英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter3

第10章 沈黙の戦場【2】

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 それから僕達は岩場の陰にバイクを隠すように駐輪し、夜の荒野の渇いた土の上を歩き始めた。

 バイクから降りるとエンジン音が無くなり、更にこの荒野が静まり返っているのが分かる。とても先程まで戦闘が行われていたとは思えないほどに。

 もしどちらかが撤退したのであれば、足音や戦闘車両の音なんかがしそうなものだが、それもしない。

 一体どうなっているんだ現場は……。

「この静けさが逆に不気味だな……」

 どうやらマジスターも、この沈黙に不信感を抱いているようだった。

 スコープがあれば遠くまで状況を見渡すことができるのだが、生憎僕達にはそれすらも無い。前方を目視で確認しながら、進んで行くしかないか。

「わしが先頭、その次にコヨミ、ルーナの順番に互いにカバーしながら進んで行くぞ。いいな」

「了解」

「ええ、分かったわ」

 まずは先頭のマジスターが岩場から誰もいないことを確認し、走って次の身を隠せそうな岩場に移って、僕に合図を出す。

 合図を確認した僕は、マジスターと同様に確認、そしてマジスターの元に駆けだし、次はルーナにサインを出す。

 そして最後方のルーナは、拳銃であるハーミット・レッドをホルスターから取り出し、それを構えながら僕達のいる岩場へと移動してきた。

「ルーナ……その拳銃、今はあんまり使わない方がいいんじゃない?」

「え? 何でよ?」

「いや……あんな規模の爆発を起こしたら、それこそ誰かに見つかっちゃうじゃないか」

 僕は昨日の、エトワール・ロックの洞窟でブラースティに追いかけられた時のことを思い出す。

 その時に僕は、ルーナの持っているハーミット・レッドを借りて発砲したのだが、その時は大爆発を起こし、周囲を一瞬で火の海に変えたのだ。

 あの時は迎撃が目的だったから良かったものの、しかし今回は誰に見つかることも無く潜入し、情報収集を行うのが目的。あんな派手な爆発を起こすのは、敵に自分達の存在と位置をわざわざ教えるような、そんな愚行でしかないのだ。

「あれはアンタのそのマテリアルなんとかのせいで、魔力が必要以上にハーミットに込められたからあんなことになったのよ。普通に使ってたらあの規模の爆発は起きないし、そもそも魔力さえ込めなければ普通の拳銃として扱えれるから」

「そうなんだ。でも心強いよなぁ~そんな器用な武器を持ってて」

「アンタだってそのマテリアルなんとかと短剣を持ってるじゃない?」

「マテリアルガントレットね」

「名前が長いのよ。憶えられないわ」

「ハーミット・レッドも同じくらいだろ?」

「わたしはハーミットはハーミットって呼んでるから、こっちの方が短いじゃない」

「そっすか……」

 というか、僕は本来名前がどうこうとか、そういう話題にしたかったのではなくて……。

「でも僕、短剣を使った近接格闘は自慢できるほど得意じゃないんだよね……」

「どういうこと? 長剣の扱いには自信があって、短剣の扱いには自信が無いってこと?」

「う~ん……どちらかというと、近接戦闘CQBには自信があるけど、近接格闘CQCには自信が無いってことかな」

「どう違うのかよく分からないわ?」

 ルーナが頭を傾げると、兵団の元教官であるマジスターが教官の血でも騒いだのか、ルーナに近接戦闘CQB近接格闘CQCの違いについて説明を始めた。

「カッカッ、ようは対象との距離の違いだ。近接戦闘CQBは三から三十メートルほどの合間があるのに対して、近接格闘CQCは三メートル以下、つまり敵とほぼ接触した時の格闘戦ということだ。CQBは剣術の範囲だが、CQCはどちらかといえば体術の範囲だから、コヨミはCQCが苦手だということだ」

「あー、そういうことね! ようはコヨミは、剣を振り回すのだけは上手いってことね!」

「なんか引っかかるなぁその言い方……」

「だってそうなんでしょ?」

「まあ……間違っては無いんだけどさ……」

 間違ってはないのだが、なんだろう……この腑に落ちない感じは。

 こんなことなら、もう少し近接格闘CQCも訓練しておくべきだったなぁ……後悔しても、もう遅いけど。

「カッカッ、話が盛り上がっとるところ悪いが、そろそろ先に進むぞ二人とも」

「ん、ああそうだな……先を急ごう」

 僕の話はさておいて、マジスターは再び岩に体を隠し、顔だけ出して周囲を見渡す。

 さっきはすぐに敵が居ないと分かると、次の岩場まで移動していたのだが、しかし今回、マジスターはなかなか移動しようとはせず、ずっと顔を出して何かを注視しているようだった。

「どうしたマジスター?」

「何かいる……」

「人か?」

「うむ……しかし光が足りなくて、マグナブラの兵士なのか、それともレジスタンスの戦士なのか判別がつかない……」

 空を見てみると、丁度今になって月は雲に隠れてしまい、先程まで荒野の荒い岩場を照らしていた月光の光量が減り、僅か数メートル離れた物体ですら、それが何なのか確認できないほどに暗くなってしまっていた。

 これではいくら視力の良いマジスターでも、その先に居るのが人だと判別ができたとしても、それがどちら側の人間かまでは見分けをつけることができない。

「くそこんな時に……さっさとどきやがれ雲野郎! フーッフーッ!」

「なにやってるのよ?」

 ルーナが冷めた視線で僕を見てくる。

「なにって……雲が邪魔だから」

「アンタは風じゃないんだから、息をフーフー吹いたところで雲はどいてくれないわよ?」

「それくらい分かってるよ……気持ちだよこれは」

「ふふん……そう?」

 そう言って、まるで僕をからかうような、イタズラな笑みをルーナは浮かべた。

「なんだよその顏は……」

「いやぁあ? ただアンタも、少しは可愛げのあるところがあるんだなって思ってさ」

「ちぇっ……バカにしやがって……」

 屈辱とまではいかないが、なんだか辱められたような気分になるなぁ。

 僕がからかったらすぐ怒ってくるくせに……。

「おっ……コヨミが息を吹きかけたせいかは知らんが、雲が晴れてきたな」

 マジスターが言って空を再び見上げてみると、風が吹いて雲が動いたのか、月が再び顔を出し、周囲を明るく照らし始める。

 これでまた見晴らしが良くなったので、移動を再開することができそうだ。 
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