英雄のいない世界で

赤坂皐月

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BACK TO THE OCEAN Chapter1

第14章 新たなる地を目指して【4】

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「軍人の知り合いなら多少はいるが、さすがのわしにも船乗りの知り合いはおらん。しかしアクトポートは世界中の船乗りが集まる場所だ。その中に、わしらの手助けをしてくれそうな物好きの一人や二人くらい、きっといるだろうっ!」

「……これほどまでマジスターさんの言葉に、説得力を感じないのは初めてだわ」

 ルーナはそう言って、溜息を一つ吐く。

 僕もそう思うけど、でもマジスターの提案が通らなかったら、僕は無条件でキャリーバッグの中に詰められてしまうため、同意を示す表現は差し控えた。

「でもたった四人でミネルウェールスの王子様の元に向かうよりかは、もっと大所帯の方が力になれるだろうし、仲間を増やすことはわたしも賛成」

「うんうん。どうだライフ・ゼロ、お前もこれでいいか?」

「フン……我はそういうことに関しては、どうでもよい」

 先程、僕をキャリーバッグに押し入れようとした時は、イキイキとしていたライフ・ゼロだったが、その計画が破綻すると、興醒めしたように冷ややかな態度を取りながら、そう答えた。

 コイツ……どんだけ僕をキャリーバッグの中に押し込みたかったんだよ……いや待てよ、コイツのことだからもしかして……単に僕をイジメたかっただけだったとか?

 それだったら、尚更笑えないが。

「コヨミ、お前もそれでいいだろ?」

「えっ……ああ! モチロン! オフコース! 仲間が増えるって素晴らしいもんな!!」

 僕はマジスターに訊かれ、万歳をしながら全力で肯定の意思をあらわにする。

「……なんか嘘くさいわね」

「胡散臭さ全開だな」

 そんな僕の精一杯のアピールに対して、冷めた評価と凍えそうな視線を向ける女性組。(ライフ・ゼロを女性の枠に入れていいかどうかは、この際ともかくとして)

 女性の連係プレイほど恐ろしいものは無いって、以前よく飲みに行っていた居酒屋のおっちゃんが言ってたっけ……その通りだよ、まったく。

「よし、じゃあ決まりだな! それじゃあ各自荷物をまとめて、準備ができ次第ここを出発するぞ」

「えっ!? そんなにすぐ出発するの?」

「コヨミ、ここからアクトポートまでは約四千三百キロある。時間にして、約三十八時間ほどの距離があるんだぞ?しかもその間に休憩を入れたりしたら、大体急いでも四日くらいはかかる」

「よ……四日ぁっ!!?」

 マジスターから突きつけられた果てしない旅路に、僕は気が滅入ってしまう。

「わしらはこれから、マグナブラ大陸の横断をするんだ。それくらい掛かって当然だろ」
 
「大陸横断……僕、遠出するの初めてなのに……」

「カッカッカッ! それはさぞ自慢になるな?」

 愉快に笑ってみせるマジスターだが、正直僕としては、せめてもの苦笑いを浮かべるのがやっとだった。

 しかもその大陸横断の後には、大陸間移動まで予定に入っている……正直まともな人間が組むようなスケジュールでないことは、旅に対して素人の僕にだってすぐに分かるようなことだ。

 これから本物の地獄を味わうことになりそうだ。

「なに数秒前まで万歳して喜んでた人間が、両肩落としてげっそりしてるのよ。どっちにしたってアクトポートに行くことは決まってたんだから、腹を括りなさい! こっちまで気が滅入るから!」

「うう……なんでこんな過酷な旅を前に、ルーナはそんなに元気良いんだよ」

「なんでって……わたしはほら、バイク運転するの好きだし、それを苦に思わないし」

「すげぇ……あっ、じゃあ運転はずっとルーナに任せて……」

「半々で交代よ。もうアンタ、運転できるんだから」

「……さっき好きって言ったのに? 苦に思わないって言ったのに?」

「何事もやり過ぎは良くないのよ。ほら、どいたどいた!」

 そう言うと、扉の前に立っている僕を押しのけて、ルーナは自分の部屋へと戻って行ってしまった。多分、出発する荷物をまとめるためだろう。

「では、我も部屋に戻るとするか」

 するとライフ・ゼロは一回、二回、三回とベッドから飛び跳ねると、両足で床に綺麗に着地し、僕の方……というよりも、扉の方へ向かって歩みを進めた。

「旅路は長い故、せいぜい我の足を引っ張らぬよう、しっかりと準備をするのだぞ? キッキッキッ!」

 僕としては本当に憎たらしいが、本人は心底楽しそうに笑っているようで、ライフ・ゼロはご機嫌モードのまま、部屋を出て行った。

 それからしばらく、扉の外側からアイツの鼻歌らしきものがずっと聞こえた。きっとああいうやつのことを、サディストって言うんだろうな……多分。

「カッカッ! まあライフ・ゼロの言う通り、旅路は本当に長い。途中ここのような宿泊施設が無かったら、野宿になるかもしれんからな」

「野宿……」

「さっ! わしらも用意するぞ! 旅の始まりだ! カッカッカッ!!」

 そうやって笑いながら、マジスターは部屋に置かれてある荷物をまとめ始めた。

 そうだ、もう決まったことなんだ。それにいつまでもここに居ては、僕達は何も物事を前に進めることはできない。

 世界を変えるなんて大それたことを言うにはまず、今の世界のことを知らなければならない。

 百聞は一見に如かず。聞いただけのモノを鵜呑みにしてはならない。僕達はこれから、世界のリアルをこの目で、この肌で感じ取るんだ。

 そしてその感じたものの中から、本当に変えるべきものを探し出す……これはそういう旅でもあるのかもしれないな。

「……よしっ! やるか!」

 僕は両頬をパンパンと二回程叩き、気合を入れ直してから、荷物をまとめ始めた。

 といっても、元から逃げてきた身である僕の荷物はそれほど多くなく、ものの数分で荷造りは完了した。

「用意はできたかコヨミ?」

「ああ、元々荷物は少ないからね。むしろどこかで買い足したいくらいだ」

「カッカッ、道中に買い足せる場所があればいいがな?」

「不安を煽るなよ……」

「カッカッカッ!」

 マジスターの豪快な笑い声もそこそこに、僕達は部屋を出て、外へ向かう前に、食堂へと足を進める。

 食堂では、この宿の管理人であり、元ルーナの侍女であったゾフィさんがシンクに向かって皿を洗っている最中だった。

「あらマジスターさんとコヨミさん、何か御用が?」

 僕達に気づき、ゾフィさんは泡だらけの手を濯いで、こちらに振り返った。

「ゾフィさん、わしらはこれからアクトポートへと向かうため、ここを発つことにしました。この一週間、本当にお世話になりました」

 マジスターはそう言って、頭を下げる。僕もそれに合わせるように、頭を下げた。

「そう……ですか。アクトポートへ……」

 ゾフィさんは少しの間俯く。多分、ルーナのことを考えているのだろう。

 ルーナはゾフィさんのことを、実の親のように慕っているし、ゾフィさんもルーナのことを、我が子のように大切に思っているような、そんな間柄だった。

 しかしそんなルーナが、これから遠くへと旅立つと思ったら、切なくなるのも無理はない。

 親が子供の巣立ちを見届けるような、そんな心情なのだろう。
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