英雄のいない世界で

赤坂皐月

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THE GROUND ZERO Chapter4

第12章 破皇の再臨【1】

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 バイクで走ること、数時間。

 本来、真っ直ぐ走ればそれほどはかからない距離だったのだが、元素爆弾の被害はあちらこちらに爪跡を残しており、至る所で岩や崖が崩れていたため、僕達は迂回しながらやっとの思いで到達することができた。

 エトワール・ロック。そしてその谷間に存在していた、ユスティーツフォートがあっただろう場所。

 僕達がその場所から逃走して、まだ一週間も経っていない。なのにそこは、まるで様変わりしていた。

 いや、様変わりする物もそこには無かった。

 そこには何も残ってない、無が広がっていたのだ。

 正確に状況を説明するならば、そこにはクレーターのような大穴が空いており、それ以外には何も残っておらず、その先には半分になったエトワール・ロックの残骸だけが残っていた。

 これほどまでに空虚という言葉が合う風景が、他にあるだろうか……いや、無いだろう。

「……マジスターさん、本当にここがユスティーツフォートなの?」

 なにも無い風景に困惑し、ルーナは場所を間違えたのではないかとマジスターに訊く。

 しかしマジスターはその問いに対し、首を横に振った。

「いや、ここで間違いない。周囲に目印となっている物はいくつか残っていたし、なによりもあの半分になってしまったエトワール・ロックが何よりの証明だ」

「そっか……じゃあここが本当に……」

「…………」

 ルーナは肩を落とし、そしてその隣に居た僕は、黙ってまじまじと目の前の風景を見るだけでなく、観察していた。

 爆心地であるこの場所。ユスティーツフォートはものの見事に消滅してしまったわけだが、しかしその場所にはクレーター状の穴が空いており、穴の地面は微かにだが、虹色に光っているように見えた。

「マジスター、あそこの地面、虹色に光ってるよね?」

「ああ……おそらくだが、元素爆弾によって放射された強力な魔力が地面にまで侵食し、染みこんでいるのかもしれん。つまりこの一帯の地面全てが今、魔力の塊になっているというわけだ」

「それって何か害とかはあるの?」

「基本的には魔力というものは無害なのだが。しかしここまで強力なものになると、例えばこの魔力に汚染されている地面に直接触れたり、長時間ここに居続けると、地面から微かに放たれている魔力が体を汚染していき、最悪の場合、魔力症候群マジックシンドロームになることも考えられるだろうな」

魔力症候群マジックシンドローム……確か発症すると、日に日に血が凍り始めるっている奇病だよね?」

「そうだ。強力な魔力による汚染が原因となっているが、何故魔力がそのような症状を人間に引き起こすのか、そのメカニズムも、そしてその治療方法も未だ不明とされている」

「まさに不治の病ということだ……」

 全てを消滅させる爆弾だが、こんな厄介な置き土産を残してくれるとはな。

 この爆弾を落とされた場所は消滅するだけでなく、未来永劫、復興もかなわないということか……今を奪うだけでなく、未来をも奪い去る、まさに断絶の兵器というわけだ。

 こんな物を生み出した僕達人間は、どう考えたって魔物なんかよりも恐ろしい生き物だ。

 ホント罪深い生き物だよ……僕達は。

「じゃあわたし達もここに居たらマズいんじゃないの!? そのマジックなんとかになっちゃうんじゃっ!?」

 僕達の会話を聞いて、急に逃げ腰になるルーナ。

 まあ気持ちは分からないことも無いけど。

「大丈夫だルーナ、そんなに焦ることは無い。汚染されとる場所からはこれだけ離れとるし、ずっとその場に居たらなるというが、それは一日二日居たらというものだ。僅か数分じゃ感染はせん」

「そうなんだ……なら良かった……」

「だが……」

「えっ!? だがってなによっ!!」

 ほっと胸をなで下ろしたかと思うと、またルーナは急にビクつき始める。

 マジスターの一言一句に反応して……忙しい子だな。

「いや……見ての通り全てが消滅して、残骸すらも残っていないし、なにしろこれ以上近づくのは危険だからな。練魔術に詳しい人間がいれば、ここの痕跡をもっと詳細に調査できるような術を持っているかもしれんが、なんせわしらはド素人。そんなことは到底できんから、これ以上得れる物は無いと思うんだ」

「あ……ああ、そういうことね」

「それにもしかしたら、わしらに限らず、マグナブラの連中もここに元素爆弾の調査をしに来るかもしれんからな。なんせ奴らにとっては、またとない実用試験も含めた実験サンプルだ。奴らと鉢合わせする前に引き上げるべきかと思うのだが」

「そうね……わたしもここに居ても、あんまり良い気分にならないし……どうするコヨミ?」

 ルーナは僕に最終判断を仰ぐ。

 マジスターの言ってることもそうだし、僕もルーナと同じであまり気分は良くない。というか、胸糞悪いくらいだ。

 この前の戦場といい、そして今回といい……普通の人間だったら一生もののトラウマを抱えるどころか、精神が崩壊しかねないような光景に連続して遭遇しているため、いくらある程度のメンタルコントロールができて、この世界の基盤を破壊するという鋼の決意を持っている僕でも、丸一日は寝ていないと癒えないような、そんな心の疲労を負ってしまっていた。

 こんな状態でマグナブラの連中と鉢合わせなんてしたら、それこそ最悪だ。

「そうだね……ここらが潮時かもしれないし、面倒事がこれ以上起きる前に退散しよっか」

「カッカッ……しかしコヨミ、わしらは今後これ以上の面倒事に首を突っ込むことになるかもしれんぞ?」

「はは……まあそうなったら、その時はその時の僕がなんとかするさ。今はとにかく、次のために休んだり、心の整理をしておきたい」

「その考えはわしも同感だ」

 そんなわけで、今回も全会一致。

 僕達は何も無くなったこの場所で、これ以上の難事を孕ませないためにも、ひとまずここを立ち去ることにした。

「はあ……なんだかバイクを運転する気分にもなれないわ」

 ポケットからバイクの鍵を取り出し、その鍵に着いている輪っかのキーホルダーを右手の人差し指に引っかけて、グルグルと回しながら大きな溜息を吐くルーナ。

「そんなこと言わずに運転してくれよ」

「う~ん……そもそも不公平なのよ」

「なにが?」

「わたしがいっつも運転させられて、アンタは後部座席で座ってるだけ……不公平じゃない」

「そんなこと言われたって……僕運転できないから」

「むう……じゃあいいわ、今度バイクの運転も教えてあげる」

「えっ……」

「なによ? 嫌なの?」

「いや……嫌ってわけじゃ……」

 嫌というわけでは本当にないのだが、しかしルーナの指導って、拳銃の時の指導がそうだったんだけど、とにかくスパルタな上、なんていうか、教えるより見て慣れろっていう指導方法なんだよなぁ。 

 具体的な説明は少なく、とにかくルーナの射撃を僕に見させた後、僕に射撃をやらせて、「そうじゃない!」とか「もっとこう!」という横槍だけが飛んでくるような、そんな状態。

 しかも疲れても、満足する射撃ができるまで休憩を入れてくれないというスパルタ仕様。

 おかげで短期間で射撃が上手くなったには上手くなったのだが……でもおそらく、今僕が負っている身体的疲労の大半は彼女の指導によるものであることは間違いない。

 普通のやつだったら、疲れで二日は寝込むか、それ以前に悲鳴をあげて逃げ出しそうなものだからな……。
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