英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter2

第5章 抵抗者達【1】

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 一体どれくらいの間、僕はバギーに揺られていたのだろう。

 正直、過去体験したことにないほどの危機に陥り、僕は疲れ切っていつの間にか眠ってしまっていた。

 だから今僕が、どこにいるのか、あれからどれほどの時間が経ったのか、それが分からない。

 ただ、まだバギーのエンジンの駆動音が聞こえるところを考えると、目的地には辿り着いていないようだ。

「おっ、やっと目を覚ましたかコヨミ」

「うぅ……ん……うわ、眩しい……」

 重いまぶたを擦りながら目を開くと、明るい日差しが僕の視界に飛び込んでくる。

 どうやら寝ている間に、夜が明けてしまったらしい。随分と眠ってしまったようだ。

「カッカッカッ! よほど疲れたようだな。マグナブラを出てから一時間と経たぬ内に眠っていたぞ?」

「まあ……あんな体験初めてだったから」

「カッカッ、まさに比喩無しで死ぬような思いをしたといった感じだったからな。だがコヨミ忘れるな、お前はもう追われる身なのだ。これからはその命、いつ狙われてもおかしくないと思っておけよ」

「はあ……面倒なことになってしまったな本当に……」

 多分今頃、マグナブラでは王族が滅ぼされたニュースで持ち切りだろう。

 そしてその犯行は、レジスタンスによって行われたものとされ、その主犯格に僕とマジスターの名前が晒されており、僕達は晴れて罪人どころか、指名手配犯とされ各国からその身を狙われることとなるのだろう。

 やれやれ……本当に人生とは何が起こるか分からない。落ちた先がどん底かと思っていたら、更に底があったのだからな。

 まったくもって、笑えない話だけれども。

「カッカッ! 名誉は得られなかったものの、一生かけても拭えないほどの悪名は手に入ったと思えばいいんじゃないのか?」

「手に入れたというよりかは、背負わされたって感じだけどね僕の場合」

「普通に生きてるだけでは、どちらも手に入らんぞ?」

「普通に生きたかったなぁ~……」

「カッカッ! 勇者を目指していた奴が言う言葉じゃないなそれはっ!」

 マジスターは快活に笑ってみせる。

 この状況で、ここまで本気に、愉快に笑えるなんて……図太いというか、無神経というか。

 だけど多分、そうじゃないといけないんだろうな戦場では。弱った心を敵に見せないために、その心ごと、笑い飛ばせれるほどの強い心を持たないといけないのだろうな。

 年の功……僕と彼の差を見せつけられてしまう。

「良い事も長くは続かんと言うが、悪い事も長くは続かん。こんな時間は、人生の一瞬でしかないと考えれば、それなりに気も楽になるぞ」

「ほう……」

「その一瞬一瞬を生き抜くことが、やがて長い人生になるのだ。今はそのほんの一部でしかない。そのほんの一部を諦めるか、それとも、もがきながらも乗り越えるか。その選択によって、人間の人生の価値というものは大きく変わってゆく」

「……あんたもそうやって生きてきたのか?」

「そりゃあそうだろ。これはわしの信念だからな」

「そうか、そりゃあ大した信念だな」

「カッカッ! どうせ一度きりの人生だ! 多少無理しようとも、自分の可能性の先があることを信じる……まあそれが、人の言うところの、希望というやつじゃあないのかな?」

「希望ね……もし希望があるのだとするなら…………こんなむさい男二人のドライブじゃなく、次は可愛い女の子と一緒にドライブがしたいな」

「カッカッ! そりゃあ希望じゃなく願望だろ! 盛んな奴め!」

 見ているこっちまでもが爽快になるほど、思いっきり笑い飛ばすマジスター。

 僕もそれにつられて、わずかに頬を緩ませた。

「ところでマジスターさん、目的地まではまだかかるのか?」

「んん? そうだな……まだ先といったところだろうか。なんせこれまで、マグナブラ兵団に一度たりとも見つかったことのない場所に、レジスタンスのアジトはあるからな」

「レジスタンスの……アジトか」 

 これから僕が向かうのは……レジスタンスの本拠地。今まで敵だと言われていた者達の本拠地へと向かうのだ。

 だけど僕個人としては、兵役を真面目にこなしていなかったので、そんな特に敵視をしているわけではないのだが、問題は相手側、レジスタンスの人間が、元兵士だった僕を受け入れてくれるかどうか、その点が少し心配ではあったのだが……。

「カッカッ、今まで敵だった相手の本拠地に行くのに、恐れているのか?」

「いや……恐れているというか、レジスタンスの連中が僕を受け入れてくれるのかなって思って」

「はっは~、なるほど……だがその心配はいらん。わしだって兵士でありながら、こうしてメンバーになれたのだからな。それに、お前をレジスタンスに入れようとしたのは、なにもわしの独断ではない。わしがリーダーに直談判した上で、お前を引き入れることになったんだ。まあ……まさかセブルスがクーデターを起こして、お前に罪を被せようとするなんて思ってもみなかったがな」

「……もし僕の身に、こんなことが起きなかったらどうするつもりだったんだ?」

「その時はまあ、地道に交渉するつもりだったよ。まっ、そっちの方が時間はかかるが、こんな危ない橋は渡らずに済んだのかもしれんがね」

「フッ……多分交渉しても、僕はレジスタンスに行く気にはならなかったと思いますよ」

「どうしてそう言える?」

「あんたより前に、僕はレジスタンスへの勧誘を受けて、そして断ったからね。女の子の頼みを断って、おっさんの頼みを僕が聞き入れるはずがないからね」

「女の子……? マグナブラにはわし以外に派遣されていたメンバーはいなかったと思うのだが……」

「そうなのか? 茶色いドレスを着ていたんだけど……」

「ふうむ……やっぱり知らないなそんなメンバーは」

 しかし彼女は確かに、自分はレジスタンスだと言っていたし、捕まえていた兵士達も彼女をレジスタンスだと認識していた。

 あの子が嘘を吐いていた? ……しかしそんなリスキーな嘘を吐く必要があるのか?

 ではあの女の子は一体……考えれば考えるほど、増々分からなくなってくる。底なし沼のようにずぶずぶと。

「まあレジスタンスは一人二人程度の集団ではない。今や大多数の集団だからな。それにわしもまだ、レジスタンスに所属してから一年と経ってない新米。全員が全員を把握しているわけではないからな」

「そうか……」

 まあ、もし彼女が本当にレジスタンスだったのなら、今からその本拠地へと向かうのだから、会えるかもしれないな。

 あの時は断ったのだが……結局レジスタンスに入るような流れになっちゃったから、どんな顔をして会えばいいか迷うところだけれど。
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