英雄のいない世界で

赤坂皐月

文字の大きさ
77 / 149
THE GROUND ZERO Chapter4

第13章 荒野の決戦【5】

しおりを挟む
「いや……さっきも殺さずに正気のまま返すとか、暴走を食い止めるとか、魔王には合わないセリフばっか言ってるなってさ」

「ハッ! もう我は魔王ではない。引退したからな」

「それにさっきは、魔物の世界は弱肉強食なんて言ってなかったっけ?」

「あんなやつの肉を食ってもマズイっ!」

「なんだそれ」

 次々と言い訳まがいのことを口走るライフ・ゼロ。

 まあようは、情けをかける……というよりも、無駄な殺生は行わないということで、理解しておこうかな。

 それにあの魔物だって、好きで暴れているわけじゃない。人間の身勝手によって爆弾を投下され、そこから発生した強力な魔力によって暴走を仕向けられた、完全なる被害者だからな。

 人間を守るために殺すというのは、確かに筋違いな話ではあるってもんだ。 

「まあいいや。僕としても、殺すよりも生かして返した方が、後の夢見が良さそうだし。でもライフ・ゼロ、その能力はどうやって使えばいいんだ」

「お前の持っているその剣を、やつの体に刺せ」

「えっ? それだけでいいの?」

「うむ。突き刺さずとも、対象のものに剣の刃が触れるだけで、その部分から生体エネルギーを吸い取ることはできるが、より確実に多くの生体エネルギーを奪うのであれば、刺した方が良いということだ」

「なるほどな……でもそうなると、僕がブラースティに近づくまで、ヤツの気を誰かが引かせておかないといけないよね」

 そう簡単にヤツに接近できるのならば、僕は最初にブラースティと会った時に、ナイフで倒していただろう。

 しかしヤツの両腕には、固い岩石を引き裂くほど強固な爪があり、それに引っ掻かれるどころか、かするだけでも致命傷を負うのは必至だ。それにもし両腕を掻い潜ったとしても、あの正面にある大きな口で丸呑みにされたら、それこそ一溜りもない。

 だから僕がブラースティの背後からヤツに接近するためには、正面になにが何でも注意を引かせておく必要がある。その方法となるとやっぱり、囮というのが一番手っ取り早くなるのかな。

「カッカッ、わしが囮になろう。コヨミは引き続きルーナのバイクに乗って、ブラースティの背後から接近しろ」

 そして率先して囮の役を請け負ったのは、マジスターだった。

 まあ今回の場合、囮をするのに彼以上の適役は他にいなかっただろうし、まさになるべくしてなったといった感じだった。

「うん……なんか悪いなマジスター」

「謝るなコヨミ。こんな老いぼれに役目があるだけまだマシだ。ブラースティはしっかりわしが引きつける」

「ありがとうマジスター、よろしく頼む」

「カッカッ! おっと、それでライフ・ゼロはどうする? わしと囮役をやるか?」

「囮など我は御免だ。それに我が剣に戻らねば、生体エネルギーを吸収する力が半減されてしまうからな」

「なるほどそうか……では作戦はこうしよう。これからわしはブラースティをライフルで威嚇射撃し、目的地だった戦場の跡地までバイクで逃げる。ルーナ達はここから外側に大回りをして、ブラースティに気づかれないよう背後に回れ」

「ええ、分かったわ」

 ルーナは二つ返事で頷く。

「よし! それじゃあ三人とも、よろしく頼むぞ!」

 そう言い残し、マジスターはバイクのアクセルを回して、後退していくブラースティ目指して先に行ってしまった。

「では、我は一度剣の中に戻ろう。コヨミ、剣を我の届く場所に」

「えっ? ああ……」

 僕はバイクの後部座席から一度下車し、太陽の剣を鞘から抜き、グリップを右手で握ったまま左手で剣先を支え、ライフ・ゼロの前でしゃがみ込んだ。

「ほう……うぬのことだから刃を我に向けてくると思っておったが、なかなかどうして、そういう常識はわけまえておるようだな」

「フン、剣の使い方は誰よりも知ってるさ。それに僕は、仲間には決して刃を向けない」

「キッキッ、そうか。では我もお前に力を与えよう、一応仲間としてな?」

「ちぇっ……いいから早く戻れ」

「キッキッキッ!」

 ライフ・ゼロは挑発的に笑い、剣に触れると、召喚した時と同じようにライフ・ゼロの体が紫色の光に包まれ、そして僕の目の前から完全に姿を消した。

「よし……僕達も急ごうルーナ」

「ええっ!」

 僕は剣を鞘に収め、再びバイクの後部座席に乗車する。

「ぶっ飛ばすから振り落とされないよう、しっかり掴まってなさい!」

「了解!」

 ルーナはアクセルを全開に入れ、マジスターが向かった方向とは別のルートを目指してバイクを走らせる。

 僕達は外側をぐるっと回ってブラースティの背後に着くという予定なのだが、しかし先程まで通っていた道は、ある程度落石などの障害物が少ない道だったので、比較的スムーズに走行することができたのだが、しかし今回はそのルートとは異なるので、道中の障害物が多いせいか、ルーナは上手くバイクのスピードを出せずにいた。 

「くううううう……あーもうっ! 行く先行く先に岩っ岩っ岩っ! 腹立つわねぇっ!!」

「ルーナ、またさっきみたいに僕がハーミットを使って岩を崩そうか?」

「ダメ、これだけ岩が多いと弾が足りなくなるわ。ただでさえ、この前弾薬を補給した時にリボルバーの弾が全然無くて持ち数が少ないんだから」

「そうか……」

 こういう時、正規軍だったら補給部隊なんかが現れて簡単に物資の補給ができるのに、僕達のような義勇軍にはそんな部隊も無ければ、所持している物資も乏しい。

 たとえ弾丸一発でも、使いどころを考えなくてはすぐ枯渇してしまう……頭が痛くなるような悩みだな。

「あの化物、爆心地の方に後退してるみたいだから、まだマジスターさんは威嚇射撃してないみたいね……」

「ああ、多分僕達がここを抜けるのに苦戦するのを知ってるんじゃないかな?」

「時間を稼いでるってわけね……それなら余計早くしないと!」

 右に左に蛇行し、邪魔な岩を回避していき、スピードを出せそうな直線では思いっ切り速度を上げていく。

「こんな時に言うのもなんだけどさ、上手いねバイクの運転」

「なに今更? 散々見てきたでしょわたしのバイクテクは」

「うん、まあ改めて思ったからさ」

「ふふん……でも褒めるのなら、今度はもっと気の利いた褒め方をしなさい」

「ちぇっ……」

 ルーナといい、ライフ・ゼロといい、僕の周りには僕に手厳しい奴らばかりだな。

 マジスターは少し僕を褒め過ぎな気がするけど……。

『フン、この程度で手厳しいとは。甘ったれとるなうぬは』

 突如ライフ・ゼロの声が聞こえ、僕は思わず声をあげそうになったが、なんとか堪えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」  3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。  絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。  その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。  目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。 「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」  地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!  一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。 「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

勘違いで召喚して来たこの駄女神が強引すぎる 〜ふざけたチートスキルで女神をボコしながら冒険します〜

エレン
ファンタジー
 私は水無月依蓮《みなづきえれん》、どこにでもいる普通の女子高生だ。  平穏な生活を送っていた私は、ある日アルテナと名乗る女神に召喚されてしまう。  厨二臭いその女神が言うには、有給休暇で異世界冒険したいから、従者としてついて来なさいとの事。  うん、なんだその理由は。  異世界なんて興味ない、とっとと私を元の場所に返せ。  女神を殴ったり踏みつけたりしてやっと返してもらえるかと思いきや。  え? 勝手に人間を異世界に呼ぶのは天界の掟で禁止? バレたら私も消される?  ふざけるなー!!!!  そんなこんなで始まる私とポンコツ女神アルテナのドタバタ異世界冒険。  女神が貴族をハゲさせたり、「器用貧乏・改」と言うふざけたスキルを習得したり、ゴブリンの棲家に突撃する羽目になったり、手に入れた家が即崩壊したり、色々起きるけど全てを乗り切って見せる。 全ては元の世界に帰るために!!

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...