英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
9 / 149
THE GROUND ZERO Chapter1

第2章 王都の兵士達【2】

しおりを挟む
「はあ……結構飲んじゃったな、今日も」

 結局あの後、おやっさんの愚痴は尽きること無く、まるで現代兵器のマシンガンのように繰り出され、僕はその間黙って、たまに相槌を打ちながら、安いラム酒をひたすら飲んでいた。

 まあおやっさんが愚痴を吐いてスッキリしたみたいだから、ラム酒一杯分とエリンギのベーコン巻きをサービスしてもらったので、僕としては得をしたんじゃないかと思うのだが。

 それにおやっさんの愚痴を聞くのには、もう慣れちゃったし。

「さて……帰らないとなぁ」

 随分と長居してしまったので、マグナブラの市街地の多くの建物は皆消灯しており、街灯だけが目の前の道を照らしていた。

 昔……といっても数年前だが、それまではこんな街灯など無く、夜歩くとするならば松明たいまつを持って、その火で道をなんとか照らしながら歩いていたものだが……そう考えると確かに、魔石エネルギーというものは便利なものだ。

 火とは比べ物にならないほどの光を、僕達に与えてくれる。

 僕達に便利な生活を、豊かさを与えてくれる。

 もう今となっては欠かせないもの。もし無くなったら、大混乱が起きかねないもの。

 それほどまでに、魔石エネルギーは僕達人間の中に根付いていた。

「あの子は……レジスタンスの連中は、それが分かっているのだろうか……」

 支配、統制、秩序が滅んだ先にあるのは、混沌のみ。

 やっとモンスター達の活動を沈静化させられたというのに、それを打ち崩し、新たなカオスを孕むことがどれだけ危険なことなのか、本当に理解しているのだろうか……。

 理解して、その上で発電所を爆破させるという暴挙に及んだのだろうか……。

 それで世界が本当に、救われるとでも思っているのか。

「……僕らしくないな、こんなクダラナイ……僕の興味の無いことを真剣に考えちゃうなんて」

 そう……もう僕には関係の無いこと。

 僕にはもう、この世界を救う権利なんて無いのだから。

 市街地を越えた先、城の手前にある兵士街という場所に、今僕の住んでいる寮はある。

 この王都マグナブラは、城をまるで覆うように兵士街が作られており、更にその外に一般の市街地が並んでいる。

 これはいざモンスターの襲撃や、他国との戦争が起こった際に、街が城を守るための砦の役割を果たすために、このような構造をしている。

 しかしまあこの構造、言ってしまえば王を守るために、庶民が犠牲になるという形だと言えなくもない。

 まあ……それは考え過ぎか。

 兎にも角にも、僕のような二等兵の寮は最も市街地に近い場所、兵士街の外側に位置しており、一応個室ではあるが、隣との壁は薄く、ぼろっぼろの寮であった。

 寮には一応規律があり、深夜帯の兵士の野外活動は原則禁止されているのだが、俺のようなはみ出し者の兵士を始め、大体の兵士が寮を抜け出し、市街地へと遊びに出ているらしい。

 まあ、別に罰則のある規定ではなく、言ってしまえば約束程度の規律なので、こんな規律を守ってるやつなんざ、バカ真面目なやつ以外にはいないのだろうけれど、そのまさに、真面目を絵で描いたような男が、俺の部屋の扉の前に仁王立ちをして構えていた。

「また外に出てたんっすか! 先輩っ!」

「ん……ジョンか……また僕の出迎えのために、こんな時間まで起きてたのか」

「出迎えじゃないっす! 明日は先輩と訓練なんっすから、万全でいてもらわないと困るんっすよ!」

「訓練ん~? 明日もパトロールじゃなかったっけ?」

「パトロールは夕方からっす! 明日は朝と昼間は戦闘訓練になってるっす!」

「ええ……僕、今日は結構飲んじゃったから朝から訓練とかできる気がしないんだけど……」

「それは飲み方をセーブできない……いやっ! そもそも夜に酒を飲みに出る先輩が悪いんっすよ!!」

「僕は悪くない! 酒なんてものがあるから悪いんだ!」

「責任転嫁はよくないっすううううっ!」

 この酔っ払いの僕の前で、クソ真面目に説教をしている後輩兵士の名前はジョヴァンニ・ヘクター。

 ジョヴァンニだと長いので、僕はジョンと呼んでいる。

 一年前くらいに入ったばかりの新人兵士であり、正直戦闘のセンスがお世辞にもあるとは言えないが、一流の兵士になるために日々、鍛錬やら任務に励んでいるらしい。

 僕はもう、今はこんな感じになってしまったが、なんというか、ジョンの姿は昔の自分を、本気で勇者を目指していた時の自分を見ているようで、放っておけないというか、なんとなく気に掛けている内に仲が良くなっていた。

 まあ、ジョンの方もその真面目な性格から、僕のような落ちこぼれている人間を放っては置けずに、こうやって世話をしてくれているのだろうけれど。

「まだ今から寝れば五時間は寝れるっす。それくらいあればアルコールも少しは体から抜けますから」

「そこまでして訓練なんか出たくないよ……」

「訓練も兵士の仕事っす! 朝から仕事がある日は、少しはお酒は控えて欲しいっす!」

「なんだよお前……人をアルコール中毒者みたいな扱いしやがって……」

「先輩はもうその領域に入りかけてるから注意してるんっすよ!」

「領域って……僕はまだ手が震えるまでには至ってないけど」

「それはもう末期の人の症状っす! それになる前にやめなきゃ駄目なんっすよ!!」

 まったく……深夜だっていうのに、元気の良いやつだ。

 僕の元気なんて、もう一日をやり過ごすだけで果ててしまいそうなくらいにしか無いというのに……若いっていうのは羨ましいな。

 といってもまだ僕、二十四歳なんだけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
「リオ、お前をパーティから追放する。お前のようなハズレスキルのザコは足手まといなんだよ」  王都の冒険者ギルドにて、若手冒険者のリオは、リーダーの身勝手な都合によってパーティから追い出されてしまい、同時に後宮では、聖女の降臨や第一王子の婚約破棄などが話題になっていた。  パーティを追放されたリオは、ある日商隊の護衛依頼を受けた際、野盗に襲われる可憐な少女を助けることになるのだが、彼女は第一王子から婚約破棄された上に濡れ衣を着せられて迫害された元公爵令嬢こと、アイリスだった。  アイリスとの出会いから始まる冒険の旅、行く先々で様々な思惑によって爪弾きにされてしまった者達を受け入れていく内に、彼はある決意をする。 「作ろう。誰もが幸せに過ごせる、そんな居場所を」  目指すべき理想、突き動かされる世界、そしてハズレスキル【タイム連打】に隠されたリオの本当の力とは?    ※安心安全安定安泰の四安揃った、ハピエン確定のハズレスキル無双です。 『エ○ーマンが倒せない』は関係ありません。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...