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引きこもりからの脱却
二話 元ニート現アルバイト
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面接もなくいきなり現場に叩きだされたわけだが、俺がやるべき仕事というのは監視カメラを見て異常がないか確認するだけであった。なんか、最近こんな感じのゲームをやったなと思っていたところ、俺に仕事を教えてくれていた先輩が缶コーヒーを差し出してくれた。
「甘いのと甘くないのどっちが好き?」
「甘い方が好きです」
「そっか、ちょうど良かったわ」
家族以外の人と会話をすることは時々あったけれど、こうして何かを貰ったというのは小学生の時のクリスマス会以来だと思う。
それにしても、一緒に働く人があまり口数の多い人じゃなくて良かった。
「君ってさ、怖い話とか苦手だったりする?」
「苦手ではないです」
「それなら良かった」
特に自己紹介なんかもしていないけれど、この先輩は良いか良くないかで判断する人なのかもしれない。それと、口数が少ないのは会話を広げたくないからなのかもしれないな。ただ、この状況で怖い話が苦手か聞いてきた理由がとても気になる。監視カメラに何か心霊的なものが映ってしまうという事なのだろうか?
「怖い話が苦手かって質問とこの仕事って何か関係あるんですか?」
「まあ、関係あるかもしれないね。最近はそういうの無くなってるから噂にもなってないかもしれないんだけど、このビルって一時期飛び降り自殺が頻発してたんだって。それで、僕らみたいに見回ったり監視カメラで確認するようになったんだって」
そう言えば、小学生の時に自殺が多いビルという噂を聞いたことがある。その当時は新聞なんて読まなかったしニュースにも興味が無かったから知らなかったけれど、その噂のタネになった場所がここだったのかというのは少し感慨深いものがあった。
自殺が立て続けに起きていた場所をそんな風に思ってしまうのは不謹慎だと思うけれど、引きこもっていた俺が少しだけ世間と関われたような気がして嬉しかった。マイナスなものだとしても、世間と繋がれたような気がしていた。
「うちの会社が警備するようになってから一件も起きてないんだけどね。自殺を止めるって言うよりは、警備をしていることで自殺をしようとしている人を未然に防ごうって感じなのかもよ。でも、自殺をしたい人なんてこのビルがダメでも他の場所や他の方法をとると思うんだよね」
「そうかもしれないですけど、自分が関わってる場所で自殺とかはしてほしくないって思います」
「まあ、そうだよね。僕だってここで誰かが自殺したら嫌だなって思うよ」
監視カメラの映像を見ていても当然変化は起きない。時々センサーに反応があったとしても敷地内に紛れ込んだ動物であったり見回りをしている人だったりするのだ。
何も起きないというのが良いことではあるけれど、本当に何も起きないというのはただ退屈な時間にしか思えないのだ。
「そんなに気を張らなくても大丈夫だよ。何かがあったとしても僕たちはそこに行かないでここから指示しているって感じだからね。カメラで確認しておく人がいないと他の場所で何かあったときに対処できなくなっちゃうからさ」
「そういうもんなんですね」
「そういうもんなんだよ。楽な仕事で良かったね」
先輩の言う通り、元引きこもりの俺にとってはモニターを見ているだけの仕事なんて天職かもしれない。外を見回っている人たちよりも時給は低いみたいだけど、ずっと引きこもっていた俺が歩いて異常がないか確認するなんて無理な話だろう。何か起きたとしても俺は疲れて使い物にならなそうだ。
監視カメラが映し出す映像は映画やゲームのように何かが起きていたりすることもなく、時々見える懐中電灯の明かりが入り込むくらいだった。
「あ、そろそろ休憩の時間だ。休憩は一時間ずつの交代なんだけど、今日は俺から先に休憩に入らせてもらうね。初日の君には申し訳ないと思うんだけど、昨日徹夜でレポート書いてたから眠気が限界なんだ。何か異常があったらそこのボタンを押せば見回ってる人と話せるんで知らせてあげてね。まあ、仮眠室にきて僕を起こしてくれてもいいんだけど、その時は君の休憩時間を少し貰っちゃうね」
先輩はそう言い残してモニター室から仮眠室へ向かっていった。
モニターに映し出されている先輩は明かりを何も持っていないのにもかかわらず迷わずに真っすぐ進んでいた。
他の場所も異常はなくさっきまでと何も変わらない様子が映し出されている。
もしかしたら、先輩は話すのが嫌いなんじゃなくて眠くて話したくなかっただけなのかもしれないな。そんな事を考えていた時、俺はあることに気が付いてしまった。
仮眠室まで呼びに来ていいと言われたけれど、俺はその仮眠室がどこにあるのか知らされていない。
知らなくても問題はないだろう。何か起こったとしても見回りをしている人を頼ればいいんだし。
でも、いきなり知らない人に話しかけるというのはなかなか難易度が高いように思える。だが、何も起こるはずがない。先輩もそう言ってたし、見回りをしている人たちもずっと変わらない感じで歩いている。
そろそろ一時間も経ったかなと思って時計を見てみると、まだ三十分も経っていないのであった。
変わらない映像をじっと見ているだけというのも辛いものがあると思っていた時、誰もいないはずの屋上のカメラが何かに反応していた。だが、モニターには先ほどまでと何も変わらない様子が映し出されているだけであった。
映像には映らない、何かがいるという事なのだろうか。
その時、モニター室の扉を誰かが激しく叩いてきた。
映像に集中しているときにいきなり扉を叩かれたことで叫びだしてしまいそうになったのだが、なぜか俺はその叫びだしそうな気持を飲み込むことが出来た。
俺はいまだに叩かれ続けている扉の前に立つと、ゆっくりとノックを返したのだった。
「甘いのと甘くないのどっちが好き?」
「甘い方が好きです」
「そっか、ちょうど良かったわ」
家族以外の人と会話をすることは時々あったけれど、こうして何かを貰ったというのは小学生の時のクリスマス会以来だと思う。
それにしても、一緒に働く人があまり口数の多い人じゃなくて良かった。
「君ってさ、怖い話とか苦手だったりする?」
「苦手ではないです」
「それなら良かった」
特に自己紹介なんかもしていないけれど、この先輩は良いか良くないかで判断する人なのかもしれない。それと、口数が少ないのは会話を広げたくないからなのかもしれないな。ただ、この状況で怖い話が苦手か聞いてきた理由がとても気になる。監視カメラに何か心霊的なものが映ってしまうという事なのだろうか?
「怖い話が苦手かって質問とこの仕事って何か関係あるんですか?」
「まあ、関係あるかもしれないね。最近はそういうの無くなってるから噂にもなってないかもしれないんだけど、このビルって一時期飛び降り自殺が頻発してたんだって。それで、僕らみたいに見回ったり監視カメラで確認するようになったんだって」
そう言えば、小学生の時に自殺が多いビルという噂を聞いたことがある。その当時は新聞なんて読まなかったしニュースにも興味が無かったから知らなかったけれど、その噂のタネになった場所がここだったのかというのは少し感慨深いものがあった。
自殺が立て続けに起きていた場所をそんな風に思ってしまうのは不謹慎だと思うけれど、引きこもっていた俺が少しだけ世間と関われたような気がして嬉しかった。マイナスなものだとしても、世間と繋がれたような気がしていた。
「うちの会社が警備するようになってから一件も起きてないんだけどね。自殺を止めるって言うよりは、警備をしていることで自殺をしようとしている人を未然に防ごうって感じなのかもよ。でも、自殺をしたい人なんてこのビルがダメでも他の場所や他の方法をとると思うんだよね」
「そうかもしれないですけど、自分が関わってる場所で自殺とかはしてほしくないって思います」
「まあ、そうだよね。僕だってここで誰かが自殺したら嫌だなって思うよ」
監視カメラの映像を見ていても当然変化は起きない。時々センサーに反応があったとしても敷地内に紛れ込んだ動物であったり見回りをしている人だったりするのだ。
何も起きないというのが良いことではあるけれど、本当に何も起きないというのはただ退屈な時間にしか思えないのだ。
「そんなに気を張らなくても大丈夫だよ。何かがあったとしても僕たちはそこに行かないでここから指示しているって感じだからね。カメラで確認しておく人がいないと他の場所で何かあったときに対処できなくなっちゃうからさ」
「そういうもんなんですね」
「そういうもんなんだよ。楽な仕事で良かったね」
先輩の言う通り、元引きこもりの俺にとってはモニターを見ているだけの仕事なんて天職かもしれない。外を見回っている人たちよりも時給は低いみたいだけど、ずっと引きこもっていた俺が歩いて異常がないか確認するなんて無理な話だろう。何か起きたとしても俺は疲れて使い物にならなそうだ。
監視カメラが映し出す映像は映画やゲームのように何かが起きていたりすることもなく、時々見える懐中電灯の明かりが入り込むくらいだった。
「あ、そろそろ休憩の時間だ。休憩は一時間ずつの交代なんだけど、今日は俺から先に休憩に入らせてもらうね。初日の君には申し訳ないと思うんだけど、昨日徹夜でレポート書いてたから眠気が限界なんだ。何か異常があったらそこのボタンを押せば見回ってる人と話せるんで知らせてあげてね。まあ、仮眠室にきて僕を起こしてくれてもいいんだけど、その時は君の休憩時間を少し貰っちゃうね」
先輩はそう言い残してモニター室から仮眠室へ向かっていった。
モニターに映し出されている先輩は明かりを何も持っていないのにもかかわらず迷わずに真っすぐ進んでいた。
他の場所も異常はなくさっきまでと何も変わらない様子が映し出されている。
もしかしたら、先輩は話すのが嫌いなんじゃなくて眠くて話したくなかっただけなのかもしれないな。そんな事を考えていた時、俺はあることに気が付いてしまった。
仮眠室まで呼びに来ていいと言われたけれど、俺はその仮眠室がどこにあるのか知らされていない。
知らなくても問題はないだろう。何か起こったとしても見回りをしている人を頼ればいいんだし。
でも、いきなり知らない人に話しかけるというのはなかなか難易度が高いように思える。だが、何も起こるはずがない。先輩もそう言ってたし、見回りをしている人たちもずっと変わらない感じで歩いている。
そろそろ一時間も経ったかなと思って時計を見てみると、まだ三十分も経っていないのであった。
変わらない映像をじっと見ているだけというのも辛いものがあると思っていた時、誰もいないはずの屋上のカメラが何かに反応していた。だが、モニターには先ほどまでと何も変わらない様子が映し出されているだけであった。
映像には映らない、何かがいるという事なのだろうか。
その時、モニター室の扉を誰かが激しく叩いてきた。
映像に集中しているときにいきなり扉を叩かれたことで叫びだしてしまいそうになったのだが、なぜか俺はその叫びだしそうな気持を飲み込むことが出来た。
俺はいまだに叩かれ続けている扉の前に立つと、ゆっくりとノックを返したのだった。
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