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先生とうまなちゃん
第19話 お兄ちゃんが望むのであれば内緒で見せてあげるよ。
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由貴が自ら命を絶つことになったのには必ず理由があるのだが、俺たち家族はその事に対して意図的に触れないようにしていたのだと思う。俺ももちろん辛いのだが、俺以上に両親は辛かったのだと思う。まだ幼いと言っても問題が無いような年齢で自らの人生に終止符を打つ決断をした由貴に対して憶測で物事を言うような者もいたし、それらの人の中には身内と呼んでもいいような関係の人がいたのも事実なのだ。
承認欲求を満たすために由貴を利用している人たちは少なからずいたし、そんな人たちに対して憤りを感じたこともあった。
人の死というのは誰かにとっては悲しい出来事になるのだが、関係ない人にとってはただの記号にしか過ぎないのかもしれない。由貴の事をほんの少しでも知っているだけの人にとっては、話のタネとして存在しているという事になるのかもしれない。若くして自ら命を絶つ、そんな事は日常ではなく非日常な出来事であるだろうし、生きている間にそんな事が身近で起きたりはしないだろう。だからこそ、由貴との関係性が薄ければ話題の一つとして消費する出来事でしかないと思えるのかもしれない。
イザーちゃんが知っていることが何であれ、それを証明するモノも無いだろう。イザーちゃんが本当に由貴と会話を出来るのだとしても、それが本当の事を言っているのか確かめる手段もない。だからと言って、俺はイザーちゃんの言葉を否定出来る気はしていなかった。
なぜだかわからないが、俺はイザーちゃんと栗宮院うまなの言葉は信じられると思う。いや、彼女たちは俺に対して嘘をつくようなことはしないのだと信じている。
それは妄信だと言われてもいい。彼女たちには全てを信じられるだけの神秘的な何かがあるというだけの話なのだ。
「ユキちゃんはお兄ちゃんに何があったかは知ってほしくないって思ってたんだって。でも、お兄ちゃんが自分の事で思いつめてるのはユキちゃんも見てられないって言ってるんだよ。ユキちゃんのみに何が起こったのか、お兄ちゃんは知りたいかな?」
「そりゃ、知りたいとは思うよ。思うけどさ、今更それを知ったところでどうなるんだろうという思いはあるよ。今までずっと思ってきた由貴への気持ちが変わるとは思わないけど、真実を知ったという事で憎むべき対象が生まれてしまうという事に対する恐怖はあるかもしれない。本当の事を知ってしまったら、今までみたいに大人しく生きていることが出来なくなってしまう可能性もあるんだと思うよ」
「そうだろうね。お兄ちゃんが優しい人だとしても、受け入れることなんて出来ないと思うよ。多分、お兄ちゃんは絶対に許せないって思っちゃうんじゃないかな。それはおかしなことなんかじゃなくて、普通の事だと思うからね」
由貴がいったいどんな辛い目に遭ったのか知りたいと思ったことは何度もある。自分で命を絶つと思ったのが衝動的だったにしろ熟考したうえでのことだったにしろ、それだけ酷い目に遭っていたというのは事実なのだ。それを知ることで由貴の痛みを少しでも分かち合えるのではないかと思ったこともあったが、過ぎてしまった事を知ったところで何も変わらないのだという思いもあった。
真実を知らないからこそ、今のように心穏やかに過ごせているのかもしれない。イザーちゃんの言葉を聞いているとそうだとしか思えないのだが、そこまで言われると聞かないという選択肢を選んだ方が良いようにも思えていた。
でも、何があったかを知ることは、とても大切な事のように思えているのも間違いではないはずだ。
「私とうまなちゃんはお兄ちゃんにしか話すことはないよ。他の人には絶対に言わないからね。だから、お兄ちゃんが知りたくないと言ったら、私たちと犯人しかその事実を知らないってことになっちゃうんだよ」
「……今、犯人って言った? 犯人って、俺の知っている人?」
「たぶん、お兄ちゃんは知っているんじゃないかな。犯人の事は、お兄ちゃん以外にも知っている人はたくさんいると思うけど、お兄ちゃんは本当に知っちゃってもいいと考えてるのかな?」
イザーちゃんの話を聞いてからずっと真実を知りたいという思いの方が強い。どんな事があったのか考えたくはないけれど、由貴が自ら命を絶つことになった原因を知らないと何も変わらないんじゃないかと思えていた。
でも、イザーちゃんの話を聞いていると、少しずつではあるが真実に触れるのが怖いと思えてきた。由貴がどんな悲惨な目に遭ってしまったのか知るのが怖いという事ではなく、今俺が過ごしている平和な日常が変化してしまうのではないか。今まではただ漠然と考えていた時間が全て犯人に対して復讐のために何をするか考えるようになってしまうのではないか。
真実を知った俺が復讐のために生きるようになってしまう。そんな予感がしていた。
「本当はダメなんだけど、お兄ちゃんが望むのであれば内緒で見せてあげるよ」
「見せてあげるって、何を?」
「ユキちゃんがどんな目に遭ってしまったかという事をね」
承認欲求を満たすために由貴を利用している人たちは少なからずいたし、そんな人たちに対して憤りを感じたこともあった。
人の死というのは誰かにとっては悲しい出来事になるのだが、関係ない人にとってはただの記号にしか過ぎないのかもしれない。由貴の事をほんの少しでも知っているだけの人にとっては、話のタネとして存在しているという事になるのかもしれない。若くして自ら命を絶つ、そんな事は日常ではなく非日常な出来事であるだろうし、生きている間にそんな事が身近で起きたりはしないだろう。だからこそ、由貴との関係性が薄ければ話題の一つとして消費する出来事でしかないと思えるのかもしれない。
イザーちゃんが知っていることが何であれ、それを証明するモノも無いだろう。イザーちゃんが本当に由貴と会話を出来るのだとしても、それが本当の事を言っているのか確かめる手段もない。だからと言って、俺はイザーちゃんの言葉を否定出来る気はしていなかった。
なぜだかわからないが、俺はイザーちゃんと栗宮院うまなの言葉は信じられると思う。いや、彼女たちは俺に対して嘘をつくようなことはしないのだと信じている。
それは妄信だと言われてもいい。彼女たちには全てを信じられるだけの神秘的な何かがあるというだけの話なのだ。
「ユキちゃんはお兄ちゃんに何があったかは知ってほしくないって思ってたんだって。でも、お兄ちゃんが自分の事で思いつめてるのはユキちゃんも見てられないって言ってるんだよ。ユキちゃんのみに何が起こったのか、お兄ちゃんは知りたいかな?」
「そりゃ、知りたいとは思うよ。思うけどさ、今更それを知ったところでどうなるんだろうという思いはあるよ。今までずっと思ってきた由貴への気持ちが変わるとは思わないけど、真実を知ったという事で憎むべき対象が生まれてしまうという事に対する恐怖はあるかもしれない。本当の事を知ってしまったら、今までみたいに大人しく生きていることが出来なくなってしまう可能性もあるんだと思うよ」
「そうだろうね。お兄ちゃんが優しい人だとしても、受け入れることなんて出来ないと思うよ。多分、お兄ちゃんは絶対に許せないって思っちゃうんじゃないかな。それはおかしなことなんかじゃなくて、普通の事だと思うからね」
由貴がいったいどんな辛い目に遭ったのか知りたいと思ったことは何度もある。自分で命を絶つと思ったのが衝動的だったにしろ熟考したうえでのことだったにしろ、それだけ酷い目に遭っていたというのは事実なのだ。それを知ることで由貴の痛みを少しでも分かち合えるのではないかと思ったこともあったが、過ぎてしまった事を知ったところで何も変わらないのだという思いもあった。
真実を知らないからこそ、今のように心穏やかに過ごせているのかもしれない。イザーちゃんの言葉を聞いているとそうだとしか思えないのだが、そこまで言われると聞かないという選択肢を選んだ方が良いようにも思えていた。
でも、何があったかを知ることは、とても大切な事のように思えているのも間違いではないはずだ。
「私とうまなちゃんはお兄ちゃんにしか話すことはないよ。他の人には絶対に言わないからね。だから、お兄ちゃんが知りたくないと言ったら、私たちと犯人しかその事実を知らないってことになっちゃうんだよ」
「……今、犯人って言った? 犯人って、俺の知っている人?」
「たぶん、お兄ちゃんは知っているんじゃないかな。犯人の事は、お兄ちゃん以外にも知っている人はたくさんいると思うけど、お兄ちゃんは本当に知っちゃってもいいと考えてるのかな?」
イザーちゃんの話を聞いてからずっと真実を知りたいという思いの方が強い。どんな事があったのか考えたくはないけれど、由貴が自ら命を絶つことになった原因を知らないと何も変わらないんじゃないかと思えていた。
でも、イザーちゃんの話を聞いていると、少しずつではあるが真実に触れるのが怖いと思えてきた。由貴がどんな悲惨な目に遭ってしまったのか知るのが怖いという事ではなく、今俺が過ごしている平和な日常が変化してしまうのではないか。今まではただ漠然と考えていた時間が全て犯人に対して復讐のために何をするか考えるようになってしまうのではないか。
真実を知った俺が復讐のために生きるようになってしまう。そんな予感がしていた。
「本当はダメなんだけど、お兄ちゃんが望むのであれば内緒で見せてあげるよ」
「見せてあげるって、何を?」
「ユキちゃんがどんな目に遭ってしまったかという事をね」
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