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BACK TO THE OCEAN Chapter3
第21章 大海賊の娘【4】
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「悪いがアタシは、知らない国の革命にも、今の海にも興味は無い。それにもし仮に船を出すっていったって、アタシとロベルトだけじゃ船を動かすことはできない。その辺はどうするつもりなんだ?」
「それは……勿論わしらの方で何とかしよう!」
「えっ!?」
そのマジスターの、思い付きにも程がある咄嗟の一言に、僕は反射的に声をあげた。
「ん? ほお……君、女の子じゃなかったんだ」
すると僕の声を聞き、テティは一歩二歩と僕の方へと近寄って来る。
「ふうん……遠くから見たら女の子だけど、確かにこれだけ近くで見てみたら、可愛い顔をした男の子じゃないか」
そう言うテティの顔が、僕の目と鼻の先にあり、その大人の女性の色気に、胸が高鳴ってしまう。
「ふふ……アンタ達がここに来たのは、アタシを頼ってというよりかは、他の現役の船乗りに散々オファーを断られたから、一線を退いたアタシの元にやって来たんでしょ? だから自分達に船員なんて集められっこない……それが今のアンタの反応として表れた……違う?」
「えっ……あ……ああ……」
「フッ……正直な子のようだな。すぅ……ふぅ……」
彼女は艶やかに微笑み、ドライシガーをくゆらせる。
まさか僕の反応だけでここまで読まれてしまうとはな……別に伏せておこうとしたわけではないが、こうも簡単に思惑を見透かされたとなると、下手な発言はできないと釘を刺されたも同然だ。
これでは交渉をするどころか、一方的にこっちが追いやられているだけだ……どうにかして同じ土俵に立たねばならないのだが、しかしこっちには圧倒的に、相手にとって有益な材料が無い。
手詰まり……なのか。最後のチャンスなのに。
「テティさん……さっきあなた、今の海には興味無いって言ってたけど、それはその……どういう意味なの?」
すると隣に居たルーナが、僕とテティの間に入るようにして、彼女に尋ねる。
そういえばさっき、マジスターに向かってそんなことを言っていたな……そんなに深く掘り下げることでも無いだろうと思って、スルーしていたのだが。
「…………」
だがテティはルーナの質問に答えることなく、何故かシガーを吸いながら、彼女の顔をまじまじと見ていた。
「……な……なによ……」
「ふうん……フフ……なかなか気の強い子じゃないか」
「き……気が強いって……」
直後、かあっとルーナは顔を赤くする。
そういえば、ライフ・ゼロと最初に会った時もルーナはじゃじゃ馬だのなんだのと言われてたな……やっぱりそういう部分が自然と、彼女からは滲み出ているのかもしれないな。
「まあいい、知りたいなら教えてあげる。今のこの世界にある海は全て、囲われた海だからだ」
「囲われた……海?」
「ええ、そう」
間を空けるようにテティはドライシガーを吸い、シガーの先が赤く、淡く輝く。
「このターミルオーシャンに限らず、全ての海が今や、暁の火によって管理されている。このアクトポート湾を少し離れた外洋にも、うようよと奴らの巡視船がいやがる。奴らはこの大洋を私物化してるのさ……海は誰の所有物でも無いはずなのにね」
テティは白けた笑みを浮かべ、僕達に背中を見せ、目の前に広がる闇の海を見つめた。
「だからと言って、一昔前の海賊達のように、縄張り争いをして無差別に人を傷つけ殺し合ったり、物資を強奪するような、そんな混沌をアタシは求めているわけじゃない。アタシが求めるのは、親父の理想とした秩序と無秩序の間にある、均衡の海……一つの秩序に決して支配されない、しかし掟の中で自由に船を往来させることのできる、そんな海だ。実際親父はこの海洋の全ての海賊を束ね、掟を作り、そんな賊共にアクトポートという居場所を与え、ターミルオーシャンはまさに均衡の海になりかけていた……だけどそんな矢先に、親父は殺された。暁の火の、あの作戦によってね」
「海賊狩りか……」
マジスターがそう言うと、テティはフンと鼻を鳴らしてみせた。
「全てを手中に収めたい奴らにとって、均衡の海を作り出そうとする親父は邪魔で仕方なかっただろうからね。だから奴らは、アクトポートの総督であるにも関わらず、親父を自分達の都合の良い大義名分の下、討伐した……それから生まれたのが、この小さな小さな、奴らによって囲われた海なのさ……」
表情は見せないが、しかし彼女の言葉の端々からは憎しみのようなものに近い、そんな感情が籠っているように僕には聞こえた。
「だからアタシは、今のこの海に興味は無いから、こうして高みの見物をしているのさ。見る分には、昔と何一つ変わっちゃいないからね……この海は」
するとテティはまた、照明台の真下へと向かうと、胡坐をかいてそこに座り込み、そこでドライシガーを吸い始めた。
「さて……これでアタシとしては十分説明したつもりだけど、納得してくれたかしらお嬢ちゃん?」
「え……ええ……」
「そう、じゃあもう話すことは無いな。貰ったドライシガーは、全部大切に吸わせてもらよ」
そう言い切って、テティはシガーをくゆらせるだけで、黙り込んでしまった。
これで交渉は決裂だと、テティは勝手に思っているのかもしれないが、しかしここでは終わらせない。
「テティさん、アンタ、意外と臆病者だな」
僕がそう言った直後、周りの皆が僕に注目し、そしてその言葉は勿論、テティも耳にしていた。
「すぅ……ふぅ……ほう……アタシが臆病者ねぇ……」
テティはその場から動こうとはしないが、しかし反応だけは示した。
そう、ルーナがさっきの質問をしてくれたお陰で、僕は先程まで見えていなかった彼女の素性を知ることができた。
相手のことが分からない間は、まるで霧に包まれた迷宮の中を、必死に出口を目指し、歩いているような気分だったが、しかし今、その霧は晴れ、僕は活路を見出したのだ。
本当の交渉は、これからだ。
「そうだ。アンタは自分の理想も、見据える敵も分かっているというのに、戦おうとしない。かと言って完全に諦めることもできないから、こうして海の近くに留まり続けている……アンタはまだこの海に、未練があるんだ」
「フッ……僅か数分しか話してないのに、そこまでアタシのことを分かった気になるなんてね……すぅ……」
「分かった気になってるんじゃない、分かってるんだ。実際僕達はこれから、ミネルウェールスの練磨大臣と対峙する。練磨大臣を相手取るということは、アンタの敵でもある暁の火に戦いを挑むも同然のことだ。それを知っていて、何故僕達と戦おうと考えないか……答えは簡単だ。アンタが心の奥底で、父親を殺した暁の火を恐れているからだ。大海賊をも抹殺した、絶対的な力にな」
「……ふぅ……言わせておけば……」
するとテティは、吸っていたドライシガーを、近くに置いてあった灰皿に押し付けて鎮火させ、そしてその場から立ち上がり、僕の方へと再び歩み寄って来た。
「そこまでアタシに対して強気な姿勢を取るってことは、アンタには当然あるってことよね? アタシには無い、世界を敵に回す覚悟ってものが?」
「……ああ」
「言い切ったな? じゃあその覚悟、試させて貰おうじゃないか」
僕の前に立ち、テティは腕を組んで肩頬に笑みを浮かべる。
流れに任せて、僕にしては随分強気に出てしまったが、しかし彼女のその表情を目にして、唐突に嫌な予感が僕の中をよぎる。
だが、もう後悔をするのには遅過ぎた。
「先程アタシは、船を動かすにはクルーが足りないと言ったのは憶えているな?」
「あ……ああ……」
「アンタ達には交渉の最低条件として、五日以内にアタシとロベルトを除いたクルー十四名を集めてもらう」
「じゅ……十四人も!!?」
「怖気づいたか?」
僕の愕然とする様を見て、フンと鼻で笑ってくるテティ。
「これでも標準のクルーの最低人数より少ない方なんだぞ? こちらとしては譲歩したつもりだがな」
「ぐ……くうう……」
船についての知識がありそうなマジスターやロベルトが黙認してるあたり、これはテティが交渉を決裂させるために、滅茶苦茶な無理難題を僕達に吹っかけてきたわけではなく、本当にそれだけ、一隻の船を動かすのには船員が必要なのだろう。
たった五、六人で動かせるのはせいぜい、小さな帆船くらいだということか……ああ……始まる前から頭が痛くなってきた……。
「それは……勿論わしらの方で何とかしよう!」
「えっ!?」
そのマジスターの、思い付きにも程がある咄嗟の一言に、僕は反射的に声をあげた。
「ん? ほお……君、女の子じゃなかったんだ」
すると僕の声を聞き、テティは一歩二歩と僕の方へと近寄って来る。
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そう言うテティの顔が、僕の目と鼻の先にあり、その大人の女性の色気に、胸が高鳴ってしまう。
「ふふ……アンタ達がここに来たのは、アタシを頼ってというよりかは、他の現役の船乗りに散々オファーを断られたから、一線を退いたアタシの元にやって来たんでしょ? だから自分達に船員なんて集められっこない……それが今のアンタの反応として表れた……違う?」
「えっ……あ……ああ……」
「フッ……正直な子のようだな。すぅ……ふぅ……」
彼女は艶やかに微笑み、ドライシガーをくゆらせる。
まさか僕の反応だけでここまで読まれてしまうとはな……別に伏せておこうとしたわけではないが、こうも簡単に思惑を見透かされたとなると、下手な発言はできないと釘を刺されたも同然だ。
これでは交渉をするどころか、一方的にこっちが追いやられているだけだ……どうにかして同じ土俵に立たねばならないのだが、しかしこっちには圧倒的に、相手にとって有益な材料が無い。
手詰まり……なのか。最後のチャンスなのに。
「テティさん……さっきあなた、今の海には興味無いって言ってたけど、それはその……どういう意味なの?」
すると隣に居たルーナが、僕とテティの間に入るようにして、彼女に尋ねる。
そういえばさっき、マジスターに向かってそんなことを言っていたな……そんなに深く掘り下げることでも無いだろうと思って、スルーしていたのだが。
「…………」
だがテティはルーナの質問に答えることなく、何故かシガーを吸いながら、彼女の顔をまじまじと見ていた。
「……な……なによ……」
「ふうん……フフ……なかなか気の強い子じゃないか」
「き……気が強いって……」
直後、かあっとルーナは顔を赤くする。
そういえば、ライフ・ゼロと最初に会った時もルーナはじゃじゃ馬だのなんだのと言われてたな……やっぱりそういう部分が自然と、彼女からは滲み出ているのかもしれないな。
「まあいい、知りたいなら教えてあげる。今のこの世界にある海は全て、囲われた海だからだ」
「囲われた……海?」
「ええ、そう」
間を空けるようにテティはドライシガーを吸い、シガーの先が赤く、淡く輝く。
「このターミルオーシャンに限らず、全ての海が今や、暁の火によって管理されている。このアクトポート湾を少し離れた外洋にも、うようよと奴らの巡視船がいやがる。奴らはこの大洋を私物化してるのさ……海は誰の所有物でも無いはずなのにね」
テティは白けた笑みを浮かべ、僕達に背中を見せ、目の前に広がる闇の海を見つめた。
「だからと言って、一昔前の海賊達のように、縄張り争いをして無差別に人を傷つけ殺し合ったり、物資を強奪するような、そんな混沌をアタシは求めているわけじゃない。アタシが求めるのは、親父の理想とした秩序と無秩序の間にある、均衡の海……一つの秩序に決して支配されない、しかし掟の中で自由に船を往来させることのできる、そんな海だ。実際親父はこの海洋の全ての海賊を束ね、掟を作り、そんな賊共にアクトポートという居場所を与え、ターミルオーシャンはまさに均衡の海になりかけていた……だけどそんな矢先に、親父は殺された。暁の火の、あの作戦によってね」
「海賊狩りか……」
マジスターがそう言うと、テティはフンと鼻を鳴らしてみせた。
「全てを手中に収めたい奴らにとって、均衡の海を作り出そうとする親父は邪魔で仕方なかっただろうからね。だから奴らは、アクトポートの総督であるにも関わらず、親父を自分達の都合の良い大義名分の下、討伐した……それから生まれたのが、この小さな小さな、奴らによって囲われた海なのさ……」
表情は見せないが、しかし彼女の言葉の端々からは憎しみのようなものに近い、そんな感情が籠っているように僕には聞こえた。
「だからアタシは、今のこの海に興味は無いから、こうして高みの見物をしているのさ。見る分には、昔と何一つ変わっちゃいないからね……この海は」
するとテティはまた、照明台の真下へと向かうと、胡坐をかいてそこに座り込み、そこでドライシガーを吸い始めた。
「さて……これでアタシとしては十分説明したつもりだけど、納得してくれたかしらお嬢ちゃん?」
「え……ええ……」
「そう、じゃあもう話すことは無いな。貰ったドライシガーは、全部大切に吸わせてもらよ」
そう言い切って、テティはシガーをくゆらせるだけで、黙り込んでしまった。
これで交渉は決裂だと、テティは勝手に思っているのかもしれないが、しかしここでは終わらせない。
「テティさん、アンタ、意外と臆病者だな」
僕がそう言った直後、周りの皆が僕に注目し、そしてその言葉は勿論、テティも耳にしていた。
「すぅ……ふぅ……ほう……アタシが臆病者ねぇ……」
テティはその場から動こうとはしないが、しかし反応だけは示した。
そう、ルーナがさっきの質問をしてくれたお陰で、僕は先程まで見えていなかった彼女の素性を知ることができた。
相手のことが分からない間は、まるで霧に包まれた迷宮の中を、必死に出口を目指し、歩いているような気分だったが、しかし今、その霧は晴れ、僕は活路を見出したのだ。
本当の交渉は、これからだ。
「そうだ。アンタは自分の理想も、見据える敵も分かっているというのに、戦おうとしない。かと言って完全に諦めることもできないから、こうして海の近くに留まり続けている……アンタはまだこの海に、未練があるんだ」
「フッ……僅か数分しか話してないのに、そこまでアタシのことを分かった気になるなんてね……すぅ……」
「分かった気になってるんじゃない、分かってるんだ。実際僕達はこれから、ミネルウェールスの練磨大臣と対峙する。練磨大臣を相手取るということは、アンタの敵でもある暁の火に戦いを挑むも同然のことだ。それを知っていて、何故僕達と戦おうと考えないか……答えは簡単だ。アンタが心の奥底で、父親を殺した暁の火を恐れているからだ。大海賊をも抹殺した、絶対的な力にな」
「……ふぅ……言わせておけば……」
するとテティは、吸っていたドライシガーを、近くに置いてあった灰皿に押し付けて鎮火させ、そしてその場から立ち上がり、僕の方へと再び歩み寄って来た。
「そこまでアタシに対して強気な姿勢を取るってことは、アンタには当然あるってことよね? アタシには無い、世界を敵に回す覚悟ってものが?」
「……ああ」
「言い切ったな? じゃあその覚悟、試させて貰おうじゃないか」
僕の前に立ち、テティは腕を組んで肩頬に笑みを浮かべる。
流れに任せて、僕にしては随分強気に出てしまったが、しかし彼女のその表情を目にして、唐突に嫌な予感が僕の中をよぎる。
だが、もう後悔をするのには遅過ぎた。
「先程アタシは、船を動かすにはクルーが足りないと言ったのは憶えているな?」
「あ……ああ……」
「アンタ達には交渉の最低条件として、五日以内にアタシとロベルトを除いたクルー十四名を集めてもらう」
「じゅ……十四人も!!?」
「怖気づいたか?」
僕の愕然とする様を見て、フンと鼻で笑ってくるテティ。
「これでも標準のクルーの最低人数より少ない方なんだぞ? こちらとしては譲歩したつもりだがな」
「ぐ……くうう……」
船についての知識がありそうなマジスターやロベルトが黙認してるあたり、これはテティが交渉を決裂させるために、滅茶苦茶な無理難題を僕達に吹っかけてきたわけではなく、本当にそれだけ、一隻の船を動かすのには船員が必要なのだろう。
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