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陰キャ王子と悪魔の子
後編
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僕の国は争いに巻き込まれることなどほとんどなかったのだが、今や戦火の中心となっていた。
どうやら、僕を守ってくれている彼女はただの人間ではなく、上位の悪魔だという事だ。でも、なんで悪魔が僕の事をこんなに守ってくれるのだろうか。それは僕にもわからないのだけれど、守ってくれている理由は彼女に聞いても教えてくれないのだ。
悪魔が無償で人間を守ることなんて無いと思うのだけれど、僕の父が支払った対価というのは何なのか気になってしまう。でも、そんな父は世界中が戦争の恐怖に襲われている中、ひっそりと老衰で亡くなってしまった。もしや、僕の父の命と引き換えに僕の命を守ってくれているのかと思って訪ねてみたのだが、彼女は「そんな安い対価じゃ王子様の事を守ろうなんて思わないよ」とバカにしたように答えてきた。
人間の命に重さなんて無いとは思うけれど、それでも一国の王である僕の父の命は他の人に比べれば多少は重いのではないかと思う。でも、そんな父の命でも足りないとなると、一体何を求めて僕を守ってくれているというのだろうか。
「ねえ、君はどうしてそんなに僕に忠誠を誓ってくれるの?」
「どうしてって、そうすることで私は今まで手に入れることの出来なかった感情を持つことが出来ると思うからです。私は、今まで強すぎるという理由で同じ悪魔からも忌み嫌われ、人間たちからも恐れられていました。そんな私が誰かのために自分を犠牲にすることによって、愛というものを手に入れることが出来ると聞き、その相手に相応しいのは誰かと探した結果、王子様が選ばれたというわけです」
「でも、どうして僕が選ばれることになったの?」
「私もあなたがなぜ相応しいのかはわからないのですが、神があなたを選んだのだからそれが正しいのだと思いますよ。人間の神とは長きにわたって争うこともありましたが、今ではあなたを紹介してくれたとこに感謝しているのです。でも、あなたを助けることで他の人間を殺しているのは良いことなのか悩みどころではありますね」
「そんなに悩んでたんだとしても、悪魔って事は、今までもたくさんの人を殺してきたんじゃないの?」
「ええ、私が生れ落ちてから今までの間に何人の人間や神を殺してきたかわかりません。その他に殺した中には同胞も含まれると思うのですが、いったい今までいくつの命を奪ってきたのかという事は思い出すことも出来ないのです。ですが、これからは王子様の望まない殺しはしないと誓いますよ」
「戦争とはいえそんなに一方的に相手を殺すのは良くないと思うけど、僕たちが黙って殺されるわけにもいかないんだよね。相手を殺すことはダメな事だと思ってるけど、仕方のない事だという事も僕は理解しているよ。でも、出来ることなら相手を殺さないでどうにか説得できればいいんだけどね」
「もしかして、それが愛という感情なのでしょうか?」
「そうだね。相手を思いやるというのも愛の一つなのかもしれないね。相手を憎まず愛することも重要だって神様が言ってたようだし、戦うだけじゃなくて説得してみるのもいいんじゃないかな」
「説得とかやったことないけど、手っ取り早くみんな殺しちゃった方が早いと思うんだけどな。でも、王子様がそう言うんだったらそうしてみようかな」
彼女は僕の言う通りに他の国で戦う事をせずに、説得して回っていた。ただ、今までの彼女を知っている人が多く生き残っていたという事もあって、彼女の説得は脅迫ではないかと思うような場面も多くあったようだ。
それでも、多くの人の命が奪われるという事態は避けられたので、それはそれでよかったのではないかとおもう。
「結構時間はかかっちゃったけど、世界中の国が王子様の物になってよかったね。あ、もう王子様じゃないんだったね」
「僕は君にお願いをしていただけで何もしていないようなもんなんだけど、それでも君が世界を平和的にまとめてくれたことが嬉しいよ。最初は脅迫めいた事をしてと思うけど、今ではちゃんと平和的に世界をまとめあげたってわかってもらえてるもんね。君は凄いよ。あん何いがみ合ってた国々をまとめあげちゃったんだもんね。愛とはどんなものなのかわかったかな?」
「まだよくわからないかも。愛ってのは相手を思いやる気持ちなんだろうなってのはわかるんだけど、それに何の意味があるのかまでは考えられないんだよね」
「そのうちわかる時が来るんじゃないかな。それのためにも、僕の側にずっといてくれたらいいんじゃないかな。君さえよければ、僕と結婚してこれからもこの世界を平和に導いてくれないかな?」
「結婚って、私は悪魔なのよ。あなたは人間だし、悪魔と結婚なんて出来るわけないでしょ。そんな事をしたらみんなあなたに反発してしまうと思うのだけど」
「そんなことは無いさ。最初は皆君の事を恐れていたけど、今では君に気さくに話しかけてくれる人だっているだろ。人間は皆環境に合わせて変わることが出来るのだ。君だって最初の頃とは違ってむやみやたらと戦闘をおこなおうなんてしなくなっただろう。人間だけじゃなくて悪魔だって変われれると思うんだよ。だから、僕と一緒に家庭を築いて欲しいんだ。どうかな?」
「どうかなって、冗談で言ってるわけじゃないんだよね?」
「もちろん。本気だとも」
「あなたは人間だし、寿命だって全然違うのよ。それでも私と結婚したいって思うの?」
「もちろん。僕が君より先に死ぬのは仕方ないことだし、その時は僕の事を忘れて自由にしていいからさ。君が望むんだったら僕は人間をやめたっていいと思ってるよ」
「あなたは人間をやめなくても大丈夫。わかったわ、そこまでの覚悟を示してくれるんだったら、私もあなたを信じてついていくわ」
「ありがとう。僕はまだ何も君にしてあげられていないけど、これからは君の力に頼らなくても守れるように努力するよ」
「そんな事をしなくたって大丈夫よ。私があなたを守るのは私の方が強くてあなたの方が弱いからってだけじゃないもの。あれ、もしかして、この気持ちが愛なのかな?」
「そうだね、それも愛の一つだと思うよ」
「愛は一つだけじゃないの?」
「もちろん。愛は一つって決まってるわけじゃないし、人によっても形は様々さ。ただ一緒に居るだけの関係でも愛を育むことは出来るし、積極的に関わっていくことでも育むことは出来るんだよ。だから、僕たちにしかない愛の形だってあると思うんだよね」
世界が一つになり、平和になった今。僕と彼女は世界だけではなく自分たちも一つの家庭を築くことになったのだ。
もしかしたら、人間と悪魔の愛なんて誰にも認められない事なのかもしれないけれど、僕たちはずっと一緒に暮らしていくことが出来るはずだ。そう信じている。
世界を一つにまとめ上げたのが彼女の仕事だったとしたら、僕は彼女との家庭をまとめ上げるのが仕事なのではないかと思っていた。
僕たちの結婚式は教会で盛大に執り行われたのだが、教会にある神様の像もいつもよりも穏やかな笑みを浮かべているように感じていた。
どうやら、僕を守ってくれている彼女はただの人間ではなく、上位の悪魔だという事だ。でも、なんで悪魔が僕の事をこんなに守ってくれるのだろうか。それは僕にもわからないのだけれど、守ってくれている理由は彼女に聞いても教えてくれないのだ。
悪魔が無償で人間を守ることなんて無いと思うのだけれど、僕の父が支払った対価というのは何なのか気になってしまう。でも、そんな父は世界中が戦争の恐怖に襲われている中、ひっそりと老衰で亡くなってしまった。もしや、僕の父の命と引き換えに僕の命を守ってくれているのかと思って訪ねてみたのだが、彼女は「そんな安い対価じゃ王子様の事を守ろうなんて思わないよ」とバカにしたように答えてきた。
人間の命に重さなんて無いとは思うけれど、それでも一国の王である僕の父の命は他の人に比べれば多少は重いのではないかと思う。でも、そんな父の命でも足りないとなると、一体何を求めて僕を守ってくれているというのだろうか。
「ねえ、君はどうしてそんなに僕に忠誠を誓ってくれるの?」
「どうしてって、そうすることで私は今まで手に入れることの出来なかった感情を持つことが出来ると思うからです。私は、今まで強すぎるという理由で同じ悪魔からも忌み嫌われ、人間たちからも恐れられていました。そんな私が誰かのために自分を犠牲にすることによって、愛というものを手に入れることが出来ると聞き、その相手に相応しいのは誰かと探した結果、王子様が選ばれたというわけです」
「でも、どうして僕が選ばれることになったの?」
「私もあなたがなぜ相応しいのかはわからないのですが、神があなたを選んだのだからそれが正しいのだと思いますよ。人間の神とは長きにわたって争うこともありましたが、今ではあなたを紹介してくれたとこに感謝しているのです。でも、あなたを助けることで他の人間を殺しているのは良いことなのか悩みどころではありますね」
「そんなに悩んでたんだとしても、悪魔って事は、今までもたくさんの人を殺してきたんじゃないの?」
「ええ、私が生れ落ちてから今までの間に何人の人間や神を殺してきたかわかりません。その他に殺した中には同胞も含まれると思うのですが、いったい今までいくつの命を奪ってきたのかという事は思い出すことも出来ないのです。ですが、これからは王子様の望まない殺しはしないと誓いますよ」
「戦争とはいえそんなに一方的に相手を殺すのは良くないと思うけど、僕たちが黙って殺されるわけにもいかないんだよね。相手を殺すことはダメな事だと思ってるけど、仕方のない事だという事も僕は理解しているよ。でも、出来ることなら相手を殺さないでどうにか説得できればいいんだけどね」
「もしかして、それが愛という感情なのでしょうか?」
「そうだね。相手を思いやるというのも愛の一つなのかもしれないね。相手を憎まず愛することも重要だって神様が言ってたようだし、戦うだけじゃなくて説得してみるのもいいんじゃないかな」
「説得とかやったことないけど、手っ取り早くみんな殺しちゃった方が早いと思うんだけどな。でも、王子様がそう言うんだったらそうしてみようかな」
彼女は僕の言う通りに他の国で戦う事をせずに、説得して回っていた。ただ、今までの彼女を知っている人が多く生き残っていたという事もあって、彼女の説得は脅迫ではないかと思うような場面も多くあったようだ。
それでも、多くの人の命が奪われるという事態は避けられたので、それはそれでよかったのではないかとおもう。
「結構時間はかかっちゃったけど、世界中の国が王子様の物になってよかったね。あ、もう王子様じゃないんだったね」
「僕は君にお願いをしていただけで何もしていないようなもんなんだけど、それでも君が世界を平和的にまとめてくれたことが嬉しいよ。最初は脅迫めいた事をしてと思うけど、今ではちゃんと平和的に世界をまとめあげたってわかってもらえてるもんね。君は凄いよ。あん何いがみ合ってた国々をまとめあげちゃったんだもんね。愛とはどんなものなのかわかったかな?」
「まだよくわからないかも。愛ってのは相手を思いやる気持ちなんだろうなってのはわかるんだけど、それに何の意味があるのかまでは考えられないんだよね」
「そのうちわかる時が来るんじゃないかな。それのためにも、僕の側にずっといてくれたらいいんじゃないかな。君さえよければ、僕と結婚してこれからもこの世界を平和に導いてくれないかな?」
「結婚って、私は悪魔なのよ。あなたは人間だし、悪魔と結婚なんて出来るわけないでしょ。そんな事をしたらみんなあなたに反発してしまうと思うのだけど」
「そんなことは無いさ。最初は皆君の事を恐れていたけど、今では君に気さくに話しかけてくれる人だっているだろ。人間は皆環境に合わせて変わることが出来るのだ。君だって最初の頃とは違ってむやみやたらと戦闘をおこなおうなんてしなくなっただろう。人間だけじゃなくて悪魔だって変われれると思うんだよ。だから、僕と一緒に家庭を築いて欲しいんだ。どうかな?」
「どうかなって、冗談で言ってるわけじゃないんだよね?」
「もちろん。本気だとも」
「あなたは人間だし、寿命だって全然違うのよ。それでも私と結婚したいって思うの?」
「もちろん。僕が君より先に死ぬのは仕方ないことだし、その時は僕の事を忘れて自由にしていいからさ。君が望むんだったら僕は人間をやめたっていいと思ってるよ」
「あなたは人間をやめなくても大丈夫。わかったわ、そこまでの覚悟を示してくれるんだったら、私もあなたを信じてついていくわ」
「ありがとう。僕はまだ何も君にしてあげられていないけど、これからは君の力に頼らなくても守れるように努力するよ」
「そんな事をしなくたって大丈夫よ。私があなたを守るのは私の方が強くてあなたの方が弱いからってだけじゃないもの。あれ、もしかして、この気持ちが愛なのかな?」
「そうだね、それも愛の一つだと思うよ」
「愛は一つだけじゃないの?」
「もちろん。愛は一つって決まってるわけじゃないし、人によっても形は様々さ。ただ一緒に居るだけの関係でも愛を育むことは出来るし、積極的に関わっていくことでも育むことは出来るんだよ。だから、僕たちにしかない愛の形だってあると思うんだよね」
世界が一つになり、平和になった今。僕と彼女は世界だけではなく自分たちも一つの家庭を築くことになったのだ。
もしかしたら、人間と悪魔の愛なんて誰にも認められない事なのかもしれないけれど、僕たちはずっと一緒に暮らしていくことが出来るはずだ。そう信じている。
世界を一つにまとめ上げたのが彼女の仕事だったとしたら、僕は彼女との家庭をまとめ上げるのが仕事なのではないかと思っていた。
僕たちの結婚式は教会で盛大に執り行われたのだが、教会にある神様の像もいつもよりも穏やかな笑みを浮かべているように感じていた。
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