英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter2

第7章 脱走【1】

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「おい……おいコヨミ! 起きんか!!」

「んん……ああ、おはよう」

「おはよう……じゃあなぁいっ! そろそろ時間になるというのに、お前はなにを悠長に寝とるんだっ!」

「え……あぁ、もうそんな時間か……いや、ここ暗いからさ、よく眠れるんだよ」

「まったく……もうちょっと緊張感を持ってほしいものだ」

 どうやら僕は、眠ってしまっていたようだ。

 まあ色々あって疲れたし、これから脱走作戦を決行するにしても、十分な睡眠を取らずに無理する方がむしろ失敗しそうだから、僕は寝ておいて正解だと思ってるけどね。

 危機迫ってる今だからこそ、心にゆとりを持たないと。

「さて……今はえっと、一時二十五分だな」

 マジスターはルーナから借りた銀色の懐中時計を、蝋燭の火の光が強い方向に向けてチェックする。

 この蝋燭の火だけが、ここでは光だからな。あとは全部真っ暗闇だ。

「しかし時計を借りておいて正解だったわい。ここにはまったく日の光が入らんから、時間感覚が無くなってしまう……おいコヨミ! 二度寝しようとするな!」

「ん……おっと、暗いから気が抜けるとすぐに睡魔が襲ってきちゃうな……えっと、まず僕は何をしたらいいんだっけ?」

「寝ぼけてるのかお前は? もうちょっと気を張らんか……とりあえずもうすぐしたら、あそこの壁でお前のように立って寝てる見張りが、次の見張りに交代するためにここを出ていくはずだ」

「あっホントだ寝てる。立って寝れるなんて器用なやつだな」

 地下牢の見張りの兵士は、地下牢の出入り口付近で壁を背に、腕を組んで眠っていた。

 よっぽど眠かったんだな、アイツ。

「だから見張りがいなくなったその間に、この鉄格子を短剣で破壊し、階段を全力疾走して地上階へと上る。地下牢と地上を繋ぐ階段は一つしかないからな。そして地上階へと出たら、ルーナの待つ車両倉庫まで最短ルートを辿ってひたすら一気に走るのみだ!」

「はっはーなるほど……シンプルな作戦だから、今の寝起きの頭には丁度良いや」

 もっとこの作戦の説明を簡略化するなら、牢屋をぶっ壊して、走って逃げる。はい説明終了。

 作戦というほどの作戦ではないと、一概に言ってしまえばそれまでなのだが、しかしまあ、なにをするにしてもシンプルなのが一番だってよくいうしな。

 それに今更具体的な作戦を練るにしても、もう時間も無いし、なによりも細かい手順そのものを考えるのが面倒だ。

 もうこのまま決行でいいだろう。多分、上手くいくさ……多分な。

「グー……グー……んおっと!今何時だ?」

 すると先程まで、壁に寄りかかって眠っていた見張りのレジスタンスの戦士が突然覚醒し、着けていた腕時計をチェックし始めた。

 僕もそれと同時に、マジスターの持っている懐中時計で時間を確認したが、ついに一時半、その時がやって来た。

「よっしゃ交代の時間だ! やっと心置きなく寝れるぜ!」

 戦士は小躍りするように喜びながら、その有頂天からか、僕達の様子を見に来ることも忘れ、地上への階段をさっさと上って行ってしまった。

 不用心だなぁ……まあ僕達にとっては、これほど都合の良いことは無いけど。

「よし……コヨミ行くぞ!」

「オッケー」

 僕は魔石ケースから土属性の魔石の欠片を取り出し、それをマテリアルガントレットにセットして、それからブーツの中に潜ませておいた短剣を取り出した。

「そうだマジスター、その手錠逃げる時に邪魔だろ? 先に壊しておいてやるよ」

「おう、すまんな」

 僕は短剣を軽く振り下ろし、マジスターの両手を繋いでいる手錠の鎖部分を斬り落とした。

 普通の短剣の状態なら多分、この鎖すら切れないだろうけれど、でも土属性の魔石の力、大地の力を得ている今なら、これくらい軽く斬り落とすことができる。

 そして、この目の前の鉄格子もな。

「全部破壊する必要は無いだろう。三、四本鉄柱を切れば、そこから抜け出せれるはずだ」

「了解。今のこの短剣からしたら、この鉄柱も棒飴も大した違いは無いからな!」

 僕は短剣を振るって、その刃を鉄格子に叩きつける。

 モチロン手錠の鎖よりかは手応えがあるが、その程度。少し力を加えただけで、一本に繋がっていた鉄柱は真っ二つに斬れてしまった。

「ふむ……やはり魔石の力は強大だな。しかしコヨミ、お前は剣を振ってる時が一番輝いてるな」

「なんだよそれ……まるで僕が辻斬りみたいじゃないか」

「カッカッカッ! どっちかといえば狂戦士だな!」

「どっちも同じようなもんだろそれ」

 なんだか褒められているのか、バカにされているのか知らないけれど、とにかく前者として受け取っておこう。前向きにね。

「さて、それじゃあコヨミずらかるぞ!」

「ああ、こんな監獄の固い床じゃまともに寝れないから、さっさとベッドにのある場所に逃げて熟睡したいね」

 僕達は牢を出て走り、更に地上へ繋がる階段を駆けのぼり、難なく一階の廊下へと出ることができた。

 一階の廊下はもう深夜であるためか、蛍光灯などの明かりの類は全て消灯されており、地下牢には蝋燭の火の光があったが、それすらも無い漆黒の暗黒空間が広がっていた。 

「暗いな……」

「レジスタンスの活動資源には限りがあるからな。だから活動時間外は節約のために、全てのエネルギーがシャットダウンされる」

「ふうん……マグナブラの市街地の、あの明る過ぎるくらいの明るさが恋しくなるな」

「カッカッ……しかしこれでは何も見えんなぁ……地下牢の蝋燭を持ってくればよかったな」

「……いやマジスター、明かりなら用意できるかもしれない」

「ぬ? どうやって?」

 マジスターに問い返されると、僕は魔石ケースから火の魔石の欠片を手に取り、それをマテリアルガントレットに装備して、短刀に炎をまとわせた。

「これなら松明の代わりになるんじゃないかな?」

「おおっ! さすがだなコヨミ! ここまで有効活用できるようになったのなら、もう魔石の力をマスターしたと言っても過言ではないな!」

「いや……たかが松明の代わりにしたくらいでそんなに褒めるなよ。もっと敵とかを倒した時に、そういうのは言って欲しいな」

「カッカッ! それじゃあ明かりの確保をしたところで、進むとするか」

「そうだな」
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