サキュバスを腹上死させた魔王ですが世界中から狙われるようになりました

釧路太郎

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第三部

第1話 ご両親の信頼と彼女の魅力

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 風が強くこのままではまっすぐ歩くことも難しい状況なのだから手を繋いで飛ばされないように気を付けるのは仕方ないことなのだ。
 今まで手を繋ごうと何度も試みたことはあったのだけれど、いつもタイミングが悪く彼女の手に触れることすら出来なかった。偶然触れてしまった事もあったけれど、そんな時にはお互いに驚いて手を引いてしまっていた。
 そんな関係性の二人が何のためらいもなく手を繋ぐことが出来たのは、まさに天からの贈り物と呼ぶべき状況なのだろう。

「お家まで送ってくれてありがとうね。ここから君のお家って少し遠いと思うんだけど、ちゃんと帰れるのかな?」
「大丈夫だと思うよ。今日は風が強くて大変かもしれないけど何とかなるんじゃないかな」

 本当は帰りたくない気持ちをごまかすようにそう強がってみせた。
 内心ではもう少し一緒にいたいという気持ちが強いのだけれど、今まで手すら繋ぐことが出来なかった俺にそんな事を言う勇気なんてあるはずがないのだ。

 もしかしたら、彼女も俺と同じ気持ちなのかもしれない。
 そんな事を考えながらも別れを惜しんでいたのであった。

「あ、ごめん。ママから電話がきたからちょっと待っててね」

 電話に出るだけなら俺を帰らせても問題無いと思ったけれど、俺を帰らせたくないという気持ちが彼女の中にもあるのではないかと考えて少しだけ嬉しくなっていた。
 もちろん、彼女の言葉に深い意味なんて無いことはわかっているのだけれど、好きな彼女との時間を一分一秒でも楽しみたいと思っている俺は都合よく考えているのである。

「待たせちゃってごめんね。何でも、駅の近くで事件があったみたいで今日は帰れなくなっちゃったんだって。電車もバスもタクシーも規制されて動かないみたいなんだけど、いったい何が起こったんだろうね?」
「こんな風の強い日にそんな事件が起こるなんて不思議だね」
「だよね。確か、君って料理とか出来たよね?」
「うん、一応家事は一通りできるよ。両親が遠くに行ってるから自分でやらないといけないんだよね。って言っても、誰かに自慢できるような感じではないけどさ」

「そこでお願いがあるんだけど、今日はパパもママも帰ってこれないみたいなんで、うちに泊まっていってもらってもいいかな?」

 付き合って一か月、初めて手を繋いだこの日にお泊りのお誘いを彼女からされるとは夢にも思っていなかった。
 当然そうなるような妄想は何度も繰り返してきたのだけれど、実際に自分が体験してしまうと次の言葉が出てこなかった。
 即答をするのは良くないのではないか。
 無言でいるのも良くないのではないか。

 頭の中で何度も繰り返しシミュレーションしてみても、最適な答えは見つからなかった。

「嫌だったら無理にとは言わないんだけど、私って料理が苦手なんで君に作ってもらった方がいいと思うんだよね。パパもママもその方がいいんじゃないかって言ってくれたし、君さえよければ一緒にいてほしいな」
「全然かまわないよ。うまなちゃんが困ってるなら頼ってほしいし」
「ありがとう。君のそういうところも好きだよ」

 思わず即答してしまったのだが、彼女のご両親にも話が言っているのであれば公認という事になるのだろう。
 まだ挨拶もしたことが無い関係なのにそこまで信頼されているという事は、よほど彼女が信頼されているという事になるんだろうな。
 そのご両親の信頼を裏切らないように誠実な行動を心がけることにしよう。

「ちょっと散らかってるかもしれないけど気にしないでね。君は部屋着とか持ってきてないと思うんだけど、さすがにパパの服を着てもらうのは気まずいよね。って事で、来客用の浴衣があるからそれに着替えていいよ。制服のままだと皴が付いちゃうと思うし、今用意するからね」

 来客用の浴衣という聞きなれない言葉が気になったのだが、この家にはそんなに頻繁に来客が訪れるという事なのだろうか。
 それも、服を着替えるという事は泊りが前提になっているような気がする。
 深く考えるのはやめよう。
 泊り客が良く訪れるとか、あまり変なことを考えるとご両親の信頼を裏切りかねないな。

「浴衣の着せ方ってわからないんだけど、君は一人で出来るかな?」
「大丈夫だよ。小さい時に教えて貰ったから一人で着れるんだ」
「そうなんだ。ちょっと残念だけど、それならそれでいいか。じゃあ、私も着替えてくるんで待っててね。今からちゃんと可愛いうまなちゃんを見せてあげるからね」

 制服から浴衣に着替えるというのは初めての体験だった。
 修学旅行の時も浴衣ではなくジャージに着替えていたし、浴衣を着る機会なんてそんなに多くはなかったと思う。
 それでも、両親が一緒に暮らしていた時は夏祭りの時に浴衣を着ていたし、お盆に親戚が集まる時もわりと和装が多かったような記憶がある。
 親戚の顔も思い出せなくくらい会っていないと思うのだけど、みんな元気で暮らしているのかな?

 それにしても、散らかっていると言っていたのに随分と整理された部屋だな。
 着替え終わってすることも無いのでついつい部屋を見回してしまっていたのだけれど、物の置き場所が決まっているのではないかと思うくらいに全てが整えられている。
 俺もこれくらい綺麗に部屋を使った方がいいんだろうな。
 そんな事を考えていると、リビングの扉を開けて彼女が入ってきた。

「ごめんね。どっちが可愛いか迷って決めるのに時間がかかっちゃった。君はこんな感じが好きだったりするのかな?」

 俺は入ってきた彼女を迎えるように無意識のうちに振り返っていたのだが、その姿を見て思考が完全に停止していた。
 何をどう考えて良いのかわからなくなり、俺は目の前に起きていることが現実なのかわからなくなっていた。

「うーん、こっちよりももっと見えてた方が良かったかな?」

 彼女のあらわになっている肌はとても綺麗で今にも手を伸ばして触れたい。
 そんな感情に支配されそうになったけれど、俺の理性は彼女のご両親の信頼を守るという言葉を思い出してギリギリのところで踏み止まっていた。

「部屋用の下着って選ぶのが難しいよね。普段は人に見せるものじゃないし、自分の好きな物でいいと思ってたんだけど、君に見てもらえるって考えたらもっと真剣に選べば良かったなって思っちゃうよ」

 下着姿の彼女を前に冷静でいられることは奇跡だろう。
 テレビが伝える臨時ニュースが断片的にしか頭に入ってきていないので冷静なのだとは言えないかもしれないが、俺は彼女に今にも襲い掛かりそうになっている自分を冷静に抑えようとしていた。

「あ、私を見て反応してくれて嬉しいよ。想像していたよりも逞しい感じなんだね」

 俺の理性は強風にあおられてどこかへ行ってしまったようだ。
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