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十九番隊副隊長マーちゃん中尉とうまなちゃん
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彼が副隊長になれたのは偶然に偶然が重なった結果だった。誰でも魔法が使えるようになったのと時を同じくして彼が副隊長に任命されたのである。その理由は単純で、『うまな式基礎魔法術』に頼ることなく魔法を使うことが出来たから。すなわち、『うまな式高等魔法術』を理解することが出来るという理由だけであった。魔法を使うことが出来る人が増えたことで隊員の数も恐ろしいほど増え、こうしている今も千人単位で入隊希望者が押し寄せてきているのだ。
「なんで基礎魔法しか使えなかった俺が副隊長になれるんだよ。一般隊士として定年まで最後方で訓練だけして暮らしていこうって思ってたのに、あのへんな女が余計な技術を広めたせいで一般隊士が増えて俺みたいなやつまで副隊長になれるっておかしいだろ。そもそも、十九番隊だけで副隊長って何人いるんだって話だからな。俺が知ってるだけでも千人近くはいるって話だけど、それだけいるんだったら俺のところにやって来る奴を他のところに押し付けることだって出来るんじゃないか。よし、俺のところに配属されるやつがきたらその提案をしてみよう。そうすれば俺も自分の小隊を持たずに済むかもしれないな。大体、ついこの間まで二等兵だった俺が急に中尉になるっておかしいだろ」
副隊長に任命されたと同時に二等兵から中尉に昇任したマーちゃんは本来であれば魔法は使えるが実戦に投入するレベルには達していないと判断されて訓練漬けの日々を送るはずだったのである。だが、先に発表された『うまな式魔法術』の影響でその野望は絶たれてしまい、今では自分の部下になる隊員が配属されるのを待って前線へと赴くことになるのであった。
せめて訓練が必要な新人が配属されることを祈ってはいたものの、マーちゃんの部隊に配属される二人の名簿を見てマーちゃんはすべてを悟ってしまった。
定刻の五分前に副隊長室の扉をノックもせずに入ってきた二人の女性はマーちゃんの顔を見ると何も言わずに深々と頭を下げていた。
いきなり扉が開いて驚いてしまったマーちゃんは顔を見る前に頭を下げた二人が誰なのかわかっていなかった。いや、この時間にこの部屋を訪ねてくる人物なんて二人しか心当たりがないので気付いていないはずはないのだが、心の奥底であの名簿が噓だったと思っているので一応名前を聞いてみることにした。
「突然入ってきて驚いたんだけど、とりあえず頭を上げてもらってもいいかな。それと、出来れば自己紹介的なものをしてもらえると助かるんだけど」
マーちゃんの言葉を聞いて先に顔を上げたのは桃色の髪をした赤い瞳の少女であった。彼女は見定めるようにマーちゃんの事を頭の先からつま先まで確認するように視線を動かしていた。その視線がマーちゃんの顔で止まって二人の目が合うと少女はニコッと微笑んで何やらメモを取り出してそれを目の前に掲げて読み始めた。
「えっと、私は魔法技術庁長官及び特別魔法研究員の栗宮院うまな中将です。実戦経験は全くないですが中尉のもとで多くの事を学びこれからの魔法技術の発展に全力を注ぎたいと思います。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
「私はイザー二等兵です。うまな中将は本日正午を持ちまして魔法技術庁長官を辞任いたします。それと同時に特別魔法研究員の資格も停止されますので正午からはうまなちゃんと呼んであげてください。私の事はイザー二等兵で結構ですので」
俺が受け取った配属命令書は嘘ではなかったという事だ。アレがドッキリであってその罪を被って俺は僻地へと転属されるのではという期待もあったのだが、その希望はあっさりと潰えてしまった。
それよりも、中尉である俺の下に中将が配属されるというのは問題ではないのだろうか。いくら実戦経験がないとはいえおかしいだろ。そんなことが認められるなんて何か危険な香りがするのだが。
「あの、栗宮院中将が私の部隊に配属されるのは何かの間違いでしょうか。中尉である私のもとに中将であられる栗宮院うまな中将が配属されるのはおかしいと思うのですが」
「それはおかしい話ではないのです。私も最初は何かの間違いかと思って何度も確認したのですが、うまなちゃんがマーちゃん中尉の部隊が良いと言ってきかないのでこうなってしまいました。なので、その配属命令書は何も間違っていないんです」
「そうは言いますけど、私だって実戦経験は全くないんですよ。そんな私がどうして栗宮院うまな中将の上に立って指導することが出来るというのでしょうか。私よりも他の副隊長の方がふさわしいと思うんです。そもそも、栗宮院うまな中将が十九番隊に配属されるのもおかしい話ですよ。家柄や実績から言っても一番隊が相応しいと思うのですが」
「失礼、それ以上は言わない方が良いですよ」
イザー二等兵はいつの間にか俺の隣に移動して突き立てた人差し指を俺の口にそっと押し当ててきた。移動したことに全く気が付かなかったマーちゃん中尉はイザー二等兵の身のこなしに驚いていたのだが、それ以上に近くに来ると甘くいい匂いがふんわりと香ってきて思わず顔を見つめてしまった。十九番隊隊舎ではもちろん、食堂ですら久しく嗅いだことのない甘い香りで思わず目元も口元も緩んでしまったマーちゃん中尉であった。
「ちょっと、二人でイチャイチャするのはやめてよね。私がマーちゃん中尉の下で学びたいって思ったからここに来たのよ。そのためにあなたを中尉まで昇任させたわけだし、細かいことなんて気にしなくていいのよ。それと、私の事は中将じゃなくてうまなちゃんって呼びなさいよ。これは上官命令なんで逆らったら銃殺刑よ」
「ちなみにうまなちゃんが持っている魔導銃はどんな魔法防壁も突き破って致命傷を与えることが出来る特別製となっているんですよ。しかも、狙った相手の急所に絶対に当たる仕様に改造してるんです。当然市販の銃と違って人間に向けても効果があるんですからね」
前線に出ずに訓練して任期を全うして、その後何事もなかったかのように退役してのんびり暮らす計画は一瞬のうちに瓦解してしまったのを実感したマーちゃん中尉であった。
「なんで基礎魔法しか使えなかった俺が副隊長になれるんだよ。一般隊士として定年まで最後方で訓練だけして暮らしていこうって思ってたのに、あのへんな女が余計な技術を広めたせいで一般隊士が増えて俺みたいなやつまで副隊長になれるっておかしいだろ。そもそも、十九番隊だけで副隊長って何人いるんだって話だからな。俺が知ってるだけでも千人近くはいるって話だけど、それだけいるんだったら俺のところにやって来る奴を他のところに押し付けることだって出来るんじゃないか。よし、俺のところに配属されるやつがきたらその提案をしてみよう。そうすれば俺も自分の小隊を持たずに済むかもしれないな。大体、ついこの間まで二等兵だった俺が急に中尉になるっておかしいだろ」
副隊長に任命されたと同時に二等兵から中尉に昇任したマーちゃんは本来であれば魔法は使えるが実戦に投入するレベルには達していないと判断されて訓練漬けの日々を送るはずだったのである。だが、先に発表された『うまな式魔法術』の影響でその野望は絶たれてしまい、今では自分の部下になる隊員が配属されるのを待って前線へと赴くことになるのであった。
せめて訓練が必要な新人が配属されることを祈ってはいたものの、マーちゃんの部隊に配属される二人の名簿を見てマーちゃんはすべてを悟ってしまった。
定刻の五分前に副隊長室の扉をノックもせずに入ってきた二人の女性はマーちゃんの顔を見ると何も言わずに深々と頭を下げていた。
いきなり扉が開いて驚いてしまったマーちゃんは顔を見る前に頭を下げた二人が誰なのかわかっていなかった。いや、この時間にこの部屋を訪ねてくる人物なんて二人しか心当たりがないので気付いていないはずはないのだが、心の奥底であの名簿が噓だったと思っているので一応名前を聞いてみることにした。
「突然入ってきて驚いたんだけど、とりあえず頭を上げてもらってもいいかな。それと、出来れば自己紹介的なものをしてもらえると助かるんだけど」
マーちゃんの言葉を聞いて先に顔を上げたのは桃色の髪をした赤い瞳の少女であった。彼女は見定めるようにマーちゃんの事を頭の先からつま先まで確認するように視線を動かしていた。その視線がマーちゃんの顔で止まって二人の目が合うと少女はニコッと微笑んで何やらメモを取り出してそれを目の前に掲げて読み始めた。
「えっと、私は魔法技術庁長官及び特別魔法研究員の栗宮院うまな中将です。実戦経験は全くないですが中尉のもとで多くの事を学びこれからの魔法技術の発展に全力を注ぎたいと思います。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
「私はイザー二等兵です。うまな中将は本日正午を持ちまして魔法技術庁長官を辞任いたします。それと同時に特別魔法研究員の資格も停止されますので正午からはうまなちゃんと呼んであげてください。私の事はイザー二等兵で結構ですので」
俺が受け取った配属命令書は嘘ではなかったという事だ。アレがドッキリであってその罪を被って俺は僻地へと転属されるのではという期待もあったのだが、その希望はあっさりと潰えてしまった。
それよりも、中尉である俺の下に中将が配属されるというのは問題ではないのだろうか。いくら実戦経験がないとはいえおかしいだろ。そんなことが認められるなんて何か危険な香りがするのだが。
「あの、栗宮院中将が私の部隊に配属されるのは何かの間違いでしょうか。中尉である私のもとに中将であられる栗宮院うまな中将が配属されるのはおかしいと思うのですが」
「それはおかしい話ではないのです。私も最初は何かの間違いかと思って何度も確認したのですが、うまなちゃんがマーちゃん中尉の部隊が良いと言ってきかないのでこうなってしまいました。なので、その配属命令書は何も間違っていないんです」
「そうは言いますけど、私だって実戦経験は全くないんですよ。そんな私がどうして栗宮院うまな中将の上に立って指導することが出来るというのでしょうか。私よりも他の副隊長の方がふさわしいと思うんです。そもそも、栗宮院うまな中将が十九番隊に配属されるのもおかしい話ですよ。家柄や実績から言っても一番隊が相応しいと思うのですが」
「失礼、それ以上は言わない方が良いですよ」
イザー二等兵はいつの間にか俺の隣に移動して突き立てた人差し指を俺の口にそっと押し当ててきた。移動したことに全く気が付かなかったマーちゃん中尉はイザー二等兵の身のこなしに驚いていたのだが、それ以上に近くに来ると甘くいい匂いがふんわりと香ってきて思わず顔を見つめてしまった。十九番隊隊舎ではもちろん、食堂ですら久しく嗅いだことのない甘い香りで思わず目元も口元も緩んでしまったマーちゃん中尉であった。
「ちょっと、二人でイチャイチャするのはやめてよね。私がマーちゃん中尉の下で学びたいって思ったからここに来たのよ。そのためにあなたを中尉まで昇任させたわけだし、細かいことなんて気にしなくていいのよ。それと、私の事は中将じゃなくてうまなちゃんって呼びなさいよ。これは上官命令なんで逆らったら銃殺刑よ」
「ちなみにうまなちゃんが持っている魔導銃はどんな魔法防壁も突き破って致命傷を与えることが出来る特別製となっているんですよ。しかも、狙った相手の急所に絶対に当たる仕様に改造してるんです。当然市販の銃と違って人間に向けても効果があるんですからね」
前線に出ずに訓練して任期を全うして、その後何事もなかったかのように退役してのんびり暮らす計画は一瞬のうちに瓦解してしまったのを実感したマーちゃん中尉であった。
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