英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
51 / 149
THE GROUND ZERO Chapter3

第10章 沈黙の戦場【3】

しおりを挟む
「あやつは……さっきの奴か。戻って来たのか」

 月が雲隠れした時にマジスターが見つけた人影。さっきまでは薄暗かったがために、それがマグナブラの兵士なのか、それともレジスタンスの戦士だったのか判別することができなかったのだが、月が雲間から顔を出した今なら、マジスターなら見分けることができるかもしれない。

 彼はこの中で唯一、兵士にも戦士にもなった人間だからな。

 果たしてどちらなのか……。

「んん……むむっ! あの赤茶色の野戦服、そしてあのエンブレムはもしや……レジスタンスか!」

 そう、そこに居たソルジャーの正体は、レジスタンス側の戦士だったのだ。

「レジスタンス!? でもマジスター、もしレジスタンスの戦士がこっち側に居るとしたら……」

「ああ……どうやらマグナブラの派遣隊は、レジスタンスによって制圧されたということになるな」

「じゃあマグナブラの兵士は全滅したことに……」

「ちょ……ちょっと待ってよ二人ともっ!」

 僕とマジスターが眉間にしわを寄せ、深刻な表情で話していると、ルーナがその間に焦った表情で割って入って来た。

「なんだよルーナ、今は冗談を言ってるような事態じゃないんだ!」

「いやそんなんじゃなくて……話に着いていけないのよ。何でここにレジスタンスの戦士が居るのが、そんなにマズいことなのか」

「えっ……ええ……」

 さっきルーナが僕に冷ややかな視線を浴びせてきたが、多分今僕は、それと同じくらいの冷めた視線をルーナに送っている。
 
「なによっ! そんな軽蔑してる暇があったらさっさと説明してよねっ!」

「別に軽蔑はしてないけど……まあいいや、なにが分からないの?」

「だから……レジスタンスの戦士がここに居るだけで、何でマグナブラの兵隊が制圧されてしまったことが分かるのよ?」

「ああ、そのことね。それは簡単だよ。ルーナ、エトワール・ロックにはレジスタンス側の本拠地ユスティーツフォートがあるよね?」

「まあ、そうね」

「ということは、モチロンレジスタンス側が陣を敷くならエトワール・ロックに近いところになるっていうのは分かるよね?」

「それくらい分かるわよ!」

「そう、それで僕達は今、エトワール・ロックに向かっている。正確に言うんだったら、マグナブラ側からエトワール・ロック側に移動してるってことだよね?」

「ええ」

「だったらこっち側に陣があるとするなら?」

「そりゃあモチロン、マグナブラの兵士側の……あっ!」

「そう、マグナブラの兵士の陣があり、ここには兵士達が居るはずなんだ。だけど僕達が見つけたのはレジスタンスの戦士。しかもあんな堂々と敵陣の近くで歩いている……ということは?」

「マグナブラの兵隊は……全滅した……」

「そういうことだ……」

 しかしまあ、可能性が高いとはいえ、これもまだ推測の域を越えてはいない。もっと確定だと判断できるような情報があればいいのだが。

「むっ! コヨミ、ルーナ静かに! もう一人同じ装備をした戦士が来た……」

 マジスターが人差し指を立てて、僕達に注意を促す。

「ちょっとマジスター、僕にも見せて」

 マジスターの隣から岩陰の外を覗いてみると、赤茶色の迷彩服を着用し、ライフルを装備した男が二人、何かを話しているようだった。

 今はちょっとしたものでもいいから、何としても戦場の情報が欲しい……僕は息を殺し、戦士二人の話に聞き耳を立てた。

「そっちはどうだ?」

「オールクリア。しかしこの程度の小規模部隊に全面投入とは……これではまるで、戦争と言うよりかはリンチだな」

「ユスティーツフォートの位置がマグナブラ側にばれてしまった以上、その周囲に例え小規模であっても、敵部隊をのさばらせておくわけにはいかない……というのがリーダーの意向だそうだ」

「躍起になってるな」

「まあそう言うな。俺達はレジスタンスで、どのみちマグナブラ兵団とはいつか衝突する運命だったんだ。それが今になっただけさ」

「それにしては、唐突な気もするが」

「まあな。リーダーはどうやらこれを皮切りに、マグナブラに一斉に駒を進め、総攻撃を仕掛けるそうだ」

「ついに全面戦争のトリガーを引いちまったってことか……」

「ははは……おっとそうだ、お前とこんなじっくりくっちゃべってる場合ではなかった。司令部HQより敵部隊の殲滅が確認でき次第、ユスティーツフォートへ帰投するようにとのことだ」

「そうか、じゃあ確認もできたし、帰投することにしようか」

「そうだな」

 その言葉を皮切りに、二人のレジスタンスの戦士は揃って歩き始め、宵闇の中へと消えて行ってしまった。

 戦士の姿が見えなくなったのを確認すると、僕とマジスターは岩陰に顔を引っ込め、共にうな垂れる。

「やはりマグナブラ側の隊は壊滅してしまったか……」

「そうみたいだね……」

「しかしこれを機に全面戦争を決起するとは……エインめ、なにを焦っているのか……」

「マジスター……もしかしてこれも、セブルスの思惑なのかな?」

「かもしれんな。あまりにも全てが上手くいきすぎておる」

「ちょっと~ふたりとも~っ!!」

 僕とマジスターが意気消沈と、今までの情報と状況を二人で整理していると、その間に今度はふくれっ面をしてルーナが入り込んで来た。

「なにルーナ? 僕達今あんまり元気が無いんだ……トイレなら一人で行ってよ」

「わたしは夜怖くて一人でトイレに行けない子供じゃないわよっ!」

「ええ……ああ分かった、もしかしてまた、状況説明よろしくって感じ?」

「なんでそんな嫌そうな感じなのよ! しょうがないじゃない、わたしはアンタと違ってあの人達の会話聞こえなかったんだからっ!」

「ああ、そうなんだ。えっと……ようはこの戦闘、レジスタンスが勝利して、この機に乗じてレジスタンスはマグナブラに全面戦争を仕掛けるつもりらしい」

「ええっ!? なんか話が急展開しちゃってるわね……」

 事の重みを理解し、さすがのルーナも苦い表情を浮かべる。

「そう、ルーナの言う通り急展開しちゃってるんだ。でもこれまで、魔石発電施設の第三高炉でテロが起きてもこんな戦闘状態になることは上手く避けられていたのに、なぜ今になってこうも事が進んでしまったのか……」

「それがもしかして、そのセブルスさんのせいだってアンタもマジスターさんも言うの?」

 僕がそうだと答えようとすると、その前にマジスターが頭を縦に振って、話を切り出した。

「そうだ……ルーナ、お前の国……ノースハーウェンは、暁の火の連合軍の小規模隊を攻撃したがために、大義名分を得て大規模襲撃を受けたとわしに教えてくれただろ?」

「ええ……言ったわね」

「それと同じことが今起ころうとしている……ということだ。これは明らかにセブルスの罠……派遣した小規模部隊が倒され、レジスタンスが決起を起こしたとあれば、兵団にはそれを防衛するためにレジスタンスを攻撃するという、立派な大義名分ができるわけだからな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...