英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter1

第1章 レジスタンスの少女【3】

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「魔物の中には遠距離から攻撃する者もいますからね……まがいにも次世代の勇者なんて呼ばれていた僕が、その対策をないがしろにしてるとでも思っていたのですか?」

「クッ……」

「さあ王手です、どうしますか? このまま銃を捨てて引くか、それともこの短剣で喉元を掻き切られるか……あっ、もし切られる方を選ぶのであれば、先程の言い訳、僕がありがたく拝借させてもらいますので」

「ち……チクショウ! このことは上に報告させてもらうからなっ! 覚えてやがれ!」

 すると男は拳銃を放棄し、僕が殴り飛ばして気絶させた、もう一人の兵士を抱え、敗走していった。

 負け犬の遠吠えはさておき……。

「はぁ……お嬢さん、大丈夫ですか?」

 僕は握っていた短剣を、腰の鞘へと戻し、男に投げられて倒れている女性に目を配る。

「…………」

 しかし女性は何も返答しないどころか、僕を拒否するような、そんな冷たい視線を浴びせてくる。

 ああ……そういえば僕は兵士で、彼女はレジスタンス……そんな感じに、敵対心を向けられるのはまあ、考えるまでもなく、当たり前のことだった。

「ああえっと……キミ大丈夫かい?」

「…………」

「僕はまあ一応兵士だけど、軍とレジスタンスの争いとかあんまり興味ないんだよね……でもほら、やっぱり発電所を爆発させたのは良くないかなって思っちゃうけど。発電所で働いてる人は、ここの市民なんだし、彼らに害はないでしょ? って思うところはあるんだけどね」

「…………」

 彼女は僕を睨むことをやめない。どころか、額のしわが一本か二本ほど多くなったような気がする。

 世間話をしても駄目か……というか、何故僕はよりにもよって発電所の爆破事件の話題を、レジスタンスであり、実行犯である彼女に振ってしまったのだろうか……。

 しかも、若干批判(僕の正直な意見ではあるけれど)を交えてしまったような気もするし。

 そりゃあ印象としては、悪くもなっちゃうよな。

「それにしてもあいつら酷いよね。僕ってああいうヤカラみたいなのを見ると、放っとけない主義でさ。いくらレジスタンスだからといって、性的欲求を満たすために襲うっていうのは許せなかったんだ」

「……アンタもそうなんじゃないの」

 やった! 初めて返事がきた!

 だが、どうやらその険しい表情と、返答の意味を考えるに、決して心を開いてくれたというわけではなさそうだ。

「そうなんじゃないのかっていうのは、どういうことだい?」

「アンタ言ってたじゃない。輪姦の趣味は無いけれど、二人ならいいって……アンタもわたしの体目当てなんでしょってことよ」

「えっ……あっ……」

 そういえば、そんなことも言いましたね。

 口から出た、ただの出任せだったけれど、どうやらそれは出任せどころか、災いだったようだ。

「別にそういう目的で助けたわけじゃないんだけど……」

「…………」

 彼女のその、軽蔑するような表情を変えない。

 さすがの僕も、剣の扱い方は熟知していても、女の扱い方は全くといっていいほど分からない。

 ずっと自らの剣術を磨く日々を送っていたので、女遊びなどするどころか、している暇も無かったから。

 そう考えるともし、先程の勝負が戦闘ではなく、ナンパ対決とかだったら、僕は間違いなく先程の二人の男に完敗していただろう。

 それほどに、僕は女の子と話すのが苦手だ。

「えっと……これってどう言ったら、君は僕を信じてくれるのかな?」

 困り、弱りはてた僕は、あろうことか彼女自身に、その解決策の提示を求めたのだ。

 勿論というか、言うまでもなく彼女は、そんな情けない僕を見て、呆れ返っていたのだが、しかしそれと同時に、敵意も多少、緩んだかのように見えた。

「わたしを説得する方法を、わたしに訊くって……」

「いやほら、自分のことは自分がよく知ってるっていうし」

「それじゃあ説得とは言わないでしょっ! この野暮天やぼてんっ!」

「や……野暮天……」

 他に言葉はあっただろうに、まさかここで野暮天と言われてしまうなんて。

 この子のボキャブラリーには、僕を痺れさせるものがあった。

 ちなみに野暮天とは、極めて野暮なことを差す言葉である。

 まさに、今の僕には相応しい言葉ではあったのだが……自分で認めてしまうのは、なんだかちょっと虚しい気がした。 

「はぁ……まあいいわ、本当にその気は無いみたいだし、今回だけはあのヤカラを退治してくれたことに免じて、あなたを信用しようじゃない」

 そう言って彼女は立ち上がり、ドレスに着いた土を払う。

 元から土の色に近いような色彩のドレスだったため、特に汚れは目立たないように見えたが、しかし彼女はそれを、入念に払っていた。衣服が汚れるのが嫌いな、几帳面なタイプの人間なのだろうか? 

 いやしかし、それよりも、ドレスに着いた土なんかよりも気にしなきゃいけないところがあるだろ。

「君、胸」

「えっ? 胸?」

「胸が見えてる」

 先程、兵士の男によって破かれたドレスの胸元から、彼女が汚れを払う度に、屈む度にチラチラと見えて仕方がない胸。
 
 見たところう~む……巨乳とは言えないものの、それ相応のサイズがあるように、僕には見えた。

「け……け……けだものおおおおおおおおおおっっ!!」

「ぶっっ!!!?」

 ばちいいいいいいん! という景気の良い音がして、僕の頬は彼女の平手で思いっきりぶたれた。

「や……やっぱりアンタ! わたしの体が! カラダがっ!!」

「お……落ち着け! 不可抗力というか、僕は何も悪くない!!」

 どうやら彼女は、先程のことがよっぽどトラウマとなっているらしい。まあ、それも当然だ。

 だからこうやって、必要以上に感情を剥き出しにする。今の彼女は一種の錯乱状態だ。

 だったらまず、僕は悪くないということを諭すよりも、彼女を落ち着かせる必要がある。それがこの場面では、最も賢明だ。
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