英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter2

第7章 脱走【2】

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 真っ暗なダンジョンのように入り組んだ廊下を、短剣で灯した光を頼りに僕達は少しずつ進んで行く。

 モチロンここに初めて来た僕が、この廊下の道順など分かるはずもないので、僕はあくまで道を照らすだけで、先導はマジスターが行う。

「でも何でここの廊下、こんなに入り組んでやがるんだ? 所々行き止まりみたいな所もあるし……不便じゃないのか?」

「うむ、ここは本拠地でもあり砦でもあるからな。もし敵に内部まで攻め込まれたとしても、この廊下で敵を迷わし、足止めさせ、その隙に背後から攻め返すために、あえてこういう作りにしているそうだ」

「ふうん……よく徹底されているようで」

「元々城なんかも戦闘用に作られていたものだから、大昔に建てられて今も現存している城は、こういう建物の構造が複雑化したものが多いそうだ。マグナブラのような近年建てられた城は、ただの役所扱いだからそういう施しは一切されていない」

「そいつはなんというか、今が平和でもあるっていう証でもありそうだがな」

「カッカッ……その日中に王がポックリ暗殺されるような世の中を、果たして平和と言ってもよいものか……むっ! コヨミこっちだ!」

 するとマジスターが廊下の先で何かを見つけたのか、突如僕の腕を引っ張り、脇道の方へとそらされた。

「どうしたマジスター?」

 僕が小声で問うと、マジスターも周りに聞こえないくらいの声量で返してきた。

「うむ……奥の方から光が見えた。もしかしたら、交代した見張りが地下牢に向かっているのかもしれん」

「見張りが……交代が随分と早いな。よっぽど前のやつが急いで向かったのかもしれないな」

「とりあえずコヨミ、その短剣の火を一度消してくれ。奴に見つかってしまうやもしれん。マテリアルガントレットは手の甲のパーツをスライドさせると、自動的に魔石の欠片からの魔力出力がストップする」

「なるほど、分かった」

 マジスターの指示通り、僕はマテリアルガントレットの手の甲のパーツを少しだけ開ける。すると短剣に灯っていた火が、すぐに消火された。

「それでマジスター、その見張りが地下牢に着くか、それとも僕達が車両倉庫に着くか、ここからだとどっちが先だ?」

「多分、あやつが地下牢に着くのが先だろうな。しかしわしらがここから脱する前に、あの見張りが今やもぬけの殻になっている牢屋を見て騒がれると厄介だな……」

「足止めをした方がいいって感じだよねそれ?」

「ああ、やるしかないな」

「殺すのか?」

「否、殺しはせん。わしとて無駄な殺生は好まんからな。わしがあの戦士をこっちにおびき寄せるから、お前はやつに足でも引っかけて転ばせてくれ」

「え……僕それだけでいいの?」

「ああ、後はわしに任せておけっ!」

 何故か自信満々な表情をしているマジスター。

 僕が戦士の足を引っかけて転ばせて……でもその程度じゃ、物理的に戦士の足を止めることはできるかもしれないが、ここでの足止めの意味、つまり時間稼ぎをするとまではいかないだろうに。

 多分、何かその続きがあるのだろうけれど……。

「む……足音が早くなったな。どうやら詳しい説明をしてる暇は無さそうだ……いいかコヨミ、確実に奴を転ばせろよ?」

「お……おう、それくらいなら子供でもできるからな」

 見張りの戦士が早足になったせいで、結局僕は作戦の内容をまったく聞かされないまま、実行という運びになってしまった。

 今僕達がいるのは、通路を上から見ると十字路のようになっている。見張りの戦士は縦方向のメイン通路を真っ直ぐと進み、僕達は今、横方向に伸びる脇道の左側に潜んでいるといった感じだ。

 そこからマジスターは、戦士を確実にこちらにおびき寄せるために、脇道の左側から右側へと突っ走った。

「ん? おい、そこに誰かいるのか?」

 自然、見張りの戦士はマジスターの足音と気配に気がつく。そして気になったのか、先程よりも足音は更に速くなって、大きくなって、僕達の潜んでいる場所へと迫って来ていた。

 僕はそこで、自分の足を通路側に出してみる。高さてきには、低い位置で跨がれては意味が無いので、向こう脛くらいの位置に調整しておけばいいだろうか。

 廊下を歩く音が大きくなり、そして戦士が僕達の潜む脇道の場所に差し掛かると。

「どわっ!!!?」

 戦士は僕の足に引っかかって、その場で腹から倒れてしまう。その際、戦士が持っていた蝋燭は地面に落下し、転がり、その火は消えてしまった。

「な……なんだ? ぐはっ!!」

 すると戦士が起き上がる間も無く、マジスターが戦士の背中に飛びかかり、右腕で戦士の右腕を封じ込めるように抑え、左腕で首を締めていく。

「お前さんに恨みは無いが、少しの間大人しくしてもらうぞ……!」

「その声……キサマ……脱獄したのか……!」

「カッカッ……そもそもわしらは無実だからな。あの檻に入れられている方がお門違い」

「レジスタンスにはもう……戻れんぞ……」

「妙な疑いを掛けられて、挙句の果てに死刑にされそうになった場所など、こっちから願い下げだ。なあコヨミ?」

「ああ……そうだな」

 それはモチロン、嫌味。

 レジスタンスへの……そして僕に、王暗殺の罪を被せた兵団への、二重の嫌味だった。

「どこまで……に……げよう……と……おい……」

 その言葉を最後に、戦士はぐったりと倒れてしまった。

「死んだのか?」

「否、気絶させた。無駄な殺生はせんと言っただろ?」

「そうか……」

「しかし気絶させたとて、長い間の足止めとまではならんだろう。コヨミ、車両倉庫に急ぐぞ!」

「ああ、さっさとオサラバしようぜこんなとこ」

 僕は再び、マテリアルガントレットの手の甲のパーツを戻し、短剣の先から炎を出して、その僅かな光を頼りに暗闇の通路を時間が無いのでどんどん突き進んでいく。  

 深夜だけあって幸い、今は気絶しているあの見張りの戦士以外に出歩いている者はおらず、マジスターの先導でこの迷路のような通路を迷うことも無く、無事ルーナとの合流地点である車両倉庫へと辿り着くことができた。
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