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先生とうまなちゃん
第2話 先生のお願いも聞いてあげるからね。
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色々な生徒がいるのは当然だとして、中には良くない噂を聞く生徒もいるのだ。
俺の受け持っているクラスにそんな生徒はいないだろうと高をくくってはいたのだが、休日に立ち寄ったファストフード店でとんでもない噂を耳にしてしまった。
「零楼館高校の生徒会長は夜の方も凄いらしい。夢のような時間を過ごさせてくれるんだって。それを経験した人はみんな忘れられない夜になるんだってさ」
「それって一晩限りの契約ってやつだろ。俺も金さえあればやってみたいんだけどな。高校生のバイトじゃそんなに稼げないもんな」
「だよな。俺ももう少し勉強して零楼館に入ってれば同級生割引とかで安くしてもらえたのかもしれないんだよな」
「俺たちの頭じゃどんなに頑張っても無理だろ。無理無理」
零楼館高校の生徒会長である栗宮院うまなは俺の受け持つクラスの生徒で、彼女は成績も優秀でスポーツも万能で性格も良く誰からも好かれるような非の打ち所がない人物だ。
彼女の事を悪く言う人も中には何人か見たことがあるが、不思議なことに彼女と接したものは皆妬みや嫉みと言った負の感情が無くなり、友好的な関係を築いていく。教師の間でも彼女の事を尊敬する者は多く、一人として彼女の事を悪く言っている者はいなかった。
そんな彼女の噂は色々と聞くこともあったのだが、あの男子生徒が言っているようなよろしくない話を聞いたのは初めてだった。
栗宮院うまなの噂を詳しく聞きたいと思ってはいたが、全く面識のない他校の生徒にそんな事を聞けるはずもなく、俺はぬるくなったコーヒーを飲む手を止めて聞き耳を立てていた。
完全に冷め切ったコーヒーを飲む気にはなれなかったのだが、いつまでもこの席を使用するのも気が引けてしまい、俺は半分ほど残ったコーヒーを一息で飲み干した。
残念だという気持ちはあるのだが、少しほっとしたというのも正直な感想だった。
栗宮院うまなは他校の生徒たちにも我々同様に認知されているようで、最初に俺が考えていたような事ではなかったとすぐに否定されていた。一人の男子が執拗にその事を聞いていたのだが、他の生徒たちはソレを完全に否定していたのは意外だった。
アレくらいの年代であればそう言う事にも興味を持つのが当たり前のようにも思えるのだが、我が校の一部の教師にも見られるような崇拝にも似ている感情を抱いているように見えた。聞いている限りでは、あの男子生徒たちと栗宮院うまなに全くの面識はないようなのだが、そのような関係性でもあそこまで慕われるという事に栗宮院うまなの凄さを感じてしまった。
ただ、そうなってくると、栗宮院うまなの何が凄いのかという事が気になってしまい、俺は彼らが席を立つまで聞き耳を立てていたのだが、その肝心の内容については誰も知らないらしく、最後までどのようなことが行われていたのか知ることは出来なかった。
このまま真っすぐ家に帰る気にはなれず、適当に買い物でもして帰ろうかと立ち寄ったスーパーで値引きシールが貼られている総菜を選んでいると、聞き慣れた声が聞こえてきて思わずそちらを振り向いていた。
「あ、先生こんばんは。ソレを見てるってことは、先生はお料理とかしない感じですか?」
「こんばんは。料理はするんだけど、今日は出来合いの物でいいかなって思ってね。栗宮院さんはこの辺に住んでるんだっけ?」
「違いますよ。ここにはちょっと買い物をしに寄っただけなんです。この時間帯にスーパーってきたことが無かったんで、どんなものが売ってるのかなって興味もあったんですけどね。先生の持っているソレって、半額ってやつですか?」
俺の手に取った半額の白身魚のフライを目を輝かせてみている彼女は珍しいものを見つけた時の子供のように見えた。
彼女からしてみたら半額になっている総菜は初めて見る物なのかもしれない。そもそも、彼女がこのような出来合いの物を見ることはほとんどないだろうし、実際に食べたこともないのかもしれないな。
彼女の父親はいくつもの会社を経営しているし、彼女の母親は零楼館高校の理事長でもあるのだ。そんな彼女がスーパーにいるのも意外に思えるのだが、制服を着ているのだから違和感もなく周囲に溶け込んではいるのだ。
それよりも気になったのは、俺は確かに彼女が誰かと話をしているのを聞いた。それなのに、彼女の近くには誰もいない。もちろん、隠れる場所なんてどこにもないのだ。
「栗宮院さんは何を買いに来たのかな?」
「えっと、日本酒を買いに来たんですけど、未成年には売れないって言われちゃって買えなかったんです。あ、別に私が飲むとかじゃないんですよ。でも、どうしても今晩必要だったんでどうしようかなって思ってて。家に帰れば日本酒くらいあると思うんですけど、今から家に帰ると間に合わないかもしれないんですよね」
「今晩必要って、誰かにおつかいを頼まれたの?」
「おつかいというとちょっと違うかもしれないんですけど……」
「そう言えば、今まで誰かと一緒に話をしてなかったかな? 先生はこんな場所で栗宮院さんの話声が聞こえて思わず振り向いたんだけど、君は今一人だよね? 誰かと一緒だったんじゃないの?」
「あ、声に出ちゃってました? 恥ずかしいな。私って時々独り言を言っちゃうみたいなんですよ。普段は気を付けているんですけど、ここには私の事を知っている人もいないと思って油断しちゃったかも。内緒にしてくださいね」
「そう言う事ならいいんだけど、日本酒を買うのは諦めなさい。未成年は買えないんだからね」
あの男子生徒の話を聞いた直後に彼女に遭遇したので思わず警戒してしまったが、俺が心配してしまうようなことはなさそうで安心した。
確かに彼女が誰かと話をしている声を聴いたのだけれど、彼女と話をしている誰かの声は聴いていなかったような気もする。本当に独り言を言っていただけなのかもしれない。
俺はそう思う事にした。
いや、そう思いたいと願っていたのかもしれない。
「あの、先生にお願いがあるんですけど。ちょっとだけ私のお願いを聞いてもらってもいいですか?」
「お酒なら買わないよ。俺は教師なんだし、君なら俺がそんなこと出来ないってわかるよね?」
「それはわかってるんですけど、お願いします。私も先生のお願いを聞いてあげるからね。今晩だけでいいからお願いします」
俺の受け持っているクラスにそんな生徒はいないだろうと高をくくってはいたのだが、休日に立ち寄ったファストフード店でとんでもない噂を耳にしてしまった。
「零楼館高校の生徒会長は夜の方も凄いらしい。夢のような時間を過ごさせてくれるんだって。それを経験した人はみんな忘れられない夜になるんだってさ」
「それって一晩限りの契約ってやつだろ。俺も金さえあればやってみたいんだけどな。高校生のバイトじゃそんなに稼げないもんな」
「だよな。俺ももう少し勉強して零楼館に入ってれば同級生割引とかで安くしてもらえたのかもしれないんだよな」
「俺たちの頭じゃどんなに頑張っても無理だろ。無理無理」
零楼館高校の生徒会長である栗宮院うまなは俺の受け持つクラスの生徒で、彼女は成績も優秀でスポーツも万能で性格も良く誰からも好かれるような非の打ち所がない人物だ。
彼女の事を悪く言う人も中には何人か見たことがあるが、不思議なことに彼女と接したものは皆妬みや嫉みと言った負の感情が無くなり、友好的な関係を築いていく。教師の間でも彼女の事を尊敬する者は多く、一人として彼女の事を悪く言っている者はいなかった。
そんな彼女の噂は色々と聞くこともあったのだが、あの男子生徒が言っているようなよろしくない話を聞いたのは初めてだった。
栗宮院うまなの噂を詳しく聞きたいと思ってはいたが、全く面識のない他校の生徒にそんな事を聞けるはずもなく、俺はぬるくなったコーヒーを飲む手を止めて聞き耳を立てていた。
完全に冷め切ったコーヒーを飲む気にはなれなかったのだが、いつまでもこの席を使用するのも気が引けてしまい、俺は半分ほど残ったコーヒーを一息で飲み干した。
残念だという気持ちはあるのだが、少しほっとしたというのも正直な感想だった。
栗宮院うまなは他校の生徒たちにも我々同様に認知されているようで、最初に俺が考えていたような事ではなかったとすぐに否定されていた。一人の男子が執拗にその事を聞いていたのだが、他の生徒たちはソレを完全に否定していたのは意外だった。
アレくらいの年代であればそう言う事にも興味を持つのが当たり前のようにも思えるのだが、我が校の一部の教師にも見られるような崇拝にも似ている感情を抱いているように見えた。聞いている限りでは、あの男子生徒たちと栗宮院うまなに全くの面識はないようなのだが、そのような関係性でもあそこまで慕われるという事に栗宮院うまなの凄さを感じてしまった。
ただ、そうなってくると、栗宮院うまなの何が凄いのかという事が気になってしまい、俺は彼らが席を立つまで聞き耳を立てていたのだが、その肝心の内容については誰も知らないらしく、最後までどのようなことが行われていたのか知ることは出来なかった。
このまま真っすぐ家に帰る気にはなれず、適当に買い物でもして帰ろうかと立ち寄ったスーパーで値引きシールが貼られている総菜を選んでいると、聞き慣れた声が聞こえてきて思わずそちらを振り向いていた。
「あ、先生こんばんは。ソレを見てるってことは、先生はお料理とかしない感じですか?」
「こんばんは。料理はするんだけど、今日は出来合いの物でいいかなって思ってね。栗宮院さんはこの辺に住んでるんだっけ?」
「違いますよ。ここにはちょっと買い物をしに寄っただけなんです。この時間帯にスーパーってきたことが無かったんで、どんなものが売ってるのかなって興味もあったんですけどね。先生の持っているソレって、半額ってやつですか?」
俺の手に取った半額の白身魚のフライを目を輝かせてみている彼女は珍しいものを見つけた時の子供のように見えた。
彼女からしてみたら半額になっている総菜は初めて見る物なのかもしれない。そもそも、彼女がこのような出来合いの物を見ることはほとんどないだろうし、実際に食べたこともないのかもしれないな。
彼女の父親はいくつもの会社を経営しているし、彼女の母親は零楼館高校の理事長でもあるのだ。そんな彼女がスーパーにいるのも意外に思えるのだが、制服を着ているのだから違和感もなく周囲に溶け込んではいるのだ。
それよりも気になったのは、俺は確かに彼女が誰かと話をしているのを聞いた。それなのに、彼女の近くには誰もいない。もちろん、隠れる場所なんてどこにもないのだ。
「栗宮院さんは何を買いに来たのかな?」
「えっと、日本酒を買いに来たんですけど、未成年には売れないって言われちゃって買えなかったんです。あ、別に私が飲むとかじゃないんですよ。でも、どうしても今晩必要だったんでどうしようかなって思ってて。家に帰れば日本酒くらいあると思うんですけど、今から家に帰ると間に合わないかもしれないんですよね」
「今晩必要って、誰かにおつかいを頼まれたの?」
「おつかいというとちょっと違うかもしれないんですけど……」
「そう言えば、今まで誰かと一緒に話をしてなかったかな? 先生はこんな場所で栗宮院さんの話声が聞こえて思わず振り向いたんだけど、君は今一人だよね? 誰かと一緒だったんじゃないの?」
「あ、声に出ちゃってました? 恥ずかしいな。私って時々独り言を言っちゃうみたいなんですよ。普段は気を付けているんですけど、ここには私の事を知っている人もいないと思って油断しちゃったかも。内緒にしてくださいね」
「そう言う事ならいいんだけど、日本酒を買うのは諦めなさい。未成年は買えないんだからね」
あの男子生徒の話を聞いた直後に彼女に遭遇したので思わず警戒してしまったが、俺が心配してしまうようなことはなさそうで安心した。
確かに彼女が誰かと話をしている声を聴いたのだけれど、彼女と話をしている誰かの声は聴いていなかったような気もする。本当に独り言を言っていただけなのかもしれない。
俺はそう思う事にした。
いや、そう思いたいと願っていたのかもしれない。
「あの、先生にお願いがあるんですけど。ちょっとだけ私のお願いを聞いてもらってもいいですか?」
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