英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter2

第7章 脱走【3】

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「マジスターさん、コヨミ! どうやらここまで無事来れたようね!」

 車両倉庫へ到着すると、昼間に見た深緑の迷彩柄の中型バイクに跨って、ルーナはヘルメットを被って僕達の到着を待っていた。

「まあ一悶着あったけど、一応無傷だったよ」

「あら、そうなの。でも脱出はここからが本番よ、ユスティーツフォートを抜けるまではわたし達に安息の地は無いわ」

「はあ……眠い目擦ってもう一頑張りしなきゃならないな、そりゃあ」

 早くベッドの上で八時間ほど爆睡したいよ、本当に。

「そうだマジスターさん、はいっ四号バイクの鍵よ」

 そう言ってルーナはバイクの鍵を、マジスターに投げる。

「おう、ありがたい!」

 鍵を受け取ったマジスターは、後ろに四号と記されたプレートの着いているバイクへと向かった。

「コヨミはわたしのバイクの後ろに乗りなさい。マジスターさんのバイクは小型のだから、二人乗りならわたしのバイクの方がいいわ」

「おう……」

 とは言われても、バイクに乗るのは初めてで、二人乗りって言ってもどんな感じで乗ればいいんだろう。

「ほら、アンタの分のヘルメット。これから地面の悪いところを走行するから、転倒する可能性を考えて一応着けときなさい。まっわたしのテクニックがあればそんなことは無いだろうけど、もしもの時の保険よ」

 ルーナはバイクのハンドルに掛けてあったもう一つのヘルメットを、僕に手渡す。

 実はヘルメットも着用するのは初めてなのだが、しかし兵団の防護用の頭装備と似ていたので、これに関しては容易に着用することができた。

「ほら、早く乗りなさい」

「えっと……どこに?」

「はぁ? アンタバイク乗ったことが無いの?」

「うん……しいて言えば、二輪車には一度も乗ったことが無い」

「あんたいつの時代の人間よ……乗るっていったって、アンタは後ろの座席に跨って乗るだけでいいから」

 よく見てみると、ルーナの後ろに人ひとり乗れそうな座席がある。なるほど、そこに乗ればいいのか。

 僕はとりあえずルーナと同じように座席に跨る。どうやら前の座席よりも後部座席の方が高いようで、見晴らしはいいのだが、初めてバイクに乗る僕としては、ちょっとばかし恐れを抱いてしまう高さである。

「そのままぷらーんと足を垂らしてたら、カーブする時に持ってかれるわよ。下に棒があるでしょ? ステップっていうんだけど、それに足掛けて」

「うむ……あっ、腰に足が当たりそう」

「いいのよ当たって、そうしないと危ないから。それにどうせ、体全体をくっつけることになるんだから」

「はっっ!!!!? くっつける!!!?」

「そうしないと危ないの! ほらっ!近づく!!」

「ぶっ!!」

 ルーナに僕は体を引っ張られ、抵抗する間もなく彼女の体に密着してしまう。

 いや抵抗というのはおかしいか……しかし人間関係の中で、破ってはならない防壁というのがあって、僕としてはそれを一気にぶち破られたような、今はそんな気持ちなのだ。

 眠い目も、一気に覚醒させられたよ。いや本当に。 

「ほら、それから両手でわたしの腰を掴む!」

「お……おおっ……!」

「よしこれで……ってちょっと!なにどさくさに紛れて脇腹触ってるのよ!!」

「いや、ついでに……ほっそりした体系だったから、脇腹はどんなもんだろうって好奇心で」

「このアホンダラァァッッ!!」

「ウッ!!!!」

 ルーナは思いっ切り、僕の腹を肘で突いてきた。

 痛い……痛いけど、無駄の一切無い、良い脇腹だった。

 この子、所謂スレンダー体系というやつか……それが分かっただけでも大収穫だったぜ。

「カッカッカッ! おい若いの二人! 乳繰り合いはそこまでにして、さっさとずらかるぞ!」

 どうやらマジスターの準備はとっくにできていたようで、エンジンを起動させ、逃走準備万端といった感じだった。

「乳繰り合いってマジスターさん! そんなのじゃないから! これただの事件だから! 後ろに乗ってるの、勇者候補じゃなくてただの変態だからっ!!」

「カッカッ! 若くてよろしいっ!」

「ダメだあのオッサン、聞いちゃいない……」

 ルーナはボソッと呟き、頭を抱えながら嘆息する。

 ドンマイと声を掛けようか悩んだが、なんかまた殴られるような気がしたのでやめておいた。

「おおっと、こんなところでうかうか笑い話に花を咲かせとる場合ではなかった! ルーナ、抜け道まで案内を頼む!」

「はぁ……ええいいわ、じゃあ行くわよ! コヨミ、振り落とされないようにしっかり掴まってなさい」

「ああ……って! うおっ!!」

 僕が返事をした刹那、ルーナはアクセルを踏み込み、急発進する。

 倉庫に停車している車両を右へ左へかわしながら、スピードも段々上げつつ、倉庫を出る頃には僕にとって、これまで体感したことの無いような猛スピードでバイクは走行していたのだ。

「こ……こんなスピード出して大丈夫なのか!? 衝突とかしないだろうな!」

「なに言ってんのよ、わたしのバイクテクニックはレジスタンスの中じゃずば抜けてトップだったんだから」

「そうかい、でも僕を安心させるなら世界一ってくらい言って欲しかったね」

「そう? じゃあ世界一よ、わたしのバイクテクは」

「取ってつけられた気休めの言葉で安心できるかっ!」

「真後ろから怒鳴りつけないでよ! 運転に集中できなくて、本当に衝突するわよ!」

「あ……す、すいません……」

 その時僕は、ツッコミを殺して安全を取った。

 本当にこの速度で転倒されたら、間違いなく腕の一本は軽く持っていかれそうだったから……僕だって自分の身体は大切にしたいからね。

 こんなやり取り程度で、命までは張れない。 

 そんなこんなで倉庫を突破した僕達は、正門ではなく、このユスティーツフォートを天然の要害とたらしめるもの、この砦を覆う断崖を目の前にしていた。

「お……おいおい! このまま行くと崖に正面衝突するぞ! どんなにスピード上げたって、僕達は所詮人間! 断崖をぶち破る隕石にはなれないんだぞ!」

「よっしゃあ! スピードアップするぜ!!」

「この子僕の話聞いてないっ! 乗り物に乗ったら性格片鱗する系の人ですかああああああいやああああああああっっっ!!」

 ルーナはアクセルを全開でふかし、絶壁目掛けて突っ込んで行く。

 背後からマジスターの声が聞こえる気がするが、風を切るゴウゴウという轟音で何を言っているかまでは聞き取れないが、多分僕と同じでルーナを止めようとしているのだと思う。

 この子バカだ……僕はまた、死と隣り合わせになっているのか……三日で三回、一日一回ペースで僕は死にかけてるのか……。

 嫌な人生だった、本当に。
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