サキュバスを腹上死させた魔王ですが世界中から狙われるようになりました

釧路太郎

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第二部

第二話 栗鳥院家の牛飼い女 中編

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 どこの町にもあるような牧場の前に立っていると威勢のいい男性が十人ほど襲い掛かってきた。
 新しい世界にやってきたというタイミングだったので俺は完全に気を抜いていたのだが、そこまで恐ろしい力を持っていなかった相手なので攻撃がすべて直撃しても何のダメージもなかったのだ。この世界でも俺は打たれ強いままだということがわかって一安心した出来事だった。
 とりあえず、ここがどこなのか知るためにも右手のない男に尋ねることにしたのだ。
「なあ、ここはいったいどこなんだ?」
 男は俺の質問に答えることをせずに自分の右手が無いことに驚いていた。素直に答えてくれれば俺も文句はないのだが、俺の質問に答えてくれるつもりがないのか男は左手で自分の右手があった場所を何度も確かめるように触るような仕草をしてた。俺の事を無視するのは構わないのだが、右手が無くなったくらいでちょっと大げさだなと感じてしまった。
 相変わらず取り乱している男の他に話が出来そうな人がいないかと確認してみようと思っていたが、他のみんなは誰も俺の質問には答えてくれそうになかった。さすがの俺も息をしていないものや体が真っ二つになっている人に質問をするほど馬鹿ではないのだ。
 仕方ないので俺は目の前にある牧場へと入っていってみることにしたのだが、牧場の入り口には目立つように大きく“魔王お断り”と書かれていたのだ。いまさらそんなことを気にするような俺ではないので気にせずに中へと入っていくのだが、建物にたどり着くまでの間に先ほどみたいな威勢だけは立派な男たちが俺に向かって殺意をむき出しの状態で襲い掛かってきたのだ。
 俺の後に死体が山積みになっている光景は久しぶりのようにも感じていた。これほどまでに命を狙われるという経験を久しくしていなかった俺は若干面倒だとは思いつつも、少しだけ面白いことになっているとワクワクし始めていた。ただ、どれだけ命を狙われたとしても俺がこいつらに負けることはないということが不満ではあった。
「あの、ここは魔王お断りの空間なんですけど、なんでそんな普通に入ってこれるんですか?」
 俺の目の前に現れたちょっとだけふくよかな感じの女の子は困ったような顔を向けてきていた。さすがの俺も無抵抗の女の子を殺すつもりなんてないので話を聞いてみることにしたのだが、残念なことに女の子の言っている言葉を理解することは出来なかった。
「魔王お断りの空間ってどういうこと?」
「どういう事って、そのまんまの意味です。あなたみたいな魔王が立ち入れないようにしてるはずなんですけど、無傷でここまでやってきてるってことは結界がちゃんと機能してないって事なのかな。こんな時に壊れるなんて困っちゃうよ」
「結界ってどういう感じの奴なのかな?」
 ここまでやって来る間に俺を拒むような結界はなかったと思う。どんなにもろい結界だったとしても、さすがに結界が張ってあれば俺も気付いてしまうと思うのだ。でも、おれを拒むようなものは何もなかったように感じていた。俺を殺そうと殺意をむき出しにしている威勢のいい男たちがいたことを除けばごく普通の牧場へと通じる一本道でしかなかったと思う。
「おかしいな。この前やってきた魔王は入場口にたどり着くことなく排除することが出来たのにな。もしかして、あの時に発動した結界が壊れたままだったりするのかな。あんな雑魚魔王の時に発動して今みたいに恐ろしい魔王がやってきたときに何の効果もないって終わってるよ。こんな事ってあっていい問題じゃないと思うんだけど。なんでクソ弱い魔王の時に結界が発動して今回みたいな大物がやってきたときには何にもしてないのよ」
 ふくよかな女の子は俺の後ろに積まれている異物に気が付いたようで、しきりに瞬きをしたり目をこすってみたりしていた。最終的には自分の頬を自分で思いっきり叩いていたのだが、見える景色は何も変わらなかったと思う。俺も何となく後ろを確認してみたところ、そこには先ほどと変わらずに襲ってきた威勢のいい男たちが山のように積まれているのだ。
「あの、ちょっとお尋ねさせていただきますが、あなた様の後方に積まれているアレはあなた様が手を下したという事でしょうか?」
 この女の子が言っているアレが俺の見ているものと同じだとすると答えは一つしかない。
「そうだけど。何かまずいことでもしちゃったかな?」
「いえいえ、とんでもございません。まずいことなんて何もないです。はい、何もございません。結界はちゃんと機能してたみたいですね。ところで、あなた様はここにどういった御用でやってきたのでしょうか?」
 何の用と言われても困る。俺がこの世界にやってきて一番最初に目に入った建物だから近付いてみたということ以外に理由がない。ここにやってきた理由なんて何もないのだ。
「えっと、俺は人を探していてその人に心当たりがないか尋ねてみようかなと思ってやってきたんだよ」
「ああ、ああ、そういう事ですか。はいはい、そういう事ですね。そういう事でしたらなんでもお尋ねください。この栗鳥院緑はこう見えてもこの世界では顔も広い方だと思いますのでお役に立てると思いますよ。ちなみになんですが、どのような方をお探し何でしょうか?」
「俺が探しているのは栗宮院うまなって女の子なんだよね。栗鳥院家の人が何か知ってるって話なのだけど、君も栗鳥院家の人って事なのかな?」
 俺が栗宮院うまなという言葉を出した時にも若干挙動不審になっていた女の子ではあるが、俺が栗鳥院家と言った瞬間に女の子はその場に座り込んでしまった。
 体を小刻みに震えさせている女の子は俺と目を合わせないように顔を背けているのだが、これは何か知っているという反応だと思うけど、これ以上何か話しかけたらこの女の子は大変なことになってしまうのじゃないかと思って俺は黙って見守ることにしたのだった。
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