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先生とうまなちゃん
第22話 そんなことまで出来るの?
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イザーちゃんはきっと嘘をつかない。なぜだかわからないが、それだけは自信を持って言える。もちろん、栗宮院うまなも嘘をつくことは無いだろう。
でも、イザーちゃんと違って栗宮院うまなは肝心な事は聞いたとしても素直に教えてくれないのではないかという思いはあった。
プロ野球選手の過去を知っていると言うのは話のタネとして十分なものだと思う。その選手が日本を代表するような選手だったとしたら、自分の事のように話すことがあっても不思議ではないだろう。ただ、俺はどうしてもその選手の事を話す気にはなれなかった。
自分が直接関わったこともないのにペラペラと話をする気にはなれなかった。それに、俺と彼の接点を説明するときにどうしても妹の由貴の事を話さなければいけないと思うと、どうしても話す気にはなれなかった。由貴の事を何も知らない人に説明するなんて、俺のは難しい事だったりするのだ。
だからと言って、地元の有名人の活躍を応援していないわけではなかったし、俺の両親もそれなりにテレビで応援はしているようだ。地元の番組なんかで特集を組まれているのを知れば見ていることもあるし、近所の人とも話題に出すことはあると言っていた。
それでも、マネージャーの手伝いをしていたという接点があるからなのか、直接球場に行って応援しようという気持ちにはなれなかった。俺も両親も、関係ないとは思いつつも、どうしても野球部と由貴の死を関連付けてしまうのだ。
それを否定してくれたイザーちゃんの言葉は誰の言葉よりも俺の心に深く突き刺さっていたし、きっと両親もイザーちゃんの話を聞くと俺と同じような気持ちになるだろう。それくらいにイザーちゃんの言葉には重みがあったのだ。謎の説得力を持つ不思議な女性だ。
「ユキちゃんはお兄ちゃんがもっと気楽に生きてくれたらいいのにって言ってるんだけど、それは難しい話だよね。ユキちゃんも少しは後悔しているみたいだけど、あの時に選んだ答え自体は今でも間違っていないって思ってるんだって。お兄ちゃんたちはソレを認める事は無いと思うけど、それくらいユキちゃんは思いつめてたって事なんだよ。それをお兄ちゃんたちに言えなかったのは辛いって感じるようになったのはここ最近の事らしいよ。時間が経てば気持ちなんて変わっちゃうのかもしれないけど、そこに至るまでには途方もない回数の思考とお兄ちゃんたちの観察が必要だったんだってね。ユキちゃんだけじゃなく、お兄ちゃんたちも影響していたって事なんだよ」
「それはわかるんだけど、それを聞いたうえで俺は由貴の話を聞いた方が良いかな?」
「ソレって、私が決める事じゃなくて、お兄ちゃんが自分で決める事なんじゃないかな? 私がお兄ちゃんの立場だったとしたら、迷うことなく真実を確かめると思う。どんな事だったとしても、私は真実を知りたいって思うんじゃないかな」
イザーちゃんと同じく俺だって迷わず真実を知りたいと答えるだろう。
由貴が自ら命を絶つことになった原因を知りたいと思うのは当然だし、あの野球選手が深く関わっていないという事であればそれはそれで良しとしよう。そうだとすれば、今よりももっと真剣に情熱をもって応援する事も出来るのだ。もしかしたら、試合を観戦しに行くかもしれない。
「お兄ちゃんたちはさ、ユキちゃんが亡くなった原因を野球部の子たちだと思ってるんだよね?」
違うとは言い切れない俺はイザーちゃんから目を逸らして黙ってしまった。
時々聞こえてくるイザーちゃんの呼吸音が無ければこの空間は静寂に包まれたまま、何も起きていないという事になってしまうのではないか。イザーちゃんは沈黙が怖いのか、少しずつ呼吸が乱れているように思える。
早すぎるとまでは言えないイザーちゃんの呼吸と俺の心臓の鼓動が少しずつ重なっている。俺がイザーちゃんに合わせているのか、イザーちゃんが俺に合わせているのか、それともお互いに相手に合わせているのかわからないが、二人のリズムが合っているのに気付いた瞬間から沈黙が少しだけ苦痛ではなくなっていた。
お互いに目が合う回数も増えてきていたし、何か今まで以上に通じ合っているような感覚はあった。
「もう一度聞くんだけど、お兄ちゃんはユキちゃんがどうして自分から死を選んだのか知りたいかな?」
「……知りたいとは思うけど、知りたくないという気持ちもある。正直に言うと、今更知ったところでどうなるのだろうという思いもあるかな。もっと早く知っておきたかったって言うのが素直な思いなんだけど、今からでも遅くないんじゃないかなとも思ってる。由貴に何があったのか、知っておいた方がいいんだろうね。俺はイザーちゃんが言う事なら信じられるし」
「私の事を信じてくれるのは嬉しいんだけど、もっと信じてもらえるようにしないとね」
「ソレって、どういう事?」
「うまなちゃんに頼んでさ、あの野球選手に何があったのか聞いてみようよ。そうすれば、お兄ちゃんも今以上に私の事を信じてくれるんじゃないかな?」
「そんなことまで出来るの?」
「もちろん。うまなちゃんに頼めば大抵のことは出来るよ。ただし、お兄ちゃんにはそれなりの物を支払ってもらう必要があるんだけどね。そこまで大変な事じゃないと思うから、気楽に考えててね」
でも、イザーちゃんと違って栗宮院うまなは肝心な事は聞いたとしても素直に教えてくれないのではないかという思いはあった。
プロ野球選手の過去を知っていると言うのは話のタネとして十分なものだと思う。その選手が日本を代表するような選手だったとしたら、自分の事のように話すことがあっても不思議ではないだろう。ただ、俺はどうしてもその選手の事を話す気にはなれなかった。
自分が直接関わったこともないのにペラペラと話をする気にはなれなかった。それに、俺と彼の接点を説明するときにどうしても妹の由貴の事を話さなければいけないと思うと、どうしても話す気にはなれなかった。由貴の事を何も知らない人に説明するなんて、俺のは難しい事だったりするのだ。
だからと言って、地元の有名人の活躍を応援していないわけではなかったし、俺の両親もそれなりにテレビで応援はしているようだ。地元の番組なんかで特集を組まれているのを知れば見ていることもあるし、近所の人とも話題に出すことはあると言っていた。
それでも、マネージャーの手伝いをしていたという接点があるからなのか、直接球場に行って応援しようという気持ちにはなれなかった。俺も両親も、関係ないとは思いつつも、どうしても野球部と由貴の死を関連付けてしまうのだ。
それを否定してくれたイザーちゃんの言葉は誰の言葉よりも俺の心に深く突き刺さっていたし、きっと両親もイザーちゃんの話を聞くと俺と同じような気持ちになるだろう。それくらいにイザーちゃんの言葉には重みがあったのだ。謎の説得力を持つ不思議な女性だ。
「ユキちゃんはお兄ちゃんがもっと気楽に生きてくれたらいいのにって言ってるんだけど、それは難しい話だよね。ユキちゃんも少しは後悔しているみたいだけど、あの時に選んだ答え自体は今でも間違っていないって思ってるんだって。お兄ちゃんたちはソレを認める事は無いと思うけど、それくらいユキちゃんは思いつめてたって事なんだよ。それをお兄ちゃんたちに言えなかったのは辛いって感じるようになったのはここ最近の事らしいよ。時間が経てば気持ちなんて変わっちゃうのかもしれないけど、そこに至るまでには途方もない回数の思考とお兄ちゃんたちの観察が必要だったんだってね。ユキちゃんだけじゃなく、お兄ちゃんたちも影響していたって事なんだよ」
「それはわかるんだけど、それを聞いたうえで俺は由貴の話を聞いた方が良いかな?」
「ソレって、私が決める事じゃなくて、お兄ちゃんが自分で決める事なんじゃないかな? 私がお兄ちゃんの立場だったとしたら、迷うことなく真実を確かめると思う。どんな事だったとしても、私は真実を知りたいって思うんじゃないかな」
イザーちゃんと同じく俺だって迷わず真実を知りたいと答えるだろう。
由貴が自ら命を絶つことになった原因を知りたいと思うのは当然だし、あの野球選手が深く関わっていないという事であればそれはそれで良しとしよう。そうだとすれば、今よりももっと真剣に情熱をもって応援する事も出来るのだ。もしかしたら、試合を観戦しに行くかもしれない。
「お兄ちゃんたちはさ、ユキちゃんが亡くなった原因を野球部の子たちだと思ってるんだよね?」
違うとは言い切れない俺はイザーちゃんから目を逸らして黙ってしまった。
時々聞こえてくるイザーちゃんの呼吸音が無ければこの空間は静寂に包まれたまま、何も起きていないという事になってしまうのではないか。イザーちゃんは沈黙が怖いのか、少しずつ呼吸が乱れているように思える。
早すぎるとまでは言えないイザーちゃんの呼吸と俺の心臓の鼓動が少しずつ重なっている。俺がイザーちゃんに合わせているのか、イザーちゃんが俺に合わせているのか、それともお互いに相手に合わせているのかわからないが、二人のリズムが合っているのに気付いた瞬間から沈黙が少しだけ苦痛ではなくなっていた。
お互いに目が合う回数も増えてきていたし、何か今まで以上に通じ合っているような感覚はあった。
「もう一度聞くんだけど、お兄ちゃんはユキちゃんがどうして自分から死を選んだのか知りたいかな?」
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