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女子バスケ部エースの後輩とベンチ外の俺
第五話
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兎梅中との練習試合は一年生の仲良し五人組が先発出場したのだが、彼らはほぼ何も出来ずに前半を終えたのだ。兎梅中はディフェンスに穴があるチームなので公式戦では個人技でやられることも多かったのだが、うちの一年生たちはその穴を突破することが出来なかった。いや、突破自体は出来ていたのだがその後にコースを潰されて何も出来ない状態にさせられていたのだった。
交代人数自由だったので前半途中で一年生は全員交代したのだが、彼らが決めた得点はわずかに八点だったのだ。交代した時点では二十点以上差が開いていたのだが、前半終了時点では十点差までつめることが出来たのだ。兎梅中は補欠と交代したという事もあるのだろうが、その結果だけを見ていた一年生連中は完全にプライドが砕かれることになってしまったようだ。
俺は応援に来てくれた若葉ちゃんと女バスの人達と一緒に見ていたのだが、女バスの人達は兎梅中のガードの人がお気に入りらしくボールを持つたびに黄色い歓声をあげていた。ウチの中学と戦っている時くらいは自重してもらいたいと思ったのだけれど、これは練習試合だから自由に応援してもらっても良いのかもしれない。
歓声が上がった時は一年生が抜かれたり抑えられたりした時なのだが、その事も一年生たちのプライドを傷つける事になっていたのではないかと思っていた。これで今まで以上に真面目に練習に取り組んでくれるようになってくれればいいのだけれど、ここまで完全に抑えられてしまうとそうもいかないのかもしれない。
「いきなり向こうのレギュラーが出てきたのは驚きましたけど、うちの一年生って口ばっかりで大したことないんですね。見に来いっていうくらいだから期待してたんですけど、ちょっとがっかりでしたよ。それにしても、うちの二年生って結構やるんですね。今までは三年生が多かったから試合に出てるの見た事なかったですけど、シュートフォーム綺麗な人多いですよね」
「若葉ちゃんが見てもそう思うんだね。俺も今の二年生はみんなフォームが綺麗だなって思ってるんだ。でもさ、一年生も落ち込んでいるだろうからあんまりそういうことは言わない方がいいんじゃないかな」
「そうですかね。私は活躍するところを見せてもらえると思ってきたんですけど、それって私の勘違いだったって事ですよね。それよりも、二年生の人達って先輩がシュート教えたからあんなに綺麗なフォームになるんですよね。私も最初から先輩に教えてもらえばフリースロー得意になってたかもしれないのにな」
「そんな事ないと思うよ。それにさ、俺が教えたとしたら他の事が何も出来なくなってるかもしれないし、今の方がいいと思うんだけどな。一年生たちは若葉ちゃんと話がしたいって言ってたけど、こんな状況じゃそうもいかないよね」
「そうですね。もう少し上手にというか、試合が出来るようになったら話しても良いかもしれないですね。自分たちが目立つような事しか出来ないんじゃ試合では使えないですからね」
若葉ちゃんの言っていることは間違ってはいないと思うけれど、ここまでハッキリと断言する必要も無いとは思う。一年生たちも試合前はあんなに高かったテンションが今では深刻な病にでもかかったのかと思うくらいに暗く落ち込んでいるのだ。誰も声をかけに行かないのもどうかと思うが、そんな事を考えている俺もなんて声をかければいいのかわからなかったのだ。
練習試合はメンバーを色々と入れ替えて二試合行ったのだが、俺が試合に出ることは無かった。本格的に新チームで稼働している今、俺が練習試合とはいえ試合に出る可能性があったのは今日が最後だと思っている。その最後にもチャンスはつかめなかったわけなのだが、うちの二年生の課題も色々と見つかったので良かったのではないかと思う。次に繋がるいい試合だったと思うのだが、一年生の仲良し五人組は何が良かったのか探すところからはじめないと次に進めないように感じていた。
「あの、すいません。俺達とフリースロー対決してもらえませんか?」
「え、俺と?」
そろそろ帰り支度をしておかないといけないなと思っていたところに兎梅中の選手に声をかけられた。突然の事だったので俺は驚いてしまったのだが、兎梅中の部員たちが俺を取り囲んでキラキラした目で見つめてきていた。
「フリースロー対決って、君たち全員とって事?」
「はい、出来れば全員とお願いしたいんですが、大丈夫でしょうか?」
「俺は良いんだけど、先生たちにも聞かないと」
「それなら大丈夫です。先生方の話はもうついてますから。それに、俺達は萩原さんとフリースロー対決がしたくて練習試合組んでもらったんです。そちらの先生には萩原さんが対決してくれるかは本人次第だって言ってもらえたんですけど、やってもらえますか?」
「え、俺と対決することがこの練習試合を受けてくれた条件だったって事?」
「はい、失礼な話だとは思うんですけど、それくらいしかメリットが無いと思ってるんです。俺達は萩原さんのフリースローをまた見たいって思ってるんです。萩原さんが家との練習試合で決めたフリースローの映像はテレビが壊れるんじゃないかってくらい何度も見てますから。それくらい衝撃を受けたフリースローをみんな見たいって思ってるんです。出来れば勝負してもらいたいって思ってるんですけど、勝負がダメだったらフリースローだけでもやってもらえませんか?」
俺が決めたフリースローがそんなに凄いものだったのかはわからないが、今でもその映像を見ているというのは正直驚いた。何がそこまで凄いのかはわからないけれど、兎梅中の選手たちの言葉を聞いてなぜか若葉ちゃんも深く頷いていたのだ。
「一応先生に確認してくるんで待っててもらっても良いかな。ダメって言われたらごめんね」
「はい、よろしくお願いします」
兎梅中バスケ部全員から頭を下げられた俺はとても困っていた。試合に出る予定も無いのでユニフォームなんか持ってきていないのだが、このままジャージでやっても良いものなのだろうか。そもそも、本当に先生がそんな条件を飲んだというのが信じられない。俺を生贄にして練習試合を組んだというのも本当なのか疑わしい話だ。
「その通りだ。黙っていて悪かったと思うが、そんな事を言ってしまえば全員の士気が下がってしまうだろ。これだけの観衆の目とカメラが向けられている状況では無理だというんだったら断ったっていいんだぞ。フリースロー対決を受けるかどうかはお前の気持ち次第だという事は前もって言ってあるしな。それに、お前のフリースローを見て向こうが強くなる可能性だってあるんだし、来年の公式戦で当たった時にそれが脅威になる可能性だってあるんだ。だから、断ってくれたっていいんだからな」
「でも、断ったりしたら兎梅中と練習試合なんて二度と出来なくなるんじゃないですかね?」
「その可能性はあるだろうな。だが、お前は今年で引退なんだし、来年の事は気にしなくても大丈夫だ。それに、お前だけ引退試合をやれないというのもかわいそうな話ではあるしな。お前は練習試合に出すよりもこっちの方がいい思い出になるんじゃないかと思ったんだが、それは俺の思い過ごしだったかな」
来年以降に兎梅中と練習試合を行うかどうかなんて卒業する俺には関係のない話だと思うけど、一緒に頑張ってきた後輩たちが俺のせいで不利益を被るなんてあってはいけない事だと思う。それに、試合では何の役にも立てなくていても邪魔なだけの俺は引退試合なんて出来るとは思っていなかった。それなのに、この辺りで最強の兎梅中と引退試合が出来る舞台を整えてもらえたのだ、断る理由なんて無いだろう。
「負けても何も無いですよね?」
「ないよ。これは練習試合が終わった後の余興みたいなもんだからね。向こうもお前が以前フリースローを決めたゴール側に陣取ってるぜ。ウチも向こうもお前を待ってるよ」
「じゃあ、俺の引退試合をさせてもらいますね」
交代人数自由だったので前半途中で一年生は全員交代したのだが、彼らが決めた得点はわずかに八点だったのだ。交代した時点では二十点以上差が開いていたのだが、前半終了時点では十点差までつめることが出来たのだ。兎梅中は補欠と交代したという事もあるのだろうが、その結果だけを見ていた一年生連中は完全にプライドが砕かれることになってしまったようだ。
俺は応援に来てくれた若葉ちゃんと女バスの人達と一緒に見ていたのだが、女バスの人達は兎梅中のガードの人がお気に入りらしくボールを持つたびに黄色い歓声をあげていた。ウチの中学と戦っている時くらいは自重してもらいたいと思ったのだけれど、これは練習試合だから自由に応援してもらっても良いのかもしれない。
歓声が上がった時は一年生が抜かれたり抑えられたりした時なのだが、その事も一年生たちのプライドを傷つける事になっていたのではないかと思っていた。これで今まで以上に真面目に練習に取り組んでくれるようになってくれればいいのだけれど、ここまで完全に抑えられてしまうとそうもいかないのかもしれない。
「いきなり向こうのレギュラーが出てきたのは驚きましたけど、うちの一年生って口ばっかりで大したことないんですね。見に来いっていうくらいだから期待してたんですけど、ちょっとがっかりでしたよ。それにしても、うちの二年生って結構やるんですね。今までは三年生が多かったから試合に出てるの見た事なかったですけど、シュートフォーム綺麗な人多いですよね」
「若葉ちゃんが見てもそう思うんだね。俺も今の二年生はみんなフォームが綺麗だなって思ってるんだ。でもさ、一年生も落ち込んでいるだろうからあんまりそういうことは言わない方がいいんじゃないかな」
「そうですかね。私は活躍するところを見せてもらえると思ってきたんですけど、それって私の勘違いだったって事ですよね。それよりも、二年生の人達って先輩がシュート教えたからあんなに綺麗なフォームになるんですよね。私も最初から先輩に教えてもらえばフリースロー得意になってたかもしれないのにな」
「そんな事ないと思うよ。それにさ、俺が教えたとしたら他の事が何も出来なくなってるかもしれないし、今の方がいいと思うんだけどな。一年生たちは若葉ちゃんと話がしたいって言ってたけど、こんな状況じゃそうもいかないよね」
「そうですね。もう少し上手にというか、試合が出来るようになったら話しても良いかもしれないですね。自分たちが目立つような事しか出来ないんじゃ試合では使えないですからね」
若葉ちゃんの言っていることは間違ってはいないと思うけれど、ここまでハッキリと断言する必要も無いとは思う。一年生たちも試合前はあんなに高かったテンションが今では深刻な病にでもかかったのかと思うくらいに暗く落ち込んでいるのだ。誰も声をかけに行かないのもどうかと思うが、そんな事を考えている俺もなんて声をかければいいのかわからなかったのだ。
練習試合はメンバーを色々と入れ替えて二試合行ったのだが、俺が試合に出ることは無かった。本格的に新チームで稼働している今、俺が練習試合とはいえ試合に出る可能性があったのは今日が最後だと思っている。その最後にもチャンスはつかめなかったわけなのだが、うちの二年生の課題も色々と見つかったので良かったのではないかと思う。次に繋がるいい試合だったと思うのだが、一年生の仲良し五人組は何が良かったのか探すところからはじめないと次に進めないように感じていた。
「あの、すいません。俺達とフリースロー対決してもらえませんか?」
「え、俺と?」
そろそろ帰り支度をしておかないといけないなと思っていたところに兎梅中の選手に声をかけられた。突然の事だったので俺は驚いてしまったのだが、兎梅中の部員たちが俺を取り囲んでキラキラした目で見つめてきていた。
「フリースロー対決って、君たち全員とって事?」
「はい、出来れば全員とお願いしたいんですが、大丈夫でしょうか?」
「俺は良いんだけど、先生たちにも聞かないと」
「それなら大丈夫です。先生方の話はもうついてますから。それに、俺達は萩原さんとフリースロー対決がしたくて練習試合組んでもらったんです。そちらの先生には萩原さんが対決してくれるかは本人次第だって言ってもらえたんですけど、やってもらえますか?」
「え、俺と対決することがこの練習試合を受けてくれた条件だったって事?」
「はい、失礼な話だとは思うんですけど、それくらいしかメリットが無いと思ってるんです。俺達は萩原さんのフリースローをまた見たいって思ってるんです。萩原さんが家との練習試合で決めたフリースローの映像はテレビが壊れるんじゃないかってくらい何度も見てますから。それくらい衝撃を受けたフリースローをみんな見たいって思ってるんです。出来れば勝負してもらいたいって思ってるんですけど、勝負がダメだったらフリースローだけでもやってもらえませんか?」
俺が決めたフリースローがそんなに凄いものだったのかはわからないが、今でもその映像を見ているというのは正直驚いた。何がそこまで凄いのかはわからないけれど、兎梅中の選手たちの言葉を聞いてなぜか若葉ちゃんも深く頷いていたのだ。
「一応先生に確認してくるんで待っててもらっても良いかな。ダメって言われたらごめんね」
「はい、よろしくお願いします」
兎梅中バスケ部全員から頭を下げられた俺はとても困っていた。試合に出る予定も無いのでユニフォームなんか持ってきていないのだが、このままジャージでやっても良いものなのだろうか。そもそも、本当に先生がそんな条件を飲んだというのが信じられない。俺を生贄にして練習試合を組んだというのも本当なのか疑わしい話だ。
「その通りだ。黙っていて悪かったと思うが、そんな事を言ってしまえば全員の士気が下がってしまうだろ。これだけの観衆の目とカメラが向けられている状況では無理だというんだったら断ったっていいんだぞ。フリースロー対決を受けるかどうかはお前の気持ち次第だという事は前もって言ってあるしな。それに、お前のフリースローを見て向こうが強くなる可能性だってあるんだし、来年の公式戦で当たった時にそれが脅威になる可能性だってあるんだ。だから、断ってくれたっていいんだからな」
「でも、断ったりしたら兎梅中と練習試合なんて二度と出来なくなるんじゃないですかね?」
「その可能性はあるだろうな。だが、お前は今年で引退なんだし、来年の事は気にしなくても大丈夫だ。それに、お前だけ引退試合をやれないというのもかわいそうな話ではあるしな。お前は練習試合に出すよりもこっちの方がいい思い出になるんじゃないかと思ったんだが、それは俺の思い過ごしだったかな」
来年以降に兎梅中と練習試合を行うかどうかなんて卒業する俺には関係のない話だと思うけど、一緒に頑張ってきた後輩たちが俺のせいで不利益を被るなんてあってはいけない事だと思う。それに、試合では何の役にも立てなくていても邪魔なだけの俺は引退試合なんて出来るとは思っていなかった。それなのに、この辺りで最強の兎梅中と引退試合が出来る舞台を整えてもらえたのだ、断る理由なんて無いだろう。
「負けても何も無いですよね?」
「ないよ。これは練習試合が終わった後の余興みたいなもんだからね。向こうもお前が以前フリースローを決めたゴール側に陣取ってるぜ。ウチも向こうもお前を待ってるよ」
「じゃあ、俺の引退試合をさせてもらいますね」
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