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第21話 女の影
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一人で机に向かっても集中できない夜。閉め切っていたカーテンを開けると遠くの方に不自然な動きをしている光が目に入った。
前にも見たことがある不思議な光はゆっくりと左右に揺れながら少しずつ空へと上がっていっていた。
この前と違って近付いてくる気配が無かったのでつい見続けてしまったのだが、そのまま窓を開けて見てみようと思ったタイミングでノックの音が響いてきた。
「珠希ちゃん大丈夫?」
「え、何が?」
扉の向こうから工藤太郎が心配そうに話しかけてきたのだが、工藤珠希としては何をそこまで心配される事があるのだろうと思っていた。勉強に集中できていなかったことを心配しているとは思えないし、自分が今見ていた光に関係することだろうか。工藤太郎の部屋からもあの光が見えるとは思うけど、だからと言って自分の事を心配する理由にはならないと思うのだ。
「大丈夫ならいいんだけどね。こんな時間に外に出るのは危ないんじゃないかなって思っただけだから」
「外になんて出ないよ。もう少し勉強したら寝ようと思ってたところだし」
「そうなんだ。それなら良かったよ。そう言えば、イザーちゃんから聞いたんだけどね、あの薄着のお姉さんって校外にいる一般的なサキュバスっぽいってさ。零楼館高校の制服を着ていれば襲われる事は無いって言ってたけど、休みの日に遭遇したらすぐに助けを呼べって言われたよ」
「あ、そうなんだ。それは大変だね」
工藤太郎が誰と仲良くなって誰とどんなやり取りをやっていても何とも思わない工藤珠希ではあったが、なぜか栗宮院うまなとイザーに関しては工藤太郎と仲良くなることに対して嫉妬にも似た感情がわいてきていたのだ。本人もその事をハッキリとは自覚していないのだが、栗宮院うまなとイザーがサキュバスであるという話が工藤珠希の中でモヤモヤとした感情に変わってしまっているのかもしれない。
「俺はサキュバスなんかに負けたりしないから問題ないんだけど、珠希ちゃんは気を付けた方がいいと思うよ」
「気を付けるって、ボクはこう見えても女の子だからサキュバスに襲われたりなんてしないと思うんだけど。サキュバスって男性を襲う妖怪でしょ?」
「妖怪って言って良いのかわからないけど、ほとんどのサキュバスは男性を襲うらしいね。ただ、零楼館高校にいるサキュバスって女の子の事が好きみたいだよ。もう知ってると思うけど、みんな珠希ちゃんの事が好きなんだって」
「変なこと言うのやめてよ。太郎のせいで眠れなくなりそうだわ。あんたの部屋にある漫画貸してよ」
「別にいいけど、新しいのなんて無いよ」
モヤモヤした気持ちのまま工藤太郎の部屋に入ってしまって良いのかと悩む工藤珠希ではあったが、彼の部屋に入ることに意味があったのだ。
工藤太郎が栗宮院うまなやイザーと連絡を取っていたとしても、学校で仲良く話していたとしても、自分は二人と違って部屋に入ることが出来るのだ。
漫画なんてなんだっていいし、前に借りたやつだって良いと思っている。工藤太郎の部屋に入ることが目的なのだから、どんな漫画だってかまわないのだ。
「じゃあ、この前読んで面白かったこれなんてどうかな?」
「どんな漫画なの?」
「旅行先でいろんな美味しいものを食べる漫画だよ。実際にある観光地なんだけど地元の人が行くような隠れた名店ばっかり舞台になってるんだ」
「それって、漫画になった時点で隠れてないんじゃないかな。それに、こんな時間に食べ物の漫画すすめるなよ。ボクだって太らないように気を付けてるんだからね」
「ごめんごめん。それだったら、殺された人の怨念と対話して犯人を追い詰めるって話はどうかな。上下巻の二冊で完結しているから読みやすいと思うよ」
「いや、夜にそんな怖い話はダメでしょ。夢に出てきたら困るよ」
「漫画の内容が夢に出てくるのは問題無いと思うけどな。ほら、サキュバスが夢に出てくるよりもマシでしょ」
「比較対象がおかしいって。それに、ボクは女の子なんだからサキュバスは夢に出てこないって」
その後も色々と漫画をすすめられていたのだが、工藤珠希が気に入るような漫画はなかった。実際には気になった漫画もいくつかはあったのだけれど、今から読むには長すぎて結末が気になって眠れなくなるような名作ばかりであった。
ただ、工藤珠希の目的は漫画を借りることではなく工藤太郎の部屋に入ることだったので目的は達成できたと言えよう。
栗宮院うまなとイザーに対して大きなアドバンテージを得たと言ってもいいのだろうが、工藤珠希はそんな二人にそのような感情を抱いてしまっていたのは何故なのかわからなかった。
「あんまり興味をそそられるような漫画ってないんだよね。読んでみたいのはいっぱいあるんだけど、今から読んでしまったら朝までかかりそうで我慢することにしたよ。太郎もそろそろ眠くなってきたと思うし、ボクは自分の部屋に戻るよ」
「まだあんまり眠くないんだけど、明日の事を考えたら早めに寝ておいた方がいいかもね。明日は昼前に抗争も終わりそうだって言ってたし、午後から大変かもしれないってさ」
「大変かもしれないって、どういう事?」
「さあ、大変かもしれないって言われただけだからね」
「まだわからないことだらけだから明日詳しく聞いてみないとね」
「そうだよね。柘榴ちゃんも愛華ちゃんも明日から忙しくなりそうだって言ってたよ。珠希ちゃんが困るようなことにはならないって言ってたけど、俺は結構働かされるかもしれないんだって」
工藤珠希の中で生まれたモヤモヤとした感情は少しずつ大きくなっていってしまった。
工藤太郎と一緒にいる時間が長ければその感情も小さくなっていくと思っていたのだけれど、工藤太郎から他の女子の名前が出てくることを考えると小さくなることなんて無いのかもしれない。
そう考えた工藤珠希はこれ以上他の女性の名前を聞く前に自分の部屋へと戻ることにしたのだった。
前にも見たことがある不思議な光はゆっくりと左右に揺れながら少しずつ空へと上がっていっていた。
この前と違って近付いてくる気配が無かったのでつい見続けてしまったのだが、そのまま窓を開けて見てみようと思ったタイミングでノックの音が響いてきた。
「珠希ちゃん大丈夫?」
「え、何が?」
扉の向こうから工藤太郎が心配そうに話しかけてきたのだが、工藤珠希としては何をそこまで心配される事があるのだろうと思っていた。勉強に集中できていなかったことを心配しているとは思えないし、自分が今見ていた光に関係することだろうか。工藤太郎の部屋からもあの光が見えるとは思うけど、だからと言って自分の事を心配する理由にはならないと思うのだ。
「大丈夫ならいいんだけどね。こんな時間に外に出るのは危ないんじゃないかなって思っただけだから」
「外になんて出ないよ。もう少し勉強したら寝ようと思ってたところだし」
「そうなんだ。それなら良かったよ。そう言えば、イザーちゃんから聞いたんだけどね、あの薄着のお姉さんって校外にいる一般的なサキュバスっぽいってさ。零楼館高校の制服を着ていれば襲われる事は無いって言ってたけど、休みの日に遭遇したらすぐに助けを呼べって言われたよ」
「あ、そうなんだ。それは大変だね」
工藤太郎が誰と仲良くなって誰とどんなやり取りをやっていても何とも思わない工藤珠希ではあったが、なぜか栗宮院うまなとイザーに関しては工藤太郎と仲良くなることに対して嫉妬にも似た感情がわいてきていたのだ。本人もその事をハッキリとは自覚していないのだが、栗宮院うまなとイザーがサキュバスであるという話が工藤珠希の中でモヤモヤとした感情に変わってしまっているのかもしれない。
「俺はサキュバスなんかに負けたりしないから問題ないんだけど、珠希ちゃんは気を付けた方がいいと思うよ」
「気を付けるって、ボクはこう見えても女の子だからサキュバスに襲われたりなんてしないと思うんだけど。サキュバスって男性を襲う妖怪でしょ?」
「妖怪って言って良いのかわからないけど、ほとんどのサキュバスは男性を襲うらしいね。ただ、零楼館高校にいるサキュバスって女の子の事が好きみたいだよ。もう知ってると思うけど、みんな珠希ちゃんの事が好きなんだって」
「変なこと言うのやめてよ。太郎のせいで眠れなくなりそうだわ。あんたの部屋にある漫画貸してよ」
「別にいいけど、新しいのなんて無いよ」
モヤモヤした気持ちのまま工藤太郎の部屋に入ってしまって良いのかと悩む工藤珠希ではあったが、彼の部屋に入ることに意味があったのだ。
工藤太郎が栗宮院うまなやイザーと連絡を取っていたとしても、学校で仲良く話していたとしても、自分は二人と違って部屋に入ることが出来るのだ。
漫画なんてなんだっていいし、前に借りたやつだって良いと思っている。工藤太郎の部屋に入ることが目的なのだから、どんな漫画だってかまわないのだ。
「じゃあ、この前読んで面白かったこれなんてどうかな?」
「どんな漫画なの?」
「旅行先でいろんな美味しいものを食べる漫画だよ。実際にある観光地なんだけど地元の人が行くような隠れた名店ばっかり舞台になってるんだ」
「それって、漫画になった時点で隠れてないんじゃないかな。それに、こんな時間に食べ物の漫画すすめるなよ。ボクだって太らないように気を付けてるんだからね」
「ごめんごめん。それだったら、殺された人の怨念と対話して犯人を追い詰めるって話はどうかな。上下巻の二冊で完結しているから読みやすいと思うよ」
「いや、夜にそんな怖い話はダメでしょ。夢に出てきたら困るよ」
「漫画の内容が夢に出てくるのは問題無いと思うけどな。ほら、サキュバスが夢に出てくるよりもマシでしょ」
「比較対象がおかしいって。それに、ボクは女の子なんだからサキュバスは夢に出てこないって」
その後も色々と漫画をすすめられていたのだが、工藤珠希が気に入るような漫画はなかった。実際には気になった漫画もいくつかはあったのだけれど、今から読むには長すぎて結末が気になって眠れなくなるような名作ばかりであった。
ただ、工藤珠希の目的は漫画を借りることではなく工藤太郎の部屋に入ることだったので目的は達成できたと言えよう。
栗宮院うまなとイザーに対して大きなアドバンテージを得たと言ってもいいのだろうが、工藤珠希はそんな二人にそのような感情を抱いてしまっていたのは何故なのかわからなかった。
「あんまり興味をそそられるような漫画ってないんだよね。読んでみたいのはいっぱいあるんだけど、今から読んでしまったら朝までかかりそうで我慢することにしたよ。太郎もそろそろ眠くなってきたと思うし、ボクは自分の部屋に戻るよ」
「まだあんまり眠くないんだけど、明日の事を考えたら早めに寝ておいた方がいいかもね。明日は昼前に抗争も終わりそうだって言ってたし、午後から大変かもしれないってさ」
「大変かもしれないって、どういう事?」
「さあ、大変かもしれないって言われただけだからね」
「まだわからないことだらけだから明日詳しく聞いてみないとね」
「そうだよね。柘榴ちゃんも愛華ちゃんも明日から忙しくなりそうだって言ってたよ。珠希ちゃんが困るようなことにはならないって言ってたけど、俺は結構働かされるかもしれないんだって」
工藤珠希の中で生まれたモヤモヤとした感情は少しずつ大きくなっていってしまった。
工藤太郎と一緒にいる時間が長ければその感情も小さくなっていくと思っていたのだけれど、工藤太郎から他の女子の名前が出てくることを考えると小さくなることなんて無いのかもしれない。
そう考えた工藤珠希はこれ以上他の女性の名前を聞く前に自分の部屋へと戻ることにしたのだった。
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