人生やり直しには代償が必要なんですが、覚悟は出来てますか?

釧路太郎

文字の大きさ
2 / 27
先生とうまなちゃん

第2話 先生のお願いも聞いてあげるからね。

しおりを挟む
 色々な生徒がいるのは当然だとして、中には良くない噂を聞く生徒もいるのだ。
 俺の受け持っているクラスにそんな生徒はいないだろうと高をくくってはいたのだが、休日に立ち寄ったファストフード店でとんでもない噂を耳にしてしまった。

「零楼館高校の生徒会長は夜の方も凄いらしい。夢のような時間を過ごさせてくれるんだって。それを経験した人はみんな忘れられない夜になるんだってさ」
「それって一晩限りの契約ってやつだろ。俺も金さえあればやってみたいんだけどな。高校生のバイトじゃそんなに稼げないもんな」
「だよな。俺ももう少し勉強して零楼館に入ってれば同級生割引とかで安くしてもらえたのかもしれないんだよな」
「俺たちの頭じゃどんなに頑張っても無理だろ。無理無理」

 零楼館高校の生徒会長である栗宮院うまなは俺の受け持つクラスの生徒で、彼女は成績も優秀でスポーツも万能で性格も良く誰からも好かれるような非の打ち所がない人物だ。
 彼女の事を悪く言う人も中には何人か見たことがあるが、不思議なことに彼女と接したものは皆妬みや嫉みと言った負の感情が無くなり、友好的な関係を築いていく。教師の間でも彼女の事を尊敬する者は多く、一人として彼女の事を悪く言っている者はいなかった。
 そんな彼女の噂は色々と聞くこともあったのだが、あの男子生徒が言っているようなよろしくない話を聞いたのは初めてだった。
 栗宮院うまなの噂を詳しく聞きたいと思ってはいたが、全く面識のない他校の生徒にそんな事を聞けるはずもなく、俺はぬるくなったコーヒーを飲む手を止めて聞き耳を立てていた。


 完全に冷め切ったコーヒーを飲む気にはなれなかったのだが、いつまでもこの席を使用するのも気が引けてしまい、俺は半分ほど残ったコーヒーを一息で飲み干した。
 残念だという気持ちはあるのだが、少しほっとしたというのも正直な感想だった。
 栗宮院うまなは他校の生徒たちにも我々同様に認知されているようで、最初に俺が考えていたような事ではなかったとすぐに否定されていた。一人の男子が執拗にその事を聞いていたのだが、他の生徒たちはソレを完全に否定していたのは意外だった。
 アレくらいの年代であればそう言う事にも興味を持つのが当たり前のようにも思えるのだが、我が校の一部の教師にも見られるような崇拝にも似ている感情を抱いているように見えた。聞いている限りでは、あの男子生徒たちと栗宮院うまなに全くの面識はないようなのだが、そのような関係性でもあそこまで慕われるという事に栗宮院うまなの凄さを感じてしまった。
 ただ、そうなってくると、栗宮院うまなの何が凄いのかという事が気になってしまい、俺は彼らが席を立つまで聞き耳を立てていたのだが、その肝心の内容については誰も知らないらしく、最後までどのようなことが行われていたのか知ることは出来なかった。

 このまま真っすぐ家に帰る気にはなれず、適当に買い物でもして帰ろうかと立ち寄ったスーパーで値引きシールが貼られている総菜を選んでいると、聞き慣れた声が聞こえてきて思わずそちらを振り向いていた。

「あ、先生こんばんは。ソレを見てるってことは、先生はお料理とかしない感じですか?」
「こんばんは。料理はするんだけど、今日は出来合いの物でいいかなって思ってね。栗宮院さんはこの辺に住んでるんだっけ?」
「違いますよ。ここにはちょっと買い物をしに寄っただけなんです。この時間帯にスーパーってきたことが無かったんで、どんなものが売ってるのかなって興味もあったんですけどね。先生の持っているソレって、半額ってやつですか?」

 俺の手に取った半額の白身魚のフライを目を輝かせてみている彼女は珍しいものを見つけた時の子供のように見えた。
 彼女からしてみたら半額になっている総菜は初めて見る物なのかもしれない。そもそも、彼女がこのような出来合いの物を見ることはほとんどないだろうし、実際に食べたこともないのかもしれないな。
 彼女の父親はいくつもの会社を経営しているし、彼女の母親は零楼館高校の理事長でもあるのだ。そんな彼女がスーパーにいるのも意外に思えるのだが、制服を着ているのだから違和感もなく周囲に溶け込んではいるのだ。
 それよりも気になったのは、俺は確かに彼女が誰かと話をしているのを聞いた。それなのに、彼女の近くには誰もいない。もちろん、隠れる場所なんてどこにもないのだ。

「栗宮院さんは何を買いに来たのかな?」
「えっと、日本酒を買いに来たんですけど、未成年には売れないって言われちゃって買えなかったんです。あ、別に私が飲むとかじゃないんですよ。でも、どうしても今晩必要だったんでどうしようかなって思ってて。家に帰れば日本酒くらいあると思うんですけど、今から家に帰ると間に合わないかもしれないんですよね」
「今晩必要って、誰かにおつかいを頼まれたの?」
「おつかいというとちょっと違うかもしれないんですけど……」

「そう言えば、今まで誰かと一緒に話をしてなかったかな? 先生はこんな場所で栗宮院さんの話声が聞こえて思わず振り向いたんだけど、君は今一人だよね? 誰かと一緒だったんじゃないの?」
「あ、声に出ちゃってました? 恥ずかしいな。私って時々独り言を言っちゃうみたいなんですよ。普段は気を付けているんですけど、ここには私の事を知っている人もいないと思って油断しちゃったかも。内緒にしてくださいね」
「そう言う事ならいいんだけど、日本酒を買うのは諦めなさい。未成年は買えないんだからね」

 あの男子生徒の話を聞いた直後に彼女に遭遇したので思わず警戒してしまったが、俺が心配してしまうようなことはなさそうで安心した。
 確かに彼女が誰かと話をしている声を聴いたのだけれど、彼女と話をしている誰かの声は聴いていなかったような気もする。本当に独り言を言っていただけなのかもしれない。
 俺はそう思う事にした。
 いや、そう思いたいと願っていたのかもしれない。

「あの、先生にお願いがあるんですけど。ちょっとだけ私のお願いを聞いてもらってもいいですか?」
「お酒なら買わないよ。俺は教師なんだし、君なら俺がそんなこと出来ないってわかるよね?」
「それはわかってるんですけど、お願いします。私も先生のお願いを聞いてあげるからね。今晩だけでいいからお願いします」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

処理中です...