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おパンツ戦争
第74話 森の熊さん
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四十尺もある熊と対峙した工藤太郎はいたって冷静であった。
冷静になれている要因としては、四十尺程度と体が大きいと言っても過去に動物園で見たヒグマと基本的な姿形は変わらない。それなので未知の生物という感覚が無かったというのが大きいだろう。
「太郎さん。森の番人が出ました。俺がこの熊さんを何とか抑えるので太郎さんは逃げてください」
「大丈夫。そんなに怯えなくても問題ないよ。この程度だったら俺でも何とか出来るから。とりあえず、話が通じるか試してみるかな」
「熊さんは動物だから言葉は通じないですよ。俺たちと違って動物は言葉を使えないです。殴りあっても意思の疎通は出来なかったし、熊さんに言葉は通じないと思います」
「そんな事無いって。何でも試す前から否定するのは良くないよ。ここはいったん俺に任せて君は離れたところで見守っていてよ」
「ダメです。俺が囮になれば多少は時間も稼げます。優しい太郎さんを騙そうとした俺に罰をください。だから、俺がここで太郎さんを守ります」
「そんなこと気にするなって。それに、そんなに震えてるようじゃ誰も守れないよ」
工藤太郎は若者の方をポンと叩くとそのまま熊の正面に立った。
目の前に立っている工藤太郎を威嚇するためか熊は両手を高く上げて立ち上がったのだが、その姿を見た工藤太郎は地球で暮らしていた家よりも大きいのではないかと思っていた。宇宙の知らない星を転々とする生活が続いていた工藤太郎はこのタイミングで少しだけホームシックになりかけたのだが、目の前にそびえたつ熊の振り下ろした左手が顔面を直撃したことで我に返った。
「太郎さんごめんなさい。俺がこんな場所まで連れてきてしまったせいでごめんなさい。今はすぐに助けは来ないけど、太郎さんの死体だけは回収しますから」
若者は熊の攻撃が工藤太郎に当たる瞬間を見ることが出来ずに目をつぶって手を合わせていた。この星に神様がいるのかは定かではないが、若者の中に無意識のうちに存在していた信仰心が自然と手を合わせさせていたのかもしれない。
目を閉じていた若者に聞こえてきたのは工藤太郎の断末魔でも血しぶきの音でも熊が工藤太郎を食べる音でもなかった。
「俺を勝手に殺すのはやめてもらってもいいかな」
工藤太郎の声を聞いた若者は固く閉じていた目を開けて目の前の光景を見て驚愕していた。
熊の振り下ろした左手は確実に工藤太郎の顔を捉えていたのだが、顔に当たった左手を工藤太郎が右手一本で押さえていた。おそらく、工藤太郎の顔面に熊の左手が当たった後に右手で押さえているのだと思うが、あの巨体から繰り出された一撃を全く微動だにせずに受けるという事を理解出来ずにいた。
「あの、熊さんの攻撃を受け止めたんですか?」
「受け止めたっていうわけでもないんだけどね。この程度の力なら耐える必要も無いってだけの話だよ」
「ちょっと待ってください。太郎さんは俺たちの攻撃を受けてる時はもっとダメージがあるみたいに見えたんですけど、なんで熊さんの攻撃はそんなに普通に受けられるんですか?」
「何でだろうね。俺も良くわかってないんだけど、ある程度のダメージを超えると防衛本能が働いて攻撃を無効化してしまうのかもしれないな。ただ、それにも限度はあって強すぎる力は無効化出来ないんだけどね。イザーちゃんの攻撃はバシバシ効いていたし、強さは全くないのに珠希ちゃんの攻撃も痛かったからね」
「よくわからないけど、太郎さんって凄いです。すごくすごいです。熊さんも戸惑っているのがわかるくらいに凄いです」
工藤太郎は自分の顔に触れている熊の手を掴んでゆっくりと顔から離すと、そのまま熊を右手一本で持ち上げていた。
もちろん熊はそれに対して抵抗をしているのだけれど、そんな事をお構いなしに工藤太郎は右手一本で熊の体を持ち上げて話しかけていた。
「言葉が通じるとは思えないけど一応警告はしておくよ。俺に対して殺意を向けるのは一度だけにしておいてほしいな。一度だけだったら間違いで済ますことも出来るんだけど、二度目ともなると見過ごすことは出来ないんだ。言葉は通じなくても俺の言いたいことはわかってくれると思うって信じてるよ。だから、俺がお前から手を離しても無駄なことはしないでほしいな」
工藤太郎の言葉を聞いた熊は次第に抵抗することをやめていて、その言葉に聞き入っているようだった。
すっかり大人しくなった熊を地面に下ろした工藤太郎をじっと見つめた熊は頭を低くして地面に顔をこすりつけ、何かを懇願するような目で工藤太郎を見つめていた。
体は以上に大きいのに行動が人に飼われている動物のようだと思った工藤太郎は思わず熊の頭を撫でようとしたのだが、当然頭も大きいので標準体型の工藤太郎はどんなに手を伸ばしても熊の頭を撫でることは出来なかった。
熊は甘えていて構って欲しいような顔をしているように見えた工藤太郎なのだが、すぐ隣で見ていた若者は熊が死を受け入れてると感じていると思っていたのだ。
「うちの若い衆が迷惑をかけてしまったみたいで申し訳ないね。でも、ここいらはあたしらの縄張りだって知ってて入ってきたのかい?」
突然現れた全裸の女性を見て若者は熊が出た時以上に警戒していた。
工藤太郎は何でこの女は服を着ていないのだろうと思っていたのだが、あまりにも自然に登場していたことでこの女性が言葉を話せるという事に対して違和感が無かったのであった。
冷静になれている要因としては、四十尺程度と体が大きいと言っても過去に動物園で見たヒグマと基本的な姿形は変わらない。それなので未知の生物という感覚が無かったというのが大きいだろう。
「太郎さん。森の番人が出ました。俺がこの熊さんを何とか抑えるので太郎さんは逃げてください」
「大丈夫。そんなに怯えなくても問題ないよ。この程度だったら俺でも何とか出来るから。とりあえず、話が通じるか試してみるかな」
「熊さんは動物だから言葉は通じないですよ。俺たちと違って動物は言葉を使えないです。殴りあっても意思の疎通は出来なかったし、熊さんに言葉は通じないと思います」
「そんな事無いって。何でも試す前から否定するのは良くないよ。ここはいったん俺に任せて君は離れたところで見守っていてよ」
「ダメです。俺が囮になれば多少は時間も稼げます。優しい太郎さんを騙そうとした俺に罰をください。だから、俺がここで太郎さんを守ります」
「そんなこと気にするなって。それに、そんなに震えてるようじゃ誰も守れないよ」
工藤太郎は若者の方をポンと叩くとそのまま熊の正面に立った。
目の前に立っている工藤太郎を威嚇するためか熊は両手を高く上げて立ち上がったのだが、その姿を見た工藤太郎は地球で暮らしていた家よりも大きいのではないかと思っていた。宇宙の知らない星を転々とする生活が続いていた工藤太郎はこのタイミングで少しだけホームシックになりかけたのだが、目の前にそびえたつ熊の振り下ろした左手が顔面を直撃したことで我に返った。
「太郎さんごめんなさい。俺がこんな場所まで連れてきてしまったせいでごめんなさい。今はすぐに助けは来ないけど、太郎さんの死体だけは回収しますから」
若者は熊の攻撃が工藤太郎に当たる瞬間を見ることが出来ずに目をつぶって手を合わせていた。この星に神様がいるのかは定かではないが、若者の中に無意識のうちに存在していた信仰心が自然と手を合わせさせていたのかもしれない。
目を閉じていた若者に聞こえてきたのは工藤太郎の断末魔でも血しぶきの音でも熊が工藤太郎を食べる音でもなかった。
「俺を勝手に殺すのはやめてもらってもいいかな」
工藤太郎の声を聞いた若者は固く閉じていた目を開けて目の前の光景を見て驚愕していた。
熊の振り下ろした左手は確実に工藤太郎の顔を捉えていたのだが、顔に当たった左手を工藤太郎が右手一本で押さえていた。おそらく、工藤太郎の顔面に熊の左手が当たった後に右手で押さえているのだと思うが、あの巨体から繰り出された一撃を全く微動だにせずに受けるという事を理解出来ずにいた。
「あの、熊さんの攻撃を受け止めたんですか?」
「受け止めたっていうわけでもないんだけどね。この程度の力なら耐える必要も無いってだけの話だよ」
「ちょっと待ってください。太郎さんは俺たちの攻撃を受けてる時はもっとダメージがあるみたいに見えたんですけど、なんで熊さんの攻撃はそんなに普通に受けられるんですか?」
「何でだろうね。俺も良くわかってないんだけど、ある程度のダメージを超えると防衛本能が働いて攻撃を無効化してしまうのかもしれないな。ただ、それにも限度はあって強すぎる力は無効化出来ないんだけどね。イザーちゃんの攻撃はバシバシ効いていたし、強さは全くないのに珠希ちゃんの攻撃も痛かったからね」
「よくわからないけど、太郎さんって凄いです。すごくすごいです。熊さんも戸惑っているのがわかるくらいに凄いです」
工藤太郎は自分の顔に触れている熊の手を掴んでゆっくりと顔から離すと、そのまま熊を右手一本で持ち上げていた。
もちろん熊はそれに対して抵抗をしているのだけれど、そんな事をお構いなしに工藤太郎は右手一本で熊の体を持ち上げて話しかけていた。
「言葉が通じるとは思えないけど一応警告はしておくよ。俺に対して殺意を向けるのは一度だけにしておいてほしいな。一度だけだったら間違いで済ますことも出来るんだけど、二度目ともなると見過ごすことは出来ないんだ。言葉は通じなくても俺の言いたいことはわかってくれると思うって信じてるよ。だから、俺がお前から手を離しても無駄なことはしないでほしいな」
工藤太郎の言葉を聞いた熊は次第に抵抗することをやめていて、その言葉に聞き入っているようだった。
すっかり大人しくなった熊を地面に下ろした工藤太郎をじっと見つめた熊は頭を低くして地面に顔をこすりつけ、何かを懇願するような目で工藤太郎を見つめていた。
体は以上に大きいのに行動が人に飼われている動物のようだと思った工藤太郎は思わず熊の頭を撫でようとしたのだが、当然頭も大きいので標準体型の工藤太郎はどんなに手を伸ばしても熊の頭を撫でることは出来なかった。
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「うちの若い衆が迷惑をかけてしまったみたいで申し訳ないね。でも、ここいらはあたしらの縄張りだって知ってて入ってきたのかい?」
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