英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
4 / 149
THE GROUND ZERO Chapter1

第1章 レジスタンスの少女【2】

しおりを挟む
「おい殴るのはその辺にしておいてよぉ、そろそろ体の方をいただこうぜ」

「たく……テメエは性欲が強いんだよ。もう少し俺の趣味にもつき合えよな」

「お前のそれも欲求だろうが、ほら時間がねえんだ!」

「分かった分かった……じゃあっ!」

 そう言うや否や、男は彼女の胸倉を両手で掴み、そして茶褐色のドレスの胸元を強引に、ビリビリっと破った。

「ひっ……っ!」

 その時、今まで男を睨みつけていた、女性の怒りに満ちた眼差しが一変し、恐怖に浸食された。

 体に受けた傷は、時間が経てば時期に癒され、回復していく。

 しかしこういうことに関しては、精神的に受けた傷というものは、例えどれくらい時間が費やされようとも、癒えることはあっても、無くなることはない。

 犯された傷は、ずっと、一生に渡って背負い続けることになる。

 だからこそ、彼女は恐怖を悟ったのだろう。ここに至って初めて、恐れおののいたのだろう。

「おお……ドレスが大きかったせいでそこまでには見えなかったが、テメエ結構良い体してるじゃねえか!」

 男は彼女の露わになった胸元を見ながら、いや、視姦しかんしながらに、そんなことを言って見せる。

 それを聞いて彼女は更に恐怖してるように、僕には見えた。

「た……たす…………」

「おお? なんだ? ここにきてやっと、助けを乞いだしたってのか?」

「たす……けて……誰……か……っ!」

 儚いほどにそれは小さな悲鳴だったが、離れている僕にもそれは、確実に聞き取れた。

 助けを求める、この危機を救ってくれるヒーロー……彼女は勇者を求めたのだ。

 こういう面倒事に好んで首を突っ込むようなお人好しではないけれど、別に彼女に、ひと目惚れをしたとかそんなのじゃないけれど。

 でも、ここで彼女を助ければ、彼女の勇者には、誰かの勇者にはなれると、僕は本気で思ってしまったのだ。

 僕は兵士になりたかったのじゃない。僕は、英雄になりたかったのだから。

「ん……おいっ! そこに誰かいるのか!」

 女性を羽交い絞めにしている兵士の男が、声を荒げる。

 当然、僕は隠れることをやめ、その現場の方へと歩を進めていたのだから。

「その恰好……なんだ、お前も兵士か」

 仲間だと思い込み、男は安堵しているように見えた。

 女性の顔付きは勿論、自然険しくなる。敵の仲間が増えたと、思い込んでいるのだろうから。

「お前確か……コヨミって名前じゃなかったか? 一時期は下士官の筆頭まで引きあがった」

「ああ! 次世代の勇者候補って言われてたあいつか!」

 どうやら僕のことを知っているみたいだな、この二人。まあ僕も、一時期は有名人ではあったからな。

「ロクヨウ・コヨミです。次世代の勇者候補なんて懐かしいですね……今やもう、二等兵の落ちこぼれですけど」

「はっはっ! じゃあ俺達と同じだ! どうだコヨミ? お前もこの女を使って一緒に遊ばねえか? こいつレジスタンスだからよ、なにしたって文句は言われないぜ?」

 僕は目の前の男にそう言われてから、羽交い絞めにされている彼女の方を見た。

 当然、彼女は僕を軽蔑するような、もしその羽交い絞めが解かれたのなら、僕の喉元を引き裂いてきそうな程の、そんな憎悪や怒りをまとった視線を送っていた。

 まあ、僕が今からやる行動を知らないのなら、そういう視線を向けられるのは当たり前のこと。

 だから僕はそっと彼女に笑いかけてから、それから。

「ブフォォォォォォッッ!!!」

 目の前の、彼女のドレスを破った男の、その変態面を殴ってやった。

「て……テメエ!!」

「ひゃっ!」

 女性を羽交い絞めにしていた男が、その光景を見て怒号し、女性を横の方へと放り投げた。

「悪いけど先輩方、僕に輪姦の趣味は無いんだ。やるなら正々堂々、二人っきりがいい」

「ふざけやがってっ!!」

 先程まで羽交い絞めにしていた男は、腰に装備していた拳銃を僕に向けた。

 以前なら、そこには剣が仕舞い込まれていたはずなのに、今は拳銃を仕舞うためのホルスターとなっている。

 嘆かわしいことだ。

「へっへっ……なんだテメエ? 兵士なのに拳銃持ってねえじゃねえか」

 そう、僕の腰には拳銃はない。あるのは短剣一本のみ。

 本当はもっと長い両刃の剣があったのだが、兵士の官給装備が拳銃へと変わり、剣が没収されてしまったため、今は僕個人で購入した短剣だけが収まっている。 
 
「持ってないんじゃありませんよ、持たないだけです。僕は拳銃とか、そういう現代兵器が嫌いなので」

「はあ?」

「……別に理解してもらう必要はありません。というより、僕の主義を、あなた達には理解してもらいたくない」

「この……生意気なガキがっ!!」
 
 男は確実に、着実に、僕にその銃口を真っ直ぐに向ける。

 勿論、この男も兵士であり、それなりの戦闘能力は身に着けているはずだ。射撃訓練だって受けているはずなので、僕との、この数メートルの距離を外すはずが無い。

 一方僕が所持している武器は、刃渡り十五センチほどの短剣のみ。とてもじゃないが、斬りかかるには届かないし、その距離を縮めようとした瞬間、発砲されて即お陀仏ということも考慮される。

 まさに、絶体絶命。

 そんな状況にも見え、それは目の前の男も理解しているようであり、余裕のしたり顔ともいうような、影の差す笑みを浮かべていた。

「へっへっ……仲間を殺すってのも抵抗が無いわけじゃねえが、そうだな……丁度レジスタンスの女がいることだし、戦闘中に流れ弾が当たって死んじまったってことにするかっ!」

 指は、トリガーにかかっている。

 多分目の前の男は勝ちを確信してるのだろう。だからこそ、その後処理の算段を立てていた。

 だが、その算段の根底こそ間違い。

 僕はこの男を、倒してしまうのだから。

「んなっ!!?」

 それは、比喩したのではなく、本当に一瞬の出来事だ。

 先程まで僕は、数メートル離れた男の目の前に立っていたのだが、今僕は、男の目の前というのは変わらないが、その男の首元に、刃渡り十五センチほどの短剣を突きつけていたのだ。

 数メートルの距離は、一瞬にしてほぼゼロセンチの距離にまで縮まっていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...