じばく男と肉欲処女

釧路太郎

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淫欲八姫

第35話 どうか、最後まで抵抗してくださいね。

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 あの大男がいた公園に着いた俺はアスモちゃんがやって来るのを待っていた。
 時間の指定が無かったので準備が出来次第やってきたわけだが、誰もいないところを見ると来るのが早すぎたようだ。もう少しゆっくりしておけばよかったと思っていたけれど、ここに来てしまった以上戻るのも面倒だ。

 一人で遊具で遊ぶわけにもいかず、ベンチに座ってアスモちゃんがやって来るのを待っていたのだけれど、待てど暮らせど一向にやってくる気配はなく待ちぼうけをくらっていた。
 この時間に何かできる事は無いかと考えていたが、特に何も持ってきていなかったので俺は待つことしか出来なかった。
 少し曇り気味だったこともあって日差しはきつくなかったのがせめてもの救いなのだが、誰も通らないこの場所は一人で待つには寂しすぎると感じていた。誰もいないこともあって、少し肌寒いようにも思えていたのだ。

「ごめんごめん、ちょっと遅くなっちゃった。“まーくん”は結構待ったのかな?」
「そんなに待ってないと思うよ。ここに来てから一時間半くらいしか経ってないと思うし」
「ありゃ、結構待たせちゃったね。でも、安心していいからね。“まーくん”を鍛えるためにちょうど良さそうな人を見つけてきたよ。その辺にいた殺し屋を捕まえて協力してもらう事になったんだ。オレと違って手加減とかしてくれないと思うけど、“まーくん”なら大丈夫だと思うよ」

「その辺にいた殺し屋?」

 聞きなれないワードに理解が追い付かなかったが、アスモちゃんが連れてきたのは殺し屋らしい。しかも、その辺にいて気軽に協力してもらえるそうだ。この世界の殺し屋というのは案外フレンドリーなのかもしれない。
 そんな風に思っていたのだけれど、アスモちゃんが連れてきた殺し屋の目はとてもフレンドリーな感じには見えなかった。
 ちょっと目が合うのも避けたいと思ってしまう感じで俺の事を見ているのだが、どんなに顔を見ようとしても目が合う事は無かった。ただ、アスモちゃんの時とは違う殺気は感じていた。

「あっしはお兄さんの事を殺せばいいって伺ってるんですが、本当に殺しちゃってもよろしいのですか?」
「全然平気だよ。“まーくん”は君ごときじゃ殺せないと思うからね。だって、オレの殺気を受けても意識を保ってたんだよ」
「それはマジですか? あんなに恐ろしいものを浴びても平気だなんて、ちょっと尊敬しますよ。でも、こんな言い方をしては失礼かもしれませんが、このお兄さんはどこからどう見てもあっしらとは違う世界の人のようですが?」
「そうなのさ。“まーくん”は文字通り別の世界からやってきたんだよ。君が言いたいのはそういう事じゃないってわかってるけど、二つの意味で別の世界で生きている人って事だからね」

「なるほど。普通の人間じゃないとは思ってたんですが、そういう事だったんですね。じゃあ、あっしも久しぶりに本気を出せるってもんですよ。このお兄さんはアスモちゃんと違って反撃もしてこなさそうですし、あっしなりに精一杯務めさせていただきますね。ご覚悟はよろしいでしょうか?」

 ご覚悟はよろしいでしょうかと言われたところで覚悟なんて出来ているわけはない。この殺し屋は俺の事を殺すと息巻いているのだが、なぜかアスモちゃんはその事を止めようとせずにすすめていた。俺みたいな戦いに関して何も出来ない素人が本物の殺し屋を相手に何か出来るはずもなく、あっさりと殺される未来しか見えないのだ。
 ただ、この殺し屋は俺の同意を待っているのか全く動こうとはせず、ただじっと俺の足元を見ていた。
 もしかしたら、殺し屋は恥ずかしがり屋で人の顔を見れないタイプなのかもしれない。俺も小さい時にそんな経験があったので気持ちはわかるな。

「覚悟ってやつは出来てないんだけど、このまま殺されるのはちょっと嫌なんだけど」
「そう言われましても、あっしにはどうする事も出来ませんよ。アスモちゃんからお兄さんを殺すための代金は頂いてますし、今更返せと言われても困りますよ」
「じゃあ、迷惑料って事でそれを貰って帰ってもらうってのはどうかな?」
「そんな事出来るわけないじゃないですか。あっしの殺し屋としてのメンツが潰れちゃいますよ。金だけ頂いて殺さずに帰るなんて、殺し屋としての信用も無くなっちゃいますからね。もしもそうなったとしたら、あっしはこの世界で生きていくことが出来ずに殺し屋を廃業しないといけなくなっちゃいますよ」

「殺し屋なんて大変な仕事はやめて他にいい仕事を見つけた方が良いんじゃないかな。きっといい仕事が見つかるよ」
「そうだといいんですがね。生憎とあっしは不器用なもので、人を殺すことしか出来ないんですよ。なので、人殺しを生業としてやっていくしか道は無いって事でして」

 さっきまで一度も目が合わなかったのに、こうして話をしている時は俺の目を真っすぐに見つめてきていた。まったく感情を感じられない空虚な印象を受けていたが、その目を見ても恐ろしいとは思えなかった。

「お兄さんには何の恨みもありませんが、代金を頂いた以上は命を頂戴いたします。どうか、最後まで抵抗してくださいね」

 俺が同意していないのに近寄ってくる殺し屋に一瞬たじろいだのだが、アスモちゃんに向けられた時と違って殺されてしまうという感覚はなかった。
 もしかしたら、この殺し屋は本当は殺し屋ではないのではないかという考えもあったのだけれど、それは俺が状況を正しく判断していないだけだったのだ。

 殺し屋というのは、相手に殺意を向け無いものなのかもしれない。
 そんな事を考えていたところ、殺し屋は俺のお腹を撫でるように触るとお腹の中から何かがゆっくりと出てきた。何が出ているのだろうと視線を下に移すと、今まで見たことのない何かが俺の体から飛び出していた。
 痛いと感じることもないまま俺は自分の内臓が腹から出ているのを目撃していたことになるのだ。
 何の感覚もなくただされるがままにいた俺ではあったが、不思議と気分は悪くなかった。
 この気持ちが何なのか説明は出来ないのだけれど、このままだと俺は死んでしまうという事だけは理解出来ていた。

 初めて見る自分の内臓は思っていたよりも鮮やかな色をしていたのだ。とても鮮やかな色をしていると思って見たのだがけれど、俺の内臓は少しずつ色味を失っていって、色を感じなくなっていった。
 自分のお腹を見ていたはずの俺はいつの間にか空を見上げていた。お腹を見ようとしても俺は顔を動かすことが出来なくなっていた。
 水の中にいるような感覚に包まれていき、少しずつ暗闇に包まれていったところまでは覚えているのだが、何が起こっているのか自分でもわからなくなっていた。
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