英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter2

第7章 脱走【4】

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 バイクはスピードを落とすことなく、真っ直ぐに絶崖へと突撃していく。

 衝突すると思ったその直後、バイクは地面の隆起した部分に乗っかり、そして最高速の勢いのままその車体は宙に浮かんだ。

「いやっほおおおおおおうっ!!」

「どわあああああああああああっっ!!」

 同じ叫び声でも、ルーナのは歓声であり、僕のは悲鳴である。

 空中に投げ出されるとて、あの最高速の勢いはまだ残っており、岩壁はどんどん近づいてくる……と思いきや、目の前にいきなり大穴が現れ、僕達はその大穴に吸い込まれるようにバイクごと突っ込んだ。

 バイクが着地すると、ルーナは思いっ切りブレーキを掛け、車体を横向きにスライドし、急停止させた。
 
「ふぅ……どうわたしのバイクテクニック? 世界一って感じでしょ?」

「い……生きた心地がしねぇ……」

「なに放心状態になってるのよこれくらいで」

 自慢げに語るルーナを前に、僕は呆然としていた。

 これ以前に二度の死地を潜り抜けた僕だったが、これほどまでに死を予感させ、そして今生きている奇跡を感じたのは今回が初めてだった。

 こんな大人にもなって、本当にちびりそうになっちまったぜ。

「ここがわたしが見つけた、唯一砦から抜け出せることのできる抜け穴よ。これを通り抜けたら、ユスティーツフォートの逆側まで出ることができるわ」

「なるほど……こんな場所にある大穴なんて、誰も入ろうとは思わないもんな」

「最初見つけた時に、何があるんだろうって興味が湧いちゃってね。さっきの所が、ちょうど踏み切り板みたいに地面が盛り上がっていたから、試しにバイクで飛んでみたのがここを見つけたキッカケだったのよ」

「君……かなりの怖いもの知らずなんだな」

「そうかしら? やろうと思えば誰でもできると思うけど?」

「……その一歩を踏み切れる人間のことを、世の中じゃ怖いもの知らずっていうんだよ」

「へえ、そうなんだ!」

 無邪気に笑ってみせるルーナ。

 こういう世間知らずなところは、まさにお姫様だったことを彷彿とさせる名残だよな……それでもここまで自分の身の危険を顧みないのは、お姫様としてどうかと思うけど。

 もしこの子が一国のお姫様のままだったら、それこそ戦争が起きたら兵士達と並んで戦場に行ってしまいそうだ……戦場の女王……それも案外悪くないか。

「わたしの顔見て、何考えてるのよ?」

「ん? ちょっと人に言うに足らないような、そんな妄想を……」

「も……! このスケベっ!!」

「は……? あっ! いやそうじゃなくて! ゴフッ!!」

 また肘で腹を突かれてしまった。 

 今のは僕の言葉のチョイスが明らかに間違っていた。妄想じゃなくて、想像くらいにしといたらよかったか。

 反省。

「あっそうだ、アンタとこんなじゃれ合ってる暇無かったわ。マジスターさんに飛び方教えないと」

「じゃれ合いって……一方的なリンチだろこれ」

「おーいマジスターさーん! こっちよー!」

「聞いてすらいねぇ……」

 僕に目もくれず、バイクを下りて大穴の外に向かって手を振っているルーナ。すると……。

「ワオッ!」

 ルーナの仰天の声も束の間、僕達と同じようにマジスターが乗ったバイクが宙に浮いて、大穴の中へと突っ込んで来た。

「カッカッカッ! いやぁ~見よう見真似でやってみたが、どうやら上手くいったようだ!」

「すごーいマジスターさん! 教えなくてもできちゃうなんて!!」

「カッカッ! これくらいの度胸試しなんぞなんのその!」

 爽快なくらい大声で、愉快に笑ってみせるマジスター。

 もしかしたら僕は、とんでもない奴らと組んじまったのかもしれないな。僕自身も大概、命知らずの修羅場を潜り抜けてるような気がしないこともないけれど、これは不可抗力だからな……できれば安全な橋を永遠と渡っていたい。

 しかしこの二人ときたら、まるでこの修羅場を率先して楽しんでいるかのように見えてきて……命知らずとしか思えないんだよなぁ。

 でもこういう場面で生き残れる人間って、これくらい狂ってないとダメなのかなって考えてしまわないこともないのだけれど。

 狂ってないと打破できない場面の方が多いし……。
 
「ちょっとアンタ、なにわたし達の顔まじまじと見て……また妄想してたとか言ったら、今度こそ顎からぶっ飛ばすからね!」

「顎!? それアッパーカットか! そんなの本気でやられたら本当にノックダウンしちゃうだろ!」

「ついでにボディブローもしておくから」

「お手軽にトドメを刺そうとするなっ!!」

 味方のノックダウンを狙ってるなんて……本当に発想が暴力的だ。

 この子のこういうところって、お姫様の時からそうなのだろうか?それとも、レジスタンスになってからこうなったのだろうか?

 僕はどちらかと言うと、後者であって欲しい。そうしないと、僕の中のお姫様の偶像が崩壊しかねないから。

「ところでルーナ、この大穴を通り抜ければ外まで出れるのか?」

「そうよ。ただこの抜け穴、エトワール・ロックを外周するようにできてるみたいだから、抜け出すのに結構時間が掛かるのよね」

「そうか……どちらにしろ、早くここからなるべく離れた方が良い。あの気絶させた戦士が、いつ起きて騒ぎ出すか分からんからな。急ぐぞ二人共!」

「そうね……ここはまだユスティーツフォートの範囲内。もし装甲車なんかで囲まれたら、バイクのわたし達に勝ち目はないわ。急ぎましょう!」

「おう……急ごう! だからルーナ、運転頼む!」

「……なんか締まらないわね、アンタ。もうちょっと勢いのつくようなこと言いなさいよ」

「ええ……じゃあ……僕達の明日のために、ここは全力で逃げるぞ!」

「はぁ……さ、行きましょうか」

「おいっ! 僕のセリフをスルーしようとするなっ!!」

 ルーナは再びバイクの座席に戻り、エンジンを掛ける。

 くっそ~……僕だってこのまま、ルーナにずっとおんぶに抱っこされず、いつかはバイクに乗れるようになって、先を急ぐぞって言ってやるからな。

 ちょっとした新たな目標が、僕の中芽生えた瞬間だった。

「カッカッ! でもコヨミの言う通りだ! わしらの明日は、ここを脱するかどうかにかかっておる! さあ全速力で逃げるぞ!」

 マジスターはそう言って、そのままアクセルを回し、フルスロットルで先行して洞窟の奥へと突入していく。 

「よーし! コヨミ、わたし達もぶっ飛ばすわよ!しっかり掴まって!」

「おう!」

 ルーナもマジスターに負けじと、アクセル全開でその背後を追いかけるように洞窟内部へと突入していく。

 洞窟の闇は、夜空よりも深く、濃く、月明かりすら恋しくなるほどに漆黒だ。

 もし次に月の光を拝める時が来たのなら、きっとその時がこの死地を越えた時なのだろうと、ルーナの背中を見ながら、僕は独りでにそんなことを考えていた。

 一体誰が好き好んで、僕にこんな沢山の試練を根こそぎ課しているのか知らないが、もしそいつを目の前にする時が来たのなら、僕は面と向かってこう言ってやる。

 ふざけるなっ! と。
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