英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
129 / 149
BACK TO THE OCEAN 間章6 デモクラシーの崩壊

間章6 デモクラシーの崩壊

しおりを挟む
 コツンコツン、キィ……バタン、ザッ!

「失礼します、大臣! あっ……今は州知事代理でしたでしょうか?」

「うむ、ウィーリアム君か。肩書などどうでもいいさ……それより、丁度君に知らせておきたかったことがある」

「ははっ、何でしょうか?」

「君のこれまでの貢献を評価し、この遠征の後、グリード首相に掛け合い、君をマグナブラ中枢管理委員会の副長官に任命したいと思っている」

「副長官……わたしがですか!?」

「フフ……君はよく働いてくれているし、それに頭も回る。昨日の演説だって、アクトポートスクエアで直接行うのは危険だと判断し、アクトポート庁舎から映像を送って演説をしようと提案したのは君だったじゃないか?」

「いえ……デモ隊の中には過激派もいたものですから。あの場に大臣を出すことは、わざわざ敵に大将の首を渡すも同じ……だからそう提案しただけです」

「それが結果的には功を奏したんだよ。あの後兵士が怪しい人間を捕縛し、そいつが担いでいたギターケースの中を調べたところ、中にはスナイパーライフルが隠されていたそうじゃないか」

「ええ、そう報告がありましたね」

「もしあの場にボクが立っていたら、今頃ボクは弾丸に頭をぶち抜かれて、あの世に逝っていたかもしれない……そういう意味では、ボクにとっては君は命の恩人だよ。感謝している」

「そんな、勿体無きお言葉……結果的にそうなっただけですから」

「フフ……まあそう遠慮をしないでくれ。それに副長官になった方が、君も今後色々と動きやすくなるはずだ。一つのツールとして、肩書を利用してくれ」

「ははっ! 了解しました」

「うむ……さて、君からの報告は?」

「先程ですが、過激派指定されていた最後のデモ部隊の人員を一斉逮捕致しました。これでおそらく、マグナブラ及び州政府に反発する保守派は居なくなったかと」

「そうか。兵士達にはご苦労だったと伝えておいてくれ」

「ははっ、了解致しました。それともう一つ報告が……」

「ん? なんだい?」

「アクトポート復興措置法の補助金を受けたいという企業の申請が、五十社を超えたようです」

「昨日発表したばかりだというのに、もう五十か……フフ、まだ法案は施行されていないのに、商人はカネのことになると抜け目が無いな……」

「どう対処いたしましょうか?」

「施行時期はもう決まっているから、これを変動することはできない。だがこれだけの会社を調査するとなると、施行されてからでは遅くなってしまうだろう。役人には、これから順次調査を開始するよう伝えておいてくれ。その中から選ぶのは、十社だけだということもな」

「分かりました」

「しかし……フフ……まさかここまで上手く、たった一回の演説でイデオロギーを覆すことができるとは、さすがのボクも予想していなかったよ」

「そうですね。これでアクトポートの民主主義デモクラシーは崩壊したも同然でしょう」

「民主主義から権威主義へ……しかしここは長くデモクラシーを貫いてきた場所だ。その残骸はいつまでも残り続けるだろうし、それにそれらの後始末をするほど、ボクには時間が無い。本業であるマグナブラの大臣職があるわけだしね」

「そうですね……州知事の選出も急がせましょう」

「うむ、頼むよ」

「ははっ!」

 ザッ!

「じゃあ、ボクからは以上だが、君は?」

「わたしも報告は以上であります!」

「そうか。では今伝えたこと、よろしく頼むよ」

「はっ! では失礼いたします!」

 ザッ! コツンコツン、ギイ……バタン。

「さてと……ボクも山積みになった仕事に取り掛からねば。まずはそうだな……チャールズ・レイカーの処理についてからか……」

 ジリリリン! ジリリリン!

「ん? 電話か?」

 ガチャ。

「もしもし……ああ、あなたでしたか。そうですか、無事マグナブラに到着しましたか。すいません、ボクは今アクトポートに出張中でして、お出迎えができず……いえ、国際的なことではなく、国内情勢のことで……フフ、ありがとうございます……ええ……ええ……はい、グリード首相にはボクからの紹介でと伝えていただければ……ええ……例の物の設計図は兵器開発局に……ええ……フフ……その設計図はこちらの切り札ですからね。アズール・マンハットからは奪い取っておきました……ええそうです、その改良をあなたにはしてもらいたいかと……はい分かりました。ではボクがマグナブラに帰国したら、その際に……はい、それでは」

 ガチャン。

「そうか、到着したか……フフ、これで軍事面の心配はしなくても良さそうだな。あとは経済面だが、このアクトポートの処理が終われば、それも心配無くなるだろう。これで、マグナブラが一大大国になる日までぐっと近づいたわけだが……だけどそれはゴールではなく、むしろスタートでしかない」

 すっ……ずずっ……カチャン。

「……ボクの目指すゴールは、まだまだ先……か」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...