時だったら、理香ちゃんがそれを見られてどう思うかって考えないといけない事だし、そうなると撮影するのって良くないんじゃないかなって思うんだよね」
「そう考えると難しいね。あれ、沙弥はお絵かき終わったの?」

 沙弥は描き終えた絵を僕たちに見せつけるようにして前に立っていた。その絵には沙弥と詩乃ちゃんが描かれているのだが、その隣にはおそらく僕と桑原さんが立っていた。先ほどの事を描いていたのだろう。ただ、少し離れたところに幸子も描かれていたのだった。

「あ、ママの事も描いてくれてたんだ。ありがとうね」
「これママじゃないよ?」
「でも、これは沙弥でこれは詩乃ちゃんでしょ?」
「うん」
「これはパパでこっちは詩乃ちゃんママじゃないの?」
「そう」
「じゃあ、これはママなんじゃないの?」
「違うよ」
「違うの?」
「うん」
「じゃあ、これは?」
「これは、おねえちゃん」
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