英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter1

第2章 王都の兵士達【4】

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 朝、僕は目覚まし時計のアラームが鳴ったと同時に起きることに成功してしまった。

 このまま寝過ごすのも悪くなかったのだが、口うるさい後輩にすっぽかすと怒られかねないので、僕は部屋にあった細長いパンにかじりついてから、練習装備を一式担ぎ部屋を出ると、早速その例の後輩が待ち伏せするように待機していた。

「おはようございます先輩! どうやら無事起きられたみたいっすね!」

「ああ……不本意ながらも、起きれたみたい」

「なんで不本意なんっすか! 訓練は兵士にとっては仕事でもあり、自分を高めるため、そして王都の人々を守るために自分を磨く大切な時間っすよ!」

「ああはいはい、じゃあ行こうか」

「自分の話を面倒くさそうに聞かないで欲しいっす!!」

 こんな朝っぱらの、しかも起きたての身で、そんな説教染みたことを聞かされたら、そりゃあ僕じゃなくても、誰だって面倒くさくなるだろうさ。

 まあそれ以上に、訓練に行くこと自体が僕には面倒臭くてしょうがないのだけれど。

「ところでジョン、今日はなんの訓練だったっけ? 楽なやつだったらいいけど……」

「えっと……あっそうっすよ! 今日は最新兵器が兵団で採用されたから、それの使い方についての説明があるんっすよ!」

「最新兵器だぁ? ……ジョン、僕なんだか熱っぽいから……」

「仮病はさせないっすよ!」

 僕が本気で引き返そうとすると、ジョンはそれと同じくらい僕の服の襟元を強く握りそれを制止してきた。

 先輩の襟元を平気で、本気で掴んでくる後輩って、どんな後輩だよ……。

「……ジョン、昨日も言ったが僕は現代兵器は苦手なんだ。というより、むしろ嫌いだ、反吐が出るほどに」

「それはいくらなんでも毛嫌いが酷いっす……」

「お前だって卵が食えないくらい嫌いだろ? それと同じだよ」

「先輩のは好き嫌いじゃないっすか。自分の卵に関しては、好き嫌いじゃ無くて食べられないんっす。アレルギーなんっす」

「だから僕も、金属アレルギーだから現代兵器は握れないんだ……」

「……じゃあ先輩、なんで剣は平気で握れれるんっすか?」

「……ちっ」

「あっ! また舌打ちしたっ!」

「これだから勘のいい後輩は……」

「勘の鈍い人でも、先輩の下手な嘘くらい誰でも見破れれるっすうううう!!」

 確かに今のは即興で考えた嘘だから、少々あらがあったかもしれないけれど、でもそもそも僕って、そんな指摘されるほど嘘吐きなキャラじゃないような気がするんだけどな。

 まあ、嘘を吐いたことすら忘れてる可能性が無いとは言えないけれど。

 自分に都合の悪い記憶は、あまり憶えないようにしてるからな。

 さて、そんなこんな、僕は後輩と戯れを交わしていると、バス停の周りに兵士達が何十人と集まっている光景が見えてきた。

 おそらくそこにいる兵士達は皆、今日の訓練を受ける者であり、俺達のような下士官以下、二等兵の下っ端なんかは自家用車など持っていないので、訓練施設などにはバスで移動することになっている。

「はああああああ……この光景を見る度に嫌気がさすよ……」

 僕は人ごみとか、集団とか、そういうのが苦手だ。

 特に朝のラッシュなんて、もう想像しただけでも反吐が出てくるほどに嫌いなのだ。

「そんな大きな溜息吐いちゃダメっすよ、他の人達に悪いっすよ?」

「悪いもなにも、嫌いなものは嫌いだからなぁ……」

「先輩は嫌いなものが多いっすね。少しは受け入れる努力をしないといけないっすよ?」

「ううむ……それについては反論できないかもしれない」

「おや? 珍しいっすね? 先輩が自分の言ったことを素直に受け止めるなんて」

「まあ……それについては思う節があるからね僕も」

 実際、現代兵器を嫌い、剣を未だに握り続けているっていうのもあるし、僕は結構、そういう点においてはまったく融通の利かない男だということは、僕自身も知っているところだった。

 我がままなんだろうな、きっと。

「お前はすごいよな。そういう文句、まったく言わないからさ」

「どうっすかねぇ……でも自分も、満員のバスに乗るのは嫌っすよ。座席に座ってゆっくりしたいですし……」

「そうか……じゃあ今からでも寮に戻ればゆっくりと……」

「隙を見てサボろうとしちゃダメっすううう!!」

 また怒られてしまった……僕は朝起きてから何度、この後輩に怒られたのだろうか。

 それだけ今の僕は、堕落していた。後輩からケツを叩かれないと動かないくらいに。

 次世代の勇者候補と呼ばれていた気配など、微塵も感じさせない。

 いや……僕をもう、そう呼ぶ人はこの国にはいないだろうけれど。 

「ほら先輩、バス来ちゃったっすよ! 乗りますよ!」

 ジョンの指先を目で辿ると、バスが大きなエンジン音を立ててやって来るやいなや、バス停へと停車し、並んでいた兵士達が一斉にバスの中へと乗車していた。

「あー……ほら、もう既にバスの中がすし詰め状態じゃないか。あんなのに乗ったら僕、朝っぱらから盛大に昨日食ったもの出しちゃうよ……」

「うっ……それは勘弁して欲しいっすけど、でも入るっすよ!」

 僕は後輩に背中を押されながら、満員状態のバスの中へと入っていく。

 三百六十度、どこを見渡しても人、人、人。

 しかもこのような状態になることから、痴漢対策としてこのバスの中には男しか乗車していないため、非常にむさ苦しい。

「おおっ……!」

 どうやらバスが動き出したらしく、揺れる度にどこかしら人に押される圧力を感じる。

「ジョン……僕……限界かも……」

 自分の腹の底から何かが押し寄せているのが……明らかに顏から血の気が引き始めているのが分かる。

 これは、前兆。

「ちょっと先輩! こんなところで吐いちゃったら……!」

 そうジョンが言い終わる前に、僕は盛大に、手に持っていた訓練用の衣服を袋代わりに、その中に我慢していたものを吐き出した。

「うわああああああああっ! コイツ吐きやがった!!」

「おい! 降ろせ!! ぐわっくっせええええええ!!」

 バスの中は一瞬で悲鳴と怒号と異臭に包まれる。

「降ろせと言われましても、このバスは訓練所直行なのでそれまで停車はしませんよ!?」

「うるせえ緊急事態なんだ! 吐いたやつがいるんだよ!」

「訓練所まで十五分ほどですから! どうにか我慢してください!」

「十五分!? 十五分も耐えろってのかあああああっ!」

 混乱に包まれたバスは途中下車など許さずに、そのまま訓練所へと直行する。

 ちなみにその張本人である僕はというと、我慢していたものを全て出し切ったので、心なしか一人、気持ちよくなっていた。 
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