英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
10 / 149
THE GROUND ZERO Chapter1

第2章 王都の兵士達【3】

しおりを挟む
「まったくもう……ほら、部屋に戻ってさっさと寝るっすよ」

 酔いが回って、今にもその場でへ垂れ込みそうな僕を、ジョンは僕を支えるようにして僕の部屋へと連れ帰ろうとする。

「はいはい……お前は僕のお母さんか」

「こんな親不孝な息子を持つのは嫌っす!」

「お前それ……結構傷つくぞ」

「でもこれくらい言わないと、先輩ちゃんとしないじゃないっすか」

「これくらい言われても、僕はちゃんとしないぞっ!」

「自慢できることじゃないっすからねそれっ!!」

 また怒鳴られてしまった。こんなに後輩から怒鳴られる先輩っていうのも、なかなかいないんじゃないのかな。

 まあ、僕が悪いっていうのは分かってるんだけれど。

「はあ……こうやって世話してくれるのが、可愛い女の子だったら僕も素直に少しはいうこときくんだけどなぁ~」

「眼鏡の男が世話してて悪かったっすね……第一先輩、彼女が居たことってあるんっすか?」

「…………」

「あっ……これもしかして禁句だったっすか?」

「はあ~……僕だってなあ、全盛期は結構モテてたんだぜ? 女の子からファンレター貰ったりとか、プレゼントされたりとかしてたんだぜ? だけどあの時はさ……女なんかよりも、勇者になるのに夢中で見向きもしなかったわけで……」

「つまりいなかったってことっすね?」

「簡単に結論付けるなよな! 僕にだって……僕にだって……」

「ああわかったっすから、じぶんがわるかったっす」

「棒読みかよ……」

 謝罪の意など一切感じない、見事なまでの棒読みだった。

「……先輩はなんで勇者になる道を閉ざしちゃったんっすか?」

 先程までの、冗談を言い合っていた雰囲気とは異なり、ジョンは真剣な、真面目な口調で僕に訊いてくる。

「……別に好きで閉ざしたんじゃない。閉ざされたんだ」

「それはみんなが現代兵器を使って、モンスターと戦えるようになったからっすよね?」

「まあ……そうなのかな」

「だけど、その中でも目立って強くなれば、それは勇者ってことにはならないんっすかね?」

「それは……違う。それは強者であって、僕の思う勇者像とは違うから……」

「先輩の勇者像って、一体どんなものなんっすか?」

「うーん……選ばれし者かな……誰かに認められて、選ばれて偉業を果たす者……それが僕の中の勇者なのかなぁ」

「選ばれし者っすか……それだったらまあ……今の集団戦重視の世界では難しいかもしれないっすね……」

「だろ? それに僕は、剣術はできても射撃はまったくなんだ……現代兵器を使わなくても、それと同じくらいの実力は発揮できるのに、上は方針を変えて、むしろ剣を使うことを煙たがってるくらいだから……もう僕の活躍の場は、そもそも無いんだよ」

「剣を使うことを煙たがってる……っすか?」

「ああ、今の兵団上層部は現代兵器工場との繋がりがあるみたいだからね。だから剣を全面廃止して、銃を標準装備にしたんだよ」

「そうなんっすか……なんだかその……黒い話っすね……」

「利権はどの世界でも絡むことだから仕方がないよ。今までの勇者と呼ばれた人達だって、ようはモンスターから人間の利権を手に入れるために戦ってきたんだから」

「そう……なんっすね……」

 ジョンは顔を俯ける。

 まあ、僕も昔はそういう現実を知って、ショックを受けたこともあったから、今のジョンの心中は分からないことも無い。

 こうやって人は、酸いも甘いも味わって階段を上っていくのだろうから。

 そして、後輩に人生の厳しさを教えてやっている内に、僕達は僕の部屋の扉の前まで来ていた。

「それじゃあえっと……明日は何時からだったっけ?」

「九時からっす」

「ああ九時ね……はいはい、じゃあまた明日な」

 そう言いきって、僕が部屋の扉を閉めようとした時だった。

「先輩っ!」

 ジョンがそれを制止してきた。

「ん? なに?」

「先輩は勇者の夢を諦めたかもしれないっすけど……でも自分は、一流の、この国の人々を守れる兵士になる夢は諦めませんからね!」

「……そうか」

「だから明日の訓練、ちゃんと来てくださいねっ! 分かったっっすか!?」

「……まあ、今から安眠できたらね」

「じゃあ先輩が寝るまで自分、子守唄を歌い続けるっす!」

「いや、いい。それなら布団に横になってるだけの方が眠れそうだから」

「人の歌を雑音扱いしてほしくないっす!」

 別に雑音扱いをしたわけではないけれど……実際僕は静かな空間で、一人で寝る方が寝つきが良いからやめて欲しいのだけれど、まあ言い返すのも面倒だし、このままでいいや。

「いいっすか! 絶対目覚まし時計は七時半にセットしておくんっすよ!」

「お前は僕のお母さんか……しかも一時間半前って、最悪一時間前でいいだろ?」

「先輩が起きて、訓練の用意が一時間でできるならいいっすけどね?」

「……ちっ」

「あっ! 今、先輩自分に舌打ちし……」

 ジョンの言葉を皆まで聞かず、僕は部屋の扉を閉めた。

 あのままアイツの説教を姿勢正しく聞いていたら、それこそ夜が明けかねない。一晩寝ずに訓練を受けられるほど、僕も昔のように体力があるわけではない。

 まあ、正直そこまで訓練を真面目に受ける気も無いんだけれど。むしろ休みたいくらいなんだけど。

 そんなサボりたい気持ちになりながらも、布団の片隅に置かれていた目覚まし時計を掴み上げ、アラームを七時半にセットしてから眠りに落ちた僕は、やっぱり後輩思いの良い先輩なんだと、心から自分でそう思ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...